
ここ数年、高速道路や自動車専用道路の料金については、政治的な意図によって目まぐるしい変化が続いています。
2001年の11月30日から全国で利用が開始された「
ETC(Electronic Toll Collection System)」の普及を図るために、同日から期間限定特別割引が制定され、更にハイウェイカードから「
ETC」への移行促進のために翌年には前払い割引制度が実施に移されました。
この辺りはあくまでも「
ETC」の普及促進が目的の割引制度という位置づけでしたが、2003年7月19日から「
長距離割引社会実験」が実施されました。これは「
ETC」搭載車両に限り、適用路線の連続走行距離が長くなるほどに割引率が増すという料金体系。主に大型トラックの動向を検証するのが目的であり、一般道路を走行しているトラックを高速道路に誘導することが出来るかの実験でした。
その後、この“社会実験”という言葉が、政治家によって都合よく使われてしまうようになった感があります。
●アクアライン値下げ実験 経済効果は358億円
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TOKYO web(東京新聞) 2011年1月25日 夕刊
1兆4千億円以上の総事業費をかけて作られた「東京湾アクアライン」。1997年12月に開通しましたが、当初の予定では普通車の通行料金は4,900円に設定されていました。しかし時の亀井静香建設大臣が「高額すぎる」と鶴の一声を発し、料金は開通時から普通車4,000円に値下げされたのです。ただし、これは5年間の時限措置として位置づけられていましたが、それでも高額な料金が嫌われて通行量は見込みを大きく下回る結果に。
2000年7月には料金プール制の組み換えによって更に普通車で通行料金を3,000円に引き下げた上、「
ETC」搭載車両は社会実験の名の下に2,320円とされました。当初予定の半額以下に設定された通行料金ですが、2009年8月1日からは「
ETC」搭載車の場合、普通車で実に800円という格安の料金設定にされました。
この800円設定も社会実験。ちなみに「東京湾アクアライン」は開通からこれまでに数多くの社会実験や割引が行なわれてきましたが、主なものを以下に記してみます。
■東京湾アクアライン利用促進社会実験
期間 : 平成14年7月19日~平成18年3月31日
割引内容 : 全日約23%割引
実験費用 : 期間総額 1億861万1千円 (国費負担 2,635万円、千葉県負担 5,773万5千円)
■東京湾アクアライン利用促進キャンペーン
期間 : 平成17年7月21日~8月31日
割引内容 : 早朝夜間 5割還元、平日昼間 2割還元
実験費用 : 2億4,640万円 (国費負担 1億6,400万円、千葉県負担 8,240万円)
■東京湾アクアラインETC割引社会実験
期間 : 平成19年2月1日~2月28日
割引内容 : 対象時間(6~10時、14~20時)走行で3割引
実験費用 : 2億5,550万円 (国費負担 1億7千万円、千葉県負担 8,550万円)
これらは国と千葉県が共同で費用を負担して行なったもので、前述の記事にある社会実験も同様のものです。ご覧のように実験には多額の税金が投入されており、これらはもちろん国民や県民の負担となっているのです。
高速道路は小泉政権下で民営化されましたが、その後の動きはどうにも当初の理念とはかけ離れたものという印象があります。
確かにサービスエリア施設の充実化や情報サービス提供のボリュームアップなど、利用者サービスの向上を見て取れる部分もありますが、公団時代にも増して広告や宣伝などに無駄な予算を支出しているようにも見えてしまいます。
民営化以後、道路会社各社はウェブ上でいろいろな企画を展開、そこに広告を入れるなどの収入増加策も行なっています。それは良いのですが、一方ではタレントなどを使って宣伝やイベントを頻繁に行なったり、サービスエリアなどでも大小様々なイベントを行なうようになりました。これらは“手作りイベント”という感じではなく、いかにも広告代理店などが主導している雰囲気が漂っています。
果たして公共の交通インフラである有料道路に、こうした宣伝や広告が必要なのでしょうか。
交通安全啓蒙などについてのものは意義があるでしょうが、それはあくまでも最小限の予算で行なわれるべき。本来は収益を利用者に還元して、企業として適切な利益をあげる健全経営と、安全な通行が出来る施設の維持管理や利便性の向上などにつとめるべきです。
現状、道路会社は税金を投入される“社会実験”が頻繁に行なわれたとしても、経営には何の支障もないでしょう。割引というなの実験は、すなわち税金による差額補填に過ぎないのですから、道路会社の努力によって実現した値下げではないのです。
年が明けて年度変わりが近づくにつれ、現在行なわれている「ETC休日特別割引」に対する予算措置の失効が迫ってきました。3月末日でこのままでは割引を終了しなければならず、現政権はそれ以後の制度確立を急がねばなりません。しかし、どうにも明確なビジョンは見えていないのが現実です。
一方で
首都高速道路や
阪神高速道路は、2008年に延期が決定した「距離制料金」を、この機会に復活させようと目論んでいます。利用者全体で見たときには実質的な値上げとなる制度ですが、2008年には景気の後退を理由に導入が延期されました。景気が悪いから導入を延期したことこそ、実質的な値上げの証であると言えるでしょう。
2008年は上限を1,200円としていましたが、今度は900円に設定して“企業努力のフリ”を見せています。しかしこの900円については、当初からこの額になると言われていたものであり、最初に掲げた1,200円が「ちょっと最初は高めに言っておいて、あとから値下げ努力を見せたことにしよう」という意図さえ見えてくるものです。
都市部の重要な交通インフラとして径年劣化による維持管理費がかかること、新規路線が開通していることなど、値上げを容認出来る理由もあるにはありますが、その前に徹底したコスト削減の自助努力をもっと見せるべきではないでしょうか。例えばファミリー企業の問題など、クリアになったとは言えない状態が続いています。
都合よく行なわれている“社会実験”ですが、利用者である国民はいつまでも従順なモルモットではありません。“実験”や“割引”、“無料化”といった、耳障りのよいフレーズに騙されないように気をつける必要があるでしょう。