
なぜ、学生の夏休みには宿題があるのか知っているだろうか。
唐突に何を・・と思うかもしれない。学生本人はもちろんのこと、教師も、親もその真の狙いを知らないまま、子供に勉強を強いている人が多いことは嘆かわしいことだ。 夏休みの宿題の真の目的は、「計画と実行」とは何かを知るためであり、「制限事項の中でいかに人生を楽しむか」を学ぶことにある。
軽自動車には、不合理ともいえる設計上の規制がある。 夏休みの宿題のように目的があるわけでも、自動車工学からみた必然性があるわけでもないが、とにかくボディサイズ、動力システム、最大乗員数に規制がある。その上で、制限のない普通車と同様に公道での安全性も求められるし、衝突性能だって維持しなくてはならない。
その結果、全長3400mm、全幅1480mmに制限されたガラパゴス島では、世界に類のないスペシャルな小型車達が開発され、この島の中だけで多数の個体がずっと生息を続けている。 そんな中に1台のミドシップのスポーツカーが紛れ込んでいるのだ。
ホンダに対する思いは年代によって違うだろうが、ホンダのTypeRとF1への挑戦の時代にホンダVTECエンジンを楽しんだ世代のホンダファンは、現代のホンダに対して何か少し違うと感じているように見える。 しかし、ホンダスピリットは、9000回転まで回るエンジンにだけあるわけではなく、汎用エンジンからジェット機にまで形を変えながら流れているようだ。(クルマのブログだから細かいことは書かないが、ホンダジェットは、まさにTypeRの時代のホンダ製品の乗り味(飛ばし味?)なのだ)
ホンダが、本気で改定してきたモデルに、「モデューロX」という名前を付けてきたのは、新世代のホンダになったことを感じさせる。無限ホンダと、ホンダアクセスのイメージの差は大きく、「モデューロXってディーラーオプションを作ってる会社でしょ? そこのコンプリートカーなんて、見た目だけに決まってる。」と思われることも承知の上だ。既に、無限S660のコンプリートカー(289万円で660台限定発売)が存在するのに、今度はモデューロX版を出してきた。それは、そこに、「ホンダスピリッツ」があるから、躊躇なく出してきたのだ。

S660モデューロX
S660モデューロXは、285万円と、標準モデルの67万円高で、NDロードスターよりも高い、結構なお値段がついているけれど、このクルマには285万円の価値はある。マーケットが「リーズナブルだ」と受け取るかどうかはわからない。 軽自動車の制限枠は、ピープルムーバーとして、公道を安全に走行できるぎりぎりの線で作られた制限であり、操安性を求めるミドシップスポーツカーのための制限ではない。 だから、S660には様々な欠点があるけれど、軽自動車の制限の中で、精一杯の努力をしている。 物を成し遂げるには、最初は「破れない制限事項」がある方が話は前に進みやすい。後に「ここがもっとこうだったら」ということは起きるけれど、その制限を超えてはならないという事実は議論を纏めやすいのだ。 商業的にも、税金が安く、小型故に車庫証明が取りやすいないしは、不要ということが、セカンドカー需要を呼ぶと踏んで作られているわけで、NDロードスターの価格と比較するべきクルマでもない。

S660モデューロX
だから、このクルマはサーキットやワインディングでも楽しめるけれど、ツーリングにも向いている。ND以上に室内は狭くうるさく、物はおけず、屋根の海苔巻は格納しづらく、横置きミッドのくせに、海苔巻をしまうと荷物もほとんど積めないが、そこは「制限」を楽しむのが、S660の本質だから、その中でいかに楽しみを見つけるかが、S660の楽しみ方だろう。目を三角にしてコーナーを攻める走りは、このクルマには向かない。だからと言って遅いわけではないけれど、速さとバランスの悪さを隠すことにポイントを全振りせず、バランスをエアロで整えた分を、「ツーリング能力」「疲れない走り」に向けたと言って良い。 そして、室内の質感も色味もよくなり、乗り込むことが楽しくなった。

モデューロX 室内
モデューロXは、この制限の中で、ツーリングをもっと楽しくし、すっと曲がり始めるミドシップの楽しさを作り出した。 そのために、徹底的にエアロを研究してきたのだ。 モデューロのクルマ紹介を見ていると、何の迷いもなく作ってることがよくわかる。 夏休みの課題は全部予定通り終わったのに、自由研究に力を注いだので、提出が2学期に入ってしまったけど、これだけの成果を出せば、担任の先生は花丸を与えて当然だと思う。
Posted at 2018/07/21 20:06:48 | |
試乗記 | クルマレビュー