これが初代の「カローラ・レビン/スプリンター・トレノ」(TE27系)で、今日でもゲンキに街や街道を走り回っている「ハチロク」(AE86系)の祖先にあたる。駆動方式はもちろんFR、全長4mに満たないコンパクトなボディに、1600ccのツインカムエンジン(2T-G)を搭載していた。
ここで「もちろんFR……」と記したのは、この「レビン/トレノ」がデビューした1972年という時点で、トヨタにFF車は存在しなかったからである。サイズ的に最小であったパブリカに至るまで、当時のトヨタ車は、そのラインナップのすべてがFRだった。エンジン縦置きによるFF方式のターセル/コルサが登場するのは1978年になる。
ただ、後年の「ハチロク」と初代の「レビン/トレノ」では、小さなボディ+ハイパワー、駆動方式はFRなど、共通項目は多いのだが、どうも“何か”が違っていた。「ハチロク」は、このいささかランボーだった(?)祖先と較べると、クルマとしてはるかに優等生であると思う。
何といっても1980年代生まれである「80系カローラ」は、クルマの全体が総合的なバランス感覚の中で企画・設計されていた。そのコンセプトは、駆動方式にFRを踏襲した「86系」も同じだった。しかし、1970年代前半という時代に生きたレビン/トレノには、そんな平衡感覚は乏しかった。あるいは、1960年代的な奇妙な“熱さ”を引きずっていた。
この「27系」レビン/トレノは、大衆車カローラのセダンに対するスペシャル版としてシリーズに加えられたクーペがその出発点になっている。そして、このクーペに、キャブ・チューンでエンジン出力を上げた「SR」が、まず追加された。この仕様でも既にけっこうスポーティであり、十分に《走り》も楽しめたのだが、しかしトヨタは、そこで立ち止まらることをしなかった。「もっとパワーを!」である。
そのテーマのもとに行なわれたモディファイとチューニングは、はからずも、1960年代に(プリンス時代の)スカイラインGTが行なった手法と同じだった。そう、上級車用エンジンの移植だ。小さなカローラのボディに、兄貴分がスポーツ車を作ろうとした際のエンジン、セリカ/カリーナのGT系が積んでいた「2T-G」を押し込んだ。その結果、エンジン出力は「SR」の95psに対して115psとなり、最高速も190km/hに達するというリトル・モンスターが出現することになった。
外観上では、何といっても「ビス留め」されたオーバー・フェンダーが渋かった! それまでの「SR」は性能は向上していても、ノーマルのクーペと外観上はあまり変わらなかったが、このクルマは違っていたのだ。
さらに室内に入ってみると、新設計のスポーツシートがドライバーを待っていた。そしてその目の前には、油圧ゲージや油温計、また電圧計といった“多眼”の光景が広がり、ステアリングを握る者のココロをときめかせた。この「27系レビン/トレノ」は、実質的にも相当な高性能車であったが、それだけではなく、安価ながら、こうした演出にも配慮があったコンパクト・スポーツだった。
(2002年 月刊自家用車「名車アルバム」より 加筆修整)
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2016/11/27 11:13:42