【ボディリメイクの新機軸】
クルマにとってボディがいかに大事であるのか。
ぼくはずっとそれをブログのテーマのひとつとしてやってきましたが、今日はあらためて、より気持ちをこめて、それについて書いていこうとおもっています。
さて、今号のGTRマガジンでの特集記事は、ガレージヨシダさんが今回紹介していますウエットブラストと電着塗装になりますね。
それについてのコメントから書いていこうと思っていますが、まずは一般的な剥離の方法から説明していきましょう。
①サンダー等の研磨機器を使って塗膜を削っていくという方法。
②剥離剤という液剤を使って塗膜を溶かしていくという方法。
③ガスの火を使ったバーナーなどで塗膜を焼いていく方法
おもに、これら3つの手法が、自動車修理の現場では多く行われているものです。
そして、各々の考えられるリスクを書いておきましょう。
①の研磨するうえでのリスクは、研磨が塗膜だけで留まらず下地のパネル(いわゆる鉄板と呼ばれている部分)まで削ってしまうこともある。
また、サンダーの摩擦熱によるパネルの歪みが出ることもある。
②の剥離剤のリスクは、剥離後の処理不足があったときには剥離剤が残留することがある。
③の火で焼いていく方法のリスクは、熱によるパネルの歪みが出ることがあったり、養生不足の場合には余計なところをも焼いてしまったりすることもある。
というようなところでしょうか。
ここで、注意していただきたいことは、どの方法であっても、すべて作業者の技量によるところ、
つまりは「腕次第」というものになるところが多いものですから、一概に研磨がいけないとか、バーナーがいけない等というつもりはありません。
つづいて、ウエットブラストの特徴を考えてみましょう。
①塗装を剥離するにあたって、パネルへの研磨ダメージ、熱による歪みダメージを少なくできる。
②フロアやフレーム周りなどの袋状になっている部分も、噴射があたる部分については剥離ができる可能性がある。
ということになるでしょう。
ぼくはウエットブラストは使ったことがないのですが、誌面の記載によれば、この熱による歪みの発生リスクやパネルを削りすぎてしまうリスクを軽減させるためには有効な手法になるものだと思います。
このようなメリットがあるものなのでたいへん魅力的な手法であると思います。
そしてその特徴を生かすためには、Gマガに掲載されているようにボディをドンガラにするレベルの作業に向いているのでしょう。
と、いいますのも、研磨剤であるメディアを吹き付けた際の飛び散りがあるために、ボディ本体を剥離するには養生をしっかりするか、今号の写真のように内装やエンジン周りなどの機関を外す必要があると思います。
したがいまして、フロントフェンダーやドア、フード、バンパーなどの取り外し可能パーツの単体剥離であれば、そこまでは必要ないと思いますから、部分的な作業との組み合わせも有効になるのでしょうね。
【ハイクオリティなレストアとするために】
先日、ガレージヨシダの吉田さんと話していたことですが、細かな部分での詰め、バージョンアップはこれからもあることでしょう。
たとえば、電着後の処理方法、また、塗装完了後の再補修を必要とした場合にどうするか?
そういったこともハイクオリティなレストアの作業をしていくには大事なことになっていきます。
逆にいえば、それだけ手持ちのカード(作業テクニック)を増やしておくことと、
過去の事例から予想できるトラブルを想定しておくということは、これから業界を引っ張っていくくらいのインパクトのあるプロとしては必要なことになってくるのでしょうね。
吉田さん自身も、そのあたりは日々研究しているところですから、今後もたのしみですね。
電着という自動車メーカーでしかできなかったことが、アフター修理の業界でも出来るようになったということは、たいへん素晴らしい進歩につながることとおもいます。
今後は、この流れを生かしていって欲しいとおもいますし、普及とまではいかなくても広めていくことが多くの旧車オーナーの願いでもあることでしょう。
それゆえに、あえていえば、いまのところは特別な施工であるということが、逆に考えてみた場合には懸念にもなりうるところなのかもしれません。
といいますのも、数をこなしていって初めて見えてくるものもあるかと思うからです。
たとえば、パネルの合わせ面や溶接部分が錆ていたケースなど、言い出したらキリがないのですが、より完成度の高いものを目指していくとなれば、そういったことが今後のテーマとしてあがってくるようになるのかもしれません。
つまりは、キリがないものなのですが、「完璧は無い、永久に得られない」というなんとも空しい結論となってしまうのが、どうやらこの世界の唯一の真実なのかもしれません。
であれば、日々の研究と向上に夢をつないでいくというような考え方に基づき、現時点でのベストなものを選択し続け、委ねていくのがいいのでしょう。
そして、バージョンアップを適宜行っていくというスタイルが、結局のところ一番心理的なストレスの少ない考え方になるのかと思います。
「完璧を求めていくと苦しくなっていく」と心理学でも言われていますから、ある程度柔軟な考え方をもって対応し続けていくことに喜びを見出していったほうが、気持ちとしてラクでいられるのだと思います。
ちなみに、そういった考え方のことを心理学では「プロセスを楽しむこと」と言っています。
話しを電着塗装に戻しますと、電着の入らない部分をどう処理していくのか。
いずれは、そこに注目が戻っていくことでしょう。
こんかいのケースでは、さほど錆の修理を要する部分がなかったようですので剥離後にスムースに電着へと進めたのだとおもいます。
オーナーさんの中には、大なり小なり過去に事故をしたり、錆が出ているケースもあるでしょうから、そういった部分の対処方法や板金修理との組み合わせをどのように組み合わせて行っていくのか、
電着という素晴らしいものを取り入れられるようになったがゆえに、よりレベルの高い板金作業が求められてくる時代に移っていくのかもしれませんね。
【総剥離は慎重に】
もうひとつ書いておきたいことは、必ずしも全剥離がベストなレストアではないということでもあります。
そこは、よくよく知っておいて欲しいと思うところであります。
今号のGTRマガジンでは、ラッシュさんでもドンガラ剥離のケースを紹介していますよね。
ここまで磨き込むのは、たいへんな作業であったと思います。
職人さんのがんばりが写真からも伝わってくるようです。
このようにして剥離するかどうかは、ひとえにボディの状況次第によるものと思います。
それほど錆で劣化していない場合には、塗装を完全剥離する必要のないケースも多々ありますので、そこに関してはご注意くださるといいかと思います。
むしろ、下地の鉄板を空気に晒すことのほうが、かえって錆の発生リスクを高めることも考えられますから、ぼくの考え方としては慎重に行って欲しいとおもっています。
特に湿気の多い時期などの天候要因、工場の環境によっても錆の発生時間が変わることでしょう。
ぼくのかつての経験上でのことですが、剥離してほんの数時間、鉄板をむき出しにしておいただけでも、微細な錆が発生していたことがあります。
もし、そういったことに気付かずに塗装をしていった場合、後々その微細な錆が成長していくこともあるでしょうから、必ずしも剥離にこだわる必要はなく、可能であれば、オリジナルの塗膜を生かしたレストアや全塗装を行っていくのが予算的にもクルマのためにも負担が少なく行えるものになると思います。
具体的に少し補足しておきますと、クリア層の傷みや褪色というレベルであれば、程度にはよりますが無理に剥離はしないほうが無難なケースもあることでしょう。
下塗り、中塗り部分の再塗装から行えば十分綺麗に仕上がるケースもあるということです。
もし、パネル(いわゆる鉄板と呼ばれる部分)から傷んでいるのであれば、塗膜を削るより仕方ありませんので、そのようなケースと判断されるならばGマガに掲載されているケースのように完全な剥離をしてゼロからやり直していくのがいいのでしょうね。
あくまでも各職人さんの見方、考え方、腕次第ということにはなるのですが、GTRを大切にされている方にとって、今回のぼくのブログがなにかしらの参考になれば幸いです。
yoshi
【あとがき】
ぼくのサイトに以前登場してもらったことのあるオーナーさん、その世界では有名な走り屋さんなのですが、その方が事故で亡くなられるということがありました。
訃報を聞いても現実味がなく、葬儀に行ってようやく、なんとなく実感が湧いてきたという感じでした。
心理的なショックで悲しみすら感じられにくくなっていたのかもしれませんし、彼はその世界でのキャリアが長く、リーダー的な存在でありましたから、まさか彼に限って、という思いがあたりまえのようにあったからなのかもしれません。
以前撮影したとき、彼のクルマに同乗したこともあるのですが、その余裕ある運転テクニックゆえに、まさか彼が亡くなるなんてという驚きがしばらく抜けませんでした。
後日に事故状況を拝見しましたが、その凄まじさにクラッシュ時の衝撃がいかほどだったことか。
ただただ想像を絶するとしか言いようがないものでした。
意識を想像してつなげてみれば、彼の思いとして、それぞれの心中に浮かんでくるものが、きっとあることでしょう。
ぼくにとっては、やはり「安全」ということになるのかとおもっています。
クルマというのは、便利ですし、楽しいものでもありますよね。
GTRなどのスポーツ系であればなおのこと、速さもその楽しみのひとつであります。
いっぽうで、危険ということも、またそこにはあるのが現実でもあります。
オーナーさんそれぞれと言ってしまえばそれまでなのですが、誰にだってその楽しさと危なさというのは常にあるものなのでしょう。
禁止したりすれば、同時に楽しいという感情も禁止されていくことになるでしょうから、ただ禁止すれば済むという考え方は、ぼくはそのようには捉えていきたくはありません。
ぼくの立場から、せめて言えることは、なによりも安全を一番に考えた自動車修理の方法をご縁のあるオーナーさんたちにお薦めし、広めていくことなのかと、彼の事故からあらためて思っているところであります。
もちろん、ひとそれぞれの価値観がありますし、安全と何か別の要素との兼ね合い、バランスも大事なことでしょう。
また、過剰な安全を求めていけば、何か別の要素を犠牲にしなければ成り立たないことも、きっとあることでしょう。
ぼくの見たことのあるケースなのですが、あるタクシー会社の自社工場では事故で破損した車両の骨格パネル交換修理に溶接を行わずリベット留めで対応しています。
そのような修理をされたタクシーを複数台見かけたことがありますから、どうやら、リベット留めがそのタクシー会社ではスタンダードになっている様子にぼくには思えたものです。
メーカー修理書(修理マニュアル)では、スポットないしMIG溶接を推奨していると思うのですが、リベット留めにこだわるその理由は、社長さんのお人柄から察しますと、おそらく溶接機の導入コストの面にあるのではないかと思われてもきます。
もしそうであるならば、乗客を頻繁に乗せるという仕事であるわけですから、万一の事故の際の衝突安全性という面でみた場合には、そのような修理方法を採っていることはどうなのでしょう。
もしかしたら、リベット留めという手法であっても、作業のやりようによってはスポット溶接やMIG溶接と同等の強度が出せるのかもしれませんし、事故率という統計で見た場合にはプロドライバーであるため一般のドライバーよりも事故を起すことはそもそも少ないのかもしれません。
また、メンテナンスや修理方法などは、日ごろ利用する乗客には見えない部分でもあるかと思います。
しかし、今までにそれで何の問題も起こったことがないにしても、乗客を目的地へと運ぶことと同じかそれ以上に安全を売っているという意識を高めていくことが、もっとあっていいのではないでしょうか。
さまざまな観点からみることができますから正義や正解などというものはなく、ぼくの思いだけでもってけして偏った見方や理解をしては欲しくないのですが、良い悪いは別にして会社という組織は、そのトップである社長の意識が変わらない限り、その仕事のスタイルもまた変わらないものなのかもしれませんね。
話を戻しまして、彼のことから思うことは、自分の意識の上だけでも安全かどうか、その思いを持ち続けているかどうかというだけでも十分に安全への意識は高まっていくのではないか、そんなふうに思うものです。
自動車を利用するすべての人たち、自動車修理業に携わっている方々、特に板金職人の方々においては、引き続きこれからも「安全」ということを優先して考慮した修理をすすめていって欲しいと願っています。
yoshi