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zato787のブログ一覧

2018年10月12日 イイね!

RX-007は二度死ぬ  新ロータリーエンジン

RX-007は二度死ぬ  新ロータリーエンジン
「ロータリー・ターボ♪」

コスモのCMで、このフレーズを聞くのが好きだった。そして、ロータリー・ターボは、既に失われてからもう随分とたってしまった。私はロータリーエンジンにも、たくさん思い出があり、それを搭載したクルマたちもそれぞれが実に楽しいクルマであったから、私のロータリーに対する印象は悪くない・・どころか、相当に特別な思いれがある。だから、SA22をはじめとして、RX-7という名前のクルマには全部乗ってきた。(コスモも、RX-8もだけれど)


 SA型 RX-7
 このクルマは、排気ガス規制で失われたスポーツカーの復活の狼煙だった。
 SA22の存在がどれほど頼もしく、嬉しかったことか。



 FD型 RX-7
 操安の不安定なクルマだが、未来永劫、カッコいいと言われるはず。


マツダ自身も、ロータリースポーツの夢が捨てきれず、何度もチャンレジしたが、どうやっても商業ベースの乗せる計画が立たず、新しいロータリーエンジンを積んだスポーツカーが発売されることはなかった。


RX-Vision
2015年の第44回東京モーターショーに出品。
次世代ロータリーエンジン「SKYACTIV-R」を搭載するとアナウンスされたが、
ビジネスとして成り立たず、発売は延期された。


メディアが、EV化の拡大を叫ぶなか、日欧の主力自動車メーカは、EVの商業的な問題点を見抜いており、動力の電動化が進むことには肯定的ではあっても、主にインフラと電池性能の理由から、EVの普及は限られた範囲になると考えている。 マツダでは、2030年でも、EVは全体数の10%程度の割合で、主力になるのは、ハイブリッドの発展系になるだろうと予想している。 パラレルハイブリッドだけでなく、シリーズハイブリッドもまた、日産やホンダの主力ハイブリッドになったことで、その候補の一つになりうると考えられている。(ホンダのハイブリッドは、エンジン動力でも駆動できるケースがあるが、主機能はシリーズハイブリッドだと言っていいだろう)


2013年にデミオEVをベースに試作したレンジエクステンダー用のロータリーは、搭載車両がEVだったことから「レンジエクステンダー」と呼ばれたが、現在の言い方で言えば、シリーズ式ハイブリッドのPHVである。 さすがに21世紀に設計・製造したロータリーだけに、主要パーツを13Bから流用して作ったシングルローターのエンジンだったにも関わらず、過去に発売されたどの13Bロータリーよりも静かに回ったのだ。 しかし、この時代のマツダには、その先に進むための研究費用と人材を開発に回すことができず、それ以上研究を続けることはできなかった。 当時のマツダは全リソースをSKYACTIVEの展開にかけるしかなかったからだ。 しかし、このロータリーを積んだレンジエクステンダーは、意外な方向から注目されていた。その一つがトヨタである。



 13Bがベースのレンジエクステンダー用RE(2013年)
 単室容積330cc、圧縮比10.0、単体重量35kg、最高出力25kW/4500rpm、最大トルク47Nm
 最高許容回転数4500rpm、運転範囲は1500rpmから4000rpm
 マツダは発電用エンジンにロータリーの特許を取っている。


発電用に絞ったロータリーエンジンは、定速回転用として再設計すればもっと軽量にできるし、弱点と言われている排ガスや燃費の不利の面も、使用する回転数や運転方式を限ることができるため対策が可能だ。 発電・駆動モーターのシステムは、この技術に長けた会社-例えば、モータージェネレータ(MG)が得意なデンソーのような-が協力すれば、うんと軽く作れそうだった。 そして、トヨタは、よりドライバビリティの高い電動化の方法を模索しており、自社のパラレルハイブリッドの他にも方式を考えておくべきだと言う結論に至った。単純なシリアルハイブリッドですら市場に受け入れられることは、日産のe-Powerが既に十二分に証明していたからだ。


トヨタは、電動化の開発において、「運転の楽しさ」が「ダイレクト感」と関連していることを十分意識していたから、莫大な費用をかけて、マルチステージハイブリッドを開発した。(「トヨタ・ハイブリッドは電気羊の夢を見るか」参照)それは、マツダが呪文のように唱えている、「躍度一定」と方向性が同じであることは、トヨタも良く理解していた。 だから、マツダが再びロータリーを新設計するためには、トヨタとデンソーの存在は不可欠だったと言える。トヨタを中心に、この3社で設立した「EV.C.A. Spirit(EVCAS)」には、現在、日野、スバル、スズキ、ダイハツも加わっているが、キーソリューションは、シリアルハイブリッドに必要な、ロータリー、発電システム(MG)、変速機(これはまだ公式発言していない)の3つである。 トヨタとマツダ以外は、ロータリーを使うかどうかを明らかにしていないが、シリーズハイブリッドに適したエンジンでなければ、新たに開発する意味がない。



 トヨタ、マツダ、デンソーにて「EV.C.A. Spirit(EVCAS)」を設立


ロータリーには、まるでシリアルハイブリッドのために生まれてきたような特性がある。

1.エンジン全体がコンパクトであり、配置の自由度があること
2.モジュール化して連接させて性能拡大ができる。
3.一定回転数にすると燃費が良く、振動が少なく静か。
4.停止→始動→停止のショックが小さい。
5.複数の化石燃料が使える。
6.既存の生産技術・設備で量産できる。
7.競争力のある値段で販売できる。
8.整備技術、整備網がある。

この1~8の特徴を全て持つ内燃機関は、ロータリーしかない。ロータリー以外では、ガスタービンの特性に近いものがあるが、コストや整備性などの話を出せば、全く実用的ではないことがすぐにわかるだろう。もちろん、マツダ以外の会社でも、ロータリーを開発することは可能であろうから、マツダ以外のロータリーが生まれてくる可能性もある。



 シリアルハイブリッドに対するロータリーの適正は高い


こう見ていくと、ピンチなのは、SCKACTIVE-X以外の、既存の4気筒などの一般的なエンジンであり、電動化されて比較されたとたんに、ロータリーと直列4気筒の差があきらかになってしまう。単装ロータリーは極めて小型で、4000回転で50馬力程度の出力は容易に発揮できる。トヨタがハイブリッドを通して編み出した技術に、モーターでドライブトレーンの振動を打ち消す技術がある。この技術は、モーターと同軸上に配置可能なロータリーには大いに有効で、単装ロータリーでもその振動を打ち消してしまうことができる。



 トヨタの制振技術 モータ駆動の位相変化で振動を吸収する。


トヨタが、自慢の高熱効率エンジンではなく、ロータリーを使うのは、その全長の短さ故に、トランスミッションをモーターと組み合わせて配置できるからだ。 世界的には、電動化のモーターは駆動輪の近くに配置しようとしているのだが、トヨタは電動化における、運転の楽しさの実現のために、モーターの後ろに変速機を配置する構造を考えている。現在のEVはモーター直結方式が主体になっていて、この方式は簡単だが、エネルギー効率もドライバビリティも良くない。 

モーターの減速比は、最高速度に必要な出力を得るために、トルクとモーターの許容回転数を元に決定されるので、必要な出力を得るためには、モーターのサイズを大きくして大トルクを発生させるか、モーターの回転数を高くするかの選択になってしまう。 エンジンルームの大きさの制限から、小型のモーターを積まねばならないEVでは、減速比を高く設定し駆動モータの最高回転速度を上げざるを得ず、減速機の動力損失は増大し効率が低下してしまう。変速機で、減速比を変えてやることで、モータ最高回転速度を高めることなく,駆動モータの最大トルクを低く設定できる。

さらに、駆動モータおよびインバータの効率とレスポンスは、回転速度とトルクによって変化する。 だから、モーターもまた高効率で運転できる回転速度とトルクの領域で動かせば、最も良いレスポンスを引き出すことができるので高いドライバビリティが実現できるわけだ。



 モーターに変速機を加えると、エネルギー効率性と
 ドライバビリティを高めることができる。


このように、EVの中にも差別化が可能であるため、トヨタ・マツダ・デンソーは、モーターに変速機を配置して、モーターを変速して使用することを考えた。モーターが一定出力であることを考えれば、回転数を下げて、より高いトルクを優秀な変速機で駆動輪に伝えた方が、ドライバーが電動機の高速運転時に感じる、薄いトルクによるレスポンスの悪化と違和感を回避する事ができるわけだ。



 モーターに変速機を加えた駆動装置(NTN製)
 変速機の有無でドライバビリティが大きく変わる。
 ボルグワーナーもEV用のモーター変速機を開発

サイズがコンパクトで、複数の燃料が使える事が生み出すメリットも大きい。
ロータリーもモーターも、ペッちゃんこで小さいから、横置きにして変速機を組み合わせることもできるし、初代エスティマのように床下にミドシップして、前から後ろまで使えるミニバンを作ってもいい。まさに、ロータリーが夢見ていた、コンパクトでハイパワーなユニットの使い方ができるのだ。
マツダから提案されているように、災害時には、家庭のプロパンガスを接続し、そのプロパンガスで発電を行い、災害時の電力供給を支援できるという考え方も可能で、ガソリンが手に入らない場所でも、容器が丈夫な故に、その辺に転がっているプロパンガスなら手に入りやすいし、扱いもとても簡単だ。



 LPGを使用して災害時の電気供給源となりうる。
 (PHVが被災地で活躍した事例を生かしている。)
 被災地以外でも、電気のない所に電気を作り出せる。


さて、トヨタとマツダが、「エコカー」のためだけに、この技術を作っていると思ったら、大きな認識不足だ。彼らは、プレゼンの中で、あえて、エコを中心に話していて、聞き手がそれを素直に受けってしまっている傾向がみられるが、このシステムは決してコンパクトカーのためだけのシステムではない。テスラみたいな無謀なバッテリーの使い方がハイパワーカーの未来の姿ではないと思うが、もっとまともな方法でハイパワーを楽しむことは可能だ。 トヨタのモーター制御技術で、単装ロータリーの振動は打ち消すことができる。しかし、ロータリーには、複数ローターが連接できるという特徴がある。連装、3連装にすれば、ロータリー自身がもっと滑らかに静かに回るし、内燃機関が発揮できる最大出力を増大させることができるので、バッテリーを全て使い果たした状態でも、内燃機関が発揮する出力をモーターが発揮し続けることができるのだ。



 直列・コンパクトなRE
 マツダの言葉に隠された真意を見抜く必要がある


もし、3ローター150馬力で足らないなら・・排気タービンでも、電動タービンでも使って過給すれば、出力の増大は可能だ。ここまで来ると、「モーターを取っ払う」やつが必ず出てくるだろうが、その手法は未来のコーチビルダーに任そう。我々は、商業的に成り立たないことを心の中で理解していて、もう新ロータリーエンジンはこの世に出てこないと思っていた。 新ロータリーがシリーズハイブリッド用として生き延びることに、何か複雑な物を感じた人もいるだろう。 しかし、それは喜ぶべきことであって、悲しむべきことではない。


 3ローターエンジン(20B型)、ユーノス・コスモに搭載された。
 燃料をがぶ飲みはしたが、滑らかで気持ちのいいエンジンだった


ロータリーはまだ死なない。そして、次の世代でこそ、ロータリーが本当の意味で活躍できる時が来ると思っている。ロータリー・ターボは、憧れであっても、ロータリーの本命にはなりえなかった。 だから、ロータリーはもう一度復活せねばならない。 ノスタルジックに考えれば、これまでのロータリーは乗っていて楽しかったが、それは私達の時代で十分経験できたし、そのうちの何台かはずっと未来まで残されるだろうから、未来の人もOLD-TIMERとして経験することはできるだろう。

ロータリーは、もう一度生まれ変わる。
今度こそ、彼がやりたかった夢をかなえてほしい。

 RX-7, You Only Live Twice

Posted at 2018/10/12 14:39:28 | コメント(1) | トラックバック(0) | 自動車技術 | クルマ
2018年10月05日 イイね!

ザクとは違うのだよ、ザクとは。 マツダCX-8

ザクとは違うのだよ、ザクとは。 マツダCX-8
「A Sports Car Like No Other」

RX-8のキャッチコピーは、伝わるべき人には伝わった。「他にはない4人乗りのスポーツカー」というのが、RX-8の素晴らしいところだった。

CX-8は、ミニバンを必要とする家族構成の人が、ミニバン以外の選択肢を取ることを許すための大事なクルマになった。CX-5を見慣れた目には、大きく見えはするのだが、いざ運転席に座ると、ちょっと背が高いなと思うだけで、マツダの他のクルマのインターフェイスと同形であり、動かすことに何のためらいもない。それは、簡単なようで簡単なことではなく、大型の車両を動かすことに抵抗がある人はたくさんいるし、スポーツカーから大型SUVに乗り換えても運転感覚の方向が揃っているというのは、よくできていると言うしかない。


現行版CX-8(年次改良前)


CX-8は、ボルボのX90、プジョー5007といた輸入車だけでなく、オデッセイクラスのミニバンともしばしば比較されるのである。 内装色もブラウン、アイボリーとオシャレな色使いで、内装パーツも十分に価格に見合うパーツが使われているし、革シートの材質も柔らかくて、良い手触りであるから、クルマに乗せた人は、いいクルマだなと感じられる。輸入車のライバルも似たような課題をもつが、2列目のキャプテンシートの作りや乗員を酔わせるようなサスペンション設定は、早急に改善が必要だと思う。

CX-8とミニバンの運転感覚の違いはどこからくるのか。

ミニバンの欠点は、居住性・利便性にステータスを全振りした結果、クルマの剛性は、法的に定めた衝突安全性を維持するところまでが限界で、サスペンションを含めたボディ全体のジオメトリが動的に刻々と変化することまでは防げない。だから、絶えずステアリングの微小な操作を必要としてしまう。ミニバンでいつも感じていた、「クルマが大きいなあ」という感覚は、本当に大きいから感じるのではなくて、進路やクルマ全体の動きが不規則に可変して、動きが予想できず、常にフィードバック制御をドライバーがかけ続けないといけないことから来ている。 高級ミニバンならば、レーンキープアシストやレーダクルーズを使うことで、この運転時の疲労を軽減できるが、それは本質的な解決方法ではあるまい。

CX-8が運転しやすいのは、ちゃんと理由があるのだ。だから、CX-8の試乗の時に、ミニバンとジオメトリの変化量の比較を体験できれば、私が言っていることがストンと腹に落ちるだろうけれど、試乗してみて、「運転が楽で楽しい」というのは、決してプラシーボ効果ではない。

私達が望んでいるのは、ミニバンの代わりではない。ミニバンにはミニバンのいいところがある。 ミニバンで実現できていた、「自由な車内空間」はCX-8には求めない。その代り、快適で静かな4人分のシートと高い荷物積載能力、ないしは、あと数人分の搭載能力を持ち、自力で真っ直ぐ走り、道路に沿って滑らかに旋回できるクルマであることが、CX-8が目指すべき立ち位置だ。本格的な泥濘地を走破できるレベルの4WDシステムもこのクルマにはいらない。 ましてや、思いつきとマーケッティング結果を元に無理やり3列目をつけたようなクルマとも一線を引く。 それこそが、我々がずっと期待している、マツダの大型SUVのあるべき姿だと思うのだ。

CX-8よ、「A Car Like No Other」であれ。

Posted at 2018/10/05 21:33:03 | コメント(1) | 試乗記 | クルマレビュー
2018年09月30日 イイね!

誰がために鐘は鳴る  抜き取り検査不正問題

誰がために鐘は鳴る  抜き取り検査不正問題
抜き取り検査問題は、そう簡単に解決はしないだろう。

それは、日本の自動車メーカーが愚かだからではなく、利用者たる私達が、問題の本質と改善すべき場所を正しく理解できないようにしている、報道問題が大きい。 マツダも、スバルも、よりよい方向へ進むために、社内組織を改定していく必要性はあるし、彼らはそれに取り組んでいくと思っている。 すぐに結果は出ないかもしれないが、長い間「それで済んできたこと」について、改善をしていく、という文化に切り替わっていくことは会社組織が腐らないためにも必要だと思っている。


 スバル生産ライン


 マツダ生産ライン


今日、書いておきたいことの中心は、自動車メーカー自身の改革のことよりも、その周りの捉え方や、社会に対するアクションの仕方が、問題解決に全く向かっておらず、単に他人を批判するだけで終わっていること自体が問題だということだ。


 メーカーが謝罪する姿を報道して終わり
 他人事で済ませて終わりではないのだ


スバルが抜き取り検査問題について、対象の台数及び問題の内容についての報告を国土交通省に対して行ったが、この問題について、正しく考えて報道していると感じたメディアが非常に少ないことが、まず残念だと思っている。スバルの国土交通省への報告から、多くのメディアが、「製造業の品質の危うさ」について報道を始めている。もともと、報道という行為に品質基準を持たないメディアは、これ以上品質が劣化しようもないから、不勉強でも、不正確でも構わず、読者が興味を持ちそうな内容で報道するだけで、本質的な問題がどこにあり、どうするべきなのかを知らせようともしない。
「不正」、「改ざん」、が意味する本当の意味と、センセーショナルに人々に与える印象の差にギャップがあることを知った上でやってるので、より悪質に文章を使っている印象が拭えない。


 スバル生産ライン

まず、「品質劣化の始まり」と抜き取り検査の問題の間には、相関関係がない。つい最近こういう問題が始まったわけではなく、ずっとこうだったからだ。 本件はクルマの品質が劣化したことが問題なのではなく、「監督官庁である、国交省様の求める要求通りに実施できてない」という点が問題なわけで、スバルやマツダの生産するクルマの品質が、昨今、急激に劣化している、という帰結にはならない。


次に、「信用」の問題である。本件は、自動車製造会社の社会的信用を失わせることを目的に報道されていると思うが、そもそも、「不正」という言葉の範囲が、ドイツ・フォルクスワーゲン社による「ディーゼル不正」と「抜き取り検査における、検査方式からの逸脱への対処方法の誤り」を同一のレベルに捉えさせるような比較の仕方も問題であろう。

フォルクスワーゲン社による「ディーゼル不正」は、自社の利益のために、他社が不可能なことを「可能だと」するために作り出した、「ズルをするための装置」をつけた、という事件だ。 結果として、自動車業界におけるディーゼル機関の未来に大きな停滞を作ってしまったという点で非常に罪深い。

一方で、今回の「抜き取り検査の方式違反」に関する不正は、監督官庁の意向に沿わない方法で検査を終わらせたケースがスバルでは1869件に膨らんだということだ。1か0かで言えば、「自社利益のためにやったのではない」とは言えない。(抜き取り検査で検査数値内に入らなかった、その単体は、新車として販売できないため。) ところが、自社の利益のために、「ズルをした」意図の大小にはものすごく大きな差があるし、その行為自体が、「ズルをするため」にやったかどうかにも、大きな差があるため、同一レベルで比較するような話ではない。


 スバル本社工場

ところが、これを同一のイメージで、「メーカーの不実な行為」と悪印象を与えることだけを目的にしたとしか思えない報道内容で終わるため、決して問題の本丸に近づけないのである。 今回の問題の根本には、JC08という排気ガスを検査する方式がある。 この試験には、室内温度、速度の上昇下降、一定速の走行など細かな厳しい定義がある。今回問題になった、室内温度の規定超過など、試験項目を満たさない試験は、無効であり、その試験に用いたクルマは、もう新車として販売できなくなる。これを自動化するには、相当なコストがかかり、各クルマごとに、モデルごとに、その数値を満たすための操作方法も操作量も異なる。 これを自動化することが、どれほどのハイテクノロジーなのか、全く理解されないまま、「検査不正」、「検査結果改ざん」だけを声高に叫ぶのでは、何の解決にもならないのだ。

JC08方式は、クルマごと、モデルごとに、実施方法が異なり、深い知識と多数の経験を持つ人でないと正確に検査できない、そもそもが、正確に行うことが非常に難しい試験なのである。 それ故に、かなりの部分を、試験員の判断に依存することになる。例えば、速度制限(速度差2km/h以内で走行)などの条件にごくわずか、外れた場合でも、総合計で2秒までなら超過を認めるという規則があるのだが、試験員がその合計2.01秒を1.99秒と誤認すれば、これは、「不正な試験行為を、改ざんした」とみなされるのだ。本人に、それが2.01秒だという意識がなくても、「改ざん」となる。 こんなやり方を放置していることに、何の問題もないのだろうか。 



 JC08の速度調整の指示グラフ
 基本的に、このモードからずれたら、不正検査である。
 ごくわずかのブレは、合計2秒間まで許容されるが、
 2.01秒ならば不正検査となる。


それを簡単な例に例えるならば、「最高速度を、100km/h、最低速度を98km/hとする。 最低速度を下回っても、最高速度を超えても違法、雨でも夜でも、上りでも下りでも、わずかでも超えたら、速度違反の不正行為である。」と定めた高速道路を20分間運転するようなものだ。(実際は、もっと難しいことを要求しているのは、上のグラフを見ればわかると思う) 警察官に、「ほら、上りになって97km/hにおちましたね。速度違反なので罰します」と言われたら、あなたは、その違法行為に深く反省するだろうか。


「どんな、悪法でも法は法であるから、破るほうが悪い。」

そう言うのは簡単だし、法治国家においてそれは間違いではない。 法の遵守は基本であり、それを否定するつもりはない。 しかし、よりよいクルマ、より良い社会を作る上では、問題を解決するためには、根本原因が何であるか明確にして、その対策を考えない限り、問題は決して解決しない。

だから、マツダ、スバル、日産、ヤマハで発覚した抜き取り検査に関する問題は、トヨタやホンダなど他の会社では起きえないのか・・について、誰も「起きえない」と言い切れない。それは、本来監督官庁が実施すべき検査があまりに実現困難な内容故に、監督官庁自らが行うことができず、製造会社自身に依頼するしかないからである。


 国土交通省

つまり、検査基準、検査方法、検査の検証も全て製造会社まかせなのに、「失敗したら何もかも全部、製造会社のせいであり、国土交通省に謝罪し、世間にも謝罪せよ。」というのが、監督官庁の意向である。


■問題を解決するために

問題を解決するために、本来進むべき議論の方向は、こうした「メーカーへの無理難題」が、問題を引き起こす根本原因であり、国土交通省と各製造会社で、「第三者機関」を作り、そこで一括して、抜き取り検査を実施するべきなのである。 幸い、最も重要な、衝突安全試験は、「国土交通省、自動車事故対策機構(NASVA)、(通称JNCAP)」で試験され、公表されるから、利用者はこの情報を見て、公平に各社の製品の安全性を確認することができる。



 国土交通省 JNCAPで評価

 排ガス規制や、燃費の測定、エンジンやブレーキの性能測定も、同様に自動車の重要な要素であり、監督官庁へ届け出と生産に関しての一定の報告義務がある。ならば、同様に国土交通省が中心になって、JNCAPと同じように第三者機関を用いて評価すべきものなのである。

 自社の定める製品品質に対して、各社が製品検査を行うのはごく当たり前のことであるが、「国土交通省が実施する」と定義している試験を、監督官庁自身ができるだけの技術がないので、各社で実施して、報告だけを提出する、という方式を放置しているそのことに根本的な問題がある。 私達ユーザーは、自動車メーカー各社がどのように改革していくのかを、直接見つづけることは困難であるし、もし仮に、自動車メーカー自体が「報告を自粛」するようなことがあれば、もはやそれを捉えることすらできないのである。 だから、国土交通省を中心にして、自動車の品質評価を行う第三者機関を設立することが必須だと思うのだ。

 自動車は、現在でもまだ日本の基幹産業の一つであり、その基幹産業をどんどん疲弊させることが、国家や国民の願うところではない。 これまで日本車は、その品質の高さで世界中のユーザに評価され、ブランドを築いて来た。 だから、より高い品質を目指し、それを評価することは、日本全体の利益を考えたときに大いに意味があることだ。 品質がゼロの報道機関であっても、多少は、国民のために役立つ方向について考えて報道をやってもらいたいと思う。

そして、自動車が自分たちの生活に必要だとしている我々こそが、自動車製造業界を正しい方向に進ませるために、自動車メーカーが向き合っている問題を正しく理解して、その進むべき方向に声をあげて行くことが、最も重要だと考えている。


 ラインオフ中のロードスターRF
Posted at 2018/09/30 17:15:49 | コメント(0) | トラックバック(0) | 自動車技術 | クルマ
2018年09月22日 イイね!

トヨタ・ハイブリッドは、電気羊の夢を見るのか。

トヨタ・ハイブリッドは、電気羊の夢を見るのか。ようやく渋滞を抜けて、低速運転から加速するためにスロットルを踏む。
エンジンの回転数が上昇する音はするが、加速力はまだ小さいままだ。
トヨタのハイブリッドのクルマに乗ると、エンジン回転数の上昇と速度の上昇の関係に違和感がある。


トヨタのハイブリッドは、1997年の発売以来、もう20年以上世界中の道を走っている。 燃費向上、静粛性、安全性向上のための制御に大きく貢献することから、主要メーカーは電動化に向けて進みはじめた。 その中でも、既存のインフラがそのまま使えるという点で、ハイブリッド(PHEVも含む)方式は他の方式より実用的である。 


私も電動化の動きに対して、EVたるiMIEVも、ハイブリッドの代表のプリウスも自分の車として乗ってきた。iMIEVでは、電費にびびりながら、片道50km以上遠出することはなかったし、プリウスには、「クルマなんて動けばいいのよ」的な思想に染められるそうにはなったが、それぞれの実用上の利点も欠点も理解した。 私は、決して自動車の電動化に反対なわけではない。むしろ、安全制御の強化の面から賛成派ですらある。 しかし、人間が期待する反応とは異なり、躍度が可変するドライブフィールには抵抗を覚えてしまう。それは、私だけの違和感ではなく、世界中に一定の数存在する模様で、トヨタは、ハイブリッドカーのドライブフィールを改善せねばならないと思っている。 


 三菱EVのiMIEV



 トヨタプリウス(2代目)


トヨタのハイブリッドにはいくつかの世代があるが、ガソリンエンジンに発電用と駆動用のモータを遊星ギアを用いて構成される「電気CVT」で組み合わせてタイヤを駆動しているクルマであることは変わらない。トヨタ、レクサス共に同じパワートレーンを使用している。現在は、FF/FRだけでなく、4WDもラインナップされている。

THS-Ⅱの初期のモデルでは、駆動用のモーター動力は、ピニオンギアの1速だけである。ハイブリッドが、内燃機関が最も不得意とする、低速域・低負荷域での運転を改善しようという発想から始まったのだから、モーターには低速重視のギア設定を与えておけばよいわけだ。なので、低速はモーターでぐいぐい走りだせるが、速度をあげるにしたがってモーターのアシスト量は小さくなり、高速域はエンジンの力が主体になる。初期のプリウスは、低速域での燃費を重視した設定になっていたから、高速域では出力が不足していた。


 2代目プリウス用1.5HVエンジン
 初期型のハイブリッドは、
 低速スペシャル設定のため、60km/hを超えるとモーターのアシストは劣化し、
 システム全体での出力不足感は否めなかった。
 
トヨタは2003年に、レクサス用として3.5LV6の高出力エンジンに、モーターのギアを低速/高速の2段切り替えができる、2段変速リダクション機構付きのハイブリッドに進化させた。 その後15年かけて性能は改善され、現在の中核的なハイブリッドエンジンになった。 しかし、モーターだけを変速機で高速側に切り替えても、電気CVT内部でエンジン側の制御が優先するため、エンジンも使える領域が制限され、駆動用モーターが動作できる回転数にも限度があり、エンジン回転数に応じてモーターの出力を存分に引き出せない領域がまだ残ったままになっている。


 在来型主力ハイブリッド
 リダクション機構付THS-II


■動力分割機構「電気CVT」

トヨタの動力分割機構を現在でも「電気CVT」と呼ぶのは、ハイブリッドを開発した時に、監督官庁への車両届け出申請の際に困ったトヨタが、在来の「機械式CVT」に使用目的が近い物として、「電気CVT」と申請したことがきっかけだ。 現在でも電気CVTと呼ばれることが多いが、機械式CVTのような変速機構を持っているわけではなく、固定減速比の機構しかもっていない。 本来の役割は、ピニオンギアを介してモータ、エンジン、発電機の相対回転数を1から±無限大(正回転・逆回転)まで変化させることであり、電気CVTにおいては、モータもエンジンも変速しない直結状態である。 駆動軸に対するエンジンの回転数の変化は、駆動軸につながったリンクギアとエンジンのプラネタリキャリアの回転数の比率が変化することで発生させ、有効なトルクを得ているわけだ。 この機構なくして、トヨタ・ハイブリッドは生まれなかったから、自動車技術の中の重要な発明であることは疑いはない。


ところが、リンクギアとエンジンのプラネタリキャリアの回転数の比率を変化させて、エンジンから有効な出力を取り出す故に、加速時にエンジンの回転数と車速が一致しないという、何とも間延びしたドライブフィールが発生する。 このゴムバンドフィールは、ハイブリッド制御技術の向上で徐々に改善されているとはいえ、多段式ATやDCTといった最新の変速機が持つダイレクト感には全く及ばないままだ。 


  動力分割機構
  「電気CVT」と役人向けに苦肉の策でつけた名前が
  20年後も残るとは、トヨタも想像できなかった。


トヨタは、いい加減、「動力分割機構」と呼び変えたいようだが、世間では、「電気CVT」で通っているので、ここでも、「電気CVT」と書くことにする。



■THS-Ⅱマルチステージハイブリッド

トヨタは、この電気CVTが持つドライブフィールを改善するために、様々な試みが行われた結果、新しいハイブリッドシステムを作り出した。まだ、電気CVTの持つ根本的な問題は解決できないが、別の方法でダイレクト感を得ようとした。これが、「THS-Ⅱマルチステージハイブリッド」で、当初は新LSとLCに採用されたが、トヨタは、今後の採用範囲の拡大のために、マルチステージハイブリッドの量産に挑み、ついに一定の数の製造ができるようになった。
これを、トヨタは新クラウンの3.5HVに搭載してきた。 クラウンのラインナップでは最上級の700万円以上のモデルにしか搭載されないとは言うものの、これまでLSとLCにしか載せてなかったと思えば、半額の値段のクルマに載せてきたわけだ。「クラウン現象くるかも」で書いた通り、日本専売のクラウンに有り余る高出力を与えていて、ついつい、大きな出力の方に目が行ってしまうけど、このエンジンは現在のトヨタ・ハイブリッドエンジンの中では、最もナチュラルなフィールを持つエンジンである。その代り、ミッションケースを含めたパワートレーンが大きいので、FRのGA-Lプラットフォームにしか搭載できない。


トヨタのマルチステージハイブリッドの肝は、「動力装置たる在来ハイブリッド」の後ろにトランスミッションを置くことだ。 駆動軸に対するエンジンの回転数の変化とモーターの回転数の変化はあってよい。電気CVTは、必要な駆動力を生み出すために、モータ、エンジン、発電機の相対回転数を1から±無限大に変化できると説明した。 そして、欠点たる、ゴムバンドフィールは、増速時の「加速」の時に生まれる。 ならば・・・たとえば、電気CVTでトルクが必要な時に、今までのようにエンジンの回転数の制御で駆動軸への出力を調整する代わりに、別の変速機で減速比をローギアード/ハイギアードに変速して駆動軸へ出力を伝えたらどうなるだろうかと考えた。



 マルチステージは、(エンジン+モーター)を変速する。
 在来型はモーターのみの変速であった。
 


変速機を加えるということは、((エンジン+モータ)×電気CVT)×変速機(4段)という構造を取り入れたということだ。変速の段は、電気CVT仮想3段×AT3段で9段、これにトップギアとして、電気CVT無段変速(仮想段制御解除)×ATトップギアの10速が加わり、合計10速となる。トップギアにはいる車速では、可能な限りエンジン回転数を下げる制御がなされ、駆動力が必用になると、即時9速以下にシフトダウンする。変速機構は従来ハイブリッドシステムと出力 軸の間に配置されている。



  従来ハイブリッドシステム(左)とマルチステージハイブリッド(右)
  

■高効率化運転の実現

マルチステージハイブリッドでは、エンジントルクを3.5 倍大きく出力軸に伝達できるた め,エンジンのダウンサイジング化を行っても、高い発進性能を確保することが可能となった。現在は、3.5LV6エンジンにしか組み合わせてないが、より小排気量のエンジンでも効果が高い仕組みである。変速は、後方の変速機が行うので、車速に対するエンジン回転数の選択範囲が大いに広がった。 変速機構をLo ギヤに設定し,その減速効果を利用することで、低車速からでもエンジンを最高回転数で運転でき,エンジン から最大パワーを得ることができるようになったわけだ。 在来方式では最高回転数6000回転までしか使用できなかったが、マルチステージハイブリッドでは、6600回転の最高出力発生回転まで使える。 もう、ハイブリッド用に出力回転数を下げなくても良いのだ。



 エンジン使用範囲が拡大し、Loギアードにおける
 高回転域の利用と、Hiギアードにおける、低回転域
 の使用が可能になり、苦手だった高速走行での燃費が改善した。


車両の運転状況に合わせて 変速機構のギヤ段を適切に選択することで,トランスミッションの伝達効率の向上が可能となった.従来ハイブリ ドシステムは理論伝達効率の曲線を1本だけで運用するしかないわけだが、マルチステージハイブリッドでは変速機構のギヤ段数分の曲線を持ち、クルマの運転状態に合わせて変速機構のギヤ段を適切に選択することで、各速度域にあった、高い理論伝達効率を維持し続けることができる。 特に、高速運転時の伝達効率を大きく改善することで、これまで苦手とされていた、高速領域での燃費を向上させている。 在来方式では120km/hが限界だったモーターのみでの運転可能速度も、210km/hまで可能になった。つまり、200km/hで巡航中にエンジンを止めてモータだけで走れるということだ。(市販車では、210km/hまでモーター駆動を許してはいないが)



 青い所が「美味しい領域」で、
 これまで使えなかった高効率領域で
 運転ができるようになった。


■ドライバビリティの向上

変速機の減速効果とオーバードライブ効果によって、エンジ ン回転数の動作可能域が拡大したということは、通常のATと同じように、クルマの走行状態にあった、エンジン回転数が選べるという事だ。 車速が低いのに、エンジンの回転数を上げて、ハイギアードにずるずる引っ張って車速が上がるのを待つ必要などない。減速比を下げて、高回転までエンジンを回してやればいいわけだ。 動作可能域上で実現できる 最Loギヤ比(下図の1速の部分)から車速に依存する10速分のクロスレシオなエンジン回転数を設計して、その線の上で作れば、10段クロスレシオミッションだってできてしまう。

残念ながら、まだ「仮想クロスミッション」は実現できていない。電気CVTが要求速度に追いつけなくて、回転数がふらふらする(物理的に駆動軸とは繋がってないからね)し、後述する、スナッチとパワートレーンねじれの問題のために、理想的なクロスレシオに乗せて動かすことができない。 モーターは、バッテリーの有無の状態によって出力発生可否が変わるから、高負荷をかけている途中で電気が切れて大パワーモーターの出力がスコンと抜けるとパワートレーン全体がねじれてしまう。

だが、狙いたいことはよくわかる。電気CVTにおいても、ダイレクトな運転感覚を得たいのだ。パワートレーンは、ドライバーの指示に応じて、運転状況に応じたエンジン回転数を選択し、選択したエ ンジン回転数で運転できるようにシステムのトルクとパワー を管理する有段変速制御を作り出せばいい。電気が無限にあれば、モーターはスーパーチャージャーのように扱えばよく、その制御はきっと可能だ。こ有段変速制御には、アイシンのドライバーの運転状況によって仮想ギアを維持するような制御も加えている。 



 仮想クロスミッション運転図
 トヨタの広報用の図は適当版なので、本当の値の方を示す。
 各ギアが波打ってるのは、電気CVT配下のエンジン
 回転数制御に限界があるため。



 青い部分で、駆動力が大幅に向上
 要するに、加速がよくなり、高速では抵抗が減ったということ


■技術課題

トヨタが完璧主義だと言っても、限界はある。マルチステージハイブリッドには、大きな課題がある。主な課題を下記に示す。

1.変速機構の各ギヤ段特有の駆動系ねじれ振動特性
2.変速機構のギヤ段切り替え時のハイブリッドシステム の変速
3.変速機構のギヤ段切り替え時のハイブリッド電池のパワー管理

さきほど、ドライバビリティのところで、下記の課題2,3のことは簡単に触れたが、電気モータのパワーが急激に抜けないように制御せねばならない。さらに、エンジンとモーターは独立して動いているわけではないので、エンジンの回転数をMTのように上げていくと、同調している駆動用、発電用のモーターも過回転をしてしまうから、仮想クロスミッション上の変速は、フィードフォワード制御をシビアに行わざるを得ず、ガバナーによって上の段へと自動変速される。 試乗記等の中では、「手動モードなのに勝手にシフトアップする」ことを批判する評論も見られるが、きちんとマルチステージハイブリッドの構造を理解した上で、ガバナーを外す方法を提案できないのなら、それは、「ぼのくかんがえたさいきょうのくるま」レベルでしかない。


もっとも深刻なのは、「1.変速機構の各ギヤ段特有の駆動系ねじれ振動特性」である。特に始動時などのエンジンがかかる時の振動が課題であった。マルチステージハイブリッドでは、変速機構のギヤ段を切り替えることによりエンジンや駆動モータの動力をクルマに伝達するため、各ギヤ段毎に駆動系ねじれ振動特性が異なる。主たるねじれは、一次ねじれが、ドライブシャフトの伝達系ねじれ共振、二次ねじれが、エンジンに取り付けているトーショナルダンパーから発生する。さらに、これらの振動の周波数が、リアサスペンションメンバーなど、駆動系パーツの共振周波数と近いので、パワートレーン全体が振動することになる。 特に、エンジンが最初にかかる瞬間に発生する振動でこれらの問題がおきやすい。 


 トーショナルダンパー(T/D)を含む、
 マルチステージハイブリッドの駆動系
 エンジンの後ろにあるのがT/D


難しいことを全部端折って言えば、トーショナルダンパーで発生した振動(T/Dがねじれる→元に戻るで発生する)などの、駆動系のねじれ振動特性が大きく在来から変化したため,特にエンジン始動時には変化した特性に合わせた制振制御技術の開発が必要になった。



 各ギアで、発生する振動周波数が変わってしまう。
 変速状態に応じた、振動対策が必用になる。


■今後のトヨタへの期待


トヨタのハイブリッドのドライバビリティの問題は、電気CVTに変速機構がなく、回転数の調整だけで駆動力を制御せねばならないことが主因であった。 モータのギアを変えることで、低速、高速でモーター駆動を生かす領域を増やすことはできたが、回転数変動だけの制御では、ドライバビリティの改善はできない。

発想の転換部分は、電気CVTを回転数が変化するパワーユニットととらえ、変速機能を別に用意しようと考えたことだ。確かに現行のマルチステージはまだ完成品ではない。まだ変な動きをするところがたくさんある。それは、電気CVT自体が在来の技術を使っていて、マルチステージハイブリッド全体化としては最適になっているわけではないからだ。

内燃機関、モーターの出力を効率的に融合させること自体が難しいのだが、それを変速処理するということは、電気CVTと呼ばれている動力分割機構の制御と振動対策をやり直さないと理想的な形にはできない。 しかしながら、マルチステージハイブリッドは、モーター+エンジンを動力分割機構から駆動力制御をしなくてもいい、という方法を作り出した。 THS-Ⅱである以上、電気CVTと呼ばれるのは仕方あるまい。 しかし、パワーソースと捉えるのならば、動力分割機構に、「CVT」が持つような駆動力制御機能は必要がない。 私は、トヨタが駆動力制御機能を持たない動力分割機構を作っていると予想している。 それこそが、多分、THS-Ⅲと呼ばれるのだと思う。

パワーソースは、スロットルの制御によって、「回転数」を上下させる。パワソースが生み出す駆動力は、変速機によって適正なトルクを駆動軸に伝えるわけだ。 ギア自体は、N速クロスレシオで組めるし、それを用途に応じて可変させることだって可能だろう。(振動問題が最重要課題になるけれど)パワーソースを内燃機関オリエンテッドにすれば、ようやく、モーターをスーパーチャージャーのように使えるのではないかという希望すら持てる。

なるほど、これは、私たちの知ってるクルマ、そのものではないか。

トヨタの「楽しいクルマを作っていく」と言う言葉に期待している。
未来のトヨタのクルマは、きっと運転して楽しいクルマになると。



GR Supra Racing Concept
Posted at 2018/09/22 21:21:46 | コメント(1) | トラックバック(0) | 自動車技術 | クルマ
2018年09月14日 イイね!

ビリギャルだったCX-3が目指した道

ビリギャルだったCX-3が目指した道「デミオと差別できていないのに100万円高くするのはおかしい」と言われていたCX-3だが、マツダの元々の企画は、「小さなデザインコンシャスなSUVを造ろう」ということだった。ヴェゼルが、FITと同じグローバルスモールプラットフォームを使っているのに、60万円も高い値段で売られているのを見て、ふらふらっとCX-3にあの値段をつけたことで、国内販売では、月販平均で1250台程度と目標の4割も売れない悲惨な結果を生んだ。ライバルはハイブリッドでも250万円以下に価格を抑えているホンダヴェゼルと、市場をしっかり分析して、プリウスと同じハイブリッドを積んだ燃費も実用性も(デザイン・・も多分。私にはスターウオーズの帝国軍のヘルメットに見えるけど)、TNGAをしっかりチューニングして走りも磨いたC-HRが同等価格帯にあるわけで、この状態になったのは全く不思議ではない。 マツダの販売店からの評判も決してよくはなかったから、積極的に売っていくこともなかったのだろう。。


 ホンダヴェゼル



 トヨタC-HR


それでも、マツダがCX-3を更新しようと思ったのは、欧州・北米・アジア市場では一定の支持を得ていて、欧州市場で累計で5万7000台も売れているからだ。マーケット分析をするまでもなく、「デミオの車高アップ版」から離脱せねば、CX-3に未来はない。幸い、全長4.3m程度のSUVにマーケットがあることは、C-HRやQ2などのライバル車が証明している。ディーゼルとガソリンを併売している欧州では、ディーゼルエンジン自体は一般的であるにも関わらず、CX-3の販売量の60%がガソリンになったのは、高速性能の不足からだ。わずか105馬力の1.5Lディーゼルターボでは、欧州の高速道路ではコンパクトカーと差別化ができなかったからだ。 しかし、ようやく自らのマーケッティングの誤りを認め、2017年からデミオとの差別化に踏み切り始めた。 だからと言ってCX-3の差別化がすぐにできるわけはなく、2017年のマイナーチェンジで2.0を投入してから1年もたたず、4度目の大幅改良を行ったわけだ。


 CX-3

質感を向上させ、CX-5に近づけるのが、現在のCX-3が目指す位置だ。だから、マツダは理詰めでネガを潰していった。シートの材質、布や革の張り方、縫製の細やかさなど、部品メーカーの努力の結果が大きいけれど、こうした一つ一つの積み立てが、他車との差別化を生んでいく。アテンザのように商品改良レベルでダッシュボードを全面的に作り変える方が普通ではないわけで、基本的な造形は変えられないものの、センターコンソールは、EPB(電動パーキングブレーキ)を装備したことで、コンソールボックス周辺全面的に作り変え、その後ろにはアームレストも備えたことで、CX-5のレベルに近い所に持ってきた。EPBは、走りの高級車化に効果的で、MRCCの全車速対応と合わせて、乗ってみて、使ってみてわかりやすい差別化ができたと言えるだろう。 高品質な内装の車内に座り、ドアを閉めてエンジンをかけても今までよりずっと静かで、滑らかに加速し、減速する。 乗り心地は柔らかくはないが、固いわけでもなく、多くの場合でいやな振動も突き上げもない。 室内は外から見るより広く使いやすく、4人でも、2人でも快適に走ることができる。 少なくとも、試乗した人を楽しませることはあっても、がっかりさせる要素はもうない。エンジニアリングをしっかりやったことは、CX-3に乗ってみればよくわかる。それは決して悪い印象を人に与えることはない。



 EPB(電動パーキングブレーキ)

CX-3は、全長4.3mくらいのコンパクトなオシャレなクルマで、SUVながらも、女性に好まれるデザインである。デミオとは大いに差別化ができた。 今度はディーラーで比較されても、見栄えにも、乗り心地にも明確な差があり、価格の差に納得できるところは大きいだろう。 CX-5と試乗して比較しても、がっかり感が小さくなって購入後の満足感が高くなった。 乗ってみれば、思ったよりも室内も広く、それなりの荷物も積めるから街中でのお買い物などに、ちょっと小さくていいクルマに乗りたい人に、ガソリンモデルはぴったり合っている。 2名で長距離にも出かけれるけれど、CX-5ほどの積載性は不要だという人には、1.8ディーゼルが向いている。 コンパクトだけどいいクルマが欲しいという需要はずっとある。最近の軽自動車が装備を充実させて乗り出し価格が200万円を超えるケースがよくあるのも、その表れの一つだ。

コンパクトカーと差別化するために、まず「内外装のデザイン」が重要であることは十分にわかっている。 しかし、恰好だけで中身がコンパクトカーのままだと、市場でどういう扱いを受けるのかは、これまでのCX-3が証明してしまった。 ネガを潰す作業を地道に続けたCX-3の販売台数は、世界的にこれまでよりは好転するだろう。しかし、本当にCX-3が評価されるのは次のモデルだ。今回のCX-3へのアプローチのように、ちゃんと目標に向けて詰めていくエンジニアリングを続けられれば、外装、内装、走りの上質さをマツダらしくまとめたクルマができるだろうと期待している。



 CX-3
Posted at 2018/09/14 21:33:51 | コメント(3) | 試乗記 | クルマレビュー

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「RFの後任のND2のNRA-Aが来ました。

マツダ製チューニングカーとでもいうのか、色々なところが改善されて、走らせていて楽しいです。特にステアリングの反力がしっかり計算されてアシストされていて、ステアリングフィールがとても良くなってます。」
何シテル?   04/27 21:12
zato787です。よろしくお願いします。 買い替えずに増車をした結果、スポーツカー3台持ちになってしまいました。保有車両が増えて来たので、車庫を思い切って群...
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