
12月16日に発表された
ルノーの「
新型メガーヌ ルノー・スポール」をご紹介、その第二弾。
アウトラインのご紹介に続いては、いよいよ実際にステアリングを握って走らせてみての印象をお伝えしてみたいと思います。
今回のテストドライブは、新車のインプレッションではお馴染みの有料ワインディングロードが舞台として用意されました。当日の天候は曇りで肌寒い一日。平日の日中ということで交通量は少なめでした。
余談になりますがこの道、もちろん一般道です。観光客などの往来も多いのですが、特に自動車雑誌の取材などで走っている車は制限速度を大幅に超えるのみならず、コーナーで平気で車線をまたぐなどの暴走行為をしていることも珍しくありません。
こうした行為こそ、自動車雑誌やジャーナリストのレベルの低さを象徴するものであり、車をとにかく速く走らせ、限界を攻めることでしか評価できない哀れな姿ではないかと思います。
話は戻って「
新型メガーヌ ルノー・スポール」のインプレッション。

まずスペックをおさらいしておくと、エンジンは直列4気筒のDOHCにターボを組み合わせており、排気量は1,998cc。最高出力は184kW(250ps)/5,500rpm、最大トルクは340N・m(34.7kg-m)/3,000rpmとなっており、6速マニュアルトランスミッションを介して前輪を駆動しています。
タイヤはミシュランの18インチが標準で、サイズは235/40ZR18。オプションでは19インチの設定もあり、こちらはコンチネンタルが組み合わされます。
ステアリングは左のみの設定。左ハンドル+マニュアルミッションということで購入客はかなり限られてしまうかもしれませんが、まずは戦略的にエンスージアストと呼ばれるようなコア・ユーザーをターゲットにしているとのこと。それならばこの設定でも大きな不満は出ないかもしれません。まずはコア・ユーザーのハートをしっかり掴みつつ、日本市場での反響を見るということでしょう。個人的には右ハンドルの設定、もっといえばスポールではないクーペボディで2ペダルミッションの設定も実現することを望んでいます。

コクピットは質感が高く、デザイン的にも囲まれ感が適度にあってスポーティなもの。
この「
新型メガーヌ ルノー・スポール」ではシートにフランス車としては珍しくRECAROを採用していますが、こちらも身体をしっかり支えてくれます。そしてシートベルトはボディカラーに合わせてコーディネイトされており、今回のテストカーとなった「ジョンスポール」という名の黄色いボディに対しては、前後席ともにシートベルトは黄色いものが備わっています。この辺りはフランス車ならではのセンスと言えるでしょう。

普通のメガーヌが電子式を採用しているのに対して、あえてワイヤー式のレバーを用意している「
新型メガーヌ ルノー・スポール」のパーキングブレーキを解除して、クラッチをミートさせていきます。
ハードな走りにも対応するスポーツモデルでありながら、クラッチはそれほど重くありません。これならば日頃の街中での使い勝手も全くスポイルされないでしょう。
走り出してまず思ったのは、乗り心地の良さ。もっと硬いものを覚悟していたのですが、いわゆる“締め上げただけ”のスポーツカーの乗り心地とは一線を画しています。
日本では未だにこの“締め上げただけ”を信奉する向きも残っているようで、このメガーヌのように一般ユーザー向けの量産モデルをベースにスポーツグレードを作り上げると、街中で苦痛になるようなガチガチの足回りを設定するケースも珍しくありません。
しかしこの「
新型メガーヌ ルノー・スポール」の場合は足周りだけではなく、シャシーも含めた車全体の“懐の深さ”を感じます。これはワインディングロードで少しペースを上げてコーナーに入って行ったときにも、足だけで頑張っているのではなく、車全体として路面を気持ちよくトレースしてくれることで実感できます。
車全体で、ということは、もちろん操っているドライバーも含んでの話。私自身は輸入車至上主義では決してありませんが、こうした味付けというか車の作り方については、特にフランス車は大衆車から高性能車までに巧さを感じさせます。

インパネ中央上部にある「R.S.モニター」は、スポーツドライビングをサポートする心強いパートナーでもあります。
サーキット走行などにおいて便利なストップウォッチ機能は、もちろんラップ計測にも対応。さらに0-400m加速や0-100km/h加速に要するタイムを計測できる機能も用意されています。
これらの操作はステアリングのサテライトスイッチで行えますので、走行中でもステアリングから手を離さずに指先の動きだけで操作可能。ただし多機能ゆえに少々操作が複雑な面もありますので、最初は手順を覚えて慣れるのに時間を要するかもしれません。
しかし、一部欧州車のナビゲーションシステムほど煩雑かつ複雑ではないので、オーナーになれば大きな問題にはならないでしょう。事実、私が乗った際も最初に一度だけ説明を受けて、あとは触っているうちに30分もしないで使いこなせるようになりましたので。

「R.S.モニター」の機能をもう少しご紹介すると、マニュアル車でありながら最適なギア位置をアドバイスしてくれるシステムが備わっています。上の写真でモニター右部に「3」と表示されていますが、これは3速が最適なギアであることをアナウンスしている状態。
ただしこのアナウンスは決してお節介ではなく、仮に別のギアを選んでいたとしても警告音が発せられたり、モニター上の表示色が変わるようなことはありません。あくまでもドライバーの判断を優先しつつ、さらにクルマとしてアドバイスを出してくれるという感じです。
また「Gセンサー」のデータ表示とログ機能もあり、それが下段の写真です。
前後左右のGの変化をリアルタイムでバーグラフ表示してくれるとともに、ログも残りますので、サーキットドライビングなどではテクニック向上のための良い参考になるでしょう。
さて、話を走りに戻すと、ルノーのターボ車ということで往年の「21(ヴァンテアン)ターボ」のような“じゃじゃ馬”ではないかとも思っていました。しかし実際に乗ってみると普通の走りではとてもスムーズなターボの効き方でトルクが盛り上がってくる感じであり、扱いにくさを覚える場面はありませんでした。
少し多めにスロットルを開けてやると、そこは期待に応えたパワーが余すところなく提供されます。しかし、ビッグパワーのFF車ですがステアリングへの影響は少なく、ハンドリングもスムーズ。狙ったラインに車をもって行ける素直さが光るという印象です。
シフト操作はそのストロークは極少というほどではありませんが、こちらもサーキットから街中まで常に扱いやすい印象。革巻きのレバーに、シートベルト同様にボディカラーに合わせたステッチが入っているあたりが、とても心憎い演出です。
もう一つ、走りの機能として重要なポイントが「アクセルペダルマッピング」。これは5段階の設定が可能で、アクセルペダルマッピングとエンジン回転数の調整が可能というもの。簡単にいうとアクセルに対する反応感度を変えられるというもので、最も低いものは「SNOWモード」となり、雪道などで使用するのがベター。多少ラフにアクセルを踏んでも、穏やかにパワーが出力されます。
逆に最も感度が高いのは「EXTREAMモード」で、サーキット走行などシビアなアクセルワークでタイムを出そうというような場面に最適。
この装置を使って5つのモード全てを試してみましたが、明確にクルマのキャラクターが変わります。「SNOW」と「EXTREAM」は使用環境が限られるでしょうが、中間の3段階でもクルマの反応がはっきり変化するので、好みにあわせたり、その時の気分に応じてクルマとの対話を楽しむことが出来るでしょう。
「
新型メガーヌ ルノー・スポール」、1時間ほどのテストドライブで感じたのは、前述の通り“懐の深さ”。
上っ面のスポーツではなく、クルマの本質からドライビングというものを追求した結果、スポーツという要素を高めたモデルとして完成されている印象です。やはりこうしたCセグメント級のベーシックモデル発展型スポーツ車は、その車種の基本的な完成度と、メーカーのスポーツに対する見識が、最終的な出来ばえに大きく影響するということを改めて感じました。

その点では
ルノーというメーカーそのものの“懐が深い”と言えるのかもしれません。
前回お伝えしたように長年の歴史は常にモータースポーツとともにあり、ターボチャージャーなどの使い方にも一日の長が見られます。
日本ではブランド志向の強い輸入車ユーザーが多いので、なかなか台数も飛躍的に増えない
ルノーですが、この「
新型メガーヌ ルノー・スポール」はスポーツドライビング愛好家のファーストカーとしてはもちろん、既にポルシェやAMGようなハイパフォーマンスモデルを持っている方にもお薦め。なぜなら現実的にはポルシェやAMGを日常的に使うのは少々疲れる部分もあるでしょうし、より気軽に街中を走れる車があればと思っている方も少なくないのではと思います。しかし、ポルシェやAMGを所有しているということは、間違いなくクルマにはこだわりがあるはず。ならば日常ユース主体のクルマにも、高い完成度とドライバビリティを求めるでしょう。
そんな時に「
新型メガーヌ ルノー・スポール」は打ってつけの存在。
性能の良さはもちろんですが、フランス流のスポーツというのもポルシェユーザーなどにとっては興味深いところではないでしょうか。