
今回は久しぶりのインプレッション記事。先日の全日本ラリー選手権取材で借りたレンタカー、
トヨタ・
ヴィッツのショートインプレッションを記してみます。
トヨタのボトムレンジを担う
ヴィッツが日本で発売されたのは1999年の1月。ヨーロッパなどでは「ヤリス」のネーミングで販売される、グローバル戦略において重要なコンパクトモデルとしての登場でした。そのスタイリングは従来の日本車における“リッターカー”と呼ばれるコンパクトカーの中では群を抜くスタイリッシュなもの。ギリシア人デザイナーの手によって描かれた造形はネーミングを一新した新生代のコンパクトカーに相応しいものでした。
初代は日本はもとより、ヨーロッパでもカー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど高い評価を受け、市場でも人気車種となりました。
約6年間という長めのモデルライフを過ごした初代は、2005年2月に2代目へとバトンタッチ。プラットフォームを一新してややボディサイズをアップ、しかしながらエクステリアの雰囲気は初代の持つイメージを踏襲したものでした。インテリアについても初代でセンセーショナルにデビューしたセンターメーターが継続採用され、広々とした室内空間はコンパクトカーの常識を超えるレベルでした。
そして2010年の12月、
ヴィッツは三代目へと進化。
ここでデザインテイストは大きく変貌を遂げ、やや厳つい表情にすら感じられるクールなテイストを前面に出すキャラクターとなりました。インテリアでもセンターメーターを廃し、誰でも抵抗感無く受け入れられるオーソドックスなスタイルに変化。
今回は、この三代目を三日間に渡って、約250km走らせてみての印象をお伝えします。
まずスタイリングですが、初代、二代目と見慣れた身にとっては「ヴィッツらしさ」をいま一つ感じられない男性的なテイストに戸惑いも覚えます。しかしそれは開発陣の狙いどおり。開発にあたっては「ヴィッツかくあるべし」といった概念を捨てて、あくまでも「コンパクトカーとは何か」を突き詰めたと言います。その結果、可愛らしさを必要以上に感じさせるテイストではなく、性別や年齢に関係なく幅広いユーザーが受け入れてくれる方向性になったということです。
スタイリングは個人の趣味性が反映される部分なので論評すべきではないかもしれませんが、個人的には確かにグローバルカーとしての方向性としては間違っていないようにも思えますが、せっかく二世代で築き上げつつあった“ヴィッツ・テイスト”を捨ててしまったのは勿体ないようにも思えてなりません。新型は、どことなく今どきの普遍的な雰囲気が強いというか、どこかに似たようなテイストのライバルがいるような気がしてならないのです。
インテリアはセンターメーターを廃したことで、ごくコンベンショナルな空間になりました。
助手席のドアからセンターパネルまでを水平方向に貫く明るいパッドが大胆かつ個性的な印象。全体的に開放感があり、コンパクトカーに乗っていることを感じさせないリラックス出来る空間の余裕を感じられます。またスイッチ類がとても少なく、スッキリした印象を覚えた点もポイント。細かく見るとセンターベンチレーショングリルとメーターパネル、そしてハザードランプを囲むパッド面がもっとも近づく周辺には、どこかデザイン的に未消化な部分も感じられるてしまいます。
しかしながら、誰もが戸惑うことなく広い視界を確保された中で運転出来るというのは、グローバルコンパクトカーとして重要なポイントだけに、完成度は悪くないレベルだと思います。
もちろん使い勝手の面でもトヨタらしく抜かり無い出来ばえでした。
運転席まわりの小物入れスペースは必要充分以上に用意されており、財布や携帯電話などをきっちりおさめられるようになっています。また、類別によっては助手席に荷物を置いた際の滑り止めに有効なプレートが備わる「買い物アシストシート」が採用されています。これは通勤や買い物などのタウンユースを一人でこなすケースが多い女性の方などに重宝されるアイテムでしょう。
走りの方はベーシックな3気筒・996ccエンジンでしたが、街中から高速道路まで何の不満も無くこなしてくれました。
カタログスペックによると最高出力は51kW(69ps)、最大トルクは92N・m(9.4kgf・m)となっていますが、ラリー取材特有の険しいワインディング路走行においても「モア・パワー!」と叫びたくなるようなシーンは皆無。その一方で高速道路などのクルージングではCVTが効率のよい低い回転域を使うので、静粛性もなかなか優れています。
実は今回のドライブでもっとも気になっていたのが、このCVTのマナーでした。先代モデルでは50km/h程度の定速巡航という日常的にも多用する領域で、CVTが燃費を稼ぎたいが故か無理に低い回転数を使おうとする傾向があり、走行フィーリングがとてもギクシャクしたものになっていた経験があります。この点はしっかり改良を受けており、コンパクトカーとは思えない良い意味で重厚な乗り心地とも相まって、充分にファーストカーとしてお薦めできる完成度になっていました。
もっとも燃費性能としてはカタログ値で見ると、上級の1,329ccの直列4気筒エンジン搭載車の方が優れています。これは3気筒車はエンジンノイズの低減やスムーズなドライバビリティを確保するためには、極端に低い回転数でのロックアップを使えないという理由によるものかと思います。当然、全体的な余裕や質感という面では4気筒エンジン車に軍配があがるでしょうから、購入の際にはかなり悩ましい選択を迫られるでしょう。3気筒車の安さや自動車税など維持費の少なさも魅力的ですが、出来れば一度は両者を乗り比べて、さらに叶うことなら4気筒のアイドリングストップシステム装着車も試した上で、購入するグレードを決めるのがベストではないかと思います。
人気モデルは三代目がひとつの鬼門になるケースが見受けられます。特に初代で人気を博し、二代目をキープコンセプト的に生み出したブランドは、三代目で大きくテイストを変えてセールスに失敗したいという前例もこれまでにいくつかありました。
ではこの三代目
ヴィッツはどのような結果になるのでしょうか。そこは
トヨタの営業力がありますから、世界的に多くのユーザーを獲得することになるのは間違いないでしょう。車そのものの完成度も充分に合格点の領域にあり、どなたにでも安心してお薦めできるものだからです。
しかし個人的には初代で感じた驚きが再びよみがえることはありませんでした。本当にコンパクトなボディで計算された効率的なスペースユーティリティ。小回り性能に優れて街中での取りまわしの良さが光る一方、高速道路の巡航でも不足を感じさせないドライバビリティ。日本ではやや「可愛い」と受け止められたようですが、ちょっと先進的でスタイリッシュなエクステリア。
やはり「ヴィッツらしさ」を昇華させてこそ、ヴィッツの世界が拡がり、ひいてはトヨタのコンパクトカー造りの信念が確固たるものになっていったのではないかと思えてなりません。
Posted at 2011/04/20 22:51:37 | |
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