
「カワイイは正義」だが、「よくできたクルマ」が正義とは限らない。
最初に、アテンザは、この6年の間に、様々なネガを潰して進化したことは間違いない。 クルマとしての完成度も2018年に販売されている400万円クラスのDセグメントの中では、十分に近代的だ。走行性能のところで述べたように走りだって、マツダのクルマらしく悪くない。25LとXDLの購入に多少迷うかもしれないが、短距離走行が中心ならば25L、家族と長距離にも乗るならばXDLという選択になるのはこれまでと変わらない。しかし、XDLの加速性能が過去モデルよりもマイルドに滑らかになり、25Lの低速トルクが豊になったため、ディーゼルに動力性能でのアドバンテージが小さくなった。 同時に、静粛性にも大きな差がないほどディーゼルは静かになり振動も小さくなった。
アテンザの静粛性に関しては、もっと褒められるべきだ。
新型クラウンに乗った時に、どのモデルも相当に静かだったし、クルマとしての出来もかなり良くなったから、このブログで3回も取り上げた。アテンザに乗った今でも評価は高い。 アテンザに乗った時も、最初は静かだけどクラウンには及ばないよなと思ったのだが、念のため、再度クラウンンにも乗りなおしてみた。同じ路面を走っているわけではないから、dB系の値を比較するのは意味がないけれど、他のクルマに比べてクラウンが静かであることに間違いはないが、アテンザがこれに匹敵するほど静かになったのは事実だと言っておくべきだと思っている。

静粛なアテンザの室内
私が、新アテンザを買う方向に動かないのは、新アテンザは、ペリエ(炭酸水)みたいなクルマだからだと感じたからかもしれない。 ペリエは、太ることもなく、甘くもなく、アルコールも入っておらず、安く、料理にもあうし、清涼感もある。 でも、「本当は美味しいシャンパンが飲みたいのだけど、クルマに乗るからペリエにしている」という感じに似ている。 価格と性能のレベルが高い妥協点と言ってもいいかもしれない。 ミニバンを選ぶように、利便性中心でのクルマ選びとは異なり、Dセグメントのクルマは趣味的な要素も多く入ってくるから、無色透明なペリエは選びづらい。 このクラスのクルマは、「このクルマが欲しい」という、そのクルマにしかない何かを持たせることが大事で、どういう気持ちになってアテンザを選べばいいのか、という所のアピールが難しいのだ。

ペリエ
これが何を意味するかといえば、クラウンやEクラスの購入を検討する人は、アテンザなど、最初から眼中にないから、試乗することすらしないということになる。クアドロフォリオや、ジャガーはその比較対象になったとしても、「アテンザじゃねえ。。。」と最初からディーラーに行こうともしない。似たような境遇にレガシーB4もあるが、あちらはモデル末期だから売れているわけでもないし、新型になってから判断すべきだろう。クラウンもEクラスも、ゴルフエクスプレスがメインの用途ではないし、Dセグのセダンが、全部同じ方向性を向いている必要もないが、だからといって、アテンザにしかない魅力はなんだろうか。 2012年には、魂動デザインが初期ユーザを引き付けたが、今回はその新鮮味はない(現時点でもデザインは優秀だと思う)。 いいクルマなら売れるとはいえない・・のが、このクラスのマーケットの難しいところだ。

新アテンザ
「乗り出し価格400万円のセダンとワゴン」のマーケットは日本にはない。これはマツダもよくわかっているし、今回のモデルチェンジの目的が、中国、アジア、北米であることは前にも述べた。 恐らく、新アテンザは日本ではさほど売れることはあるまい。クルマのできは良くとも、中途半端に安く、高く売るだけのブランド力はまだないからだ。
マイナーチェンジでは考えられない程の変更をしたことは高く評価したいけれど、購入するユーザの視点からすると、FRになったわけでもないし、SkyActive-Xでもないし、期待の直6を搭載しているわけでもないから、購入時の比較の遡上に上がってこないのだ。 丁度Dセグメントのマーケットに目を向けているクラウンの購買層は、残念ながら、クラウンより150万円も安いアテンザを比較対象としてくれないことは残念だ。

新アテンザ
マツダのディーラー自身が、アテンザがそれほど売れないだろうということをよく理解している。それは、試乗車の検索をしてみるとよくわかる。主力のディーラーであっても、アテンザを試乗車に持っていないところがたくさんある。逆にCX-5の試乗車を持たないディーラーはないし、主力ディーラーならCX-8の試乗車を持たないところもない。
こうして分析をしてみると、新アテンザ/マツダ6において、最も心配なことは、期待しているアジア、中国マーケットでどのように受け入れられるのかである。 今のところ、北米市場では、それほど大きな動きにはなっていない。やはり、セダンにおいては、カムリ、アコード、シビックが強い。だから、今回投資して大幅に良くなった結果、期待された以上にマツダ6の販売が伸びないのではないかと考えている。 世界中の多くのマツダ6のユーザは、やはり次世代のマツダ6に期待をしていると思う。「KAWAII」はもはや日本語ではなく、世界に通じる言葉の一つだ。日本語の「可愛い」とはことなる意味合いで、尖ったCOOLさ、とでもいえばいいだろうか。 次世代のアテンザは、クラウンクラスの価格と性能と、マツダらしいデザインと走行性能をもって、世界中のDセグメント車を相手に勝負をかけることを期待している。 それこそが、マツダの「KAWAII」なのだから。

新アテンザ
良いデザインは、時間と共に劣化することはない。
もっと褒めてあげたいけれど、マーケットは冷酷なのだ。
Posted at 2018/09/07 23:12:06 | |
試乗記 | クルマレビュー