
BMWは改心したと思う。
改心したというくらいだから、「旧Z4のシャシーであるE90系が悪かったとでも言うのか」と思うかもしれないが、Mモデル以外のあれは、FRではなく「BMWという名前のFRみたいな何か」だ。BMWの方針で、エンジニアがそもそも自分の意図に沿わない「ハンドル切れば曲がるガチガチのクルマ」設定で仕立て、電子制御を外すと、前後荷重移動速度が速すぎるなどの理由でプッシュアンダーになるクルマを販売してきた。この設計は、はっきりと言えば、中国と日本など限られた地域でしか受けず、特に最大マーケットたる北米では、セダンの人気が劣化し、SUVへとマーケットが切り替わる中で、トヨタ、ホンダ、ポルシェなどにシェアを奪われ、BMWのブランド価値までもが劣化し始めていたのだ。 2012年にF30系に更新された後でも、この設計方針の根本的な部分は変わっていなかった。中国市場のBMWが未来永劫伸び続けるなどと考えることはできない。

BMWはセダンが主力で北米では苦戦
BMWを改心させたのは、トヨタの力が大きい。トヨタとBMWの協業が突然始まったようにトヨタは見せているが、そんなことはなく、トヨタの戦略部がBMWを研究した結果、もしBMWがトヨタ式の設計方式を、次世代の主力モデル設計(現在、G20系と呼ぶ新モデル)で受け入れるなら、今後の協業を考えても良いと2012年にBMWに提案したのだ。 BMWの経営陣も、技術者も当然のように反発した。どれだけ丁寧な言い回しをしても、トヨタの提案は明らかに上から目線の言いように見えるからだ。 しかし、同様な事象は、スバルと協業した時にも経験していたから、トヨタは驚きでも何でもなかったが。
トヨタと仕事をしたことがある人ならよく知ってるだろうが、トヨタは徹底した理詰めの会社だ。 そして、相手が納得するだけの裏付けを持って、自分の意見を述べる。 普通の会社なら調べられないようなデータですら、費用と要員を使って調査して、実験して提示してくる。 最初は、「トヨタの技術者ごときが」と思っていたBMWの技術者も、理詰めのエンジニアリングの世界では、真実は一つだ。 トヨタは、一つ一つ、BMWが変えるべき点を上げて、BMWの技術者を納得させ、同時に彼ら自身がずっと不満に思ってた、BMWの経営陣が指示する「切るだけで曲がるハンドリングのクルマ」をやめると言う共通の目的のために動き始めさせることに成功した。 トヨタの設計方式は、決してBMWの独自性を奪うものではななく、BMWの技術者は自分の力で、同じパーツを使ってトヨタの設計を上回るクルマを作ることができるのだ。トヨタの多田氏は理解していた。BMWに腹落ちさせるには、彼らに、最終的にパラドックスを体感させるしかないとことを。
当初、「ポルシェなんて眼中にない、我々はBMWだ」と言っていたBMWも、今度こそ、ボクスターを仮想敵にすることを目標にした。 これまで、ファンタジー・スポーツカーだったZ4が、MX-5や124スパイダーと、718ボクスターの間のマーケットを狙うことにしたのだ。

良い天気で、オープン日和
■G20系シャシー
トヨタのTNGAと同様の設計思想でBMW社によって設計された、G20系シャシーは、新型Z4と新型3シリーズで共有である。 例えば、Aピラーから先のフロントセクションは、外板パーツ以外は、新型3シリーズとほぼ同じである。F30系と比較して、ボディフレームで剛性を確保し、上屋の素材を見直して、高すぎる重心高を下げて、上屋の動きを硬いバネで支える必要をなくした。モノコックではなく、フレームのセクション構成で剛性と荷重応力変化を設計し、車両全体として必要な剛性と応力伝達速度を確保する。細長く、前後荷重移動の速度管理ができないいシャシーを、適切なトレッド・ホイールベース比を取ることで、前後荷重移動速度を適正化させる。 トレッドの拡張に伴い、サスペンションアームを長くして、サスペンションのストローク変化の増大に伴うロール剛性の変動を抑制する。と言った「FR設計の基本」から見直した。 こうした設計が可能になったのは、トヨタの設計手法に習い、BMWの技術者がずっとやりたかった設計ができるように、設計方法を大きく変えたからである。もちろん、トヨタがBMWから学んだ事もたくさんあった。 スープラの記事の中で、「スポーツカー作りにおいて、BMWがトヨタから学ぶものなど何もない」と書いているヒョウロンカがいたが、不勉強を通り越して滑稽ですらある。 トヨタとしては、盲目的にBMWを信奉するヒョウロンカがスープラを批判しにくくなって、多少はしめしめと思ってるかもしれないが。

G20系の足回り
長いアームでサスペンションの可動範囲を確保
■ハンドリング特性
物理的な特性から想像できる通り、コーナリング特性も悪くない。まだバネレートが合っていなくて、アダプティブMサスペンションをSportsにセットしてやらないと、衰滅力がバネレートと合わないが、Sports以上にセットすれば、荷重移動も期待通りに行えるし、コーナーでのスロットルの踏み込み位置も、FRらしくボクスターよりも手前から踏んでいける。 電子制御LSDの「Mスポーツディファレンシャル」の動作を知らないまま、コーナーリング中にスロットルを急激にオフにすると、想定外の挙動変化が起きる事にどきっとするケースがあるが、この電子制御LSDの特性を理解すれば、制御可能の範囲ではある。 例えて言うなら、かつてのR32GT-Rの「アンダー出ても踏む」と言うクセに近いものがあるといえばいいだろうか。 こう言う特性は私はあまり好きではないけど、電子制御が適切に介入するので、胃がキュッとなるほどの事は起きない。 だから、電制をONにして、電子制御LSDを効かせ、自動変速に任せて走ることがキモチイイと感じる人は結構いるだろうと思った。 基本的にぐいぐいスロットルを踏んで、ステアリングを左右に切り込んで走るのが好きって言う人なら、前後左右のバランスがいいから、ボクスターや124よりずっと楽チンで速く本人の想定通りの走りができるからだ。

Z4 コーナリング
スープラもZ4と同様に、電子制御LSDを使用するが、この制御SWのロジックは、Z4とは異なり、トヨタ独自の制御で行われる。各国で行われた試乗会で、スープラの操安性の方が、Z4より高く評価されたのは、主にVSCの制御ロジックと、この電子制御LSDの制御ロジックが大きく貢献している。 スープラはVSCを解除すると、かなりテールハッピーになるようだから、VSCオフでも、電子LSDのSW制御は維持されているのではないかと考えている。

A90スープラ
■エンジン特性
高圧縮エンジン+直噴ターボだから、大きなターボラグはないが、それでも2500回転以下のステージ1と、2500回転から6500回転のステージ2の2段の走りがあるように感じる。ステージ1でも、公道で走るには十分なパフォーマンスで、8速ATとの組み合わせで特に不満なく使える。 ステージ2は、丁度いいくらいのパワーで、公道で遵法的に使うには余るくらいだが、危険なほどではない。 気持ち良いかと言うと、ちょっと答えに悩む。 ストレート6は滑らかと言うより回転感覚が小粒で、エキゾーストを開モードにした時の音を聞かなければ、BMWの4気筒と変わらない回転感覚なのだ。音もちょっと作りすぎで、デジタルな作り物感を感じてしまう。 もちろん、Z4に積まれているN58B6気筒ターボエンジンは、F30系や旧M2で使われていたN55より近代化され、洗練されたと思うが、むしろ6気筒っぽさが減ってしまったように感じる。 それでも、N58Bは、エンジン音の面ではボクスターSのフラット4に優っている。 出力に関してもターボラグはあるけれども、ターボが効いたあとのパワー感は十分にあるので、ノーズが重いことを受け入れるくらいの価値はあると思う。
一方、ボクスターSのフラット4のエンジン音はドロドロと低音で、BMWに比べて色気はないものの、VTGによる全域ターボ特性が素晴らしい。

N58型6気筒ターボエンジン
Z4は、低回転でも排気量が大きいだけにスロットル操作に気を使わなくても良いので、長距離ドライブは、124より楽しいと思う。8速ATの変速も適切かつシフトショックも無く、ボクスターSやM2CompetionのDCTほど直結感はないが、変速速度に不満はなく、Sports+ではGがかかっている状態で減速するとちゃんとシフトダウンして、高回転も積極的に使える。Openの状態で街中、高速道路、ワインディングを気持ちよく走ることが目的であるZ4にとって、丁度いい変速機との組み合わせであると言える。
余談ではあるが、G29 Z4 M40iを買おうかなと思っている人は、M2 CompetionやM3に乗ってはならない。 Mには本当のBMWストレート6が載っているからだ。S55型6気筒ツインターボは、出力も400馬力を軽く超えるが、回転感、エンジンサウンド、出力特性のいずれもが、まさに6気筒ターボだからだ。 Z4は、65,000ドル級の2シーターのOpenで、ライバルは718ボクスターSであるからB58でいいと判断されているのだろう。 Mの本来の金額レンジの相手は6気筒の911カレラだから相手が違う。 しかし、不思議なことに、日本での値付けは、M2 Competionは901万円で、Z4が835万円とZ4の割高感が半端ない。M2はシャシーがZ4より古く、絶対的なシャシー性能は、G20系に及ばないはずだが、幸いなことにMのシャシー設定は、まともなFRのそれであり、BMWの他のモデルのハンドリングとは異なるので、Z4を買うならM2 Competionを買ったほうが幸せになれると言う気持ちになってしまいかねない。 本命は、G系シャシー+S55エンジンが乗った次のMモデルだろうが、G20系の価格体系から見ると、今度こそ、911が買える値段になりそうだ。
*注:MとMsportsは全く別物である。
Msportsとは、「Mっぽい感じがあるとかっこいいかも」
と言うドレスアップモデル
ついでに、Z4のM40i のMは、Msportsと概ね同じ意味で、Mではない。

S55型6気筒ツインターボエンジン
*注:N55をベースに、ツインターボにしている。シリンダーのクローズドデッキ化、オイルパンにマグネシウム合金を使用している。クランクシャフトを窒化処理したクロームモリブデン鋼に変更し、高出力と軽量化のための改良が随所に施されている。コンロッドも特殊な表面・端面処理を行い、マーレ製Si12Cu4Ni2Mg配合アルミ合金ピストンを使用して高回転を許容する仕様になっている。
■課題
価格は、ボクスターSの価格を意識していて、オープン故にスープラより高い値付けをしたとは言え、日本市場での値付けは高いと思う。 北米では、ほぼ同等の装備のZ4 M40iが69,300USDくらいで買えるのだから、日本市場での値付けの835万円は、少々高いと言えるだろう。 BMWジャパンが「BMWは高級車だから」という理由でそう値づけたならそれでもよかろう。 ポルシェは別段高級車ではなく、高額車ではあるものの、中古車として売却する場合でも新車の購入価格に対して適切な下取り価格で引き取ってもらえる。 しかし、BMWはそうはならない。 なぜ、そうなるのかの理由は一つしかない。
お金で解決できる課題以外に、Z4には大きな問題がある。 車線逸脱警告装置だ。 同等の装備をマツダのCX-5なども持っていて、白線の引かれた道路から逸脱すると、それを元に戻そうとする。マツダの設定は、危険な範囲にならない程度でステアリングに伝えてくるが、BMWのそれは、かなり強力に作用し、初めて経験すると相当に驚くことになり、事故につながる可能性すらあると思えた。 オートクルーズのように自分で入れるのではなく、規定値で入ってるので、普通に乗ると、この逸脱補正に突然出会うことになる。 首都高の入り口と別れるところなどで、白線をまたぐと、驚くほどの力でステアリングが押し戻される。Y字の左に行きたいのだが、強制的に右の高速道路ランプへと切り込もうとするのだ。 マツダの3倍くらいの力でステアリングが動くので、これは、安全装備というよりむしろ危険な装備である。 Z4を利用する人は、十分この動きに慣れて、クルマが押し戻そうとしても、必要な場合は、自分で強く逆に切り込む意識を持たないと危ない。 言うまでもないが、新3シリーズも全く同じ問題を抱えている。

車線逸脱防止機構
*注:車線逸脱警告システムは、フロントウインドウのカメラで車線表示を検知し、70 km/h 以上での走行時に車線からクルマが逸脱しそうになると、ステアリングホイールを逆方向に動かしてドライバーに警告するが、この反力が強すぎる。
■内装から見たスープラとの違い
Z4の一番の魅力は、まず内装だろう。 ボクスターやスープラと比較の対象にならないくらい、ラグジュアリー感が違う。スープラは86並だし、ボクスターでこのレベルにしようと思うと、オプション代がいくらになるのか、計算する気も起きない。

Z4の内装
Z4とスープラは、特にお値段なりの作り込みの差が顕著で、スープラの実車と比較すると相当に、スープラの内装が安っぽい。 4発モデルのスープラの内装は、安価なモデルの方だとほぼ86の中間モデルくらいの品質で、安っぽさに定評のあるボクスターの内装より安っぽく感じる。 6気筒モデルの690万円のスープラでも、86の最高グレードと変わらないのではと思うレベルだから、ドアやインパネ類の作り込みは、Z4が最も良い。 何でもかんでもオプションで、追加装備に莫大な費用がかかるボクスターに比べて、もしかしたら、Z4の価格を受け入れられる人がいるかもしれない。 シートは、スープラはトヨタ製、Z4はBMW製で、実用面ではスープラも問題はないが、見栄えと手触りは、お値段以上の違いがある。BMWのナッパレザーは、マツダのそれよりも高品質で、良いものを買った感を味わえる。

スープラ内装
安い方の内装なのは、嫌がらせじゃなくて、実車が4発モデルだったから。
中間グレードの86と同じくらいのレベル。
ステアリングも、それぞれトヨタ、BMW製なのだが、BMWの方は当然極太のグリップである。 内装がLEDと電球だとかの差はあれど、内装の最も大きな違いは、インフォテインメントで、Z4は最新のボイスコントロールができるiDriveが搭載されているが、スープラのそれは1世代前の、BMW現行モデルが使っているバージョンである。スープラは690万円とより安価なので、それなりの差はある。運転席全体のデザインは、Z4の方が断然カッコ良く、視点の動きも少なく、使いやすいと思う。

Z4内装
最新の、「Hey BMW」ってやつが使えるが、普段SiriもAlexaも
使わない人は多分使わない。
なお、ドイツ語モードでは、下手なドイツ語でも認識する。
ちょっと、ファイアフォックスぽい。(あれはロシア語か)
Bitteを最後につけるとより効果的、結構ツンデレかも。
日本語モードの日本語認識は、ちょっとイマイチ感あり
しかし、私は、全面液晶の画面は嫌いだ。グラスコクピット化は、航空機だけで十分だ。 BMWのレブカウンターの針の向きが右下から上に逆時計回りに回るのも受け入れられないが、一般的な人の印象はApple watchの時計盤みたいなものだと思われているのだろう。 BMWはメーターのデザインがカッコよくて好きだったのに、デジタル化された際に全く踏襲されていなくて残念だ。

Z4メーター
これが良いとは思えないが、Apple Watchだと思えば良いのか。
スープラは、回転計など配列を固定化した上で、液晶を部分的に使っているから、この辺はスープラの方が見やすい。レクサスのLFAのメータも部分液晶だが、あれはとても良いデザインだと思う。 全面液晶のパネルは、iPadが付いているみたいで、味気ないのだ。

スープラのメーター
カッコよくはないが、トヨタらしく、
必要な情報が見やすいレイアウト。
室内の居心地、エアコンディショニングなど、後発だけにボクスターよりかなり快適に広くなっている。 ロードスターや124スパイダーで面していた、「LCC並みのギリギリの広さの座席」に対して、Z4は、「プレミアム・エコノミー」くらいの余裕度の差はある。 同じFRで、クルマとキャビンが大きくて、乗車人数が同じなのだから、広いのは当たり前であるのだが。 スープラのシートは見ただけでわかると思うが、トヨタ製がBMWの工場に持ち込まれて取り付けられる。

Z4シート
トランクはクルマのサイズ相応に広い。幌にした事で、トランクスペースを小さくせずにすみ、MX5/124スパイダーの2倍くらいの容量があるように見える。二人分の旅行の荷物はバッチリ積めるので、旅行の帰りにお土産を入れるところがなくて、買うのを諦めるなんてことがなくて良い。キャンプ道具だってバッチリ積めそうなので、124スパイダーのトランクに入るグッズを必死に集めなくても、楽々キャンプに行けるのではないかと思う。 スープラも、ハッチの下にそれなりのスペースがあり、タイヤは積めそうにないが、旅行用の荷物は積めそうである。

Z4トランク

スープラのリアハッチ収納スペース
■オープンとクローズ
バスタブに沈む感覚があって、開放感は、NDロードスターや124には及ばない。 その代わり、包まれ感があるので、ロードスターRFに近い感覚がある。
後方は空いているが、シートバックが少し高く、風の巻き込みは少なくて、快適なオープンエアモータリングが楽しめる。124スパイダーよりデート向き。
オープンにするのは12秒くらいで、電動で動作する。50km/h以下の速度ならば開閉可能である。

オープン状態
クローズ状態では、静かというわけではないが、ロードノイズの遮断性や、ガラスの厚みの差によって、静粛性は124スパイダーやボクスターより優れている。 でも、幌なので雨が降ればパチパチいうし、大きな差があるというものではない。 やっぱり幌型は、オープンの姿が基本だと思う。

クローズ状態
■結論
G29型Z4は、豪華な大きな124スパイダーだと思う。 お値段が2倍以上違うため、よりラグジュアリーで、保有する満足度もある。両車とも前後のオーバハングがやや大きく、ターボラグのある過給エンジンをスクエアなディメンジョンのシャシーに積んだFRであり、外装の見た目までもそれとなく似ている2台である。「大きな124スパイダー」というのが、褒めてる言葉なのか、と問われるならば、それはYESだ。 私が、M以外のBMWを好意的に書くのは多分初めてで、それは私にとって最上級のパラドックスでもある。 G29型Z4は、ディメンジョンがスクエアに見直され、アームはマツダのFRのようにアルミ製の必要な長さのアームを持ち、ミシュラン・パイロットスポーツを履きこなせるだけのシャシーの余裕がある魅力的なFRの一台だと思う。 B58エンジンは、Mシリーズに載るS55を知らずに、エンジンサウンドが妙にデジタル的に雑味がなさ過ぎることが気にならないなら、パワーは丁度よく、シャシーとのバランスも良い。 124やMX-5に比べると何事にも重さは感じるが、それでもスポーツドライビングの操作には、概ねちゃんと答えてくれる。
つまりZ4は、価格が高い事と車線逸脱防止機構以外に、取り立てて大きな欠点がない。 ここまで各論で述べてきたように、エンジン、内装、走り、オープン時の快適性もみんな悪くない。 それでも、誰も「Z4は、718ボクスターを超えた」とは言わないのだ。私も含めて。「Z4なのによく頑張った」といい方は失礼だが、実感に近い。 では、一体何が気に入らないと言うのだろう。 まず外観はフロントデザインがあまり好みではない。 エンジンが6気筒らしい回転感がないのに、作りすぎた感のある排気音も気になる。 でも、一番重大な問題は、スポーツカーとしてのブランド力を感じないことだ。多くの人が、M以外のBMWをスポーツカーとして認めてくれないのである。 スープラ、FD、GT-R、ロードスターといった、2次元系の媒体を通して世界中に知られるようになった日本車より、スポーツカーとしての認知度が低いのだ。 最終的に、預金通帳を見ながら、「Z4を買おう」という最後の一歩が踏み切れない。

BMW Z4 M40i
デザインを見て、「欲しい」と思えないと
手が出しづらいように感じる
A90スープラと比較されるZ4だが、では、もしスープラとZ4のどちらかを2択で選べと言われても、私はどちらも選ばない。 まだ乗ったことがないスープラを批判するつもりはないが、内装と外装のデザインが更に受け入れられないと言う好みの問題よりも、スープラは、私が持っているスポーツカーに対する楽しみ方の違いを感じるからだと思う。 LWSならMTのロードスターやエリーゼの方が好みだし、LW以外なら、ボクスター/ケイマンや911の方が自分でクルマを操る楽しさがより高いように思う。 そんな私の好みよりも大事な、世間の判断はこうだ。690万円のスープラは、順調に売れていて、3月の時点で6気筒のRZは、2019年欧州への割り当ての900台、日本向けの570台は既に完売で、納期は1年を超えているから、ローンチ後のマーケットを十分に持っている。 製造がBMWであっても、トヨタが保証すると言うトヨタ・ブランドの安心感はあるだろう。しかし、大きな問題もなく、走りも同様に楽しいはずのZ4は、世界中でスープラのようには売れていない。 世界レベルでのこの差は、BMW にとって、最上級のパラドックスだろう。

トヨタ A90 スープラ
それを解決することができるかどうかが、BMWのこのクラスのスポーツカー市場での課題だ。既に、ポルシェとトヨタは各国の市場でそれを成し遂げている。評論家が「売れる方がいいクルマだとは限らない」といくら言っても、現実は実態を見ている。G29型Z4は、歴代Z4の中でもっとスポーツ性の高いクルマになった。でも、Z4じゃなければ手に入らない何かは見当たらない。 将来、Z4がボクスターやスープラのように市場で認められるようになるかは、まだ、「希望はあるかも」としか言えない。
この記事は、当初試乗記事として書いた。しかし、とてもではないが、試乗記の文字数まで削りきれず、通常ブログ記事での公開とした。 元の原稿は、ここに載せている3倍くらいの量を書いてる。 それは、未来のBMWのスポーツカーへの期待からくる以外の何物でもない。
BMWにとって、トヨタとの協業はきっと大きな一歩になると思う。

BMW Z4 M40i