
とりあえず今回のラリーで学んだ事は、ナビの基本でした。
ナビの仕事と言うのは、ペースノートを読む事でも、コマ図を読む事でも、ラリーコンピューターを弄る事でもなく、ドライバーの負担を減らす事なんですね。
極端な話、ドライバー一人でコマ図を読みながらラリコンを操作して走り続ける事は不可能ではありません。
しかし、そんな事をしていたら競技で勝つことはほぼ不可能です。
なので運転操作以外の些事を引き受け、ドライバーが運転に集中できる環境を整えるのがナビゲーターの仕事になります。
その為にはコマ図を読んでラリコンを操作しドライバーに適切な情報を与えるのはもちろんの事、ファイナルタイム(=チェックライン通過予定時間とのズレ)を距離から補正すると言った競技的な部分でのサポートに始まり、T字路を右折する際には左側の安全確認を行うなどの運転に対するサポート、落ち込んでるドライバーに対する精神的なサポートなど、様様な面でドライバーの負担を軽減させていくのが重要なのだとのことでした。
そう言う意味で、ナビゲーターってのは人間的にも出来た人じゃないといけないとの事でした。
競技的な部分でのサポートとしては、コマ図の読み間違えをしない事、チェックポイントの処理やパスコントロール(=走行速度が変更になるタイミング)の処理をきちんとする事、OD処理を間違えない事は当然の事。
その上でファイナルタイムの調整を行って移動区間での減点を0、最大でも1に抑えるのがナビの最低条件だとの事でした。
減点てのは、「指定された時間から何秒ずれたか」と言うものを表すもので、指定時間より早く着いても遅く着いても1秒につき1点の減点を食らいます。
移動区間でこの減点を貰ってしまうと、SS(=早く着いたら早く着いただけ良いとされる区間で、走行に掛かった時間がそのまま減点になる)で減点を取り戻すためにドライバーに物凄い負担を強いる事になってしまいます。
1周1kmのサーキットで1秒削るのに四苦八苦している身としては、「減点分のタイムをSSで挽回しなくてはならない」ってのがどれだけ厳しいのかってのが有る程度想像できます。
「ドライバーに負担をかけない」と言うナビの仕事からは遠く離れたものですね。
そう言ったことを踏まえたうえで、今回の自分のナビを評価すると、0点です。
今回私がやった重大なミスは、「補正係数の算出を間違える」と言う、話にならないものでした。
補正係数とは「自分の車のトリップメーターと、主催者側に指示された距離とを補正する値」の事で、ラリーにとって非常に重要な値です。
例えば主催者側に「10km先の信号を右に曲がる」と指示されたとします。
しかしこの距離は主催者側が自分達の車で測った距離なので、競技に参加する他の車とは若干距離がずれてしまいます。
万が一主催者側と同じ車であっても、タイヤがバリ山なのかツルツルなのかで直径が10mmは違います。直径10mmの差がどれだけ大きいのかといえば、195/55/15のタイヤ(直径603mm)で比べてみると、10kmで150m程度もズレてしまうことになります。
とすると先ほどの「10km先の信号」と言うのが、指示された信号の一つ前の信号と間違えてしまう事にもなってしまい、そうすると指定された目的地に到着する事ができなくなってしまうことになります。
それじゃあ競技が成立するわけありませんね。
万が一道を間違えなかったとしても距離が正確に出なければ、チェックポイントで減点を食らう事は避けられず、勝負争いなんて出来るはずもありません。
なので、補正係数と言うのは、非常に重要な値なのです。
じゃあ何でそんな重要な値の計算を間違えたのか。
それはラリコンの初期設定を忘れていたからです。
今回の競技前、2回目のラリーと言う事でラリコンの操作を思い出そうと色色弄っていました。
その際、補正係数の算出方法の復習と言う事で操作していたのですが、そうやって出した補正係数をそのままにしておいて競技に参加した為、OD区間(=補正係数算出用区間)で取得したトリップの値が既に補正の掛かった値になってしまっていた為、改めて補正係数を算出しようとしたら、全く分けの分からない値になってしまったわけです。
最初、「係数が0.78xxx(小数点以下5桁)です」とドライバーに報告したら、ドライバーの方が「えっ!?」ととても驚いていました。
私はその値がどれだけ常識はずれの値なのかサッパリ分からず、実際に走っていても距離が全く合わず「ナビがし辛いなぁ」とは思ったのですが、経験が浅い身としては「こういうラリーもあるのか」と、事の重大さに気づかず、指示された距離とトリップの値との差を報告する度にドライバーの方があわてる理由が全く分かりませんでした。
結局ドライバーの方の判断で、停車している他の車の方の補正係数を入れ、あとはドライバーの方の山勘で第1ステージを走りきる事にしました。
ラリー暦25年のドライバーの方の山勘は凄まじく、適当な補正係数であったにもかかわらず、第1ステージ終了時点で入賞が狙える圏内に減点を抑える事に成功。
第1ステージ終了後の移動区間で改めて係数を取り直し、第2ステージはその係数を使って走行。
結果、第2ステージの移動区間の減点は1区間辺り1以下に抑える事に成功。
第1ステージと第2ステージをあわせた移動区間の減点が他のチームの移動区間の減点よりも少なくなったため、SSのタイムが早かったうちのチームが3位に入賞する事ができました。
距離が合った第2ステージに於いても本来ならナビの役目である時間の補正をドライバーの方の勘で調整したため、私がやった事はトリップの値を記録し続ける事だけでした。
なので、3位に入賞できたのは全てドライバーの技量によるものであって、私自身の仕事の評価は0、むしろマイナスと言うわけです。
ドライバーの方にも競技後、「半年、1年も経験積んでるナビなら首にしてた」と指摘されました。
人生経験も長い温厚なドライバーにここまで言われるほど、私のやった失敗は大問題だったわけです。
以降のラリーの際には同じ事を繰り返しません。
* 写真は今回のラリーのSS区間の写真です。
本来ならここ以外の10区間は全てナビの仕事で減点減らすべきだったんですよねorz