
今回のパワーアップを考えるは「慣性による吸排気の効率向上」の予定でしたが、YoutuberのSRGarageさんの今週の動画を見て完全に感化された、「エンジンの高回転化」を考えるです。
SR400(2型)に乗ると、エンジンのスペックや車両のキャラクターに似合わず?意外と高回転が回るんですね。ただパンチが有る高回転と言うよりは回転に合わせて車速が上がって行くような感じで、もう少しパンチが有れば昔よく使われた表現で「胸のすく加速」が得られるような。かつレブリミットまでトルクの落ち込みが割と無いしエンジンが回転上昇を嫌がる感じも無いので、7000rpmを超える様な回転数でもトルクが得られるんじゃないかな?と感じます。
一転SR500(2型)に乗ると、7000rpmを回すと「エンヂンガンバッテマース」「イヤ〜ン。」と言う様な振動が発生して、それ以上回しては良くない感じを受けます。
なのでパワーアップを考えると400はレブリミットを超える高回転化を目指し、500は7000rpmまでのトルクを稼ぐのがフィーリングを含めて良いのかと思います。
では、その回転フィーリングの個性は一体何処から来ているのか?と言う話になるのですが、これはエンジンのスペックで1番重要と言っても過言ではない項目の「
平均ピストンスピード(m/s)」が関係してきます(←Wikipediaへのリンク)。ピストンがどれだけの速さで移動しているのか?という項目ですが、
平均ピストンスピード(m/s) = (エンジン回転数÷60) × (ストロークmm÷1000) × 2
の式で求められます。求める単位がm/sなので、エンジン回転数を秒に変換する為60で割り、ストロークの単位をmに変換し往復なので2を掛けるとなります。ピストンスピードの相場は昔読んだ本では、レース用エンジンで20m/s。市販車では15m/s位と紹介されていました。現代ではレース用で25m/s?。市販車で20m/s位が相場と言ったところでしょうか。
SR400、SR500とその他のエンジンのピストンスピードを計算してみました。ピストンは上死点と下死点では一旦停止しているので、平均ピストンスピードと最高速度では違う値になります。最高速度はクランクピンの周速と粗イコールなので回転数×ストローク×π で求まります。
平均スピードはSR500では一般で言う上限の20m/sに届いてしまっています。古いエンジンなので15m/sでもおかしく無いのですが流石レーサーエンジンの末裔ですね(寿命もレーシングでしょうけど)。1秒で20mもピストンを引き摺ったら摩擦熱だけでも相当なモノになりそうです。最高速度は秒速約32mです。分速にすると1900m。時速だと115kmに達します。時速だとイメージがつき易いですね。
一方ショートストロークのSR400では500に比べればかなりの余裕がある事が分かります。このピストンスピードの違いが要因となって排気量違いでフィーリングに差が生まれるんですね。
~余談~
これはどんなエンジンでも割と同じで、ピストンスピードが速いエンジンだとゆっくり乗っていても「元気あるエンジンだなぁ~」なんて感想を持つ事になります。過去乗った大好きなエンジンに、4G63 88mm。KA24DE 96mm。今乗っている車YD25 92mm。SR500 84mm。どれも高回転を回すとあまり聞いた事のない「ぞぉー」って、実ストロークの長いロングストロークエンジン特有の低音が響くんです。私はそんなロングストロークエンジンが大好きです。w
一般にロングストロークと言われる250TRも乗りましたが、66×73mmなのでボアスト比としては凄くロングストロークなのですが絶対量がまだまだでした。絶対的な長さが重要です♬ 欲を言うと90mm/6500rpmで20m/sくらいが基準になって満足行く感じかな?ボアと気筒数は構いません。当然コンロッドは長い方が好ましいです。 GB350の設計はそんなロングストロークオタクの人が行ったのかな?なんて思ったりします。
でもピストンが高速に動くだけに全般的に痛みは早いみたいです💀
ロングストローク好きにとってこのピストンスピードと回転数の話は、一番 ハァハァするお話なんです。
~余談終わり~
なのでSR400のピストンスピードをSR500と同等まで持っていき、9000rpmまで回せるな?という計算が成り立ちます。
500ccで7000rpm=一分間に500ccを3500回燃焼させる。=1,750Lの混合気を燃焼。
400ccで9000rpm=400cc×4500回 = 1,800Lの混合気を燃焼。500cc/7000rpmエンジンのポテンシャルを超えましたね。そんな計算も成り立つのかな?同じ平均ピストンスピードであれば、ショートストロークにして回転数を稼いだ方が方が高出力エンジンとなると言う事ですね。
高回転化のSpecialエンジンとして参考にクオーターマルチ250cc4気筒で18500rpm回るFZR250Rのエンジンを見てみると、SR500と比べて特にピストンスピードが速いと言う事は無いようです。回転数で言うと3倍近い差が有るのに不思議に感じますね。1気筒60cc程なのでピストンもコンロッドも軽いので余裕でしょう。計算すると2,312Lの混合気を燃焼出来るようです。なので45ps出せるんですね。
SRX600に関しては変態エンジンの部類ですね。R1のそれよりも高速になっています。この辺はマニアが寄り付く魅力になっているのかも知れません。SRXのエンジンはYAMAHAの開発では無くて、外国のエンジン開発・生産メーカーへ委託して開発したのでコンセプトや技術面で普通と違う所があるのかも知れません。
ショートストロークとかロングストロークと言うのがボア・ストローク比で語られる事が多いのですが、本質的には実ストロークの長さが重要となります。
なのでエンジンのレブリミットは平均ピストンスピードによって大体決まってくると言うのと、「高回転型エンジン=高性能」と言うよりも「高ピストンスピードエンジン=高性能」と言う感じが分かるかと思います。
いやー、エンジンって本当〜に面白いですね。

それに付随して大事な項目になるのが「
連桿比」と言って(←Wikipediaへのリンク)、クランクの回転によりコンロッドがどれだけ傾くのか?に関連する値が有ります。クランクシャフトのピンが横90°にある時にコンロッドが一番傾く事になりますが、この傾きがピストンが燃焼圧力を受けて下向きに発生した力を、ピストンをシリンダー壁に強く擦り付ける力に変換してしまいます。コンロッドが一切傾かずに下に移動してクランクを回転させることが出来ればピストンがシリンダー壁に押し当てられることが無いのでそれが一番なのですが、現実には不可能ですね。なのでコンロッドを長く取って傾きが緩く成るように設定しますが、その分エンジンに高さが出てしまうので自由には伸ばせないようです。(オフセットクランクなんていう技術もこのあたりに関連する話です。)
しかもコンロッドの傾きが一番大きくなるクランクが横90°に来た時がピストンスピードが最高速度を迎える瞬間となっているので影響は小さくありません(と思われます)。なので昔のチューニングでは連桿比を稼ぐためにシリンダーに下駄をはかせてロングコンロッドを装着することもあったようです。
リンクはこちら

参考までに他車種のサービスマニュアルの謳い文句です。
SR500をストロークアップして高回転を多用すると、速過ぎるピストンスピードと悪化した連桿比でピストンの負担は増大してブロックの破損へと繋がる。と言う事がロジカルに説明が付く事になります。サーキットで一発を狙うエンジンや、ちょくちょくエンジンを開ける人であればいいのですが、一度エンジンを積んだら5万キロは走らないととなると厳しい選択になると思います。ピストンスピードが速くなる場合は特に連桿比を上げて対策する必要が有ると言う事になります。
時速115km/hで動くピストンをシリンダーに押し付ける力ですから、全く無視は出来ません。
一方SR400はSR500をストロークダウンする形でコンロッドを長くしてピストンの高さを合わせているので、4.56と言うレーシングエンジンの様な連桿比が与えられています。高回転まで回すポテンシャルはレーシングエンジン並です。前にも何処かに書きましたがSR400の最大の個性はココだと思います。
(SR500は3.37位かな? WEB上を検索しても出てきませんでした)
エンジンのハイトを抑えたり、ストロークを長く取ったエンジンでは連桿比が小さくなりがちですが、コンロッドが左右に傾く振動がエンジンの回転フィーリングにプラスされる事になるので雑味が出てくる事になります。SR400は連関比がすごく大きいのであんなにマイルドで雑味が無い振動が出るのだと思います。
ここまで腰下の高回転化を考える。でした。バルブ周りも別途高回転化の対策は必要なのでそれはまた次回以降に。
ー追記ー
忘れてました。振動の件ですが単気筒ではオーバーバランス率を調整してエンジンの振動が出る「方向」が調整されています。特にバランサーを持たないSRのエンジンは振動を減衰する事が出来ないので、振動を出す方向は神経質に設定されている筈です。ピストン他、部品を交換する場合はオーバーバランス率をノーマルと同じに設定する事が賢明だと思います。
参考 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/エンジンの振動
ー追記終わりー

もう一つピストン周りで面白い記事を見つけましたので紹介です。
エンジンオイルの話では高温になる空冷エンジンでは添加剤の劣化が早いので良質な鉱物油が良い。なんて話もありますが、エンジンの部位別による潤滑方式により鉱物油では苦手な部分が有るそうです。写真では油膜で浮くことが無い方式の境界潤滑で特に添加剤が必要だと言う表現になっています。ピストンスピードが上昇した場合にはやはり良質なエンジンオイルが必要になる様です。
https://car.motor-fan.jp/tech/10016132
安いオイルを頻度良く交換では賄えない部分もあると言えそうです。
まとめ
SR400の高回転化によるSR500超えって、ロマンがあって良いですね。
今回はFiではフルコンの導入などをしないと成らないネタで縁遠くてつまらないと思うので、Fi車限定で一つ情報です(既に知っている方が大半だと思います)。
Fiの燃調を行う方法としては色々な方法や商品が有るようですが、大別して排気センサーの信号を修正して燃料を調整する「急速二輪車簡単」みたいな商品と、ノーマルのコントロールユニットの設定を変更して燃調を調整する「YAMAHAFI ダイアグノステイツク ツール」の2種類に分かれると思います。

前者は排気センサーや負圧の信号を使いますがノーマルのコントロールユニットがセンサーでのフィードバック制御を行うのは中回転中負荷程度までで、高負荷や高回転はフィードバックを受け入れていません(maybe)。なので燃調の変更もその運転範囲に留まります。後者はコントロルユニットに一旦接続してユニット内の設定を直接書き換え出来るので広い範囲(全域?)での燃調の変更になりますし、サブコンの様にノーマルコンピューターの動作の邪魔をする可能性も有りません。燃調は表現的にCoの調整という事で出来るそうです。データを書き換えるだけなので仲間内で1台あれば何台でも設定変更が出来るのでコスパも良いですね。部品番号は90890-03182です。効果は憶測ですがw自己責任でお試しあれ(私はやった事はありません)。併用なんて手も有るかもですね。