
【2012年1月2日 12時40分/広島県福山市鞆町】
私にとって、今回の中国地方紀行で必訪の地のひとつと位置づけていた「
鞆の浦」。その理由ですが、実は風光明媚な景色を楽しみたいというのは二の次の話で、ここ数年にわたって報道などで伝えられている「埋め立て架橋問題」の現場を見ておきたいと思ったからなのです。
当地は古くから交通の要所であり、潮待ち港としても栄えたというのはひとつ前のエントリにも記したところです。
ゆえに市街地の中心部は古風な建物が建ち並んでいますが、重要な動脈である県道47号は700m以上に渡って現代の道路としては全く機能を果たさないほどに道幅が狭いままになってしまっています。
この狭い道が原因となって住民の生活は不便を強いられ、かつ防災面においても緊急時に消防車や救急車が思ったように活動出来ないという事態も危惧されています。
ゆえに広島県が主体となって港の両岸を埋め立て、そこに橋を架けて県道のバイパスとする計画が浮上。ところがこの港周辺をはじめとして、「
鞆の浦」の一帯はその景観にも歴史的な価値があるとして反対運動も起こります。さらに反対派には、いわゆる学識経験者を名乗る者や、著名な映画監督なども加わり、全国的な注目を集めるところとなりました。
一方で選挙では計画推進派の市長が当選するなど、埋め立て架橋については推進派と反対派が真っ向からぶつかるかたちに。その後、ICOMOS(国際記念物遺構会議)なるNGOが反対を申し入れたり、反対派が原告となった裁判では2009年の一審・広島地裁判決で原告が勝訴するなどして、計画は遅々として進まずに現在に至っています。
さて、こうした事情を予習した上で福山市内から車で県道22号を使って「
鞆の浦」へとアプローチしたのですが、その過程で目にしたのは「計画早期推進」を訴える多数のノボリ旗でした。こうした、一般的に“行政と市民運動”という形の対立軸が展開されている場合、大抵は開発に反対する市民側の看板やノボリ旗が目立つものです。しかしここは様子が違っており、かえって市民運動となっている反対派の訴求が見当たらないことに違和感を覚えました。
「現状では反対派が優勢なのだから、わざわざ宣伝活動をしていないのか?」などと考えながら、「
鞆の浦」の中心部へ。すると、港の一角には「生活権優先」と大きく書かれた掲示が。もちろんこの看板を掲げた人の主張は、生活の利便性が向上する計画の早期推進を訴えるものだとわかります。
その思いは実際に、問題のひとつとなっている県道を走ってみれば一目瞭然。軽自動車ですらすれ違いに難儀する場面が多く、今回は道がほぼ空いている状態だったので幸いでしたが、これが観光シーズンともなると大渋滞となるのが常だそうで、沿道や周辺の一般市民生活も相当な我慢を強いられているそうです。
さらに全く車が身動きを取れない中で、急病人や火災が発生したらどうなるか。救急車や消防車は市営渡船乗り場の近くにある消防支署に配備されていましたが、現場に部署することもままらならない事態が待っているでしょう。
当地を実際に訪れた身としては、計画の早期推進を訴えたいと思います。
確かに景観の歴史的価値、という観点もわかりますが、それは結果的によそ者の押しつけに過ぎないとしか思えません。このままでは「
鞆の浦」周辺は不便さに愛想を尽かす若者などが続出して、今以上に人口の減少と高齢化が進行してしまうことになるでしょう。計画反対派は架橋によって観光資源の価値が下がって地元経済の衰退を招く、という主張もしているようですが、果たしてそうでしょうか。旧来の景観などと巧く調和を図った開発により、観光需要をしっかり守っている事例は全国にたくさんあります。
それよりも、このまま地域の人々を災害に弱い環境下に置いたまま我慢を強いる権利が、果たして誰にあるというのでしょうか。
報道はこうした開発の是非を問うような社会問題の場合、得てして開発を推進する官公庁や経済界を敵視するような内容を垂れ流しがちになります。確かに無駄な開発には市民として目を光らせるべきですし、官公庁と建設業界などの癒着は断じて許すことは出来ません。
しかし、いわゆる“市民運動”については、ことの本質をしっかり見ることも必要なようです。声だけが大きい“市民活動家”や、それっぽい権威のありそうな名称の団体などに惑わされることなく、果たしてその現場で何が起きているのか、何が求められているのかを、しっかり検証する力も一人一人に求められているようです。
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Posted at 2012/01/08 22:49:28 | |
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2012年 中国地方 | 日記