■アウトライン
イタリアの自動車メーカー、フィアットを代表する歴史的な名車が「500(チンクエチェント)」。
初代は1936年に登場、そのフロントフェイスがハツカネズミに似ていることから「トポリーノ」という愛称でイタリア国民に親しまれました。
1955年に初代の製造が終了、新たに「FIAT 600」が登場。しかし、より小型で安価な車を求めるマーケットに対応するために1957年に"二代目"となる「FIAT 500」がデビュー、こちらも国民車として高い支持を集めました。
そして2007年夏に大人気を博した二代目の面影を色濃く残しながらも現代の社会に通用する商品力を備えた"三代目"の「500」が登場。
ちなみに「500」の駆動方式は初代がFR(フロントエンジン・リアドライブ)、二代目はRR(リアエンジン・リアドライブ)、そして三代目がFF(フロントエンジン・フロントドライブ)と、その時代に合わせた方式が採用されてきています。
■ディメンション
現代のFIAT 500は衝突安全性の確保など時代の要求に応えるため、二代目に比べると大柄なボディとなっています。
とは言ってもその寸法は「全長3545mm×全幅1625mm×全高1515mm」とコンパクトなもの。全長と全幅についてはトヨタ最小の「パッソ」よりも更に一回り小さなサイズです。
そのためパッケージングとしては完全な2+2の4シーターという趣き。リアにも合法的に2人が乗車出来ますが、後傾しているルーフラインと2300mmという短いホイールベースも影響して、大人は30分程度の乗車に留めるべきという感じ。
ですが前の2席は全く狭さを感じさせることはなく、横方向もちょうどよい間隔が保たれています。筆者は身長184cmと大柄ですが、終始快適なドライブを楽しませてくれる空間が広がっていたという印象です。
■パフォーマンス
FIAT 500の日本仕様には2008年7月末の時点で2種類のエンジンが設定されています。
ともにガソリンの直列4気筒ですが、ひとつは排気量1368ccの16バルブ仕様で最高出力74kW(100ps)/6000rpm、最大トルク131Nm(13.4kg-m)/4250rpmを発揮。
もうひとつは排気量1240ccの8バルブ仕様、最高出力51kW(69ps)/5500rpm、最大トルク102Nm(10.4kg-m)/3000rpmというスペックを誇ります。
ともに使用燃料はハイオク指定でタンク容量は35リットル。
今回テストした車両は1240ccのエンジンを搭載したモデルでしたが、その動力性能は予想していた以上のものでした。
高速道路の巡航は全く周囲に置いて行かれるようなこともなく、市街地走行に至っては何の不満も感じないレベルです。もっとも今回は信州方面を走ったことから勾配のきついワインディングロードもありましたが、さすがにこのようなシチュエーションでは苦しい走りになってしまいます。
もっとも、そんな場面は特殊な領域と言えますから、ここは素直に小さな排気量を感じさせない高い動力性能を誉めたいところです。
■ドライバビリティ
FIAT 500のドライバビリティを語る上では、搭載されているミッションについての説明が必須となるでしょう。
2008年7月末時点で日本に導入されているFIAT 500には全て、2ペダルの5速マニュアル「デュアロジック」が搭載されています。
このミッションは一般的なオートマチック車と比べた場合、トルクコンバータを介さないので「クリープ現象」がありません。よって車庫入れなどの際は繊細なアクセルワークを必要とする場面があります。
また「P」ポジションがなく、駐車する時は「N」に入れてパーキングブレーキを併用します。
インパネ中央から生えるセレクターレバーは「土」の字を左に90度回転させたようなゲートが切られており、右上が「N(ニュートラル)」、右下に「R(後退)」。
左側のゲートは上が「-(シフトダウン)」で下が「+(シフトアップ)」。そして中央左端が「A/M(自動変速と手動変速のモード切り換え)」となっています。
Nからセレクターを左側のゲートに入れると1速に入って発進可能。このとき、メーター内のギア表示脇に「AUTO」とあれば自動変速モード、そのままアクセル操作のみでオートマチック車のように走行できます。
「A/M」ポジションにレバーを入れるたびに自動/手動変速が切り替わり、メーター内の「AUTO」表示が合わせて点灯/消灯します。
手動変速モードは完全にドライバー主体となり、セレクターレバーの操作によってのみギアチェンジします(停止時の1速へのシフトダウンを除く)。ワインディングロードなどではこのモードがオススメ。
対して自動変速モードでは前述したように完全にクルマ任せで走ることが出来るのに加え、セレクターレバーの操作によるシフトアップ/ダウンも可能。エンジンブレーキを使いたい場面で重宝します。この場合は「AUTO」である限り、次は自動的にシフトアップ/ダウンしてくれるので便利です。
なお、このデュアロジックはあくまでも"マニュアル"がベース。自動変速はデビューした当時のアルファ156に搭載されていたセレスピードに比べればかなりマナーが向上したと言えますが、それでも日本車のオートマチックを相手にすると洗練度では二歩譲る印象。
もっとも、こうした"クセ"はオーナーになれば掴むことが出来るでしょうから、大きな問題にはならないかと思います。
むしろ自動変速で市街地や高速道路は安楽な移動が出来て、ちょっと走りを楽しみたいときにはダイレクトな変速でマニュアルそのものの走りを楽しめるデュアロジックは、とても魅力的なミッションであると言えるでしょう。
【>> FIAT 500 (フィアット・グループ・オートモビルズ・ジャパン)】