
なかなか、時間が取れなくてブログに新しい記事を投稿できないが、今日は走行会などのスポーツ走行をする時にドライバーが装備する基本的な道具と、最近積極的に推奨されているHANSの重要性について考えてみたい。
公道は制限速度などの交通規則が適用されている他にクルマ以外の様々な交通が同時に利用しているから、ドライバーの走りたいようには走れないし、道路もまたそうした目的では作られていないから、自分のクルマの性能や自分のドライビングスキルを発揮することには向いてない。
世間では、クルマを走らせることが趣味だというと、公道を走るマンガやアニメに出てくる走り屋をイメージする人が多いようだが、「湾岸ミッドナイト」や「頭文字D」のような走行に求められる独特のスキルは、シミュレータやゲームの上で楽しむべきだろう。

湾岸ミッドナイト(ゲーム画面)
だから、クルマを趣味にする多くの人は、自分のドライビングスキルを向上させて、例えば人馬一体を体得するために、各種の走行会に参加していたりする。
さて、走行会と言えば、サーキット走行、広場練習会、ジムカーナなど様々な種類があるが、一人でまたは、少数の友達で自己流でスポーツ走行を始めるよりも、こうしたトレーニングを開催してくれる団体が主催するイベントに申し込んで、それに参加してスキルを伸ばしていくのが一番良い上達方法ではないかと思う。知識が備わっていたとしても、体が言うことを聞かないのはモータスポーツも同じであり、そうした時に適切なアドバイスと練習方法を教えてくれる方が、より近道になると思うからだ。

サーキット走行(TC 1000)
こうした、走行会や広場練習の話は、インターネットで検索すれば色々でてくるから、自分が好きなものに参加すればよい。 多くのイベントでは、安全についても考えられているものの、走りの趣味は危険を伴うので、自分自身で準備しておくべき物がある。
■HANS
最初にこの話をしたい。HANSとは「Head and Neck Support」の略で、四輪自動車競技での救命デバイスの一つである。英語読みは「ハンズ」だが、「東急ハンズ」と誤解されたくないためか、「ハンス」と発音する人が多い。F1やトップカテゴリのレースで使われているのでレーサーが首につけているのを見たことがある人もいるだろう。
この装備は、レーシングスピードでの事故の際に首の動きを制限して生命を守るためのものである。前方向のむち打ち防止装置と理解して貰えばいいだろうか。 バケットシートにヘルメットと体を固定することで、横方向と後方に対する首の動きは制限できるが、HANSがないと、前方に対しては制限することができない。HANSの主たる機能は、大きな力を受けてクルマが急停止した時に首が前に伸びることを防ぐ。 人の首は伸びるようにはできていないから、首が伸びると人の体は障害を残したり死亡する事故につながってしまうからである。レースではない走行会でも、公道よりも高い速度で走る、曲がる、止まるを行う故に、事故が発生した場合の危険があるため、強くこの装備を推奨したい。 HANSの構造は以下のようになっている。

1.HANS本体
2.テザー(耐衝撃紐。両側に一対)
3.ヘルメットアンカー(両側に一対)
4.ショルダーサポート
最近は、HANS3のように、アマチュアでも買いやすい価格帯のHANSが登場しており、装着率が飛躍的に高まっている。高価なモデルとの主な違いは安全性ではなくHANS本体の重量軽減によるGへの耐性の余裕であるが、重量が軽くなることに価格に応じた差はない。

HANS3
この装備をつけるためには、ヘルメットにHANSアンカーをつけねばならず、HANS対応のヘルメットでないと装着できない。 HANS本体が当然必用であるほか、バケットシート、シートベルトもHANS対応の製品を使わないといけない。 これから、バケットシート、シートベルトを買うなら、HANS仕様を選んでおきたい。HANS製品は、HANS社以外のメーカーからも発売されているが、圧倒的にHANS社製を使ってる人が多い。 HANSはこの製品だけを買えば良いということではなく、ヘルメットを含む関連装備もHANS対応にしないと使えない。
■ヘルメット
最初は、4輪用のフルフェイスを買おう。いくつか持つつもりなら、ジェット型などを選んでも良いと思うが、最初はフルフェイスを買うことをお勧めする。なお、家電みたいに、「ショップでサイズだけ図ってサイズを決めて、購入はネットで安く買おうかな」みたいな買い方は、多くのショップでご遠慮されている模様なので注意しておきたい。 買い換えるなどの場合でなく、初めて買うなら、割引率は低いけれど、レーシンググッズに詳しいショップで試着しながら購入することをお勧めする。
ヘルメットにも前後左右Gがかかるので、被った時に頭全体に圧迫感があるのが正しいサイズ選択である。「丁度快適」なヘルメットのサイズだなと感じたならば、もう一つサイズダウンすべきだ。耐火性の向上と、ヘルメットを体育の授業の時に使った剣道の面のようにしたくなれれば、クリーニングの面からも、フェイスマスクが必要なので、フェイスマスクを被った上で試着して選ぶことをお勧めする。
4輪用の箱型車用のフルフェイスとなると、実質的な選択肢は、2個しかなくて、SparcoのCLUBX1か、AraiのGP-5Wのどちらかだ。GP-6Sは、フェイスの開口部が小さく、フォーミュラには向いているが、箱型車には開口部が大きく視界が良いGP-5Wの方が向いていると思う。

Sparco CLUB X1
CLUB X1は性能の割には安いが、サイズとヘルメット内部の形が日本人の頭に合わないケースが散見されるので、相性をしっかりと確かめておきたい。走行会や広場練習会など、多くの人が使っているので最もメジャーな製品とも言える。しかし、残念ながら、このヘルメットはHANS対応ではない。

Arai GP-5W
アライの箱用4輪の主力モデル。サーキットからジムカーナまで幅広く使える。FIA公認があるので、サーキット走行会から、ラリー、ダートラ、D1、ツーリングカー、S耐、GT、FIA公認レースまで、すべてのクローズドカーレースのカテゴリーで使える。お値段は性能に応じた金額にはなるが、買えない値段ではない。私は、GP-5Wを使用している。
グローブ、レーシングスーツ、シューズは、HANSとは関係ないが、走行会には必用な装備なので、これらの装備についても、簡単に私が重視していることを書いておく。
■グローブ
選択肢は多数ある。難燃素材を使っているか、指の長さが合うか、表皮がステアリングをつかみやすいかどうかが判断ポイント。他の道具に比べれば高価ではないので、、いくつ買って試して見るのも良いだろう。 縫い方に外縫いと内縫いがあって、指の縫い目が外についている外縫いの方が、指にあたる感触がいいので、好まれる傾向がある。
多分、インターネットで情報収集している人なら、「これにしようかな」、と決められるくらい、選択はそれほど難しくない。 カラフルなカラーがラインナップされているが、レーシングシューズ、レーシングスーツとの色合いと合わせて選択することができる。
■レーシングスーツ
割と悩むのがこれ。安いのから高いのまで様々あり、何を買ったらいいんだろうと悩む。
最初は下手なんだから、カッコイイレーシングスーツなんか着たらむしろ笑いものだよな。。とか。
あまり人の目は気にしなくても良い。見栄えが良くても悪くても、下手は下手であるし、最初から上手な人なんていないのだから、それは気にしなくても良いことだ。初心者に応じたスーツなんて、忖度はしなくてもよいと思う。
まず、難燃繊維のノーメックスで作られているか、作られていないかである。 カート用スーツと4輪用スーツの違いは、耐火を重んじるか、擦り傷の防止を重んじるかである。カートでクラッシュしたことがある人は、擦過傷を防ぐことが何より重要だということは分かっているが、逆に火災のリスクは小さい。 4輪の場合、最も気をつけるのは火災でアラミド繊維でできたノーメックスと綿の間では大きな差が出てしまう。 走行会や広場練習会でそこまで考えなくとも良いとは言えるが、可能な限りノーメックスで作られたスーツを選ぶ方が良い。
レイヤーは、汗を吸うインナーがついた2レイヤーのモデルが、アマチュアでは一般的である。1レイヤーでも用途は満たす。 できれば、腕が動かしやすいようにアクションフリーアームがついているモデルが良いだろう。レッグの処理は、最近はロングレッグのモデルが一般的である。
ノーメックスの欠点は、太陽の光に弱いことだ。 洗濯は、全自動乾燥機付きの洗濯機に放り込めばいいけれど、干すときは必ず陰干ししなくてはならない。 日中のサーキットでは、上着部分を脱いでしまうことも必用になる。(暑いから、走行してないときは上半身は脱ぐと思うけど)耐火性のアラミド系繊維の弱点である。 綿は汗を吸うけれど、それほど涼しいわけでもない。なによりも、火がつくとノーメックス繊維に比べて非常に面倒なことになる。
体型的にちょっと残念な人は、既成品のスーツだと手足胴体のどこかが合わなかったり、お腹周り以外のサイズがブカブカになってしまうので、悔しいけれどオーダーで作らないと逆に危険なスーツになってしまうので、吊るしにこだわるなら、ダイエットを先にして標準体型に戻しておくべきだ。なお、オーダーすれば、体型はもちろんのこと、自分が好きなデザインでスーツを作ることができる。
オーダメードなんてお高いのでしょう?と心配になるかもしれない。 しかし、比較的安価でオーダメードでレーシングスーツを作ってくれる会社がいくつかある。宣伝してるわけではないが、スズキのモンスターショップの2Fにあるショップの職人さんは、かつて有名レーシングスーツメーカーでゲルハルト・ベルガー選手やアイルトン・セナ選手のスーツを作っていた人だ。 彼の小さな工房に行けば、手作りでレーシングスーツを作る所を見ることができる。

スズキ モンスターショップの2F
(2018年のデモカー売出し中(495万円))

ゲルハルト・ベルガー選手が
F1時代に使っていたスーツ

アイルトン・セナ選手が
ホンダF1時代に使っていたスーツ
私も、ここで今年用のスーツをオーダしている。納期は大体2ヶ月くらいである。
■シューズ
無理にレーシングシューズでなくとも良いけれど、靴底が薄く硬いシューズの方が操作がしやすい。いくつか履いてみて、ペダルの踏みごたえ感がよく足に伝わるものが良い。難燃性も気にはするが、フォーミュラでなければ、ブーツ部分は長くなくても良いだろう。ソールはフラットで、ソールの先側はペダルワークに合わせて柔らかく指が曲げやすくなっていないといけない。かかと側は、保護性と床でかかとがペダルワークの支点になれるように固めになっているものが使いやすい。
スパルコのモデルが見栄えがいいのに値ごろ感があって良く売れているようだが、外反母趾だとか、甲が高い、指の長さが特殊とか、日本人の足はそれなりに、欧州人の足とは形が違うので、スパルコがいまいち合わないなんて人もいる。 そういう人は、日本人の足に合わせたモデルを出しているメーカーもいくつかある(ARDが人気がある)ので、そういうメーカーの製品を選ぶと良い。

ARD-336 ProGear-MT(ミディアムカット)
39,000円と少し高めだが、日本人の足には合う。
私は、SparcoのSLALOM RB3を使っていたが、さきほど、紹介したレーシングスーツの店でより私に合うモデルを紹介してもらった。(ミドルカットモデルで16000円)
アウトドアにせよ、ゴルフにせよ、趣味の活動にはお金がかかるのは共通である。しかし、クルマの趣味は、どうしても危険が伴うので、安全を確保してやるべきだと思っている。走らせる場所や方法については、最初に書いたように、サーキット、ジムカーナ、広場トレーニングなど、安全を確保し、ドライビングスキルの上達のために様々な機会を提供してくれている。 参加のハードルを低くするために、広場トレーニングのように装備品を無料レンタルをしてくれるところもある。だから、グローブ、シューズ、スーツに関しては最初は安いものから始めてもいいと思う。 でも、HANSに関する装備については、是非最初から導入を積極的に考えてみてはいかがだろうか。
安全装備の恩恵に関しては、ビギナーもベテランもなく、むしろビギナーの方が助けられる確率が高いとも言えるからだ。