
民主党が主体となる新政権発足から一夜明け、永田町や霞が関では"変化"が"現実"のものになりつつあるようです。
今回の衆院選での圧勝を受けた政権だけに、政権公約として掲げた内容の実現に期待を寄せている有権者も多いことでしょう。
その中で自動車に関するものでもっとも注目されているのが「高速道路の無料化」。
この公約について、政権交代前日には次の様な記事が。
●高速無料化 北海道、九州で先行実施へ 民主方針
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MSN産経ニュース(産経新聞) 2009年9月15日 1時32分
記事によるとこの決定については、交通量が少ないところで実施すれば、無料化の悪影響を最小限に留められるためとされています。
要するに「社会実験」をやってみようというノリなのでしょうか。
具体的な悪影響には、環境悪化/雇用問題/他の交通機関への影響、という3点が挙げられています。
このうち気になるのが3番目の"他の交通機関への影響"です。
●「高速無料化やめて」九州バス協会、国交省に要望
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asahi.com(朝日新聞) 2009年9月10日 19時13分
●高速無料化「時代に逆行」 JR北海道社長が痛烈批判
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FujiSankei Business i. 2009年9月9日
当然、対象となる地域の公共交通を担う企業は反対の声を強めています。
ここで九州のバス事情を一例として考えてみましょう。
九州は、南北を貫く九州自動車道を軸として、長崎方面と大分方面を結ぶ路線が鳥栖JCTで交差する高速道路体系。鹿児島方面や宮崎方面はまだまだ路線整備が進んでいるとはいえませんが、こと高速都市間バスについては非常に先進的な地域であると思います。
「
楽バス (オール九州高速バス予約システム)」は、九州内を走る高速バスの予約を、運行会社の枠を超えて行なうことが出来るシステム。
さらに九州最大の都市・福岡と各地を結ぶ路線の利便性だけに留まらず、高速道路の基山バス停を"ハブ・バス停"と位置づけ、ここでの乗り換えをスムーズにした上で"乗り継ぎ割引"を設定して、九州各地間の行き来における利便性をとても高めています。
こうした取り組みは各事業者が一体となってサービス向上に努めている結果のひとつであろうと思います。全国的に複数社で都市間バスの共同運行をしている例は少なくありませんが、ここまで地域交通として一体的に取り組んでいるところは他に無いかと思います。
ここまでの努力をしている背景には、厳しい経営を強いられているバス事業者の現実があります。
九州域内で見ても、産業再生機構の支援を受けている九州産業交通と宮崎交通、私的整理を経て大分県や西日本鉄道などの出資を受けて現在に至る大分バス、同様に私的整理の道を選んだ西肥自動車など、ここ数年で経営改善に向けた大ナタを振るわざるを得なかった事業者が多くあるのです。
そんな厳しい状況の下で、収益力のある分野とされているのが長距離路線を走る都市間高速バス。各地からは競争の激化も伝えられていますが、事業者同士が利用者ニーズに応えるかたちでサービス向上を図っている九州の事例は、全国的にも参考になる部分があるのではないでしょうか。
このような努力によって都市間高速バスで収益をあげつつ、赤字路線も多いと思われる一般路線事業を地元行政からの補助金にも頼りながら継続させているというのが、全国的なバス事業者の現状ではないかと思います。
今回の九州地域における高速道路無料化が、バス事業者に与える影響は決して小さくないと誰もが予想できるでしょう。
速さと定時性で勝る鉄道に対して、安さとサービスのバランスの良さが売りの都市間高速バス。高速道路が無料化されれば、移動距離などにもよりますがバスを敬遠してマイカーに乗り合いで出かけるという人が増えることは必至でしょう。さらにこうしたマイカーの増加は、都市間高速バスの定時性を大きく悪化させることとなり、結果的に大幅な利用者へのサービス低下に繋がってしまい、客離れを起こしてしまう可能性が高いのです。
特にバスは地域の足という重要な公共交通機関。それは決して高速道路が無料化されることで、何かが取って代わることの出来るものではありません。
少子化によって乗客減に歯止めがかからなく、特に地方ではドーナツ化現象と自家用車の普及により通勤や買い物の足として利用する人が減っています。
対して高齢化が進む日本では、この先も自家用車に個人の移動手段を委ね続けて良いものか、真剣に考えることが急務です。
このままでは、"1000円高速"や"高速無料化"の恩恵を受けた人たちは、この先の増税、そして高齢者となり自分で車を運転することが難しくなった数十年先に地域の公共交通が完全に崩壊して、病院などにいくことすら簡単ではない時代を生きていかなければならないかもしれません。
地域の交通インフラは市町村単位で、都市間連携は都道府県単位、そして全体的には国と、それぞれが役割を持った上で、特に政府は大局的に国家の将来像としての交通体系構想を練り、実現させる責任と義務があると思います。
しかし今回の"高速無料化"は、高速道路が本来抱える問題点や、必要とされるであろう過去の清算など全てに目を向けず、単純な税金投入で実現されようとしているものです。
このままでは"人気取り政策"によって、地方の交通体系に壊滅的なダメージを与える結果を生んでしまうことでしょう。
Posted at 2009/09/21 00:12:53 | |
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