
うちの社用車2号機は
三菱ランサーエボリューションVII GT-A。
一部の硬派なユーザー層からは「ラン・エボでオートマチックなんて・・・」と揶揄される存在でもありますが、走りのDNAは間違いなく受け継がれています。
最近のランサー・エボリューションは、まさに電子制御の申し子。
1992年秋に登場したエボリューションIから4輪駆動方式が絶えず採用されてきましたが、ベースがモデルチェンジを受けたエボリューションIVからは後輪に「AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)」というシステムが採用されました。
このシステムは電子制御によってリア左右輪の間で積極的にトルクを移動させようというもの。
コーナーリング時には外側のタイヤに内側のタイヤよりも多くトルク配分することで旋回性能を高めています。
さらにエボリューションVIIIからは最大トルク移動量を従来比約2倍にした「スーパーAYC」に進化。
エボリューションIV以降、ワゴンボディや競技車両ベースグレードにこそ設定されないものの、「AYC」はランサー・エボリューションを象徴する装備のひとつになりました。
モータースポーツ界では「AYC」は取り外される傾向にあります。
競技車両ベースグレード「RS」が最初から「AYC」を装備していないことでも明らかですが、軽量化を優先したり、ドライバー個々のフィーリングを崩さないために「AYC」は不要とされています。
しかし、スーパー耐久シリーズでは一部の車両が「AYC」を装着してレースに参戦しています。
ラリーやジムカーナ、ダートラなどと異なり、サーキットレースでは間違いなく「AYC」は効果的なアイテムであると言えるでしょう。
これはサーキットで観戦すると一目で分かるのですが、「AYC」を装着して使いこなしているマシンは明らかに非装着車とコーナーリングライン、そしてコーナーリングスピードが異なります。
若干の重量増と引き換えに、それを補って余りあるタイムアップを果たしているのは間違いありません。
ということで、うちの社用車2号機にもAYCは装着されています。
2号機購入前、個人的には取材などでV、V TM、VI、VII、VIII、VIII MRと歴代のラン・エボに乗った経験がありますが、特に「スーパーAYC」に進化したVIII以降はサーキットコースのような特殊なシチェーション以外でもその効果を明確に体感できました。
「いつもならここで軽くブレーキングして・・・」
というようなコーナーに対して、ラインさえきちんと読めば、あとは基本的に蛇角を一定に近くしてアクセルを踏み込んでいくとグイグイと曲がってくれる印象です。
そこで思い出したことがひとつ。
今から10年前の1996年。当時私はサーキット場の職員でしたが、ある日曜日のショップ主催走行会にデビューしたばかりのエボリューションIVで参加していた人がいたのです。
曰く「エボリューションIIから乗り換えてのデビューランです!」。
馴らしは既にこの日に向けてきちんとされていた模様。
60分の走行枠、20分ほど走った彼は興奮気味に語りました。
「いや~、凄いですよこの車。かなりタイムアップしちゃいそうです」
確かに途中経過をモニターで見ると好タイム。彼自身のエボIIでのベストは既にクリアして参加者中上位に陣取っていました。
当時の走行会ではエボリューションはまだまだ少数派。
スカイラインやシルビア、インテグラなどが多かったように記憶しています。
彼はスカイラインあたりをターゲットにしたのかもしれません。
一層のタイムアップを目指した終盤20分間。
彼の車は2コーナーで激しくスピン、そのままガードレールに激突してしまいました。
幸いにドライバーは無事でしたが、車は間違いなく廃車。
帰って来た彼が言いました。
「どんどんアクセル踏んでも曲がっていくので、もうちょっと、もうちょっとってやっているうちに・・・。調子に乗りすぎましたかね・・・。」
結局、彼は「AYC」に"乗せられていた"のではないでしょうか。
「AYC」は何のための装備なのか。
多くの車に設定されている「トラクション・コントロール」のような安全確保重視の装備ではないでしょう。
やはり「AYC」はサーキットでのラップタイム向上のための装備、と位置づけられると思います。
しかし、装備の内容や効果を正しく理解していないとドライバーの過信を招き、前述のような結果を産んでしまうかもしれません。
私は常々思っているのですが、なぜ「AYC作動警告灯」を装着しないのでしょうか。
「警告灯」というと語弊があるのならば「AYCインフォメーションランプ」とでも呼べばいいかもしれません。
「AYC」が作動しているということは、つまり非装着車の限界点を超えた部分に電子制御が導いている状況、という可能性もあります。
その遥かに高い限界点で更に無理をすると・・・。
そこからリカバリー可能なドライバーなど、果してこの世に何人いるのでしょうか。
三菱自動車の開発関係者の方には「AYC作動表示」を強くお願いしたいと思っているところです。