
日本の経済について景気の低迷が叫ばれるようになって久しいですが、2011年から2012年に年が替わっても世界的な経済情勢の先行きには不透明感が漂っています。
アメリカは昨年夏に国債が初めて格下げされるという事態に陥りました。その後はなんとか景気回復基調を取り戻しつつあるようですが、ここに来て中東情勢の流動化が不安材料視されはじめています。一方で驚異的な経済成長を続けている中国にも息切れが一部からは伝えられはじめており、“チャイナバブル”が徐々に崩壊しつつあるという観測も出ています。もっとも、この国については国家としてのかたちそのものに大きな歪みがあることも拭いきれませんので、遅かれ早かれ何らかの形で大きな変動の波に呑まれるであろうと個人的には思っています。
そしてヨーロッパはギリシャをはじめとした各国の財政悪化が懸念材料として残っており、厳しい先行きを予想するレポートが多くのシンクタンクからあげられています。ただ、自動車産業について言えば思った以上に活発な動きが見られており、傾向としては地元の欧州市場ではダウンサイジング化と燃費・環境性能技術の進化が加速、一方で新興市場に対しては廉価な普及型の新車を投入するなどの積極策を展開しているメーカーも多く、結果としては過去最高水準の利益を出すメーカーも多く現れました。
さて、ここでひとつ、日本における輸入車市場についての気になるニュースをご紹介。
●欧州車 なぜ円高還元しない? ブランド価値維持 原料高騰
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TOKYO Web (東京新聞) 2011年12月27日
昨年末の
TOKYO Web (東京新聞)に掲載された記事ですが、円高ユーロ安が進む中でなかなか差益還元が行われていない輸入車についてのレポートです。為替変動に連動した値下げを実施しない理由について原材料費の高騰や、値下げによるブランド価値の低下は結果としてユーザーの利益を損なう、といった内容が販売側の主張であると伝えられています。
このうち、気になるのは後者について。
過去、イギリスのローバーは1994年に「フェアプレイ政策」と題した大幅な価格改定を実施、特に最高級SUVである「レンジローバー」は一気に300万円もの引き下げを行いました。このことは新規顧客に開拓に繋がった反面で、中古車市場や下取り価格の大変動を招く結果も生み、確かに既存ユーザーの中にはデメリットを受けてしまったケースもあったと記憶しています。
しかし、この事例のように800万円程度の値札を300万円引き下げるというのは極端ですが、そこまでではなくとも多少の値下げ努力は現状の国内インポーターから見られても然るべきという思いが強くしています。
例えば、最近登場した話題の新車について。
●BMWディーゼル第1弾、X5で登場
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asahi.com (朝日新聞) 2012年1月19日 11時17分
BMWは日本市場にも積極的にディーゼルエンジンモデルを投入すると発表していますが、その皮切りとなったのが「
X5 xDrive35d BluePerformance」。高級SUVとして日本市場でも人気のモデルにディーゼルエンジンを搭載したモデルですが、価格は記事にもあるように8速オートマチックの右ハンドル仕様で839万円とされています。
ちなみにガソリンエンジンモデルは「xDrive 50i」が1,045万円、「xDrive 35i」は798万円の設定ですから、ちょうど両者の中間というポジショニングが価格的にも与えられました。
さて、ここで若干素人っぽい発想でもありますが、同車種が他の市場でどの程度のプライスタグを掲げているのかを見てみましょう。
まず、お膝元であるドイツ。
ディーゼルエンジンモデルは若干日本仕様とグレード表記が異なるのですが、同じエンジンを搭載する「xDrive 30d」は54,900ユーロ。日本円にするとユーロ安の影響もあって約550万円です。ガソリンエンジンモデルは「xDrive 50i」が74,300ユーロ(≒750万円)、「xDrive 35i」は55,600ユーロ(≒560万円)となっています。続いてアメリカを見ると、「xDrive 35d」は56,700ドル(≒440万円)。ガソリンエンジンモデルは「xDrive 50i」が64,200ドル(≒500万円)、「xDrive 35i Premium」は55,200ドル(≒430万円)となっています。
もちろん仕様や装備が多少は異なるということを承知の上で、あくまでも参考的に比較材料として捉えたにしても、余りの価格差に驚かれるのではないでしょうか。日本で839万円の値付けをされている車は、ドイツでおよそ300万円、アメリカでは400万円も安く販売されているのですから。もちろん繰り返しますが仕様や装備が完全に同じではありませんので、比較的高級装備が満載の状態を標準としている日本仕様は割高になるのも当然でしょう。ただ、どれほどの高級装備を標準化したとしても、幾らなんでも許容範囲を超える価格差であるというのが、一般消費者の率直な感想ではないでしょうか。
この差が“ブランドの価値”というものなのでしょうか。
確かに高級ブランドである意味合いは小さくありませんし、店舗やサービススタッフなどのクオリティにも大きな費用を投じていることは間違いありません。しかし、耐久消費財たる自動車を冷静に商品として見たときには余りの割高感ゆえに、私の場合は巷の自動車雑誌のように安易に誰にでも薦められるものではないと思っています。
当然、自動車を本当の意味でユーザーの立場に立って評価した場合、高いブランド力はオーナーとしての満足度が精神的に高いでしょうし、リセールバリューも悪くないので乗り換え時のメリットも小さくはないでしょう。しかし、日本の場合は日本車の完成度が非常に高く価格競争力にも優れているという実態がありますし、特にブランド力があると言われているドイツ車に対して、決して引けをとらない商品力や趣味性を有している上で割安な輸入車も多く存在しています。
市場原理としては購買層がブランド力を認めていれば、もちろんそれ相応の付加価値を付与した値付けがされるのは当たり前のこと。ただ、そのブランド力や付加価値については、自動車を購入しようとする全ての人に魅力的なものではなく、盲目的に良さをアピールしてお薦めするのはちょっと違和感を覚える部分なのです。
Posted at 2012/01/26 02:15:31 | |
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