2010年2月3日付のエントリでも記したように、昨年来「高速道路の通行料金」が何かと注目を集めています。
そもそもは現在の与党である民主党が政権に就く以前、昨年夏の衆議院選挙を睨んで将来的な高速道路の無料化を謳いはじめたあたりに原点があるかと思います。
それまでも小泉政権時代にはシンボリックな改革のひとつとして日本道路公団の民営化が行われましたが、現実には本来やるべき改革の全てを完了するには至らず、なんとも中途半端な感じで終わってしまっていました。
ところが突如として高速道路の無料化が話題を集めはじめると、当時の政権与党も対抗策として大幅な割引政策を実行に移しました。これが2009年3月下旬から施行された「
ETC休日特別割引」。
曜日限定、かつETC搭載車に限るという点で不公平感が否めない上、週末や連休には高速道路の渋滞が悪化して、物流や都市間バスなどの公共交通機関にも影響を与えました。そもそも割引の原資は税金の投入であり、高速道路に関する問題点を根本的に解決したわけではないことが最大の問題点と言えるでしょう。
しかしETCの普及が急速に進み、一時期は全国的な品不足が問題化するに至りました。また観光地によっては週末の集客効果に大きく寄与した面もあるようで、それなりの経済刺激効果はあったという論評も存在しています。
昨年夏の政権交代を経て、新しい政権党は「高速道路無料化」を訴えていただけに対応に注目が集まりました。しかし世論も冷静なもので、単純な税金投入による無料化が愚策であることを見抜いており、環境問題的な側面からもこの政策には否定的な声が多く聞こえています。
そして先の発表。全国の高速道路網の中で利用率の低い路線だけを抽出しての無料化実験を行うことになるようです。また、「
ETC休日特別割引」などは廃止され、新たに決済方法を問わず乗用車は上限を2,000円、大型車も5,000円程度とする上限料金体制が施行される模様です。
ところが所詮はこの無料化や割引料金の原資も税金の投入。要するに、どの政党でも首相でも大臣でも、ごく簡単に何も考えず実行できる"バラマキ政策"に過ぎません。
この"バラマキ政策"の大きな弊害として、公共交通機関に与えるダメージが懸念されることは、このブログでも何度もお伝えしてきました。
そしてまた、重要な公共交通機関が廃止されてしまうことが発表となりました。
●「宇高航路」3月で廃止 高速値下げが経営直撃
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中國新聞 2010年2月13日
旧・国鉄の宇高連絡船にルーツを見いだせる、瀬戸内海を挟んだ
岡山県と
香川県を結ぶ航路が廃止されることになりました。
●「影響計り知れず」関係自治体衝撃/宇高航路廃止
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SHIKOKU NEWS (四国新聞社) 2010年2月13日 9時46分
両県ともに貴重な航路が無くなってしまうことに対して、戸惑いの声が出されています。
このフェリー航路とほぼ同じルートでは、
本四高速の
瀬戸中央自動車道(瀬戸大橋)が1988年から供用開始となっています。
現在、本州と四国の間には3つの架橋ルートが存在していますが、ちょうど真ん中にあたる
瀬戸中央自動車道(瀬戸大橋)は上層部が自動車専用道路、下層部に鉄道路線という構成になっています。
今回のフェリー廃止に対して、既に橋の開通から20年以上を経てフェリーの役割は終わったと評する声もあるようです。
しかし、果たしてそれで良いのでしょうか。
何らかの補助金がフェリーに対して出されていたのではないかと想像もされますが、それでも20年以上に渡って共存してきた橋とフェリーは、大衆迎合政治による愚策によってアッサリと廃止されてしまう事態に至りました。
民間企業同士の競合など、自然な市場原理に基づく競争で破れたのではなく、絶対に太刀打ちできない"国策"の餌食となってしまったのです。
ちなみにほぼ同じタイミングで、こんな真反対のニュースも入ってきました。
●青函フェリーの共栄運輸が新造船 高速値下げで利用増
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Doshin web (北海道新聞) 2010年2月10日 8時08分
津軽海峡を結ぶフェリーは高速道路の料金引き下げに伴って利用客が増えているようです。
これはこれで大きな経済効果をあげているわけですが、純粋に増えた利用客の100%が新規利用ではないでしょう。当然それまでは航空機や鉄道などを利用していたものが、国策によって引き下げられた高速道路料金に魅力を感じて、フェリー利用に移ったケースも多いはずです。つまり航空会社や鉄道会社、レンタカー会社などが割を食っている可能性があるわけです。
高速道路については改革・改善すべき構造的な課題が多々あると思われます。そして、それらを解決していけば何らかの利用者メリットにつながる部分が必ず生じてくるはずなのです。
しかしそういった事をすべて先送りして、税金を投入しての割引政策。自由主義競争原理を崩壊させ、地域交通網のバランスを狂わせ、着々と公共交通機関にダメージを与え始めています。
この愚策、果たしていつまで続けるつもりなのでしょう。
何もしない政権というのは困ったものですが、何の将来的なビジョンも描かずに、その場しのぎの愚策を連発する政権は国民生活の基盤を崩壊させかねない危険な存在としか言いようがありません。
Posted at 2010/02/15 02:14:59 | |
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