
このブログでは公共交通機関について折りを見て記してきていますが、今日もそんな話題を。公共交通機関というと飛行機、鉄道、バスやタクシーといったものが挙げられますが、その中で今回は地域の重要なアシであるバスについて採り上げてみたいと思います。
バスは大きく分類すると乗合バスと貸切バスに分けられます。乗合バスをさらに分けると、地域内に路線網を持つものと、都市間を結ぶ高速バス(都市間バス)のふたつがあります。観光や団体需要が主となる貸切バスについては、近年になって規制緩和によって貸切団体扱いの激安都市間バスも登場していますが、これについての詳細は別の機会に記すこととして、ここでは地域密着型の乗合バスについて考察してみます。
国土交通省の資料によると、平成20年度の全国における乗合バス事業者の数は1,347。この中には平成18年10月に施行された改正道路車両運送法により乗合バスとみなされた事業者を含んでいますが、全国47都道府県に民営・公営あわせて多くの事業者が存在しています。
しかしご承知の通り、首都圏などの大都市圏を例外として、乗合バス事業者のほとんどは厳しい経営環境に置かれています。背景には少子高齢化や自家用車の普及などに伴い、利用客数が減少の一途をたどっていることが挙げられます。
そして、実際に経営が立ち行かなくなるケースも見られるようになってきています。
●会津バスの経営再建支援 再生機構が地方交通で初
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minyu-net(福島民友) 2010年12月3日
福島県の会津地方で営業している
会津バス(会津乗合自動車)は、
企業再生支援機構の支援を受けて経営再建を図ることとなりました。記事によると同社もやはり、前述のような背景による利用客の減少によって経営状態が悪化して、今回の決定に至ったということです。
全国的にこのような事例は決して珍しくなく、平成15年には熊本県の
九州産交が産業再生機構の支援を受けて経営再建を開始し、平成17年に旅行代理店大手の
H.I.S.がスポンサーとして名乗りを上げて傘下企業となりました。
同じく九州の事例では平成17年に宮崎県の宮崎交通が産業再生機構に支援を要請、経営のスリム化や効率化を図っています。
これらの事例については、経営悪化の一因としてバブル期などの不動産投機や事業拡張が経営悪化に繋がった部分もありますが、いずれにしても本業たる路線バス事業の利用客減少が大きな理由であることに変わりは無いでしょう。
このことは九州に限らず全国で深刻さを増していることであり、もちろん国としても地域交通網の確保に路線バスが必要という考えは持っていますので、補助金などの支援体制を構築しています。しかし
2009年11月24日付のエントリでも記したように、そのうちのひとつである「バス運行対策費補助」については現在の与党が行っている“事業仕分け”で縮減の対象という判定を下されるなど、新たな局面を迎えています。
もちろん事業者側もコスト低減など経営の効率化が求めらています。
路線バス事業において支出の大きな要素は、人件費、燃料費、車両の導入と維持管理費。このうち人件費の抑制策としては分社化を進める事業者が多く、特に大規模なバス事業者では担当する事業内容や地域などによって会社を別としてコストを抑える事例が増えています。
また公営バスについても色々な動きが。
バス事業に限らず、公営事業では高コスト体質が問題とされますが、最近になって公営バス事業者が路線を民間バス事業者に譲渡するなど規模を縮小したり、全面的に公営バスを廃止するといった動きも出てきています。
一方では町村単位などではドーナツ化減少などで衰退する街の中心部活性化なども目的とした“コミュニティバス”を運行したり、運行を地元の民間バス事業者に委託するケースも増えてきています。
そんな中で、私がちょっと注目したいのが「
長崎県営バス」。公営バス事業者は全国にありますが、ここは日本で唯一の“県営”バスなのです(都道府県では、東京都営と長崎県営の2業者のみ)。
その歴史は古く、事業が始められたのは昭和9年。76年もの長きに渡って面々と続いている公営事業です。
事業内容は路線、貸切、高速バスと幅広く、主な地域は県都・長崎市を中心とした県央と県南エリア。保有台数は379両(うち乗合が304両)という全国的に見ても大規模な事業者のひとつで、他の民間バス事業者とともに地域の生活を支えています。
ここで気になるのは、県営バスの収支状況。参考として平成20年度の決算資料を見ると、49,470千円の当年度純損失が生じています。さらに前年度からの繰越欠損金が40,485千円あったため、翌年度への繰越欠損金は89,955千円となり、やはり厳しい経営環境に置かれています。
もちろん座視している筈は無く、中期経営計画の策定などにより、人件費の抑制や経費の圧縮、ダイヤ編成の効率化や増収増客策の実施など、対応が続けられています。
バス事業者の支出では人件費が大きな項目であることは前述しましたが、県営バスということで官民格差も気になるところ。
ひとつの参考して平成20年のデータをひもとくと、長崎県の平均年収は398.2万円(平均年齢42.3歳)という数字がありました。同じ年で厚生労働省の発表資料によると、バス運転手の全国平均年収は440.5万円(平均年齢46.7歳)とあります。
一方で長崎県が発表した資料を見ると、平成19年4月の時点で現業職員(運転士)は193人。平均年齢は45.9歳で、平均年収は641.8万円。比較として県内民間バス事業者のデータも記されていましたが、そちらは平均年収が328.4万円。
実に県営バスの人件費について、単純に平均年収で比較すると2倍近い官民格差が生じていたのです。
官と民で、単純に官(=公務員)を非難するつもりはありません。
しかし現実的に官民の所得格差は地方に行くほど拡大する傾向にあり、官として必要な公共の利益を守ることなどは大前提としても、余りにも非効率的な事業運用を行っているケースも珍しくありません。
一時期は「官から民へ」という言葉が支持を集めましたが、やはり官の力や基盤を必要とすることも多々あります。
地方における公共交通機関の維持は、それが直接的に事業を行うにしても、財政面で支援を行うにしても、完全に民間任せにするだけでは絶対に破綻してしまうでしょう。どうやっても日本の少子高齢化や人口減を急激に改善することは出来ないのですから。
●「買い物難民」を経産省が支援…事業者に補助金
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YOMIURI ONLINE(読売新聞) 2010年11月23日
大規模商業施設の進出にともない市街地中心部の空洞化や地元商業施設の減少などにより、徒歩圏内で食品などの生活必需品を調達できない“買い物難民”の問題が表面化しています。これは決して過疎地域に関わらず、例えば県庁所在地があるレベルの街の中心部などでも現実に起こっている問題であり、特に長く住んでいる高齢者の生活を直撃しています。
ニュースでは経済産業省が補助制度の運用を始める旨を発表したとあります。これによって商業者側の対応が期待されますが、買い物難民は必然的に“通院難民”だったり“通勤難民”である可能性も高いので、公共交通機関側の対策も求められるところでしょう。
そのためには、官民一体となった取り組みが必要ですし、地域の状況に応じては税金である程度をまかなう公営事業の展開や補助金の運用も求められます。
公営のバス事業者は、地域の生活基盤を支えるという大きな役割がありますので、民間事業者以上に“公共”交通機関としての強い使命があるはずです。ならばしっかり住民の足を守る為にも、人件費の問題を含めた経営効率化が強く求められることになるでしょう。
そして効率化が実現すれば運行コストは低減されて、結果として路線網の拡充やダイヤ編成の弾力化など利用者ニーズにつながり、乗客の確保にも見通しが立つようになり得るのではないでしょうか。