
先日のニュースで気になる記事がありました。
●「排気量」から「CO2排出量」へ 経産省が自動車税制の変更検討
-MSN産経ニュース(産経新聞) 2008年8月24日 00時36分
経済産業省は平成21年度の自動車税改正において、課税基準を現行の「エンジン排気量」から「CO2(二酸化炭素)排出量」に変更することを検討している、と報道されました。
自動車税についておさらいしておくと、4月1日時点の所有者もしくは使用者に課税されるもので、2008年4月1日現在の税額は次のようになっています。
【自家用乗用車・自動車税額表 (2008年4月1日現在)】
エンジン総排気量 | 税 額(年) |
1リットル以下 | 29,500円 |
1リットル超 ~ 1.5リットル以下 | 34,500円 |
1.5リットル超 ~ 2リットル以下 | 39,500円 |
2リットル超 ~ 2.5リットル以下 | 45,000円 |
2.5リットル超 ~ 3リットル以下 | 51,000円 |
3リットル超 ~ 3.5リットル以下 | 58,000円 |
3.5リットル超 ~ 4リットル以下 | 66,500円 |
4リットル超 ~ 4.5リットル以下 | 76,500円 |
4.5リットル超 ~ 6リットル以下 | 88,000円 |
6リットル超 | 111,000円 |
【自家用軽自動車・軽自動車税額表 (2008年4月1日現在)】
課 税 対 象 | 区分 | 税額(年) |
四輪以上で総排気量が660cc以下のもの | 乗 用 | 7,200円 |
貨 物 | 4,000円 |
上記について、自動車税は都道府県、軽自動車税は市町村におさめることになります。
現在の課税基準は1989(平成元)年4月1日に改正された内容が基本。以降、近年は環境性能に優れた車種を対象とした「グリーン税制」が導入されて税額の軽減措置などが行なわれてきました。
1989年の改正は消費税の導入や物品税の廃止などが背景にあり、排気量2リットル超に対する税額が大幅に引き下げられたことが特徴です。
参考までに1989年まで適用されていた、1984(昭和59)年4月1日改正の内容を記します。
【参考:自家用乗用車・税額表 (1988年4月1日現在)】
車 種 | 区 分 | 税 額(年) |
普通乗用車 | 総排気量2,001cc ~ 3,000cc | 81,500円 |
総排気量3,001cc ~ 6,000cc | 88,500円 |
総排気量6,000cc超 | 148,500円 |
小型乗用車 | 総排気量 551cc ~ 1,000cc | 29,500円 |
総排気量1,001cc ~ 1,500cc | 34,500円 |
総排気量1,501cc ~ 2,000cc | 39,500円 |
軽四輪自動車 | 総排気量 550cc以下 | 7,200円 |
このように1989年の改正によって普通乗用車と小型乗用車の車種区分が廃され、課税基準排気量が細分化された上で、特に2リットル超についての税負担が軽くされました。
ゆえに、それまでは圧倒的に多数派だった"5ナンバー車"が減少、今では巷に"3ナンバー車"が溢れています。
さて、1989年の改正から既に20年近くが経過、この間に自動車社会を取り巻く情勢も大きく様変わりしています。
まず何といっても環境問題への対応が待った無しの状況となり、日本ではハイブリッド車が市民権を得るに至りました。また電気自動車の普及もいよいよ始まる気配が強まっています。
一方、近年のガソリン価格高騰などを受け、軽自動車やコンパクトカーの人気が高まっています。しかし一方では燃費性能で劣る大型のミニバンも高い支持を集めており、自動車メーカーにとっては大きな収益源となっています。
そんな中で報じられた今回のニュース。
欧州ではCO2排出量を基準とした自動車税を導入する動きもあるようですが、実際にこの方式が導入されると、どのような変化が生じるのでしょうか。
まず気になるのは各車のCO2排出量がどれほどなのか、ということ。
自動車に興味をお持ちの方ならば各車のエンジン排気量を知るのはたやすいことですし、排気量はおおむね"車格"や"車両価格"、ボディサイズに比例しているので、「排気量が大きい=税負担が大きい」というのは理解しやすい傾向にあると思います。
しかしCO2排出量はなかなかその具体的な数値を把握している人は少ないでしょうし、同一車種でも搭載するエンジンやミッション、車両重量、駆動方式などにより異なってきます。
そしてCO2排出量は決して車格やエンジン排気量、ボディサイズなどとは比例しません。
具体的な数値は各車のカタログの「環境仕様」欄に記載がありますが、果たしてその数値を知り得たところで「自分の車のCO2排出量は多いのか少ないのか?」という疑問が生まれるでしょう。
そこで調べてみました。
 | pdfファイルの閲覧にはADOBE READERが必要です。 |
※ | 記載内容は自動車メーカーのウェブサイト上に掲載されている「環境仕様書」を参照しています。 | ※ | 内容は2008年8月29日現在のものです。 |
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※上記pdfファイルの転載は固く禁じます。
独自調査ではありますが、各自動車メーカーのウェブサイトにある乗用車と一部商用車について、掲載されている「環境仕様書」の内容を参照して一覧化したものです。
なお掲載したpdfファイルについては、CO2排出量の少ない順に並べたものとなっています。
この表を見ていくと、いくつかの興味深い事実が見えてきます。
CO2排出量の少ない上位にハイブリッドカーが名を連ねているのは想像通りの結果。
さらに軽自動車やコンパクトカーが続くのも、大方の予想通りという感じです。
概ね排出量が110g/kmあたりまでは軽自動車が多いのですが、そんな中に2,362ccのガソリンエンジンを搭載している「
トヨタ・
エスティマハイブリッド」が登場しています。
排出量は116.0g/kmで「
三菱・
ekワゴン」や「
スズキ・
パレット」の一部類別と同じ値です。
ハイブリッドカーのCO2排出量が少ないことは写真の「
レクサス・
LS600h」でも明白で、190.0g/kmという数値は「
スバル・
フォレスター」のメーカーオプション装着車と同じ値。
レクサスの搭載するエンジンは排気量4,968cc、対してフォレスターは1,994cc。ただしフォレスターはインタークーラーターボ付エンジンであることと、オートマチックが4速仕様であること、そしてメーカーオプション装着により車両重量が大きい仕様であることなどを背景とした結果です。
車両重量や駆動方式、変速機が与える影響は小さくありません。
まず全体的にいえるのは、4輪駆動車は排出量が多くなる傾向にあります。
例えば「
日産・
セレナ」の場合。2輪駆動車は176.0g/kmですが、4輪駆動車になると193.0g/kmに増加します。
変速機という要素が絡むと、更に複雑化します。
「
ダイハツ・
ムーヴ/
ムーヴカスタム」の例を見てみましょう。
最も排出量が少ないのは2輪駆動の5速マニュアル仕様で98.8g/km。逆に最大はターボエンジンを搭載した4輪駆動の4速オートマチック仕様で129.0g/km、実に3割も排出量が増えています。
もっと細かく見ると同じ2輪駆動同士でもCVT仕様は100.9g/kmですが、4速オートマチック仕様になると110.6g/kmとなります。高効率のCVTがCO2排出量の低減にも役立っているということを現しています。
さて、別表のような"ランキング"になりましたが、単純にCO2排出量を課税基準とした場合、この表の順に税負担が重くなるということになるでしょう。
もちろん適当な数値ごとに区切る段階課税になるでしょうが、排出量数値が同じであったり近い車種同士は税額も同じになるのが必然。
ということは・・・。
一例をあげると、ラージミニバンクラスの「
トヨタ・
エスティマハイブリッド : エンジン排気量2,362cc/10・15モード燃費20.0km/Liter/車両本体価格436.8万円(7人乗りG仕様)」、コンパクトカークラスの「
日産・
マーチ : エンジン排気量1,240cc/10・15モード燃費19.0km/Liter/車両本体価格121.5万円(2WDの12E仕様)」、そして軽自動車の「
日産・
オッティ : エンジン排気量657cc/10・15モード燃費19.0km/Liter/車両本体価格114.4万円(2WDのE仕様)」はそれぞれCO2排出量122.0g/kmと同数値のため、必然的に自動車税額も同じになる可能性があるということです。
環境性能に優れる自動車の税負担を低減するということは時代の要請にも適うものといえます。
しかし、軽自動車ユーザーにとっては負担が増えることになると想像できますし、降雪地帯で普及が進んでいる4輪駆動車のユーザーにとっては一層重い税負担を強いる結果にもなりかねません。
一方で軽自動車の優遇税制が現状のままで良いのかにも疑問があります。
軽自動車は日本独特のカテゴリーとして成長しており、今や"白ナンバー"と全く変わらない豊富なラインナップを各社が揃えるに至りました。
セダン型、ハイトワゴン型、ワンボックス型、SUV型、スポーツ型と、一通りが揃っています。
しかし、庶民への自動車の普及を目的としていた軽自動車の優遇税制ですが、今や一部の軽自動車はベーシック仕様の"白ナンバー"を上回る豪華装備や性能を誇るものも出てきています。
今回のCO2基準課税ではターボ車などには不利になるので理にはかなっていますが、ベーシックな軽自動車ユーザーに大きな税負担を強いるような結果だけは避けたいところ。
ベーシックな軽自動車はなにしろコンパクトな車体という社会インフラ的に見ても大きなメリットがありますので、優遇税制を残す理由となるものでしょう。
今回の自動車税改正検討については、方向性としては間違っていないように思います。
しかし単純にCO2排出量のみで課税した場合は色々と混乱も生じることでしょう。
政府、関係官庁、業界団体、自動車メーカー、環境関連省庁や団体といった、数多くの思惑も見え隠れするような気がする一連の動き。
ぜひ、時間をかけてしっかりした議論を重ねた上で結論が導き出されることに期待したいと思います。
そうそう、こういった話題については本来ならばユーザー保護の立場から「
JAF(社団法人 日本自動車連盟)」や、各自動車雑誌・自動車ジャーナリストを称する面々などが声を出すべきなのでしょうが・・・。
いずれにも期待できないのが正直な現状であることが残念でなりません。