「私のメモワール」
私の「自動車趣味の変遷」をお知り頂きたい・・・との
個人的な「承認欲求」で始めた
過去の記述を再掲載するヴァージョンです。
今回は、今から11年以上前の(2017年1月22日現在)
「2005年12月15日と17日のmixi日記」で
「TVRタスカン」について2回に分けて記述したものです。
2回分をまとめて原文まま転載いたします。
「TVRタスカン」
TVRタスカンに乗っていたことがある。
そのクルマは現代のメジャーなスポーツカーが
進化の過程で徐々に捨てざるを得なかったものの魅力に満ちていた。
スチール製マルチチューブラーフレームに被せたFRP製超軽量ボディは
レーシングカーのような成り立ち。
350馬力、3.6リッター直列6気筒エンジン搭載。
総重量は1トン強にすぎない。
当時のフェラーリ360モデナを凌ぐ低パワーウェイトレシオだ。
また、独自のスポーツカー哲学に基づき一切の安全装備がない。
まずこのジャジャ馬にはエアバックがない。
そのためコンベンショナルなパーソナル製スポーツステアリングホイールが着いている。
慣性重量が低く偏心していないのでステアリングさばきは極めてスムースかつシャープだ。
最高速が300キロに届こうかとするこのクルマにABSやトラクションコントロールは着いていない。
レスポンスを高めるためモーターバイクのエンジンのようにスロットルバルブは6連装だ。
吸気効率を高めるためにエアフローセンサーは省略。
必然、冷寒時アイドルアップしない。
気温の低い時期は始動時しばらくスロットルをあおっておく必要がある。
これに慣れず始動後何回かエンジンストールしたら、プラグがカブリしばらく発進できない。
スポーツカー乗りとしての「重い自己責任」がこのクルマの自虐的なまでの魅力であり、
現代に残るバックヤードビルダーの作品を買う意味である。
ただ信頼性に関してはさすがに21世紀のクルマだという楽観視で買ってしまった。
先に乗っていた友人に運転させてもらい、勧められての購入であったが、
結局、彼と私の2台ともほとんど完調の時期は無かった。
どこからか電流が流れっぱなしになることによるバッテリー上がり。
トランクには雨が入り、旅先で雨の中駐車するとトランクは金魚鉢になった。
当然対策としてパッキンを替えたり、ヒンジの調整をしたりするのだが
何せ全身FRP製ボディなので
気温の変化でチリ(合わせ目)は微妙に変る。
完治しない。
ドアの開閉はウインドウの昇降と連動なのだが
これが連動せず、ウインドウがAピラーに干渉して塗装がはげたタスカン(サーブラウも)は多い。
車速センサーがリアデフに着いているため、雨水が入り、
スピードメーターはたびたび不動になる。
車速センサーを3度ほど交換したがついぞ根治しなかった。
これは構造上の欠陥である。
マイル表示の積算計はもちろんその間カウントしないので
中古車のタスカンのそれは信用できない。
ある年、年に一度の日本のTVR乗りの祭典「TVR DAY」に
友人のタスカンと2台で関西から長野県車山高原の会場にロングツーリングに出た。
忘れもしない名神高速、岐阜羽島IC直前、
私のすぐ後ろを高速巡航中の彼のタスカンは
エンジンから突然白煙を吹きそのまま息を絶えた。
幸いすぐに岐阜羽島インターチェンジの出口であったので惰性でオフランプへ・・・。
道路管理のステーションで完全に不動車になった後オイルの海を作った。
本線上で止まると二次的事故を誘発する可能性が高く、不幸中の幸いであった。
ローダーが大阪の工場から来るあいだ
「明日はわが身」との複雑な気持ちであったが、
結局私だけで「TVR DAY」に向かうことになった。
後にシリンダー内破損という結論が出たが、
それとて当時のディーラー「オートトレーディング」ではエンジンを開けることは
契約で許されておらず、
イギリス本国にエンジンだけ送り返し整備後返送を待つことになった。
ちなみに帰ってくるまで3ヶ月以上は優にかかった・・・。
マイナートラブルは多くとも、
エンジンだけは「丈夫」だとの思い(かつてのアルファロメオがそうだ)があったのだが、
それも見事に打ち破られることとなった。
結局1年余りで手放すことになるのだが、
その間、スピードメーターが動かないままでも箱根にも何回か通い、
それなりにタスカンを堪能した。
そして「軽量こそスポーツカーの命」との思いを抱くことになった。
軽量だとブレーキにも優しく、よく止まる。
軽量だとコーナリングスピードを高く持っていける。
軽量だとダンパーを締め上げなくてもよい分、望外の良い乗り心地までもたらす。
ライトウエイトスポーツカーの乗り味を持つミドルクラススポーツカーは
ポルシェ911が昔より大きく重くなってしまった今、稀有な存在だ。
高速道の料金所からのスタートダッシュでは
そっと踏みながら3速まで上げてもテールが暴れるのには最後まで慣れなかった。
雨の日の高速走行は薄氷を踏む思いで運転・・・。
その間「西部警察 特別編」のロケで
石原軍団の操るタスカンの急発進時、パワーオーバーステアになり、
観客に突っ込んで被害者が出た。
私にはよくわかった。
あのような事は今のポルシェやフェラーリでは起こらない。
トラクションコントロールやABSで防げるからである。
TVRは今の車しか運転した事のない人を拒む「じゃじゃ馬」だという認識が
関係者には欠けていたようである。
初出「2005年12月15日、17日のmixi日記」
原文まま