
2月5日、
本田技研工業は予てから話題になっていたハイブリッドカー「
インサイト」を発売しました。
名称としては二代目となる今回の「
インサイト」。しかし初代は2シーターのクーペモデルで"空力実験車"のようなスタイリングゆえ、実用性の面ではユーザー層が限定されていました。
二代目はハッチバックスタイルこそ継承したものの、4ドア+テールゲートというファミリーユースにも充分に対応出来る"実用車"に変貌。
外観的には
トヨタ・
プリウスに似ているという印象を持たれる方も少なくないでしょうが、その理由としては日本市場では少数派である"5ドアハッチバック"のスタイルを両車が採用していることにあります。
これは空力面でメリットがあるからなのですが、燃費向上を至上命題とする両車ゆえにボディ形状が同じになり、結果として似たスタイルに見えてくるのも必然であると言えるでしょう。
しかし、顔つきでは「
インサイト」が個性的な表情を演出しています。
最近のホンダ車に共通する面構えは好き嫌いが分かれるところかもしれませんが、シャープな顔だちはなかなか個性的。

インテリアでは、
シビック/シビックハイブリッドにも通じる上下二段のメーターパネル「マルチプレックスメーター」に注目。
シビックハイブリッドに対して大いに進化を果たし、ドライバーに有益なエコドライブに関する情報をいろいろとわかりやすく提供してくれます。
例えば上段のスピードメーター、ブラックのメーターパネル内に白文字のデジタルで速度が表示されますが、そこには青から緑へとグラデーション変化するアーチ状の背景が存在していますが
これは「アンビエントメーター」という機能。
この色の違いはドライバーの運転スタイルに応じたもので、緑色背景の状態は燃費に良い運転をしていることの証。
同様の機能はハイブリッド車に限らず採用例がありますが、それらはメーターパネルに小さなランプが設けられているケースがほとんど。その点「
インサイト」ではメーターデザインの一部として先進性を感じさせますし、大きな表示なのに全体に馴染むデザインで好印象。もちろん小さなランプとは異なり大変見やすいので、自然にエコドライブが身につくことになるでしょう。

メーターパネル下段、タコメーターの内部には「マルチインフォメーションディスプレイ」を用意。
最近の新車では"お約束"になりつつある、メーターパネル内の多機能集中表示装置ですが、「
インサイト」ではとても面白い情報を提供してくれます。
それは「コーチング機能」と「ティーチング機能」。
ハイブリッドカーに限りませんが、燃費を高める運転の基本は"如何にロスを少なくするか"。無駄なアクセルは踏まず、一定のペースで走る巡航を心がけ、周囲の情報を先読み把握して不必要なアクセルやブレーキを減らすことが大切です。
しかし、実際には特にペダル操作についてラフな扱いをするドライバーが少なくありません。中にはON/OFFスイッチのような踏み方をする人もいるのですから。
そこで「
インサイト」では燃費に良い運転を実践するためのアシスト機能が強化されました。
先にご紹介したアンビエントメーターも含めた「コーチング機能」では、マルチインフォメーションディスプレイ内に「エコドライブバー」を表示。
写真のディスプレイ内中央にある四角と縦の棒がその機能ですが、縦棒を中心に左右にバーが伸び縮みします。
右方向は加速、左方向は減速。走り出すと状況に応じて左右にバーが伸び縮みしますが、この幅をなるべく少なくすることがエコドライブのコツ。左右の四角い領域に至らない部分が"クリアゾーン"と言われるエコドライブ領域の意味なので、先に述べた"ロスの少ない運転"を実践するための参考として大いに活用できるでしょう。
その上には小枝のような表示がありますが、こちらは「ティーチング機能」の一環。コーチング機能は現在進行形で、その瞬間瞬間の運転について燃費を高めるための運転テクニック向上に役立ちますが、ティーチング機能はもう少し長い時間スパンで見ている感じ。
小枝に葉がついている絵が表示されていますが、これは燃費に良い運転を続けることで葉がどんどん増えていきます。そして最後には花が咲くという仕掛け。
3つのステージに分かれて自分の運転スタイルが評価されていくので、ステージアップを目指したゲーム感覚も交えてエコドライブを楽しく実践できます。
さらにデータバンクとして生涯成績も表示されますから、我慢するエコドライブではなく、積極的に楽しむエコドライブが実現するでしょう。
個人的には更に機能をアップさせて、例えばインテリジェントキーに連動させた"個別データ集計機能"を2人分用意するのも面白いと思います。
"燃費の絶対数値"は走行シチュエーションに左右されますが、"燃費に良い運転スタイル"は場面が違ってもドライバー本人のテクニックに因る部分。
ということで、例えば旦那さんと奥さんで"エコドライブ度競争"を出来たりすれば、より燃費に優しい運転を心がけるようになると思います。
やはり"競争"というのは"やる気"をかきたてますし、毎月のエコドライブ度評価における勝敗で、月に一度のちょっとリッチなディナーをどちらの財布から支払うか、などユーザーの楽しみの幅も増えるのではないかと予想します。

4ドア+テールゲートというスタイルに変貌を遂げた「
インサイト」。
ということでスペースユーティリティも厳しくチェックしてみましょう。
まず最初に大いに褒めたいのが"5ナンバーサイズ"におさまるボディ。
全長4390mm×全幅1695mm×全高1425mmということで、日本中のタワーパーキングに文句無しに入庫出来るであろうディメンション。
1700mm超えは当たり前、1800mm以上の"恰幅"を有する車も多い中、1700mm抑えた車幅は、全国どこでも間違いなく使いやすいサイズ。
「ハイブリッドカーが欲しかったけれど駐車場の制約が・・・」
「近所は狭い道も多いので、3ナンバーボディはちょっと・・・」
と近年の車のメタボ化にお嘆きだった皆さんには朗報でしょう。
正直なところ、ハイブリッドであることを抜きにして、このボディサイズだけでも選ぶ価値のある一台です。
さて室内ですが当然、幅広3ナンバー車よりも横方向の制約はあります。
しかし大人4人が乗車して狭苦しさを感じるものではありませんし、充分にそのまま長距離ドライブにも出られる空間が用意されています。
ただし空力面の要求からか後傾させたルーフの影響で、リアシートのヘッドルームは若干不足気味。座高の高さに自信のある方は、運転席か助手席を確保した方が賢明です。
写真はリアのラゲッジスペース。
ここには面白い工夫があって、フロアの高さを二段階に調整できます。
低めにフロアボードをセットしたのが写真の状態、大きな荷物や高さのある荷物を余裕で積載できます。
一方、上段にセットしておけばフラットで広い床面積を活かせます。この時は奥行き850mm、幅が最も狭い箇所で940mm、最も広い箇所ならば1410mmというスペースが提供されます。
さらにケミカル類を収納できるサブトランクも用意されているので、日常生活でラゲッジスペースについて不満が出ることはまず無いでしょう。
それでも足りない、というときはリアシートを倒してスペースを拡大できます。
4:6分割可倒式のシートはシングルフォールディング、シートバック両脇のレバー操作ひとつで簡単に折り畳めます。女性でも気軽に操作できる点は優れた機能です。

デビュー前から何かと話題だった「
インサイト」。
スタイリングについてはティザーキャンペーンやコンセプトモデルが早い時期から発表されていたので、それほど斬新さを感じる部分ではないかもしれません。
しかし"噂"として同じように早い時期から情報が流れていた販売価格については、噂通りであったとは言え189万円からという設定の車両本体メーカー希望小売り価格はインパクトのあるものです。
私自身取材で乗った感じでは、この戦略的な値札を下げる「G」グレードでも全く不足のない出来ばえと装備レベルでした。基本がオーディオがレス仕様なので、そこそこのオーディオを装着したとしても実際には200万円級の車両+諸費用という購入プランになるでしょう。しかしこれでもリーズナブル、長く使える実用車として充分にお薦め出来る内容です。
つまり"189万円"のベーシックグレードは決して"戦略的なアドバルーン"という存在ではなく、最も売れるであろうメイングレードになると予想します。
そしてベーシックグレードも最上級グレードも、ハイブリッド機構は共通ですしスタイリングにも大差はありません。このあたりにも
ホンダの"本気"を感じます。
さて、最後に個人的に「
インサイト」で"要注意"と感じた部分を2つご紹介。
まずはリアシートのヘッドクリアランスですが、空力を優先した結果として後傾させたために少々タイト。
身長180cm超の私はもちろん、170cm程度の方でも余裕は少ないと感じるでしょう。
大柄な大人をリアシートに招く機会の多い方は、ショールームでのチェックが必要です。
もう一点は少々硬めの乗り心地。
ホンダらしい、という言い方もあるでしょうが、どうも個人的には"やり過ぎ感"を強く覚えます。
ハンドリング性能を求めるべき車と、そこを抑えても乗り心地を優先させるべき車があるだろう・・・、と思うのですがいかがでしょうか。ここも購入を検討されている方は、ディーラーでの試乗で確認していただきたいと思います。
ハイブリッドカーの普及を目指して、戦略的な価格を引っさげて登場した「
インサイト」。
たしかにコストパフォーマンスの高い、お薦めの一台であることを確認できました。
なお「
トヨタ・
プリウス」もモデルチェンジが近づいているという話が聞こえてきますが、まずハイブリッド方式の違いはアタマに入れておくべきでしょう。
直接比較すると「
インサイト」はエンジンがかかっている時間が長いように感じられ、電気のみで走る領域の大きな「
プリウス」に対して燃費が余り良くない印象を感じられるかもしれません。
実際の燃費はユーザーさんのブログなどに記される"実用数値"で比較するのが一番ですから、これから注目していきたいと思います。
また「
プリウス」に対して5ナンバーサイズゆえに絶対的な室内空間のサイズでは負けている「
インサイト」。
ですが5ナンバーサイズの高い利便性は日本市場では大きなメリットです。
この点は「
プリウス」が新型になった時に、自動車専門誌などでのライバル対決で"室内空間が狭い"と評されることが目に見えていますが、これはボディサイズの違いを考えれば当たり前。
もう今の時代に自動車専門誌の短絡的な評価を重視するユーザーも少ないでしょうが、5ナンバーゆえの使いやすさと、その枠内+空力性能を重視した上でのバランスされた室内空間について、ぜひ店頭や試乗車などで確認していただければと思います。