
このお盆休みは、全国の高速道路で多くの渋滞が発生すると予想されています。
その理由は皆さんもご承知の通り、昨年春から実施されている
ETC休日特別割引の適用が厳格に条件通り土曜日と日曜日に限られたことと、6月末から始まった
無料化社会実験にあります。
何度もこのブログで書いているように、両者は"割引"や"無料"を謳っていますが、実際は利用者が本来支払うべき通行料金との差額を税金で補填しているもの。税金は高速道路を使わない人や車を持っていない人からも納められたものであり、不公平感を伴う政策であることは間違いないでしょう。
私個人としては、ともに愚策であるとしか思っていません。全国各地を車で訪れる身としては恩恵に預かる機会も多いですが、仕組みとしては健全なものとは言えません。本来、通行料金の引き下げは道路会社の企業努力を含めた構造改革や合理化の結果であるべきで、安易な税金の投入はするべきではないと思っているからです。
それでもまだ
ETC休日特別割引は景気浮揚策という明確な目的を時の首相が打ち出し、期限を切った上での導入でした。
しかし一方の
無料化社会実験については、"実験"という言葉を隠れ蓑に使って"無料化公約を取り敢えず現実化させるため"に導入したとしか思えません。つまりは自らの人気取りや選挙を見据えての実施にしか見えないのです。
さて、この"実験"の影響が各地で出始めています。
●道東道渋滞、最大12キロ
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WEB TOKACHI(十勝毎日新聞) 2010年8月13日 13時33分
無料化対象となった区間のひとつである北海道の道東自動車道。札幌圏と道東圏を結ぶ道路は分断状態で開通したこともあり、交通量が少ないことから「熊が通るための道」などと言われました。現在では難所と言われる日勝峠の区間が開通、来年度中には分断区間も解消されて道央自動車道に繋がる予定であり、その際には通行量の増加も見込まれています。
昨年の
ETC休日特別割引実施以降は、それまでよりも週末の交通量が増えていたそうですが、ここに来て無料化対象となったことから大きな変化が出てきました。
記事にもあるように、帰省や行楽客で分断区間の札幌側終点である夕張インターチェンジを先頭に、12kmもの渋滞が発生したというのです。
北海道内の高速道路で12kmの渋滞というのは、悪天候などの気象条件や交通事故の発生、工事などによるものはあったかと思いますが、交通集中によるものは私の中では記憶がありません。
元々の通行料金を思い出してみると、普通車で札幌南IC→夕張IC(64.5km)が1,800円、占冠→音更帯広(75.8km)が1,950円、合わせて140.3kmが3,750円でした。
これが道東自動車道の無料化によって、札幌南→千歳恵庭JCT間の分として750円を支払うだけで通行出来るようになったのです。その値下がり幅、実に8割引ですから出血大サービスです。
このルートは道央と道東を結ぶ大動脈であり、途中の日勝峠は標高1,000mを超える交通の難所。特に冬場は天候によって危険性の高い道路であり、物流面では高速道路の整備が大きな効果を生むことになるでしょう。
しかしながら、一時期は「冬こそJR」というキャッチコピーでコマーシャルを流していた
JR北海道にとっては大きな痛手となる面もあるでしょう。夏場は特に利用客の減少が予想され、稼ぎ頭である幹線での減収は、いつか必ず利用客にしっぺ返しがあるのではないでしょうか。
もうひとつ、並行する国道沿線の町にも影響が出ています。
●高速無料化の影響 日勝峠、道路も店も閑散 「こんな暇なの初めて」肩落とす店主ら
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Doshin web(北海道新聞) 2010年8月8日 10時43分
国道274号が通る
日高町の日高地区。日勝峠と穂高峠の中間に位置しており、ドライバーにとってはちょうど良い休憩ポイントとして立ち寄る人も多い地域でした。
しかし高速道路の通行量増加に比例して国道の通行量が激減、その影響から町の中は閑散としてしまっているようです。
そのことは具体的な数字にも現れており、「
道の駅 樹海ロード日高」の7月の利用者数は前年同月比で55%も減少しているとのこと。
道路沿いのコンビニエンスストアなどは駐車場がいつも多くの車で賑わっていましたが、今はどのような感じになっているのでしょうか。
この事態に対しては「地元自治体や商店の営業努力が足りない」という声もあるようです。確かにそれも事実、如何に地元の魅力を発信して町に来てもらうかを考えなければならないことは言うまでもありません。
しかし、今回は
無料化社会実験が大きな要因になっています。無料化によって全国各地でこのように一般道路が通る町の衰退は危惧されていましたが、その通りの結果がまさに産まれているわけです。
どんな大企業でも国家という組織には絶対に勝てません。
その国家が行う"実験"がどれほどの影響を与えることか。前述のように沿線自治体の衰退、都市部へのストロー効果などは実験開始前から充分に予想されていたことですが、これらには特に対策を講じることなく実験に踏み切ってしまいました。
辞書によると"実験"とは「理論や仮定が正しいかどうかためすこと」とあります。つまりデメリット面は実験開始早々に確かめられたことになるというのが今の状況です。
ではメリットの部分はどうなのか。もちろん観光客の増加や経済の活性化もあることでしょう。
しかし国家が行った実験によってデメリットを受けた人は、この先どうすれば良いのでしょうか。もし仮に、数年先に政府が実験を止めて元の料金体系に戻したとしたら。
その時には衰退しきった沿線自治体や、経営基盤が脆弱化して合理化を徹底した公共交通機関が残されているのかもしれません。いや、もしかすると何も残っていないかもしれません。
社会基盤整備として道路網を充実させることに異議はありません。せっかく整備した道路を、多くの人が使いやすいようにすることも大賛成です。そのために通行料金を引き下げることも正しい政策だと思います。
ただ、高速・有料道路が抱える構造的な問題には全く手を着けず、安易な税金投入による値引きを行っていることが大きな問題なのです。
借金大国ニッポン、このままでは完全破綻の日も近いような気がします。
Posted at 2010/08/17 00:53:40 | |
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