
2月17日、
三菱自動車工業は新型となる「
RVR」を発表・発売しました。
このネーミングは元々、1991年に同社がデビューさせたモデルで使われていたもの。現代風に言えばスモールミニバンという位置づけであり、リアサイドにスライドドアを配していた点がセールスポイントでした。またバリエーションとしてはターボエンジンを搭載して動力性能を高めものや、オフロード色を濃くした仕様、オープントップ仕様など多彩な内容となっていたことも特徴的。
とても先進的なコンセプトに思えましたが、やや登場するのが早すぎたのかセールス的には決して大成功とは言えず、2002年に二代目モデルの販売を終了して名前そのものが"お蔵入り"となっていました。
そして8年ぶりに復活することとなった「
RVR」。最近良く聞く"クロスオーバー"ともいうキャラクターがつけられ、オフロード色の濃いコンパクトハッチバックSUVというポジショニングが与えられました。
ボディサイズは全長4295mm×全幅1770mm×全高1615mm(標準ルーフ車)。同社の「
アウトランダー」と比べて全長で-345mm、全幅は-30mm、全高は-65mmとなりますが、ホイールベースはシャーシコンポーネンツを基本的に共用していることもあって同一寸法の2670mm。
基本的に三列シートを備える「
アウトランダー」に対して「
RVR」は二列シート・5人定員という違いがありますが、その分だけ特に長さ方向の寸法が異なるため街中での使い勝手は高いといえるでしょう。
この使い勝手はエクステリアデザインによる部分もあることをレポートしておきます。
何といっても「
ランサーエボリューションⅩ」にも通じる精悍、というか獰猛な顔つきがライバル勢に対する「
RVR」の大きな特徴。
"逆スラントノーズ"はシグマのサブネームが初めてつけられた三代目ギャラン(1976年発表)や、フルタイム4WD+ターボのVR-4が鮮烈な印象だった六代目ギャラン(1987年発表)などにルーツを見いだせますが、"ジェットファイターグリル"と相まって三菱ならではの強いアイデンティティを主張しています。
そして同時に三菱が得意としているデザイン手法に"C面カット"というものがあります。要するに角を落とすことなのですが、この手法は「
RVR」のフロントまわりでも採用されています。これにより"ジェットファイターグリル"の存在感が引き立つとともに、狭い場所での取りまわし性能を高めることが出来ます。実際に試してみると、縦列駐車状態からの脱出では予想以上に前の車との間隔が狭いところから難なく一発で出られました。
全体的なデザインそのものは好みがあるでしょうから一概に評価は出来ませんが、この強い個性は商品価値として面白いと思います。絶対に受け付けないというユーザーがいる一方、このデザインを気に入った指名買いも期待できるでしょう。

動力性能面を紹介すると、搭載されるエンジンは排気量1798ccのノンターボのみ。最高出力は102kW(139ps)/6000rpm、最大トルクは172N・m(17.5kg-m)/4200rpmで、これに6速マニュアルモード付きのCVTのみが組み合わされます。
エンジンスペック的にはごく一般的なものですが、パフォーマンス的には必要充分なものを満たしているので文句のつけようはないでしょう。そして昨今ユーザーにとって大きな関心事となっている燃費性能はとても優れており、10・15モード数値が2輪駆動で15.2km/Litrer、さらに燃費面で不利な4輪駆動でも15.0km/Literと、全てのグレードで15km/Literの壁を超えています。これにより優遇税制対象となるのはもちろんですが、ランニングコストを抑えられる点は大きなユーザーメリットです。
使い勝手の面では特に際立った個性的な部分は少ないですが、日常的に愛用する"ツール"として満足感を得られる内容が用意されています。
まず好感を持ったのは、運転席のハイトアジャスターとチルト&テレスコピックステアリングが全車に標準装備されていること。またABS(アンチロックブレーキ)や運転席&助手席のエアバッグに加え、運転席はニーエアバッグまでもを全車に標準装備しています。
さらに4輪駆動の場合はASC(アクティブスタビリティコントロール)と坂道発進時の後退を防ぐヒルスタートアシストも標準装備。これらは2輪駆動の場合、グレードを問わず84,000円を支払うことでメーカーオプションとして注文できます。
こうしたグレードを問わない安全装備の充実は素晴らしいことです。メーカーによっては一部上位モデルだけにしか安全装備が標準装備されていなかったり、下位グレードではオプションとしての選択肢すらなかったり、余計なものとのセットオプションだったりすることも珍しくありません。
この点、グレードを問わず「
RVR」のユーザーになれば、平等に安全装備の恩恵をいざという時には享受できるというのは心強い限りです。

室内を見るとやや武骨な印象ですが特に"男臭い"わけでもなく、乗る人の年齢や性別は選ばない感じです。変に若い女性に向けた媚びを売っている感じもしないので、かえって女性ユーザーの好感を得られる面もあるのではないかと予想します。
実用車としては前席周辺のポケットが配置、数、容量ともに使いやすいものという印象。またリアシートも含め居住性は良好ですし、カーゴスペースの床形状や容積もなかなかの実力を持っています。
また、元々の着座位置が高いこともありますが、全体的な視界の良さも安全性に直結する美点。フェンダーの先端も比較的視認しやすいので、運転に余り自信が無いという方でも取りまわしに慣れるまでそれほどの時間は要さないかと思います。
ところで一点だけインパネ関係で注文をつけたい部分が。
4輪駆動の場合、センタコンソールのCVTセレクターレバー後方にドライブモードセレクターのダイヤルが備わります。要するに2輪駆動と4輪駆動、さらに4輪駆動デフロックを切り替えるためのダイヤルなのですが、果たしてこの機能はダイヤルとして一等地を操作部が占領する必要があるのでしょうか?
エンジニアさんによれば4輪駆動と2輪駆動の燃費差は極僅かであるとのこと。ならは2輪駆動を積極的に選んで走る必要性もそれほど感じられません。もちろん選択機能はあっても良いと思いますが、それはインパネに設けた小さめのスイッチでも良いのではないでしょうか。こうしてダイヤルを廃して、代わりにこの場所には小物入れでも用意してくれた方が、ユーザービリティは余程向上するのではないかと思います。
さて、この新型「
RVR」は
三菱自動車工業としては発売後一年間の目標月販台数を1,500台と定めています。メーカー系列のレンタカー会社などを持たない
三菱自動車工業、営業車需要もほとんど見込めない車種としては、なかなか積極的な数字を掲げているように思います。
その自信の裏付けとなっているであろうポイントが価格。
メーカー希望小売価格を見ると、最安の2輪駆動・Eが1,785,000円、最も高価な4輪駆動・Gでも2,449,650円です。そして前述の通り高い燃費性能により、全てのグレードが50%軽減エコカー減税対象車です。
装備の充実度に応じて、上からG、M、Eの3グレードが用意され、それぞれに2輪駆動と4輪駆動が設定されている「
RVR」。
エンジンは共通、ミッションも全車CVTなので、装備内容と価格のみが購入時の選択要素となります。
個人的には中間のMグレードには余り魅力を感じません。本来は価格的にド真ん中のグレードというのは平均的なお薦めモデルとなりますが、この「
RVR」ではEかGを狙うのがお薦めです。
まずEについては、安価ながら基本装備の充実ぶりがお買い得です。前述のように安全装備は最上級モデルと遜色ないですし、8色設定されているボディカラーも全ての中から好きなものを選べます。
上級モデルに対して省かれる装備を見ても、プライバシーガラスやHIDヘッドライト、フロントドアUVカットガラス、ハイコントラストメーター、フルオートエアコン(マニュアルエアコンが標準装備)といった感じで、あとは装飾的な要素の強いものが装備されないだけ。
つまり、「あれば便利だけど、無くてもそんなに困らない」というものが装備されないだけなので、購入時の初期コストを重視する方はこのグレードがお薦めです。さらに言えば2輪駆動と4輪駆動の両方がきちんと用意されているので(価格差は21万円、4輪駆動にはASCとヒルスタートアシストを装備)、お住まいの環境などに応じたチョイスが可能です。
ただし、Eグレードではメーカーオプションのカーナビゲーションを装備することが出来ませんので、この点はディーラーオプション品の中から選ぶことになります。
一方、長く乗ろうという方やファーストカーとして使う方、ダウンサイジングで乗り換えるという方などには、最上級のGグレードがお薦め。
照射角の広いスーパーワイドHIDヘッドライトやフォグランプ、ウインカー内蔵ドアミラー(電動調整、格納、ヒーター付)、ハイコントラストメーター、本革巻ステアリングホイール、フルオートエアコン、鍵を挿さなくてもドアロックやエンジンスタートが可能なエンジンスイッチ+キーレスオペレーション、オートライト、オートワイパー、クルーズコントロール、パドルシフトといった、より上級な車種にも全く引けをとらない豪華装備が用意されています。
これらはMグレードでもオプション設定されていますが、価格的にはまとめて装備されているGグレードの方が圧倒的にお得。さらに希望すればGグレードのみに本革シート&シートヒーターや、パノラマガラスルーフをオプション装備することも可能です。
久しぶりのブランドネーム復活となった「
RVR」。
なかなかお買い得なコンパクトSUV、しかも他に似ていない強い個性の持ち主。果たして市場でどのように評価されることとなるのか、興味深い存在です。