ここ数日のニュースを賑わしたのが、道路特定財源の一般財源化に関する政府と
自由民主党の駆け引き。
安倍晋三首相は厳しい国の財政事情から、道路整備に使途を限定している「
道路特定財源」について、一般財源として使途を自由にすることを目指しました。
しかしこれに
自由民主党の"道路族"と呼ばれる議員が猛反発。
すったもんだの挙げ句に政府と
自由民主党は次のような合意にこぎつけました。
1.現行の暫定税率を維持する
2.税収全額を道路整備に充てる仕組みは改め、08年の通常国会で所要の法改正を行う
3.毎年度の予算で道路歳出を上回る税収は一般財源とする
さらに「地方の活性化や自立に必要な基幹道路整備などを地域の自主性にも配慮しながら適切に措置する」という一文も加えられました。
こうした一連の経緯に対するマスコミの反応を新聞各社の社説から見てみましょう。
まず政府と
自由民主党の合意前の論調。
●「道路財源」で試される首相の指導力
-日本経済新聞 2006年12月6日 社説
●道路財源 安倍改革が試される
-朝日新聞 2006年12月6日 社説
●道路財源見直し 特定財源存続への道断て
-産経新聞 2006年12月7日 社説
このように全国紙の論調は全て「一般財源化せよ」というものでした。
財政が厳しさを増す中で、特定既得権の確保は許されないというもの。確かにその通りです。
未だに予算消化のためと思われる道路工事が年末や年度末には行われています。
また、いい加減な需要予測で道路建設が進められ、特に高速道路については採算が全くとれない路線も数知れず。一方で都市部や都市間の幹線道路では渋滞が慢性化しています。
さて、政府と
自由民主党の合意後の各社の論調。
●[道路財源改革]「玉虫色で終わった一般財源化」
-読売新聞 2006年12月9日 社説
●特定財源 道路延びて、国滅ぶ
-朝日新聞 2006年12月8日 社説
●道路財源見直し 安倍政権は族議員に屈した
-MSN-Mainichi INTERACTIVE 2006年12月9日 社説
安倍首相のリーダーシップを問う論調が目立ちます。
一般財源化への道は多少開かれたものの、事実上は反対派の勝利である、という内容に終始しています。
確かに結果を見ればその通り。
今回の政府 vs
自由民主党反対派の戦いは後者の勝利と言えるでしょう。
しかし、この論調が地方紙では多少変わってきます。
●道路特定財源 一般化に向けて出直せ
-東京新聞 2006年12月8日 社説
東京新聞はこのように一般財源化推進の立場。
●道路特定財源*これでは筋が通らない
-北海道新聞 2006年12月9日 社説
●[道路特定財源] 地方の現実を見る目も
-南日本新聞 2006年12月7日 社説
一方、北と南それぞれの地方紙は特定財源の堅持を主張しています。
つまるところ問題の根底には、日本道路公団民営化問題の時と同様に「都市 vs 地方」という対立の図式が成り立っています。
しかし、地域エゴ丸出しの構図が見えるだけに、なんとも空虚な感じがしなくもありません。
私は北海道出身、現在東京在住。
北海道十勝地方は典型的な公共工事依存地域であり、まさに「土建屋王国」。そこを地盤に有力政治家が輩出されていますから、まるでマンガみたいな旧態然とした体質が色濃く残っています。
しかし一方では個人の移動手段としての自動車は非常に重要な存在であり、18歳以上で運転免許/自動車を持っていないと通学も通勤もままならないというケースは珍しくありません。
一方で東京は公共交通機関が発達しているので、自動車を保有していないという世帯も少なくありません。
しかし自動車が無ければ社会活動を続けられるはずがありません。
環境対策に向けた自動車利用の抑制も必要になってきていますが、その反面では慢性的な渋滞と道路網の不備によって経済損失も多く発生しています。
こうした都市と地方、それぞれの状況を比較したときに、今回の問題はもう少し別の観点から考えられないものでしょうか。
不思議なのは特定財源維持と一般財源化のいずれにしても「現状の税率維持」が前提とされている点。
揮発油税、自動車重量税、軽油引取税、自動車取得税、地方道路譲与税と実にこれだけの税金が「暫定税率」で運用されています。
特に自動車重量税は本則税率の2.52倍、揮発油税は同じく2倍の暫定税率が課せられ続けてきました。
このお題目が「利用者負担の原則に基づき、全国的な道路整備の推進を図るため」。
少なからず一般財源化するのであれば題目に沿わなくなるのですから税率は本則に戻すべきですし、特定財源を維持するにしても余剰金が出ているのであれば税率の変更を検討するのが筋というもの。
しかし政府も
自由民主党も、さらには全国紙マスコミ各社もこの点には全く触れていません。
自動車は環境に良くないからもっと税金を課すべき、という過激な論調も一部に見られますが、果してこれで良いのでしょうか。
これからの高齢化社会、社会インフラの整備において道路・交通網はどのようにしていくのが良いのでしょうか。
地方では鉄道やバスが採算面の問題で廃止されるケースが相次いでおり、自動車はますます社会生活で必要性を増しています。
しかし、高齢化社会が進むと、やはり個人個人が自動車のみに頼りきる生活というものにも限界が見えてきます。
地方における公共交通機関の確保・維持にはこれから相当額の予算が必要になってくるのではないでしょうか。
また、単に「無いところに道路を作る」のではなく、高齢ドライバーの増加を見越した「既存道路の安全性向上」に向けた公共工事の推進や予算確保も重要な課題になりそうな気がします。
もちろんこの他にも自動車については一層の環境・安全性能向上が求められていますので、こうした分野の研究開発についても国家として予算を確保して取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。
個人的な考えとしては、
1.「道路を作り続ける」政策を見直す
2.新規に作る道路については必要性や採算性を十分吟味し、公正な方法で予算を決める(談合の排除)
3.既存道路の改良(高齢化社会に向けた事故防止や円滑な物流の推進)
4.地方公共交通機関の維持
5.自動車の環境・安全性能向上に向けた研究開発
このような点に的を絞った総合的な交通行政の推進を臨みたいところです。
きちんとしたビジョンが見えるのであれば暫定税率を本税率にしても構わないでしょうし、もう少し増税されることもやむを得ないと思います。
それにしても不思議なのは、こうした自動車にまつわる社会的な問題について「自動車ジャーナリスト」と称する皆さんは特に発言するでもないんですよね。
何の社会的影響力も無い「ジャーナリスト」っていうのもどんなものなんでしょうかね・・・。
Posted at 2006/12/10 13:56:30 | |
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