
残念ながら日本において、テレビや新聞といった一般的な報道媒体においてモータースポーツが採り上げられることは、ほとんどありません。
比較的、認知度の高いF1であれば、日本人ドライバーが参戦していることもあって、多少は記事になるでしょう。しかし、それ以外ではなかなかスポーツ欄にすら掲載されることもなく、日本人ドライバーがFIAのタイトルを手中におさめたとしても、ローカルスポーツ以下の扱いしか受けられないのが厳しい現実です。
しかし今年は、あるモータースポーツ競技会について、一般の報道が増えることになりそうな気がします。
その競技会とは、アメリカのコロラド州で開催される「
パイクス・ピーク・インターナショナル・ヒル・クライム(PPIHC)」。ロッキー山脈の東端にある標高4,300のパイクス・ピーク山を舞台に開催され、中腹の2,800m地点をスタートして4,300mの頂上にあるフィニッシュまでを、1台ずつが一気に駆け上がってタイムを競い合うという単純明快な競技です。
そのコースは今年から全面舗装されますが、普段は観光道路として使われている一般公道。ここをクローズしてコースにするわけですが、大小150個以上のコーナーが待ち受けている上に、所によってはガードレースもないというチャレンジングなコース。昨年の大会で総合優勝を飾った田嶋伸博選手のタイムは9分51秒278、約19.99km(12.42マイル)のコースですから、平均車速は120km/hに達しているのです。
この「
パイクス・ピーク・インターナショナル・ヒル・クライム(PPIHC)」は、インディ500と並んでアメリカで最も歴史あるモータースポーツ競技です。第1回が開催されたのは1916年、日本は大正5年で吉野作造が中央公論誌上で「民主主義」の主張を発表したことから、大正デモクラシーの流れが加速するきっかけとなった年でもあります。
自動車に関して言えば、日本でも2年前の1914(大正3)年には快進社自働車工場が「脱兎号」を東京大正博覧会に出展するなど、モータリゼーションは産声をあげようとしていました。さらに同年、アメリカ在住の日本人が持ち込んだ4台の自動車により、目黒競馬場でデモンストレーション・レースも開催されて、モータースポーツも歴史の1ページ目を刻みはじめています。
しかし、この当時で既に、アメリカでは本格的なモータースポーツ競技会として「
パイクス・ピーク・インターナショナル・ヒル・クライム(PPIHC)」が開催されるようになったわけで、そこには大きな差を感じるところ。
通称“パイクス”と呼ばれるこの競技会はアメリカを代表するモータースポーツイベントに成長し、今や世界中の注目を集めるに至っています。
そして今、このパイクスは電気自動車が活躍を見せる舞台として、改めて脚光を集めています。
そもそも電気自動車は内燃機関エンジンに対して航続距離で絶対的なハンデを背負っていますが、パイクスであれば走行する距離はあらかじめ決まっていますし、現在の技術で十分にスポーツドライビングレベルで完走することには対応出来る内容です。
その上で標高があることで内燃機関では免れられないパワーダウンというデメリットが電気自動車には無く、世界的な注目を元々から集めているイベントだけに、電気自動車が内燃機関車と真っ当に戦える唯一の大舞台と言えるかもしれません。
ここにいち早く目をつけたのは、日本を代表するオフロードレーサーの塙郁夫選手。2009年から自らプロデュースした電気自動車での挑戦を開始し、今では電気自動車のコースレコードホルダーを持っているのみならず、第一人者として得た豊富な経験と技術を車造りと自らのドライビングテクニックに活かしています。
●パイクス・ピーク・インターナショナル・ヒル・クライム 2011
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横浜ゴム・ADVAN モータースポーツ
既に報じられているように、今年は7月8日開催されるパイクスには、
三菱自動車が「i-MiEV プロトタイプ」で参戦すると発表。ドライバーはダカールラリーでもお馴染みの増岡浩選手です。
一方で田嶋伸博選手も、
電気自動車普及協議会が作った実行委員会と協力して、今年は電気自動車での参戦を発表。
さらに日本を代表するラリードライバーの
奴田原文雄選手も、ドイツ・トヨタ・モータースポーツ(TMG)が開発した電気自動車を駆って参戦する予定であることが明らかとなりました。
こうして続々と電気自動車による新規参戦が増える中、第一人者の塙選手も受けて立つ側として着実にマシンのアップデートを進めている模様。
今年のパイクスは日本人ドライバー×電気自動車が主役となり、世界的に見ても電気自動車による次世代モータースポーツの輝かしい1ページ目を刻むことになる、必見の大会となることは間違いありません。
このパイクスについては日本のメディア、特に自動車やモータースポーツ専門ではない一般のメディアに、ぜひ大々的に採り上げてもらいたいところですが……。なにしろ、自動車系のメディアは“伝えたい”という思い以前に、“お金になるか”で動きますから、メーカーなどが広告を出して初めて喜んで取材するという体たらく。そんな媒体の提灯記事ではなく、しっかりパイクスの歴史や、電気自動車の可能性と課題を検証するような報道を見てみたいものです。
Posted at 2012/04/03 19:26:22 | |
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モータースポーツ | 日記