
年明け早々、お正月気分の真っ只中で次のような報道がありました。
●交通事故死5155人、最悪だった70年の3割程度に
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asahi.com(朝日新聞社) 2009年1月2日 22時12分
昨年、2008年の全国における交通事故死者数は5,155人となり、前年のおよそ1割減となりました。
都道府県別の死者数では愛知(276人)、埼玉(232人)、北海道(228人)がワースト3。
逆に少ない方は鳥取(30人)、長崎(40人)、島根・徳島(42人)の順となっています。
●道内交通死、228人 56年ぶり250人下回る 全国ワースト3位
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北海道新聞 2009年1月1日 8時10分
1992(平成4)年から13年連続で交通事故死者数のワースト1が続いていた北海道は、4年連続でワースト1を脱しています。
多いときには年間で600人以上が交通事故死していた北海道ですが、今ではピーク時の半数以下にまで抑制することに成功しています。
さて、このように交通事故死者数が減少を続けている背景には何があるのでしょうか。
●交通事故死なぜ減少?シートベルト・飲酒運転の罰則強化も
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YOMIURI ONLINE(読売新聞) 2009年1月3日 9時58分
読売新聞が記事上で検証した内容を見ると、大きく分けて「道路交通法の改正」と「自動車の衝突安全性向上」を理由として挙げています。
前者については特にシートベルトの全席着用義務化と、飲酒運転やひき逃げの厳罰化が効果を見せていると解説されています。
確かにこれらは着実に効果を上げていると思います。
しかし残念ながら免許を取得して10年を越えるようなベテランになるほど、"悪い癖"をそのまま引きずっている傾向が見受けられます。
私の周囲でも、特に自動車媒体やモータースポーツといった分野で仕事をしている本来は多くのドライバーのお手本となるべき立場の人であっても、後席でのシートベルト装着を面倒がったり、飲酒運転に抵抗を感じていない人が未だに存在しています。
こうした状況を改めるためにも、徹底的な取締りを当局には求めたいところ。
それこそ毎週末の夜間飲酒検問実施や駐車場を有する店の多い盛り場のパトロール、高速道路でのシートベルト未着用取締りを強化してほしいと思います。
次に自動車の安全性向上については、これもようやく衝突安全ボディや各種安全デバイスを装着した車両が普及を進めたことで効果を見せてきていると思います。
現在、自動車は買い換え需要の冷え込みから一台の寿命が伸びる傾向にあり、現在はおよそ13年で廃車を迎えると言われています。
13年前、1996(平成8)年と言えば初代マツダデミオや、GDIエンジンを搭載した三菱ギャランなどがデビューした年。
既にエアバッグやABSなどの普及はベーシックカーにも進み始めていました。また、前年にはトヨタが"GOA"の愛称で衝突安全ボディを訴求、自動車の安全性に対するユーザーの関心が一層高まることとなったのです。
つまり、現在街中を走っている乗用車のほとんどが衝突安全性を高めた以降のモデルということになり、単独事故はもちろん、複数台が関係する接触事故でも安全ボディやデバイスが互いに機能して事故の人的被害を抑えてくれていると考えられます。
もちろんこうしたデバイスが有効に機能しても、乗員がシートベルトを装着していなければ何の意味もありません。
未だに交通事故のニュースで"車外放出"による死者の発生を伝えるケースがありますが、いっそシートベルト未着用での交通事故死については法的に装着を免除されているケースの場合を除き、被害者側/加害者側問わず保険金を支払わないといった強いペナルティを課しても良いのではないでしょうか?
シートベルト着用という手間もかからない当たり前の義務すら果たせない人は、そもそも車を運転するのはもちろん、車に乗る資格も無いと思えるからです。
さて、交通事故の死者数減少について、最後にもうひとつ独自の検証をしてみたいと思います。
私が個人的に死者数減少の要因として大きいと感じているのは「車に対する価値観の変化」にあります。
もっと言えば「公道でスピードを出すことが格好良い、という前時代的価値観の衰退」にあります。
警察庁の資料によると、1989(平成元)年度の違反別死亡事故件数は、"その他"を除く項目のワースト1が「最高速度違反」であり、死亡事故件数10,570件のうち23.1%を占める2,443件となっています。
これが2007(平成19)年度では死亡事故件数5,587件のうち8.0%を占める449件にまで減少しているのです。
対して増加傾向を見せているのが「わき見運転」で、1989年の934件(8.8%)から2007年では744件(13.3%)となっています。
これに似た「漫然運転」という項目が2007年は項目別のワースト1であり、814件(14.6%)となります。ちなみにこの項目は1989年には設定がありません。
細かくどういった状況が該当するのかは調べていませんが、おそらくは携帯電話の使用やカーナビゲーション操作、テレビを見ていた、などという行為が事故原因になったものと思います。なにしろこれらは1989年当時はほとんど普及していなかったので事故原因になる筈も無く、ゆえに項目そのものが無かったのではないかと想像します。
このようにデータからも一端を垣間見れますが、なんとなく自分自身、公道上を走る自動車の平均速度が下がってきているように思います。
要因のひとつには2003年9月からの大型貨物車に対する速度抑制装置装着義務化があるでしょうか、それも含めて乗用車も無謀な高速運転をしている車が減っているように思えます。
これは年に数回、北海道で運転するときに特に感じています。
その昔はごく普通の人でも郊外であれば制限速度や法定速度を20~30km/h超過して走るのは当たり前の光景だったものですが、近年はそのような運転をする車をめっきり見なくなった印象です。
「車は如何なる時も速く走ってナンボ」といった価値観は既に時代遅れ。
ようやく真っ当な交通社会がやってきた、そのひとつの現れが交通事故死者数の減少なのかもしれません。
そして、この状況はモータースポーツにもチャンスの筈です。
なぜならその名の通り"スポーツ"として健全に発展させる良い機会にもなり得るから。公道とクローズドコースを明確にわけ、スポーツのツールとしての自動車という側面をきちんと訴求することが出来るわけです。
これまでのモータースポーツは暴走族と一緒に一般社会で見られがちでしたが、実際にはそれほど変わらない感覚の持ち主も存在したように思います。
レーシングガレージが違法改造車を街中で走らせたり、車検非対応パーツを一般に広く販売したり。
こんなことをやっているから、健全な発展が出来ずにここまで来てしまった面も、少なからずあるのではないでしょうか。
自動車における"速さ"や"運転する"という魅力や、"競い合う"ことの楽しさ。
これは例え電気自動車やハイブリッドカーであってもなくなることはあり得ません。それは自動車というものが実用性と併せて持っている基礎的な部分だからです。
だからこそ法規に則り、実用面とスポーツ面をきちんと分けて相互発展させていく必要性があるのではないかと強く思っています。