
神戸ポートターミナル(神戸市中央区)・大ホールで行われた
川崎重工業(本社:神戸市)創立120周年記念展

「世界最速にかけた誇り高き情熱」
のサブタイトルが付いています
展示されていたのは

第二次世界大戦中に大日本帝国陸軍で開発し
川崎航空機(現:川崎重工)が製造した
三式戦闘機
愛称は「飛燕」
主翼下には川崎重工の製造する二輪車
Kawasaki Ninja H2R
時代は違いますが どちらも過給機を装備したエンジンを搭載し
ボディの空力学を研究
最高速性能を追求したマシンたちです

この時代の日本の戦闘機は空冷エンジンを搭載するなか
飛燕は唯一の水冷(液冷)エンジンを搭載した戦闘機です
この機体は1944年に川崎航空機 岐阜工場で製造された
「飛燕」二型試作17号機です
第二次世界大戦後 日本の航空機が次々と破棄・破壊されていく中
国内ではたった一機のみ生き残った飛燕の機体です
知覧特攻平和会館(鹿児島県知覧町)で展示されていたものを
生まれ故郷の川崎重工 岐阜工場(岐阜県各務ヶ原市)へ戻り
川重社内の有志により修復しました

水冷エンジンを搭載することにより機首がなめらかでスマートな細身の機体デザインになり
抵抗面積は空冷エンジン搭載機に比べて20%低減できます
水冷エンジンのためラジエターは胴体中央下部の主翼付根あたりに配置するように
エアーインテークが付いています

欠損部分は新たに作り直して装備してあります
昇降舵 方向舵が新たに作られたものでしょうか?
色が違ってますね
修復のため塗装やパテを落として金属地肌むき出しになってます

降着装置は尾輪式
地上滑走時には尾輪で方向を定めますが機首が上を向いていて
滑走路が見えづらくなってます
誘導路から滑走路へと向かう際のタキシングは視界確保のため
ジグザグに進んでいたそうです

主翼はアスペクト比(縦横比)が7.2と細長いものになってます
この主翼によって高速性能 運動性能 高々度性能を確保するという設計思想が反映されています
リベットが並んで打ってあるのがわかります
バーナーであぶってジュラルミンを曲げたのでしょうか?跡が残ってます
補助翼の色が違ってますね ここも修復したもののようです
三式戦闘機二型
全長 9.16m
全幅 12.00m
全高 3.75m
翼面積 20㎡
自重 2855kg
全備重量 3825kg
最大速度 610km/h(高度6000m)
上昇力 高度5000mまで6分00秒
航続距離 1600km
武装 胴体20mm機関砲2門 翼内12.7mm機関砲2門
爆装 250kg爆弾2発

ラジエターは復元品
エンジン冷却水と潤滑油冷却を兼ねています
冷却水は不凍液としてジエチレングリコールを混ぜるので
純粋な水とは言えないため「液冷エンジン」と呼ばれていました
しかし飛燕は入手しづらいジエチレングリコールを使わずに真水を使用
水を加圧することで沸点を125度に上げオーバーヒートを防止しました

「ハ140」 液冷倒立V型12気筒エンジン
エンジンは川崎航空機 明石工場(現:川崎重工 明石工場/兵庫県明石市)で制作されていました
第二次世界大戦時の同盟国 ドイツ国ダイムラーベンツ社製 液冷エンジン
「DB601」を国産化した「ハ40」(1175馬力)を飛燕一型に搭載してました
その後 川崎が独自に高出力化したエンジンが「ハ140」(1500馬力)で飛燕二型に搭載されました

倒立V型ということで自動車に搭載されているV型エンジンとは逆で
シリンダーが下クランクシャフトが上になっています
戦闘機に倒立V型エンジンが採用される理由は
幅の広いシリンダーが下でその上には機銃を置くスペースができる
正立V型に比べ機首上部の幅が細くなることで前方下方視界が向上する
といったメリットがあります
筒内直接噴射装置を搭載し他国の戦闘機がキャブレターを搭載していたのに対し
マイナスGでも燃料供給が途切れないため背面飛行で優位に立つことができます
当時の日本の工業技術では不慣れな液冷エンジンのため生産・整備に苦労し
故障も多かったそうです
ハ140
液冷倒立V型12気筒
ボア×ストローク 150mm×160mm
排気量 33.9L
乾燥重量 730 kg
燃料供給方法 直接噴射式
過給機 遠心式スーパーチャージャー
出力 1500馬力

ハ140 過給機モックアップ
遠心式のコンプレッサーを用いた機械式過給機(スーパーチャージャー)
航空機の技術が発展すると大気密度の低い高高度を飛行するようになり
大気密度の低下によるレシプロエンジンの出力低下を補うために過給機が開発されました
アメリカの爆撃機B-29はターボチャージャーとインタークーラーを装備していて
高高度飛行性能に優れ日本の戦闘機では迎撃が困難でした
それに対抗するため飛燕は空冷エンジン+スーパーチャージャーよりも冷却性能に優れ
高高度性能が良い液冷エンジン+スーパーチャージャーを採用しました

これはドイツ国 ダイムラーベンツ社製のDB603液冷エンジンに搭載されていたスーパーチャージャー
「ハ140」の過給機は紛失してしまっているので
分析調査用の実物で三次元CADに取り込み
上記のモックアップの制作に役立てました

計器盤の展示
復元機のものは紛失していたので
協力者からの譲渡 ネットオークションで実物を入手
どうしても手に入らなかったものは飛燕の機体に空冷エンジンを載せた
五式戦闘機のものから忠実なレプリカを作り
銘板などは残っていた写真から文字を再現して完成させました
制作者は凄い執念ですね

一緒に展示されているオートバイは
飛燕のエンジンを制作していた明石工場で生産している二輪車
Ninja H2R
公道走行可能のNinja H2に対し公道走行不可のサーキット専用車両です

スーパーチャージャ搭載エンジンや流体解析技術を活かしたカウルなどの車体設計は
飛燕を生んだ川崎重工の航空技術部門 航空宇宙カンパニーも協力し開発されました

別の展示場所には
公道仕様のNinja H2とサーキット専用のNinja H2Rが並べてありました

こちらが公道仕様
見た感じの違いはウィンカー内蔵ミラーとヘッドライトなど保安部品が装着されマフラーが大きめですね
水冷並列4気筒DOHC998cc+スーパーチャージャー 200馬力

こちらが公道走行不可 サーキット専用仕様
ミラーに代わり空気流で下向きの力 ダウンフォースを発生させるウィングが付いてます
外装のカウル類を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に変更されています
フロントスクリーンも最高速チャレンジのため防風効果の高い大きめのものが付いてます
水冷並列4気筒DOHC998cc+スーパーチャージャー 310馬力

Kawasaki 750Turbo(1984年製 アメリカ輸出モデル)
1970年代後半 排気ガス規制により出力が低下した四輪車の出力向上対策として
ターボチャージャーを採用してターボブームが起きました
その流れで二輪車にもターボエンジン搭載車が登場します
国産4メーカー中でターボモデルは最後発だったが
最高出力は他メーカーより高く他社製二輪車より高性能でした

ターボチャージャーのカットモデル
赤く塗られているほうが排気系統
排気ガスの流れでタービンを回し反対側に直結した
青く塗られた吸気側のコンプレッサーブレードを回し
空気を圧縮して燃焼室に送りこみます
自然吸気に比べてたくさんの酸素を燃焼室に送れるため
より高い燃焼エネルギーが得られます
空冷並列4気筒DOHC738cc+ターボチャージャー 112馬力
三式戦闘機「飛燕」は神戸での展示は2016年11月3日で終了してしまいましたが
2018年3月より 生まれ故郷の岐阜県各務原市の
「かかみがはら航空宇宙科学博物館」で恒久展示される予定です
近くには航空自衛隊 岐阜基地もあるので
航空祭のついでに寄ってみようかと思います