
なかなか明るい話題の少ない日本の国内自動車市場ですが、
社団法人日本自動車販売協会連合会と
社団法人全国軽自動車協会連合会が去る正月明けに発表した内容によると、2010年の国内新車販売台数は前年比7.5%増の495万6136台となったとあります。
エコカー補助金制度などの効果もあって6年ぶりに前年実績を上回りましたが、数字的には2年連続で500万台を割って低調な推移となりました。バブル経済の影響でピークとなった1990年の777万7493台と比べると30%近い減少となっています。
国内市場は景気の低迷もありますが、少子高齢化の急速な進行も今後の需要予測に影を落とすことになるでしょう。運転免許人口は年々増加していますが、新規の運転免許交付件数は近年で見ても減少傾向。
警察庁の資料によると2005(平成17)年の1,450,787件に対して2009(平成21)年は1,230,134件と、実に15%も減っているのです。こうした流れにより指定自動車学校の減少が続いていることは、
2008年8月20日付のエントリに記した通りです。
一般社団法人日本自動車工業会は2011(平成23)年の国内需要見通しについて、景気に対する不透明感とエコカー補助金終了による反動から、前年比90.1%の4,46万5千台という厳しい見方をしています。
このように国内需要の先行きに明るい要素が無い中、各メーカーは国内販売モデルの整理・縮小を進めています。そんな中でひとつ、こんなニュースがありました。
●トヨタが「ラウム」生産終了へ
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中部経済新聞 2011年2月15日
報道によると
トヨタ自動車は「
ラウム」の生産を3月いっぱいで打ち切り、販売も4月に停止するということです。
「
ラウム」のデビューは初代が1997(平成9)年。“ヒューマン・フレンドリー・コンパクト”を掲げ、左右リアにスライドドアを採用、ハッチゲートは横開き式として背の高い2ボックスデザインは広い室内空間を実現。その源流は1993(平成5)年の第30回東京モーターショーに参考出品された「ラオムⅡ」であり、最終的にドイツ語で“部屋”を意味する「
ラウム」というネーミングでデビューしました。
そして2003(平成15)年に二代目にバトンタッチ。背の高い2ボックススタイルやスライドドア、横開き式ハッチゲートはそのままに、左側面はBピラーをドアに内蔵した“パノラマオープンドア”を採用。今では「
アイシス」でも展開されているこのドアは、圧倒的な開口面積の広さが自慢で、乗降性能や荷役性能に優れています。
ボディサイズは若干の拡大を受けたものの、5ナンバー枠の範囲内。ゆえに駐車場の狭いユーザーでも抵抗なく、広い視界と比較的スクエアなボディデザインから運転に不慣れな人でも取りまわしがしやすく、全高もタワーパーキングの入庫に支障が無いという利便性の高さが光ります。
一方で室内はさらに広々さが増して、Lクラスサルーンをも上回るカップルディスタンスを実現。前席はもちろん、後席でも大人が余裕を持って寛げる広さであり、かつ5人乗車時でも日常ユースには充分な広さのカーゴスペースが残ります。
さらに使い勝手の向上では、セレクターレバーが初代のコラムシフトからインパネシフトに変更されて、誰でも抵抗なく使えるようになりました。また二代目は“ユニバーサルデザイン”の具現化を標榜しており、地上からの着座位置高を適正化したことで足腰の弱い高齢者などでも身体に大きな負担をかけることなく乗り降りが可能。アウタードアハンドルの位置も初代より高められて自然な姿勢で開閉操作が出来るように改善されています。
また室内では、例えばフロントシートバックの肩口の位置をはじめとして多くのアシストグリップが配されており、これも高齢者の乗降ではとても利便性が高いもの。
このように、道具としての使い勝手を徹底的に追求した「
ラウム」ですが、一方で動力性能的には搭載エンジンが排気量1.5Literの4気筒で、4速オートマチックのみを組み合わせた内容ゆえに、とても平凡なもの。もちろん日常的な使い勝手においては充分な内容ですが、特に際立ったポイントは見当たりません。
もちろんコンセプトとしては動力性能よりも室内空間の拡大や使い勝手の向上を目指したものゆえに問題ありませんが、エクステリアデザインも比較的プレーンだったためか一般ユーザーへの商品力訴求という面では弱いものがあったのも事実。
よりスタイリッシュなミニバンなどに押される形で地味な存在であり続け、国内専用機種であったことも災いして今回の生産終了に至ったというのが流れのようです。
私はこの「
ラウム」、二世代を通じて非常に高く評価している車種のひとつでした。
なにより道具としての使い勝手に優れ、かつ乗る人の基本的な快適性を追求した開発姿勢には共感を覚えました。それは車の中にいるときの快適性だけではなく、乗降という根本的な部分から徹底的に検証を重ね、高齢者から子供まで誰もが便利で安心して使える車を具体化してくれたものだからです。
そして私自身、友人知人から車の購入に関するアドバイスを受けたときに、何度かこの「
ラウム」を推薦して、実際に4人がオーナーとなりました。購入後も4人の全てが大変気にいっておられ、中には初代から2代目に代替したというオーナーもいらっしゃいます。
その4人に共通しているのは、高齢の親御さんと同居しているという生活形態であったこと。通院などで乗せる機会が多いというので、「
ラウム」の特徴である乗降性能の良さが皆さん気にいっており、親御さんからも大変好評だと聞いています。
また高齢者のみならず、背が高くBピラーが無い左側の開口部からは、小さい子供をチャイルドシートに乗降させる場面で、お父さんやお母さんがアシストしやすいという大きなメリットが存在しています。同様にこの広い開口部は、高齢者や足腰の悪い方に嬉しい助手席リフトアップシート装着車でも大いにメリットがあります。背が高い、Aピラーが比較的起きている、Bピラーが無い、ということで、シートが上下しつつ車外に展開するリフトアップシートでは、乗降動作中に無理な姿勢の変化を強いることなく、自然な着座状態のままで乗降出来るのです。
今後、このようなコンセプトの車が登場するのかは判りませんが、「
ラウム」の販売終了は非常に残念に感じました。高齢化社会の進行に伴い、これからの日本市場ではこのような本当の意味での使い勝手の良い車を求めるニーズも増えてくるような気がします。
確かに百万単位の買い物としては見た目などが地味すぎた嫌いもありますが、より商品の本質を見極めて賢い買い物をする消費者も増えているだけに「
ラウム」には期待していたところでした。三代目になっても5ナンバー枠は堅守しつつ、2列シートの2ボックススタイルを活かせばハイブリッドモデルの追加も難しくないのではないかと勝手に想像していたものです。また二代目は設計年次やトランスミッションという要因からエコカー減税の対象になっていませんでしたが、より進化した効率の良いエンジンとミッションのCVT化により、環境性能や燃費性能も大幅に向上させられると思っていました。
とても地味で、滅多に自動車メディアにも採り上げられることのなかった「
ラウム」。このままひっそりとこの春には短い歴史にピリオドを打ちますが、私にとっては非常に印象深い車で“名車”のひとつに数えても良いと思っています。
ぜひ
トヨタ自動車には、このコンセプトを時代にあわせてさらに進化させたモデルを開発してほしいと、切に願っている次第です。