
昨年9月の政権交代劇から4ヶ月半が経過しました。
これまでの政権運営については迷走ぶりが目立っているように思えますが、そんな中で政権党の選挙公約に掲げられていた「高速道路無料化」についてのニュースが報じられました。
●国交省、無料化実験の高速道37路線を発表
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YOMIURI ONLINE(読売新聞) 2010年2月3日 2時17分
国土交通省の発表によると、37路線の総延長1,626kmについて6月から社会実験として無料化を実施するとのことです。
この無料化については当初から首都高速と阪神高速は除外とされており、かつ主要幹線も対象としない旨が伝えられてきていました。
そして発表された内容ですが、大方の予想通り現時点では交通量が少ない地方の末端区間がほとんど。
観光客の増加など地域活性化への効果を見込んでいるそうですが、黙っていては逆に都市部への消費流出、いわゆる「ストロー効果」を助長するだけの結果に終わるでしょう。
また物流コストの低減なども謳っていますが、その効果は余り期待出来ません。限られた区間の無料化に過ぎない上、運輸業界に対しては荷主からの激しい値下げ圧力がかかる可能性もあります。現実に今でも高速道路の通行料金は会社ではなくドライバーの個人負担としている中小零細運送会社も多く、ドライバーの個人負担は一時的に緩和されるかもしれませんが、荷主からの運賃引き下げ要求に呼応して、会社としては人件費の抑制に動く可能性も考えられます。
また、ETC休日特別割引や通勤割引は廃止され、一律で乗用車の場合は2,000円、大型車は5,000円が通行料金の上限として設定されるとのこと。この上限設定はETC決済に限らず、現金決済でも適用される運びです。
ETC休日割引で不公平感のあった"曜日格差"は解消されますが、土曜・日曜・祝祭日など従来の適用日に限れば倍に値上げされることになります。これまで往復2,000円だったものが、4,000円必要になるということです。
今回の無料化も「無料化のための無料化」に過ぎず、目的(=無料化)を達成するための過程が単なる税金の投入というお粗末極まりないもの。資本主義、自由主義経済の崩壊とも言える愚策です。本来であれば無料化を最終目標として、如何に高速道路の通行料金を安くできるかは、一般企業と同じような合理化、コスト削減を重ねた結果であるべき。また高速道路の仕組み、構造的な問題、利権や天下り、ファミリー企業といった、まだ残っている改革すべき点には何も手を着けていないのですから、こんな無料化政策なら誰にでも出来てしまうわけです。
ところで無料化対象路線の一覧を見ていて気になったことが。
●平成22年度 高速道路無料化社会実験計画(案)について
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国土交通省・報道発表資料 2010年2月2日
pdfファイル(1.67MB) - 無料化対象路線一覧図あり
北海道では道東自動車道の全線が無料化対象とされています。
この道は道央自動車道の千歳恵庭JCTを起点として、日勝峠を越えた道東方面まで伸びているもの。ただし現時点では途中で分断されたかたちとなっており、札幌側は夕張ICまでの延伸。一方の道東側はトマムICから日勝峠を越えて十勝管内に入り本別ICや浦幌ICまでが供用されています。
山をはさんで分断されていたという背景があり、特に道東側は日本の高速道路でももっとも交通量の少ない路線のひとつです。ゆえに無料化されても不思議ではありませんが・・・。
この道東自動車道、2011年度中には夕張IC~トマムIC間の工事が完成して供用が開始される予定になっています。これによって札幌と十勝圏が一本の高速道路で結ばれることになりますので、劇的な交通量の増加が見込まれるところです。
北海道の中心である札幌と、十勝・釧路といった道東圏は国道274号を主軸として結ばれています。途中にある日勝峠は標高1,023mの難所、道路線型の改良や拡幅で昔よりはかなり走りやすくなっていますが、それでも特に厳しい冬の時期は全国の幹線道路でも随一の難所であることに変わりありません。
国道274号は3桁国道ですが道内トップクラスの重要幹線。
日勝峠の一日平均交通量は
北海道開発局のデータによると2005年の値で8,094台。ただし2007年に日勝峠を越える区間の道東自動車道が開通しているので、現在は若干少ない値になるかと思われます。
対して道東自動車道の一日平均交通量。
NEXCO東日本の発表では、2008年度で5,908台となっています。
この日勝峠は物流の基幹路線であるため、昼夜を問わず大型トラックの往来が多いことも特徴。当然、高速道路が繋がった場合、国道から高速道路利用に切り替えるというトラックも多いことでしょう。
また、乗用車も快適性や安全性の高さを享受できる高速道路利用に拍車がかかるものと思われます。
では、果たして現在の工事区間が供用開始されて札幌圏と道東圏がつながった場合でも、無料化対象区間のままとされるのでしょうか?
大雑把に言えば日勝峠を越えて道央と道東を行き交う車は、先程の交通量データを合算すると一日あたり約14,000台ということになります。
さすがにこの全てが高速道路を利用するわけではないでしょうが、分断区間が解消されることで仮に高速道路の交通量が3割増えたとしたら一日あたり1万台以上の利用があることになります。
一日平均1万台の通行量という程度であれば、無料化対象であっても不思議ではないかもしれません。しかし、路線の位置づけとしては現在の分断区間が解消されると、北海道の大動脈のひとつとしてとても重要なものになります。
果たして、それでも無料化対象のままでいられるのでしょうか?厳しい冬がある北海道の主要幹線であるがゆえに、維持管理にもそれ相応の費用がかかるでしょう。
また、位置づけ的に同列ながら無料化対象となっていない路線との不公平感も生じることになるでしょう。
更に言えばもっとも懸念されるのが公共交通機関へのダメージです。
札幌~帯広~釧路は
JR北海道の石勝線や根室本線でも結ばれており、1時間に1本の割合で特急列車が運行されています。輸送密度も
北海道の資料によると4,000~8,000人ということで、重要な収入源のひとつに挙げられます。
ところが、この区間の高速道路が無料になるとどうなるか。
ただでさえ個人の移動手段として自家用車が重要視されている北海道という地域柄を考えると、鉄道の利用客が大幅に減少する可能性が考えられます。さらに高速無料化によって運賃を引き下げたとしても、都市間バスも同様の理由で苦戦を強いられるかもしれません。
その結果、鉄道会社やバス会社の経営は更に厳しいものになる可能性が高いのです。すると次の段階としては過疎地の赤字路線を整理縮小する方向になるはずで、黙っていると生活基盤である公共交通機関の消滅につながってしまうかもしれません。
これは特に北海道に限った話ではないですが、総合的な見地から国の交通インフラの将来像を描いていかないと、20年後、30年後、50年後には、都市・地方を問わずとても住みにくい国になってしまっている可能性が高くなっていると感じます。
付け加えるならば
北海道の資料では、二酸化炭素などの温室効果ガス問題にも触れられていました。
地域性として冬季の暖房需要があるためか、特に個人の生活など民生部門からの排出量が多く、増加傾向を示していると記されています。
国連で25%削減の大見得を切ってしまった政府、果たして政策の整合性はどのように説明するつもりなのでしょうか・・・。