今回は、去る1月31日に発表・発売された
三菱自動車工業の「
デリカD:5」について、インプレッションをお届けします。

「
デリカD:5」は1968年にデビューした「デリカ」からの流れを汲む、三菱を代表するミニバン。
もっとも初代デリカは商用車として誕生したもので、発表翌年の1969年にワゴン型の「コーチ」が追加され、ここからデリカの"乗用車"としての歴史がスタートします。
1979年に二代目モデルへとスイッチ。
直線基調のキュービックスタイルが個性的でしたが、やはりデビュー当初は商用イメージが強いものでした。
しかし1980年代に入るとライフスタイルの変化や景気動向により、徐々にデリカは注目を集める存在となっていきます。
アウトドアレジャーが注目を集め、都市生活者の自然回帰思考が強まっていく中で、車に対しても悪路走破性の高い4WDモデルが注目されるようになっていきます。
その中心は1982年にデビューした「
三菱パジェロ」。
それまでの国産クロカン4WDには無かった乗用車的な洗練度の高さと本格的な悪路走破性が、特にパリ・ダカールラリーでの活躍を通じて全国に知れ渡り一大ブームを巻き起こしました。
そして同じく1982年、二代目デリカに4WDモデルが追加ラインナップされます。
こちらも既存2WDモデルの単純な4WD化ではなく、当時ラインナップに名を連ねていた4WDピックアップトラックの「フォルテ」をベースとして本格的に仕上げられたもの。
その卓越した性能とユーティリティ性の高さがアウトドア派に広く受け入れられていきます。
1986年に三代目にモデルチェンジ。
「スターワゴン」のサブネームを冠したこのモデルは、バブル景気とアウトドアブームの一層の高まりという時代背景もあって、都市部から地方まで全国各地で大人気となりました。
特に経済性とトルクフルな走りに優れたターボディーゼルエンジンと4WDの組み合わせが主流。
大径タイヤ+高めの車高+車体前部のカンガルーバーと補助ランプ、という典型的なクロカン4WDスタイルをまとった1BOXとして、唯一無二の独自性を発揮。
他社も1BOX車種に4WDを投入して牙城の切り崩しを図りましたが、パジェロ人気との相乗効果もあってデリカスターワゴンは圧倒的な支持を集めて行ったのです。
1994年に四代目へとバトンタッチ。
このモデルでは「スペースギア」というサブネームが与えられ、乗用車色を強めてサイズも拡大されましたが、本格的な悪路走行を好むユーザー向けに1999年まで「スターワゴン」が併売されていました。
もちろん「スペースギア」もパジェロと共通の4WD機構を有し、その走破性能はミニバンのレベルを遥かに超えたものでした。
しかし基本は5ナンバー枠の縛りを受けた中で開発されたので、ボディは縦に長く幅が狭い作りとなり、そこに高めの全高となるので安定感に欠けた感じも否めないものでした。
「スペースギア」もミニバンにクロカン4WD的な要素を求める全国のユーザーから高い支持を集めました。
しかし徐々に強まる景気後退の嵐に直撃され、一時期のようなブームにはなりません。
更に東京都に端を発したディーゼルエンジンへの風当たりの強まりは、ディーゼルを主力としていたスペースギアには厳しいものがありました。
そして遂には
三菱自動車工業のリコール隠し発覚という大スキャンダルにより、市場における存在感はミニバンの隆盛化に取り残され、非常に薄いものになっていってしまったのです。

しかしここにきて
三菱自動車工業も経営体質が安定してきたようで、過去の反省に基づいて良い商品を次々にリリースしてきています。
今回ご紹介する「
デリカD:5」はご存じの通り、「
三菱アウトランダー」とコンポーネンツを巧く共用させて開発したモデル。
デザイン上は歴代のデリカ、特に大人気となった三代目「スターワゴン」の面影をも感じさせる、スクエアながら張りのあるクリーンなものです。

ボディサイズは全長4730mm×全幅1795mm×全高1870mm。
実はこのサイズ、ボックス系ミニバンで言えば
トヨタアルファードのようなLL級ミニバンよりは一回り小さく、
ホンダステップワゴンのような5ナンバーサイズミニバンよりは一回り大きなもので、直接的なライバル関係になる車種が見当たらないものなのです。
全長×全幅では高さの低い
ホンダオデッセィが近い感じですが、そのキャラクターは全く異なります。
ということで最初に極端な事を言ってしまうと、「スタイルでも4WD性能でも、何でも良いので
デリカD:5を気に入ったのであれば、他に比較すべき対象は無し!」ということにもなります。

先に書いたように「
アウトランダー」とコンポーネンツを共用する「
デリカD:5」。
エンジンも共通で「
アウトランダー」と共にデビューした三菱の新世代4気筒エンジン「4B12型」のみの設定。
排気量2,359ccのDOHC16バルブで、最高出力は125kW(170ps)、最大トルクは226Nm(23.0kg-m)となっています。
もちろん「
デリカD:5」専用にチューニング。
このエンジン、燃料はレギュラーガソリン指定となっているところが嬉しいですね。

トランスミッションはベルト式CVT「INVECS-III」のみを組み合わせており、中間仕様以上には6速スポーツモード(ステアリングパドル式)が奢られます。
現状、駆動方式は4WDのみの設定となり、こちらも「
アウトランダー」同様にインパネのダイヤルでフルタイム4WD/4WDロック/2WDを選択できる「アクティブ・トルクスプリット4WD」を搭載。
実際に「
デリカD:5」を走らせるにあたってはアンダーパワー感が強いことを懸念したのですが、その心配は当てはまりませんでした。
東名高速道路の巡航などでは合流や追い越しの加速も全く不足を感じません。
もっとも、きつめの上り勾配で多人数乗車時には少々物足りなさを感じてしまいそうですが、実用上は現状で全く問題ありません。
ただ、4500rpmを超える高回転領域までエンジンを回すと騒音のレベルが高まってしまいます。
いわゆるLL級の「高級ミニバン」とは異なるキャラクターであることを実感する場面でもありますが、もうちょっと走りやNVHについては洗練度を高めてほしいところでもあります。
ドライバビリティは非常に好感触。
効率のよいCVTはDレンジで走っても良いですが、ステアリング奥のパドルを積極的に操作しての走りも楽しめます。
このパドルシフトはなかなかの出来ばえで、ほぼタイムラグ無しにシフトアップ&ダウン操作が可能。
しかもセレクターレバーはそのままに、パドルを操作するだけでマニュアル操作モードになります。また、右パドルを長引き(約2秒)すると自動変速モードに切り替わってくれるので、とても操作性が良好。
車両重量のあるミニバンでは停止や減速時にエンジンブレーキを活用したい場面も少なくありませんから、こうした操作性の高さはドライバーへのメリットが大きく嬉しい装備です。
高速巡航時の安定感はとても高く、横風などの影響もそんなに気になるレベルではありません。
旧「スペースギア」はとかく安定感に欠ける走りが不安を掻き立てたものですが、この「D:5」であれば女性ドライバーでも安心してステアリングを握ることが出来るでしょう。