アルピナB3Sに一年乗ってみて、このクルマについての私の感想を、一年間の総括も兼ねて綴ってみよう、というこの企画。
毎度のことですが、「エンジン編」だけでもう第3話(汗)
エンジン以外にも書きたいことが沢山ありますので、今回をもって「エンジン編」を完了したいと思います。
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前回書いた通り、アルピナ(B3)とM社(M3)のパワー競争は、1995年に2代目M3が321psのハイパワーを獲得したときに本格化したと思われます。
そして、2000年に名機「S54B32」を搭載したE46ベースのM3が登場したことで、ことパワーに関しては一気にM3優位に傾きます。
おそらくアルピナ社内では、M3のモデルチェンジがなされた1995年と2000年の2度の時期において、M3とのパワー競争の方向性や、B3の位置づけ、クルマ全体での差別化などについて、多くの議論がなされたはずです。
以下は、私が想像する2000年におけるアルピナ社内での議論の様子です(完全にフィクションですから!)
(~2000年春~)
(B社長)
しかし今回のM3には驚いたな。最高出力343psだと!
しかも実質的に全く新しいエンジンを開発して、プライスはB3より若干安いというんだから。
このままでは我々の顧客はM3に流れてしまうぞ。
(販売(M)担当)
はい、おっしゃるとおりです、社長。
先代M3の321psに対しては、新型B3の投入により十分な競争力がありましたが、同じE46でここまでパワー差をつけられると…。
343ps対285psですって?笑うしかないですね。
でも、早急に対応が必要です。
(B社長)
しかしなぁ、今のE4/6の285psだって簡単じゃなかったのに、さらに大幅なパワーアップができるのか。
(技術(T)担当)
あのエンジンをどう弄ってもM3に追いつくのは無理ですね。新型エンジンを開発するなら別ですけど。
(B社長)
はは、面白い冗談だ。E4/6は改良してまだ1年ちょっとしか経ってないんだぞ。それに、これから新型エンジンを開発したとしても3年はかかる。
(M担当)
しかし社長、B3をこのままのスペックで3年以上も引っ張るのは難しいですよ。
B3はMモデルとは一線を画した商品性で一定のファン獲得に成功しています。
ですが、それは「速さ」を前提とした「快適性」や「上質感」ということであって、動力性能が見劣りするようなイメージになったら販売は苦しいですし、アルピナブランド全体にも影響します。
(B社長)
それはよくわかってる!(私を誰だと思ってるんだ?)。
だから、B3が全面改良される6年後まで、何とか競争力を維持するしかないんだ。
難しいのは承知のうえだが、次の改良型では320psを目標にする!
(T担当)
えーっ!そんな無茶な!
ターボとか付けちゃってもいいですか?ツインターボとか。
(B社長)
ば、ばかっ!ターボのことは社内でも口にするな!ましてや「ビ・ターボ」なんて!
NAでやれっ!
(~2000年秋~)
(T担当)
社長、改良型ができました。
(B社長)
おおっ!できたか!
で、何馬力だ?スペックは?
(T担当)
ご指示の通りに320psです。ストロークを更に4mm拡大して3450ccになりました。圧縮比も11.0まで上げました。
(B社長)
えっ!そんなにロングストロークにして大丈夫か?ボアは?
(T担当)
ボアは…。これ以上シリンダー壁を薄くするとヤバいです。なのでストロークを・・・。
(B社長)
でもそれじゃあ、ぶん回せないつまらんエンジンになったんじゃないか?
(T担当)
はい。確かにパワーは出てますが、ドライバビリティは全然ダメですね。
(B社長)
そんなエンジン作ってどうすんだ!結局ギブアップってことか?
(T担当)
いえ、社長がそう言うと思って、実はもう1基作ってみたんです。
こっちはボアをギリギリの87.0mmまで広げて、ストロークは前のままです。だから47ccしか増えてません。
(B社長)
なんだ、だったらそれを先に言え!
で、何馬力だ?
(T担当)
295psです。やっぱりこれが限界…。
(B社長)
オマエなー、たった10psしか増えてないじゃないか!
M担当、295psでM3の343psに対抗できるか?
(M担当)
うーん、正直難しいですね。販売上はやっぱり320psくらいないとM3に負けちゃうと思います。
価格がうんと安いんなら別ですけど。
(B社長)
オマエもなー、アルピナが値下げ競争してどうすんだ?
当社の顧客は、最高の品質を最高の価格で買ってくださるプライドの高い方々だ。
とにかく、この試作機をベースにもっとパワーを上げるんだ!
あとな、圧縮比11.0は高すぎてダメだ。これはもう少し下げてくれ。
(T担当)
えーっ!そんな、もう無理です~!
やっぱり、ツインターボはダメですか?
(B社長)
オマエなー!何度言ったらわかる、しかも「ビ・ターボ」なんて!
NAでやるんだ!
(~2001年春~)
(T担当)
社長、再改良型ができました。
(B社長)
おおっ!出来たか!
で、何馬力だ?スペックは?
(T担当)
なんとか315psまでいきました!
排気量はボア拡大のみで47ccアップの3346cc、シリンダーは4mm厚になりましたけど、鉄ブロックだし圧縮比も10.2まで下げましたから、耐久性は大丈夫です。
社長の言うようにストロークはそのままで、逆にボアを拡大することで、より高回転型のエンジンになりました。トルクピークは4500rpmから4800rpmに上がってます。
但し、エアクリーナーボックス、インマニとエキマニ、エグゾーストパイプを全てやり直してるんで、当社専用品になっちゃってます。
(B社長)
そうか、よくやったぞ。夏のボーナスは期待しててくれ!
ところで、エンジンの形式名はどうする?普通でいけば「E4/7」だが。
(T担当)
このエンジンは、S52型ベースでは究極のハイチューンエンジンになってます。
E4/6とは大幅にスペックが変わってますから、新しく「E5/1型」でいいんじゃないですか。
でも社長、こんな苦労しなくても、ターボ化したらもっと楽にパワーアップできたんですけど、ツインターボとか。
(B社長)
オマエ、また禁句を言ったな!「ビ・ターボ」なんて言葉は、当社内には少なくとも5年後までは存在しないんだ!
罰としてボーナスの話は無しだ!
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以上は私の完全なフィクションですけど、表現したかったのは、E4/6の完成度が高かっただけに、E5/1への改良はアルピナ社内でも一筋縄ではいかなかったんじゃないか、ということです。
B3Sのエンジンに関する私の理解が正しいかどうかはわかりませんが、運転してみて感じた「高回転域での荒々しさ」とか「いかにもハイチューンエンジン」といった、当初のイメージを覆すキャラクターを説明するには、意外と的を得てるんじゃないかと思っています。