
既に各メディアで報道されインターネット上でも活発な議論が展開されていますが、
首都高速道路は2008年秋に「
距離別料金」への移行を予定しています。
一般の高速道路は距離に応じて通行料金が課せられていますが、
首都高速道路の場合は複数の料金圏が設けられ、その範囲内での均一料金制が採られてきました。
現在、メインとなる東京線の通行料金は普通車の現金払いで700円。
ETC装着車両が無線通行をした場合は660円となっており、更に時間帯や曜日によっての割引が設定されています。
これを新たに一般の高速道路と同じように走行距離に応じて料金を課金しようというのが今回の料金制度改定案。
その根拠は均一料金制度の不公平感是正とされていますが、例えば3号線東京料金所から6号線三郷料金所までの距離は42.5km。
一方で短距離利用の極端な例としては3号線下りで三軒茶屋ランプ入口→三軒茶屋ランプ出口間830mという利用方法もありますが、この場合でも前述の東京~三郷と利用料金は同じです。
ちなみに東京~三郷間の距離に近い、東名高速道路の東京~秦野中井間(44.0km)の通行料金は1,650円。早朝夜間割引適用で850円となっています。
今回の
首都高速道路における料金制度改定にあたっては、上限料金をいくらに設定するのかが最大の注目点でした。
そして発表された金額は1,200円。一方で最低料金を400円として、走行距離に応じて段階的に課金し、東京線の場合18.2kmを中間点に定めてこれ以上の距離を走行すると現行の料金700円よりも値上げということになる案が示されています。
この案では通行車両の54%が現在の700円よりも安価な料金で済み、一方で700円以上となる値上げ対象は46%であるので過半数の利用者にとっては値下げになると示されています。
振り返ってみると
首都高速道路の通行料金が現在の700円になったのは1994年。
既に13年が経過しており、その間に湾岸線が浦和戸田線が拡充され、まもなく中央環状線の4号・新宿線と5号・池袋線の間も開通します。
このように新規路線も拡充していることから、私としては料金の改定措置に対しては全面的に反対するつもりはありません。
距離別料金制度の採用も理に適っている部分もありますので、それはそれで良いのではないかと思っています。
また「高速道路は本来無料化すべき」という意見も一部にありますが、
首都高速道路のような都心部の交通についてはロードプライシング的な意味合いを含めて有料のままでも良いのではないかと思います。もっともその収入が
首都高速道路という一企業の利益拡大にのみ貢献するのは問題だと思いますが。
しかし今回の距離別料金制度導入に向けた動きには、少々納得しかねる部分も散見します。
例えば、最近は
距離別料金への移行を踏まえて「
距離別料金社会実験」が行われています。
こうした実験によって料金改定後の変化を探ることは大切です。しかしなぜか実験は「割引」についてのもののみであり、多めの距離を走行した時に生じる「値上げ」についての検証は一切行われていません。
今回の料金改定で懸念されることのひとつに、高価になった通行料金を嫌った大型車の都内一般道への流入があります。
これについては現在も行われている湾岸線や中央環状線への誘導を料金面での優遇なども設けて行うことでの混雑緩和や一般道への過剰流出阻止が必要であるかと思います。
そうしなければ、環状八号や環状七号、国道16号などに予想を超える数の大型トラックが流れ込んでこないとも限りません。
こうした事態が実際に起こるのか否かを、「値上げ実験」によって確かめておく必要性があります。
あと気になるのが、いかにも官僚的な制度改正の進め方。
国土交通省の
社会資本整備審議会 道路分科会 有料道路部会という官僚主導型の公聴会的なものの答申も受けての制度改正と言っていますが、中間答申の都合のよい部分だけを抽出して裏付けにしているように感じます。
またこの部会そのものが官主導の"お手盛り要素"が強く、答申を見る限りは具体的な内容・施策に欠けており影響力が強いようには思えません。むしろ官が作った国民や高速道路ユーザーに向けた広報組織のように見えてきます。
現在、
首都高速道路では一般からの意見を募集しています。
そこにはおそらく、上限価格の引き下げを求める声が多く寄せられることでしょう。
700円から1200円への改定は70%以上という大幅な値上げ。当然、非難の対象となるであろうことは、
首都高速道路も予想出来ているはずです。
そこで予想ですが、集まった意見や前述の部会答申など"民の声"を受けたというかたちで、最終的には900円程度に上限価格が設定されるのではないでしょうか。この場合の値上げ率は28.5%、それでも結構な率ですが70%に比べると受ける印象は相当に変わってきます。
こうすることで一連の民営化の流れが成功をおさめているように見せかけることも出来て、、
首都高速道路としては当初予定とおりに丸くおさまる、という流れが出来上がっているように思えて仕方ありません。
しかもこの先数年のうちに消費税の引き上げが実現すると、料金収受システムの
ETC化が進んでいることもあって値上げの実務作業が簡単に行えるようになっています。
私は先に述べたように距離制料金の導入も、上限価格を現行料金よりも高く設定することにも大反対という立場ではありません。
ただ、姑息な官僚主導のやり方が見え隠れしていることが気に入らないことと、官僚に踊らされて道路行政の本質にメスを入れられていない
社会資本整備審議会 道路分科会 有料道路部会の存在に納得がいかないだけなのです。