2011年2月17日付のエントリとして記した「危険極まりない目玉装備」に大きな反響が寄せられています。みんカラ版では気に入った記事を示す“イイね!”という機能を使って、多くの方々からご支持をいただきました。
そこで、もう少し自動車の運転とカーナビゲーションやオーディオの操作性について記してみます。長文ではありますが、ぜひお付き合いください。
今回の内容は
2009年1月11日付のエントリでも記したことに似るのですが、こちらも掲載から2年を経た現在も一定のアクセスがある内容です。それだけ交通安全に対して関心のある方も多いということなのでしょう。
自動車を運転する人はもちろん、子供から高齢者まで交通社会の一員である以上は、交通事故に遭遇するリスクがあります。このリスクを如何に小さなものにするかは、個々が細心の注意を払うこと、道路交通法などへの遵法意識を高めること、そして特に自動車の運転者は“事故を起こさない・事故に遇わない”運転を心がける必要があります。
残念ながら交通事故がこの世から無くなることは現実問題として難しいでしょうが、少なくとも日本において死亡交通事故の発生件数は減少傾向にあります。
警察庁の発表によると、2010(平成22)年の交通事故による死者数(発生から24時間以内)は4,863人となり、実に57年ぶりに4千人台となった前年の数値をさらに下回りました。また死者数がワーストとなった1970(昭和45)年の16,765人に対しては、70%以上の減少となっています。
この死者数については都道府県別の数値も発表されていますが、単純な数の大小だけを見ることの危険性については
2010年12月10日付のエントリにも記した通り。いずれにしても個々のドライバーは自らが交通事故の当事者とならないように、ステアリングを握ったらしっかり安全運転を自覚しなければなりません。
ところで57年ぶりに低い値となった交通事故死者数ですが、死亡交通事故の発生要因については細かく検証する必要があります。
そこで大切なのは死亡交通事故が発生した理由。それを示すひとつの資料として、
警察庁が集計している「第1当事者の違反別死亡事故件数」というデータを見てみましょう。なお項目には各違反内容のほかに「その他」というものがありますが、今回は「その他」については除いて解説します。
まずは、史上最悪の交通事故死者数となった1970(昭和45)年の資料から。これを見ると第1当事者となった車両側が犯していた違反は「わき見運転(11.7%)」がトップ。これに「最高速度違反(8.7%)が続き、以下「酒酔い運転(8.0%)」「追越し違反(7.0%)」「徐行・一時停止違反(4.7%)」となっています。
次に1989(平成元)年のデータ。バブル経済を背景に自動車の高性能・高出力化が進んだ時代です。この年のワーストワンは「最高速度違反(23.1%)」。10件の死亡事故における車両側の過失について、実に2件以上がスピードの出しすぎだったということになります。2番目は「わき見運転(8.8%)」で比率は1970年よりも若干小さくなっていますが、わき見が如何に危険な行為であるかを理解できます。以下、「酒酔い運転(5.7%)」「運転操作不適当(5.6%)」「徐行・一時停止違反(5.0%)」と続いています。
この時代はやはり最高速度違反が突出して多いことが特徴的。運転操作不適当というのも、想像ですがスピードの出しすぎによって運転操作を誤った事案を多く指しているように思えます。自動車の高性能化、道路基盤の整備がもたらした負の一面を窺い知ることができます。
続いては2008(平成20)年。街を行く自動車のほとんどが衝突安全ボディとなり、エアバッグやABS(アンチロックブレーキ)といった安全装置の普及も進みました。
この年のワーストワンは「漫然運転(15.3%)」。この項目は2002(平成14)年の統計資料から新たに加わった項目ですが、居眠りや漠然とした状態での運転を指しているようです。つまり運転操作に集中していないということで、ひとつの背景としては“クルマの家電化”や“高齢運転者の増加”があるように思われます。
次いで2番目に多かったのは「わき見運転(13.6%)」。漫然運転とわき見運転を合わせると28.9%にもなり、死亡事故の3割りの要因となっていることがわかります。そして以下「運転操作不適当(10.3%)」「最高速度違反(7.1%)」「徐行・一時停止違反(5.4%)」となっています。
このように約40年で、というかここ10年ほどで死亡交通事故の要因には大きな変化が見られます。
最高速度違反が減少傾向を見せる一方で、漫然運転やわき見運転の増加が顕著なのです。事実、2009(平成21)年の統計でもワーストワンは「漫然運転」で割合は15.3%に増えてしまっています。これに次ぐのはやはり「わき見運転」で、こちらも13.8%に増加。一方で「最高速度違反」は6.9%に減少しています。
資料をさらに検証していくと、2003(平成15)年に第1当事者の違反別死亡事故件数では、「最高速度違反」の割合を「漫然運転」と「わき見運転」のそれぞれが上回る逆転現象が生じました。この年、
総務省によるとカーナビゲーションの普及率が初めて30%を超えて30.6%となりました。これが2009(平成21)年の時点では51.4%にまで伸びていますが、前述の「漫然運転」や「わき見運転」の増加が比例していることは間違いありません。
つまり近年は自動車のダウンサイジング指向や安全装備の充実化、スピードに対する価値観の変化などに伴い、最高速度違反を主に要因とした死亡交通事故が減少している一方で、カーナビゲーションや携帯電話の普及、高齢運転者の増加などにより漫然運転やわき見運転による死亡交通事故が増えていると結論づけられるように思います。
こうした背景があるからこそ、個々の運転者が安全運転をしっかり意識して励行することを大前提とした上で、辛口の批評になりましたが運転中の操作性に問題のあるカーオーディオを自動車メーカーが設定することには、激しい憤りを感じた次第なのです。
“自動車の家電化”という言葉を近年は耳にする機会が増えています。
この言葉を最初に使った人が何を意図していたのか知る由もありませんが、私自身はこの言葉に否定的ではありません。“家電”を便利な道具を象徴しているフレーズだとしたら、自動車は耐久消費財である限り、その利便性を追求するのは当たり前のことだからです。冷蔵庫やテレビとは異なり嗜好性が強い面もあるため、走りの性能などに拘る人が多いのは承知の上でいえば、自動車の基本は“個人が自由意志で安全かつ迅速に移動できる”ための道具であるはず。その上で走行性能やデザインなどで商品の個性を出したりして現在に至っているわけです。
しかし当たり前のことですが自動車は家電とは決定的に異なる点があります。
それは運転者が自由意志において一般交通社会の一員に加わって走行させることが目的の道具であるということ。そこには最初に記した様に交通事故のリスクが必ず存在しており、動力性能や快適性能の以前に安全性能が追求されるべきです。
それは何も最先端の電子デバイスを全ての車に装備することだけではなく、もっと基本的な操作性能や視界などを徹底することが大切でしょう。しかし残念ながら運転中の操作が危険な装備を平気で用意してみたり、デザインを優先しすぎて視界に難があったり、着座位置調整機能をコスト優先で省いた結果として正しい運転姿勢を採りにくいといった車が存在していることも事実です。
堅実な消費者が増えている現在だからこそ、見た目やカタログスペックに踊らされない車選びを多くの方々にしていただきたいと思いますし、自戒を込めて交通事故の現状を知ることで安全運転の励行と普及にもつながればと思っています。
Posted at 2011/02/23 21:45:44 | |
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