
若手ND乗りがサスセッティングが難しいって言ってたので、基礎的なことをTwitterにツラツラ書いたんですが、せっかくなので加筆修正してこちらにも。
一度言語化したかったという気持ちもあります。
ってことで久々にPCからの投稿。長文です。
先に言っておきますが、工業的な教育は受けてませんし、なんなら物理Ⅰまでで商業系高校でPCやってた人間。今はただの看護師さんが書いてます。
車高調に初めて触れたのも5年前なんでベテランって訳でもないです。
そんな人間が何考えて脚いじってるのかなーって知る程度の話です。
一部先輩の言葉を引用させてもらったりしていますが、自分の言葉で書いたコピペ無しの書き下ろしです。
バネはストローク「量」を調整する部品
スプリングは乗り心地の良し悪しを決めるものではない
硬ければえらいってもんでもない
実はバネレートなんてタイヤと車体重量である程度決まっちゃう。
バネの役割は
・ショックを吸収する
・車体が浮いたときに脚を伸ばす
のが仕事。
わかりやすいと思うけど、伸ばし側を忘れてるひとも散見される。
要求レベルとしては
・ショックを受けて収縮したときに、ダンパーケースとアッパー、もしくはダンパー内ピストンとガス室の隔壁が衝突して壊さないこと
・大きな加重を受けたときに、バネ自体が折れないこと(許容耐荷重を超えない)
が必須になる。
これ以外は、すきにえらんで良いってことになる。
硬ければいいじゃんってなるかもしれないけど、バネが固いとサスペンションが動きにくい。ってことはタイヤゴムにかかる荷重が一気に変化するので、タイヤグリップの限界点をスパッと通り越してしまいコントロールが難しくなる。
コントロール可能幅が大きいほうが、人間がコントロールしやすいけど、幅が大きいとダルくなったりもする。その辺はユーザの好みと能力による。
正規分布的にみれば、車重(荷重)と購入されるタイヤレベルが一定ならそんなに変わらない。スポーツ走行したいND乗りなら5~8kg/mmあたりに落ち着くことが多い。
レバー比
ひとつ注意しなきゃいけないのが「レバー比」と呼ばれるもの。
タイヤの上下運動と、ダンパーの上下運動が必ずしも同じではない。大抵はタイヤの内側にダンパーが取付られ、上下運動の支点は車体に取り付けられる。
ということは、車体側のアーム取り付け点が「支点」タイヤが「力点」それらを支えるダンパーが「作用点」

レバー比はジオメトリ設計によって車種ごとに異なる。
NDロードスターのリアは1:1になっているので、バネ上荷重のかかり方や、ダンパー長を変更したときの車高変化はそのまま計算通りになる。
けど、フロントは1:1じゃない。
私は普段、Excelでバネを変更した場合にどのような変化になるかを計算してからいじってます(車高変化やバンプタッチ荷重等)。んで、実車高変化を測定してっていうのを繰り返すうちに
フロントは1:0.75くらいかなーって思ってます。
バネにかかる荷重は、逆数に変換してバネ上荷重の1.333倍、車高変化も1.333倍で計算すると大体車高が合うので、この数字を使ってます。
バネにかかる荷重っていうのは「バネ上荷重」って言ったりして、前軸・後軸荷重の1/2から、バネの下側にあるナックルやブレーキ、タイヤの重さを抜いた荷重になります。どれくらい?っていわれてもばらして秤に載せないとわからないので、おおざっぱにー25kgくらいで計算してます
同じバネレートで、特性違いのバネで相性というか動きを見るってのがバネ選びのキモかなぁ
低反発?高反発?
最近は、線が太くて長くて重い、緩やかに動くバネが人気だよね。いわゆるマイルドな低反発バネってやつ。
路面キレイなサーキットは高反発バネがレスポンスいいけど、ギャップの大きいストリートで使うと吹っ飛ばされて不安定になるから怖くて踏めないってことが起こる。サーキット用が万能な訳ではない。きれいな路面しか基本的に走らないレーシングカーは、ラリーカーみたいに大きくサスペンションを動かす必要性がない。
レーシング用=「なんかわかんないけどすごそう」とか思って選ばないように。適材適所ってもんがある。
バネを選ぶときに「低反発」「高反発」って書いてるメーカはHALくらい。あとはサスペンションプラスとか。書いてないけど、エンドレスも3種類の反発違いを出していたりするけど、各社共通の数値で決まってるわけではない。なんとなーく分けてるだけ。
そもそも「低反発」「中反発」「高反発」って言いだしたのはHALかな。最近のことですね。
反発ってどゆことってだいぶ不思議に思ってましたが
・巻きが多いと全体収縮量に対してバネの部分部分の負担がすくない
・巻きが少ないと、おんなじ量を収縮させても、部分部分の負担が多くて、パチンコゴムをいっぱい引いてエネルギーがたまってるから、跳ね返りもおおきい
ってイメージ。
スプリングの特性を理解するのが難しかった時に見て、一発で解決した動画
https://youtu.be/i49FYWb5vV0
巻きが少ないと、コイルを伸ばしたときに鋼線が短い。ってことは細い鋼線でターゲットバネレートが出せる。
それに対して、巻きが多くなると、伸ばした鋼線が長い。ってことはその分鋼線を太くしないと同じバネレートが出せない
てことは、しなやかなバネといわれるのは「太くて、巻きが多い隙間のすくない、重いバネ」で、ハイレスポンスと呼ばれるのは「細くて、巻きが少なくてスカスカに見える、軽いバネ」ってなる。
同じレートを並べるとキャラクターがすぐわかる。
余談ですが、オートサロンのエンドレスブースでは同じレートを3種類+新商品を並べてくれているので、それだけで「へぇ、今までのよりマイルドなバネだしたんだねー」って話ができることになります。
「どんな車種とかユーザーをターゲットにしてるんですか」って聞くとマニアックに教えてくれますww
特性ってスペックに書いてないからどーやって探すのよって話になるけど…
同じレート、レングスのバネスペックを各メーカーで並べて「許容収縮長」を見てある程度参考にはなるかもしれない。本当はブロックハイト(全収縮させたときのバネの高さ。線間密着時長)で比較したいけど書いていないことが多い。
本来は、「これ以上収縮させるとバネがヘタる」とか「バネが折れる」っていう加重。線間密着加重に近いので、参考程度に。あてにならないことも多いw
鋼線の弾性によっても違うし…
広告の売り文句で
「高反発」「リニアな」「ハイレスポンス」って書いてあると高反発系
「しなやかな」「乗り心地に配慮」「マイルドな」っていうと低反発系
で選ぶのが無難なのかもしれない。
結局のところ、全部用意して並べるとかしないとわかんないのが実情。
スプリングハイト(全長・自由長)
じゃ線径太いマイルドなバネを使いたいって言うと、今度はバネストロークが減るから、大きなG入力があった時に、線間密着したり、耐荷重を超えちゃうことになりかねない(バネ折れる)
しょうがないからストロークを稼ぐのにバネレングスが長いバネを選ぶことになる。
あとはあえて同じレートで長いバネを選ぶと、伸ばした時の鋼線長が長くなるので、同じ長さ収縮したときに、部分部分の負担が減るから低反発な傾向になる。同じレートでバネの全体長を短いものにすれば高反発でハイレスポンスになる。
同じ車種の車高調で、バネのレングスが何インチを選んでるかを見れば、おおよそどんなキャラクターの車高調を作りたいっかっていう作り手のイメージがわかる。
長いバネが入るかはケースとブラケットの設計次第。
オリジナルダンパーはBLITZのケース使ってるけど、あれってブラケットが短くてロアシートがめっちゃ下がるから10インチも入る。
cuscoはブラケットが長くてピストンケースとの接合面が多く剛性がちゃんと確保されてるけど8インチがやっとって感じ。
設計としてはCuscoが正しいんだろね。
「そんなに長いバネは要らないはずだからちゃんと強度を出さなければならない」っていう技術者の考えが見える。
オートサロンでCuscoの技術者っぽい営業さん(?)と話したときに「大きい会社に見えても、マニアックな技術者の集まりだからやれることをやりたがる。コストに跳ね返るから営業泣かせ」って泣いてたw
車種別設計ってそーゆーことで、ロアブラケットの形だけ合わせたピストンケース共通の安いダンパーは車種別設計ではなくただフィッティングさせただけ。
何を選ぶかはユーザ次第。コストとかバネ遊びするならBlitzとかTEINの共通ケースの安いの選べばいいし、品質ならそれっぽいところ選べばいい。
どこにお金がかかってるのか見極めるのが大事よね。
名誉のためにいうと、TEINはちゃんとしたダンパーも作れる会社で、安いダンパーがメジャーになったから安っぽい会社イメージになっちゃっただけ。ラリー脚とか作れるからね。要は手間(=金)
セカンダリバネ=バンプラバー
じゃ、使えるバネのレングスに制限あるけど、リバウンドストローク取りたい時(バンプストロークを減らしたい時)はどうするか
バンプラバーをセカンダリバネとして使うことになるんよね。バンプラバーは非線形バネだから潰れれば潰れるほどレートがあがるって特性になる。ぷにぷにの柔らかいシリコンゴムとか、最初は指でぷにっとつぶれるのに、床面まで指を届かせるのは強烈な力がいるでしょ。
あれが非線形バネ。収縮長に応じて二次関数曲線のようにバネ定数が上がっていくバネ。
先端の細いバンプラバーは初期のレートが低いからぶつかる感覚もないので重宝する。あんまり数値ではスペック出てなくて、素材と形状で想像しながら選びます。
セカンダリバネとしてバンプラバーを積極的に使うなら
プライマリバネ(メインのコイルスプリング)のレートを下げて柔らかく動かしながら、どのタイミングでセカンダリに当てるかを考えます。
それを調整するのにパッカーっていうバンプラバーとアッパーの間に入れて(スライド挿入できてロッドに嵌める)バンプラバーの位置を調整するスペーサを使うことで、ダンパーが大きく動いたときの踏ん張りが調整できるようになります。
ダストブーツをつけなければ、ジャッキアップするだけで調整できるのでほんと便利です。
バネは伸ばすもの
バンプ側の調整はそんなとこかな
バンプ側ってのは、大きな加重が入ったときに、ケースとアッパーがぶつかってダンパーが壊れないのと、バネが耐荷重を超えて収縮しなければなんでもいい。
で、リバウンド側の話です。
リバウンドってのは、1G状態からマイナス方向のG(車体が浮く)ときに脚を伸ばすっていうことです。
リバウンドは取れるなら多めに取っておけばいい。タイヤが地面から離れたら何にも出来ないから、0Gで出来るだけ伸ばせるようにしておくって考えておけばとりあえず平気。
車体(アーム設計=ジオメトリ設計)とケース設計で自ずとリバウンド限界は決まるし
WRCとかのジャンプ映像をみるとアホみたいに脚が伸びてるのがわかります。
wrc.comより借用
0Gから1Gかけて収縮する長さが、リバウンドストローク
じゃ、どうやってリバウンドストロークを稼ぐか・・・
1Gで縮めるのは車重だけど増やす訳にいかないから、ヘルパースプリングを使って合成バネレートを下げることによって、1Gでもたくさん縮むようにしてあげる。バネレートが下がれば同じ加重でもたくさん縮むからリバウンドストロークが稼げる感じ。
一応合成レートで考えるんだけど、1kg/mmみたいな低レートのヘルパーなら合成レートも0.7kg/mmとかなので、実際はあまり考えません。
ヘルパースプリングを縮めずに長全部使っちゃうかたちでセットすると縮みすぎてバンプストローク取れなくなるから0Gで、欲しいリバウンドストロークに合わせて、縮めた状態でセットしてあげる。
でもそれってちょっぴりプリロードがかかることにもなる。だからストローク調整だけならハイパコのみたいな極めてレートの低いヘルパーが理想的なんよ。
プリロード
0Gの時点でバネを縮めておくのがプリロード
何が起こるか。
10kg/mmのバネを10mmプリロードかける(100kg分)と90mmになるけど、その90mmになったバネの上に100kgの重りを乗せてもバネは1mmも縮まないってなる。嘘のような本当の話。
シャフトで繋がったアッパーシートで押さえられてるバネ反力が重りに移るだけだから縮まない。
感覚的には、荷重をかけてもバネが縮まずに車体が動かないから、固い、クイックって感じになる。タイヤ性能が低いとすっぽ抜けるからおっかない。
じんわり収縮しながら荷重をかけて、タイヤ性能を使い切りたいのに、一気に荷重かけるとタイヤ性能を一瞬で超えちゃうから難しい。思いっきりプリロードをかければ、最後はカートと同じ車体のひずみとタイヤのゴム弾性でしか動かなくなるわけです。
このプリロードが乗り心地にすごく影響する。あと乗り心地に影響するのは次の記事のダンパーのバンプ側ハイスピード域の減衰力。
昔の車高調は乗り心地が悪いかったんですよ。ぴょこぴょこ車が段差で跳ねてたのもチューンドっぽくてカッコイイみたいなのもありましたが実に乗り心地が悪い。
当時は全長調整式車高調なんて夢のようなモノでGT-RとかRX-7とかスープラとか、一部の車種しかなかったし、べらぼうに高かったんです。じゃ、ほかの車種は?ってなると、スプリングロアシートを縮めてバネを短くして車高を落とす方法。
これってちょうどいい自由長のバネがあればいいんですけど、ない場合は長いバネを縮める。バネの長さ以上に車高は上がらない車高調ですから。
でバネを縮めるってことは鬼のようにプリロードがかかります。昔はバネレートも高めの傾向があり15mmとかプリロードかけることになると、そりゃもうゴチゴチに動かない脚が出来上がるわけです。
基本的にプリロードはかけすぎないほうがいいと思います。
ちなみに欧州ブランドにフルタップが少ないのは車検的な基準が通らないからみたいな話もあるようです。
逆に、0プリだと優しくてダルな感じになる。最近のバネ屋さんは、セット時に指定のミリ数を縮めてセットしてねって言うんだけど、バネの初期はレートの立ち上がりが悪く指定レートが出せないから、線形レート特性にならないのよ。
あえて低レートの部分をバリアブルバネだと思って使うのはありだけど、そんなバリアブル域が多いわけではないので注意。
私はフロントだけ1.5mmプリロード入れてます。レスポンスの好みの問題で。多分プリロードはそういう味付けで使うんじゃないかなぁって思ってたりします。
あと、バネレートが高いバネって乗り心地が悪いっていう市場イメージがあるから、わざと低レートバネにして、プリめっちゃかけてスポーティさを演出してる営業側面もあるのかもしれない。。。
じゃ、低レートバネ1本でめっちゃプリロードかけるとどうなるかってと・・・
プリ荷重分まではストロークしないけど、プリ荷重を超えたところで低レートバネの反力が仕事するから腰砕けになる感じ。ローダウンスプリングなんかはコレ。
純正なんかもものすごくプリロードかかってますよね。バンプタッチまでの荷重を+4Gとか大きな値で設計するとそうせざるを得ないのかもしれません。真意はわかりませんが。
新車インプレッションで、ワインディングは軽快で楽しいけど、ジムカーナみたいな大きい荷重をかけるとめっちゃロールしてるのをみてもわかるとおもう。
テンダースプリングってなんだ?
じゃ、ヘルパー使ってリバウンドストローク調整したいんだけど、プリロードもちょっとかけたい時どーする?
って考えたときにハイレートなテンダーとかプライマリスプリングっていうようなバネが出てきたんじゃないかと推察してる。正直よくわかってない。けど使ってるw
テンダーの存在意義はバネ屋さんと話してみたいね。
今はリアがswiftの5kのテンダーにハイパコの11kg/mmだったかな?
テンダーが密着するまでは3.5kg/mmのバネとして動作するので、例えば全体を10mm縮めてセットすると35kg分のプリ荷重がかかる。
テンダーは取りたいリバウンドストローク量とプリロードが連動して変動するので、レングスやストローク長、レート選びが難しい。100%ほしい条件に合うテンダーは巻いてもらうしかない。
テンダーも1G状態でテンダーが線間密着するならプリロードがかかったヘルパーと考えていい。
問題は1Gで密着しない場合。
これはかなりややこしい。プリめっちゃかかった3.5kバネとして動くので、密着まであと5mmあるとすると1Gから+17.5kgかかるまでは3.5kg/mmのバネとしてうごいて、密着後は11kバネになる。
不思議なことに、3.5kg/mmと11kg/mmの切り替え点で、ガツンとショックがあるんじゃないかっておもうかもしれないけど、実際はそんなことない。
そもそも11kg/mmだってそんな突き上げないのもあるとおもうけど。ちょっと不思議。
線間密着しないツインスプリングが良いか悪いかは使い手次第。ツインスプリングとかでバリアブルになると複雑になるし、計算通りにはならないことも多い。かなり沼るのは間違いない。プライマリスプリングの種類の少なさもネックになる。かなりアドバンスなので詳細は割愛します(ってか解説できるほどまで実践してない)
おわりに
1kg/mmくらいの一般的なヘルパー使った車高調ならそんな難しくない。
大事なのは
・バンプ荷重が入ったときにショック・バネを壊さないこと
・リバウンドストロークと上記バンプストロークのバランスを考える
バンプラバー含めたバリアブルバネはなんとなーくイメージで緩く使う方が吉。
テスターを持たないDIY勢はゆるーく雰囲気で考えたほうがいいかもね。