2016/Jan 交通タイムス社GT-R Magazine126号「レストアの意義」に載せていただきました。
職人を引退してもなお、このようにして誌面に登場できたことは担当編集者さんをはじめとした編集部のGT-Rへの熱意があってのことと思います。
そして、なによりも6年前に作業を依頼してくださり、この度の取材に快諾してくださったオーナーさんとの出会いがあってのことでもあります。
さらには、現役時代から応援してきてくださった皆さんの励ましがとてもありがたいことでした。
それは、かつて作業の依頼をしてくださった方のみならず、飲み会、珈琲会、東北旅、神戸旅といったオフ会等で出会った方々のクルマに対する思いの数々がぼくの想い出としてあるからであります。
今回のGマガ掲載は、このような経緯がベースになっているものです。
出会い、交友、ご協力に心から感謝いたします。
さて、このR32GTRは2009年にボディ補強をメインにしたレストアを行ったもので、R32GTRのボディを進化させたもの、Evolution Modelと位置づけて作ったものです。
その具体的なボディ補強内容は、以下のような感じです。
・サイドシル周りの補強一式
・リヤクオーター周り、インナーパネルのスポット増し、パネル追加
・R34GTR用フロントフレームアウトリガーの組込み
・ルーフ~ドア枠周り~ガラス周り全周のスポット増し
・R34GTR用ルーフレインフォースの組込み、インナーパネルへのスポット増し
・リヤバンパーレインフォースの軽量化
それに加えて、通常どおりのレストアメニュー(記憶のあるかぎり)
・下回りシーリング、チッピングコート仕上げ
・サスペンションブッシュ一式入替え
・防錆剤の各部注入
その他いろいろ・・・
サイドシルは部分的に補強パネルを追加するのではなく、まず、フロントフレームの付け根にアウトリガーを組込み、そこからリヤクオーターまでのキャビン全体の下支えを補強する構造となっています。
特にフロント側は5枚のパネルを合わせてあり、エンジンとサスペンションを支えるフロントフレームとの一体感を向上させるよう考えて作ったものです。
それに加えて、ドア枠周りから前後左右のガラス周り、ルーフ周り、そしてリヤ周りとスポット増しはキャビン全体に及んでいます。
オーナーさんが誌面でインプレッションを伝えてくださっていますが、700馬力ものエンジンを活かすには、やはり、それ相応のボディが必要になってくるものでしょう。
この車両にはロールケージを入れていませんが、もし、サーキットでのレースをメインにするのであったとしても、このような内部パネルからの追加溶接、補強パネルの追加は有効になってくると思いますし、ボディ各部の見直し(錆修理など)を行った骨格があってこそロールケージもより一層効いてくるものと思います。
Gマガ誌面にて、スポット溶接における溶接不良のことが紹介されていました。
このことに関して少し補足を入れておきましょう。
スポット溶接は瞬時に溶接ができる大変便利な溶接方法であり、現在の自動車作りのメインとなっている溶接方法です。
しかし、自動車メーカーのラインで行うスポット溶接と町の修理工場の設備で行うものとではその設備が異なり、意外とクセモノな一面ももっています。
つまりは、溶接できているようでいて溶接されていないという「溶接不良が起こり得ることがあり、そのクセモノであるという理由は溶接後の外観からは判別がつきにくいからであります。
それというのも、いわゆるスポット増し、パネル交換をしないで溶接点数を追加する作業においての不十分な溶着を何度となく見てきましたし、自らも経験してきたことがあるからです。
外観からは溶接焼けがあり、打痕もしっかりとある・・・・ しかし、パネル間にタガネを突っ込んでみれば、1~2ミリ程度しか溶着がされていないために割と簡単に溶接箇所が剥がれてしまう・・・・。
これでは仮止めの点付け溶接と変わらない・・・・たいして強化になっていない・・・・そのようなケースが散見されたものです。
その主たる原因はパネル間の電着塗料や錆が電気抵抗となっていることが第一番目。
そして、工場設備の電力不足が原因となるケースも意外とあるものです。
その対策として、Gマガ誌面に書いてありましたように、溶接時の通電時間や加圧力の調整は当然のこと、工場内で他の電気機器を使用していないときに溶接作業をおこなうというような配慮もしてきました。
塗装ブースや作業用リフト、コンプレッサーなどが稼動していると、そちらに工場内に引かれた電力が分散されてしまうからです。
ただ、一般的な作業レベルでは、ここまでこだわる必要はないと思います。
なぜならば、多少の電力低下があっても、スポット溶接機の設定によって基準を満たす溶接強度はいちおう確保されるからです。
ですが、このGT-RはEvolutionというスペシャルな位置づけでレストアしていったクルマですので、それにあわせて作業のすべてをスペシャルにしたいと考えていったものです。
スポット溶接の一発一発に気合を入れ、可能な限りの「工場内で出せるベストの電力」でもって作ってみたかったということであります。
絶対にというほどに溶接不良は起したくなかったですし、追加パネルを組み込んだことと、そして、溶接強度自体を通常の修理作業よりも向上させたかったからです。
そのために、塗装担当者が塗装ブースを使っていない時間帯に溶接作業を行ったり、居残りや休日作業をすることもあったものですが、ある意味、会社員として求められる作業効率を度外視していたからこそ出来たものといえるのかもしれません。
*参考1*
もし、アフターでスポット増しの施工を考えている方に、ひとつアドバイス的なことを記しておくとすれば、それは、パネル間の電着塗料を「焼ききる」ということです。
また、パネル交換の際の防錆剤をあらかじめ薄く塗っておくのもポイントといえるでしょう。
特に、刷毛塗りタイプの防錆剤は塗りムラになりやすいので注意が必要です。
その場合、溶剤で希釈することも一法です。
いずれにしても、アフターのスポット増し作業とおなじように溶接時にパネル間の塗料を焼ききることがポイントです。
そうでないと、十分に強度ある溶着は得られません。

*参考2*
アウトリガーの取付けにしても、サイドシル強化にしても、ちょっと気の利いた職人であれば出来ることです。
ポイントとなるのは、その取付けの精度、強度、耐久性、そして美観のバランスとなるでしょう。
どれだけ、その取付け方法にこだわっているのか、高次でバランスできているのか、もちろん、価格や納期との条件や関係性もあることでしょう。
ですが、職人の意識の基本としては、よりよいモノを目指すということになると思います。
【R32GT-R Evolution】
目指したのは、R34GT-Rの軽量バージョン。
R32の外観を崩さずにボディ補強をしていくこと。
ロールケージのような「見える補強」は行わずに、しかし、体感のできる確実な剛性向上を目指す。
そのためには、見えない部分での溶接強度にこだわり、見えない部分での補強パネルにこだわり、結果としてトータルでボディのレベルアップをしていったものになっていると思います。
一番嬉しかったのは、今号掲載のオーナーさんの、このインプレッション。
『アクセルを入れたときにボディがそれに直結するように反応する・・・・ その効果はコーナーでも感じられ、大きく荷重がかかっても操作に対して修正舵を入れる必要がなく、常に運転に集中できます・・・・』
これほどまでに成果を伝えてくださるとは思っていませんでしたが、それは、オーナーさん自身の持つドライビングセンス、鋭くも豊かな感性の表れであると思いますし、それだけクルマの挙動と感覚について「違いがわかる」オーナーであったということだと思います。
「違いがわかる」には、それだけの実践経験を積まれてきたからともいえるものでしょう。
クルマ好きな方には色々なタイプいますが、日ごろから「走る」ということに注力されている人であるからこそ伝えられるインプレッションであり、その感性とあいまって、ご自分のクルマに対する愛着を長く育まれてきたということを示しているように思います。
~随想~
このGT-Rを作業していた頃に、ガス溶接をやめ、ハンダ盛りをやめ、そしてMIGとスポット溶接をメインに切り替えていったと思います。
それは、新型の設備や機器という作業技術の進歩という見方もできるでしょう。
しかし、その一方では、古くからのやり方をしてきた職人たちを暗に否定することにもなっていたのかもしれず、であれば、ときに、彼らのキャリアあるプライドを傷つけることにもなっていたのかもしれません。
どこの職場でもあることとは思いますが、職人と職人の水面下でのライバル意識というものは、仕事に対してのこだわりが強くなればなるほど、その意識の高まりは熾烈になってくるものなのでしょう。
それが、お互いの技量を伸ばす方向に昇華していくのであれば理想的な関係となるのでしょうが、そうはならないことも少なからずあることであり、それもまた、なにかの縁というものなのでしょう。
高度成長期、今よりもずっとクルマが夢であり憧れであった時代に、ぶつけて壊れたクルマ、廃車になるようなクルマを救っていったのは当時の職人達の知恵と努力のおかげです。
彼らの意志と技術なくしては自動車修理業の発展はなかったはずです。
ある意味、礎となり、その土台を担ってこられたのだと思います。
しかし、時代というものは進化し続けていくことを求められ、けして留まることはできないものなのでしょう。
新しい方向へと進んでいくことが、より多くの人にとって幸せを感じるものになっていくのであれば、その進化の流れにのっていくことが自然であるように思うものです。
それは、ぼくにとっても同じことで、だから、持ち続けてきた職人のプライドのようなものは手放していきたい。
ぼくがやってきたようなことはアタリマエの時代になり、遥かに超えていくことが、ある意味、進歩のひとつのカタチであると、そう思っています。
それは、喩えれば、「食っていくためには仕方がない」というようなハングリーな時代からの成長でもあることでしょう。
そして、自己表現の楽しさや、分かち合い、広く幸せのためにという、人と人のつながりを創っていく・・・・そんな時代に移りつつあるように思うものです。
もしかしたら、いまが、まさにその葛藤のさなかにいる状況なのかもしれません。
各地で頻発する、主義や信条の争いごともそうですが、ひとりひとりが出来るところからの対処、もっと小さなレベルからの、身近な人間関係から見直していくことによって、そのような、つながりの意識は広がっていくのではないでしょうか。
もし、それが旧来の常識を否定することによって成り立っていくものだとすれば、一時的にでも葛藤のプロセスを経験していくことが然るべきことなのかもしれません。
自動車修理でいえば、イ リュージョンテクニックも溶接にこめた一発一発の熱意も、アタリマエのこととなっていく。
そして、もっと容易で、もっと綺麗で、より完璧な作業がそこらじゅうの町工場でアタリマエになっていく・・・・。
そうであってこそ、日本の自動車修理業界全体のレベルがあがっていくことになると思いますし、クルマ好きな人達が安心してクルマ趣味を愉しみ続けていくことができるのではないかと思います。
だから、これからの自動車修理職人は、ぼくがやってきたようなことを踏み台にし、むしろ、蹴っ飛ばすくらいであって欲しい。
「ああいう仕事は、どこでもアタリマエにやっていることだよー」、そんな日が来てくれることを願っています。
外観の見てくれよりも強度やオリジナリティを重視し、万一のときにも可能な限り踏ん張ってくれるような、そんなボディ作りや事故車修理がアタリマエの時代となることを。
そして、さらには、もっともっと個性的な仕事、一台一台が輝く作品のように仕上がっていく仕事、そんな時代になって欲しいと思っています。
先日、オーナーさんに言われたことがあります。
『あの頃のヨシヒサさんは鬼気迫るものが感じられていましたよ・・・・。』
自覚はありませんでしたけど、言われてみればそうだったかもしれません。
そのように感じられたのは、それは、ぼくがクルマを直すという仕事そのもの以外にも抱えていることが他にもあったからなのかもしれません。
でも、だからこそ、クルマに真剣に向き合おうという気持ちが高まっていたのだとも思います。
こういってはなんですが、いま振り返ってみて、あの環境下でのベストは尽したと思います。
完璧には至らなかったとしても、少なくとも持てる限界まではやってみたつもりです。
だからこそ、ここまでやらせてくれたオーナーさんをはじめ、協力してくれた工場の仲間、社長には心から感謝しています。
修理技術のパフォーマンスと、完成度をどこまで高めていけるのか・・・・、その挑戦、チャレンジであったと思います。
ときには、無理をかけたりしたこともあったと思います。
良くも悪くも、チャレンジするということの裏には、そういった側面も少なからずあるものなのかもしれません。
ですが、いずれにしても、人それぞれに、さまざまな思いをのせて、一台一台が仕上がっていくものだと思います。
このたび、約6年越しに、その結果が実り、幸運にもGTRマガジンという有名な専門誌に掲載していただけたのだと、そう思っています。
それは、読者の方々にしてみれば、たった一台のGTRのレストア記事であるかもしれません。
でも、このようなレベルのGTRを完成させるのに、裏で、どれほどの思いを積み重ね、またぶつけあってきたのか・・・・。
それは、GTRというクルマに惚れ込み、悩んだ末に作業を依頼し、海のものとも山のものともわからない職人と向き合ってこられた人でないと、その真意と価値のすべては伝わらないものなのかもしれません。
また、それは、作業を行ったバックヤードの職人達に対しても同じことだと思います。
オーナーがどれほどの思いをもってオーダーしてくるのか・・・・、その真意を理解するよう努力しなければなりませんし、そして、なによりも、その技術に価値を見出してくれているということを、もっと受け取っていく必要もあるのだと、そう思います。
つまりは、完成したクルマの背景にある、そういった見えない部分での「思い」の結実。
結果とは、そういうものであるように思います。
あとは、質実の充実したオリジナリティを追究している職人にバトンを渡していきたい。
いまは、技術の片鱗をネットで自由に見ることができるようになってきています。
そんな意志ある職人達にとって、ぼくのサイトが、なにかしらの参考になればと思うものです。
そして、これからも、GT-Rをはじめ、クルマを愉しまれている方々に、せめて気持ちだけでも寄り添っていけたならばと思っています。
yoshi
Tuned by T.R
Power:718PS Trq:80kgm (Dyna Pack)
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【駆動系】
BNR34 純正ゲトラグミッション
Tomei 3.692ファイナル
ATS トリプルカーボンクラッチ
Nismo 純正LSD OHキット
Hicasレス
【ボディ関係 】restored by Mr.yoshihisa
ボディ3次元計測
レストア/補強/全塗装
サイドシル交換・1.2mm補強板追加
リアフェンダー左右交換
ルーフ交換
各部スポット溶接追加
フロントフレーム補強板(34用アウトリガー)追加
ルーフ補強板(34用)追加
前期ドア
NISMO 補強バー(トランク内リア)
リア周りフロア補修、軽量化
【足回り関係】
NISMO アーム/ブッシュ、フル交換
NISMO サーキットリンク
NISMO スタビライザー
NagisaAuto フロントアッパーアーム
クスコ ピロテンションロッド
クスコ リヤアッパーアーム
クスコ リヤトラクションロッド
MF-R 強化タイロッドエンド
OHLINS DFV(F:10k R:8k)
【ブレーキ】
Brembo Fr:F50(343mmRDDローター)
Rr:34後期(322mm)
Pad: ENDLESS MX72
【ホイル/タイヤ】
RAYS TE37 SL 2012limited 18inch 10.5j+22
ADVAN sports v105 (255/35/18)
【セキュリティ】worx auto alarm
上記スペック一覧:オーナーさんのサイトより引用させていただきました
【Special Thanks】
GT-R Magazine
hiro@R