「私のメモワール」
私の「自動車趣味の変遷」をお知り頂きたい・・・との
個人的な「承認欲求」で始めた
過去の記述を再掲載するヴァージョンです。
今回は、今から10年前の(2017年1月25日現在)
「2007年1月27日のmixi日記」で
当時の「ホンダS2000」について2回に分けて記述したものです。
2回分をまとめて原文まま転載いたします。
振り返って時代を感じさせるのは、
ポルシェのATが未だ「普通のティプトロニック」で、
ツインクラッチシステムのPDKを搭載する前の時代であること。
(「PDK」は997モデル後期型から導入された)
また、フェラーリにおいてもATは、
シングルクラッチの「F1マチック」で
ツインクラッチの「DCT」導入前であったこと。
(「DCT」は「カリフォルニア」から導入された)
このことで現在よりなお一層、
スポーツドライバーにとって
「マニュアルトランスミッションの存在価値」は高かったと言えましょう。
免許を取った40年前から既に「ホンダ党員」である私は
その時もフィット、その後もヴェゼル、S660・・と
担当営業マンやディーラーと縁が深く、
「キーを渡しますから一人で自由に走り回ってきてください~!」と
この日もS2000の試乗車を思い存分「ブン回して」
自分の好きなコースを走ったことを思い出します。
なお、文中に比較として出てくる
「フェラーリF430」や「ポルシェ997」(カレラS 6MT)は
2台共、当時の私の所有車でした。
「日本の宝S2000」
2200ccに排気量アップしたホンダのピュアスポーツであるS2000に試乗した。
いつごろからか、休日にS2000に乗る紳士を見かけると
「硬派なクルマ好き」との印象を持つようになった。
今やポルシェのようなスポーツカーでさえ
特に日本では7割以上がティプトロニック=オートマで乗られている上、
フェラーリにしてもF1マチックの普及で
「富裕層のアクセサリー」として乗る人も増えた今、
頑なにマニュアルトランスミッションしかないラインナップで、
虚飾を排したストイックなデザインは孤高の存在感を持つクルマとなった。
月刊クルマDVDマガジンの「ベスト・モータリング」を良く買うが、
その中の企画「駆け抜ける悦びランキング」通称「KAKEYORO」の
現在ランキングトップは新旧S2000である。
内外の有名スポーツ&スポーティーカーを文字通り「走りの悦び」に的を絞り、
群馬サイクルスポーツセンター周回路を日本のタイトでトリッキーな峠道に見立てて、
ドリキン土屋圭一氏が思い存分振り回してランク付けしていく企画だ。
S2000は、ここしばらくディフェンディング・チャンピオンの立場にありながらも、
今のところ無敗である。
これを見て、しばらく忘れていたホンダ渾身の作品、
孤高のピュアスポーツであるこのクルマへの正当な評価を思い起こさせられたのだった。
マイナーチェンジ前の2000ccで、
しかも初期型を何年か前に試乗したことがあったが、
目に見えない進歩を含め、今一度味わって見たくなったのだ。
乗り出しての第一印象は「大人のスポーツカー」になったなと言う事。
レッドゾーンは以前の9000rpmから8000rpmに下げられたとは言え、
依然として高回転型エンジンである事に変わりは無い。
しかし、排気量アップと相俟って、以前より低中速トルクが厚くなった事は、
ストリートでのエンジンのツキをハッキリと改善している。
9000rpmまで回ることをホンダスポーツらしさとする
一部のファンには惜しまれた変更ではあるが、
この事は混んだ街中でキビキビと走らせることに威力を発揮し、好ましい。
エンジンのトータルバランスにおいても
8000rpmまでスムースに吹け上がれば充分以上であるし、
闇雲に高回転まで回ることを標榜する時代でもなかろう。
トルクバンドに乗っている限り、
スロットルを開けると瞬時に「弾ける様に」エンジンは咆哮をあげ、力強く加速する。
いくらぶん回しても直列4気筒エンジンの宿命である二次振動がほとんど出ず、
日本の、特にホンダのエンジニアリングのレベルの高さを感じる。
これはエンジン部品の公差をレーシングエンジン並みに小さく揃え、
手組みに近い工程から得られたものの一つだ。
特別なラインで組みあがったS2000専用F22Cエンジンは
ベンチテストで設計馬力を全部バラツキ無く発生すると言う・・・。
「専用設計6速マニュアルトランスミッション」は超ショートストロークで、
最初のシフトアップで本当に「2速」に入っているか何度も確認したくらい。
ほんの少しの「手首の返し」だけでコクコクとシフトチェンジが出来てしまい、
リズムを掴むと「病みつき」になる感覚だ。
名だたるマルチシリンダーのスポーツエンジンが
管楽器のように共鳴音で「フォーン」と鳴り響くのに比べ、
直列4気筒エンジンでは、その排気音を期待させないが、
ホンダエンジンらしく、思ったより力強く、心地の良い音で、この部分でも好感触を得た。
まあ、直4に「フェラーリ・ミュージック」や
百歩譲って「ポルシェ・サウンド」のようなものを望むのは酷というものであろうが・・・。
私の過去の車歴でのオープン・ボディーは
「ポルシェ911(タイプ964)カレラ2 カブリオレ」と「ホンダ ビート」の2台だが、
特にそのボディ剛性では定評のポルシェ911のオープンの記憶を辿っても
S2000の方が上に思える。
また、最新のヨーロッパ製スポーツカーは大幅にサイズアップしてしまい、
特にその長大な車幅において日本の狭い道路では神経をすり減らすことになる上、
パワー競争の果て「気持ちよく走れる速度域」が高くなりすぎている。
そういったミドルクラス・スポーツたちの中で、
ホンダS2000の「1.3トンを切る重量」に「2.2L 242馬力の直列4気筒」を
「フロントミッドシップ」に積み、「50:50の前後重量バランス」を持つクルマは、
我々のような運転好きの普通のドライバーにとって、
実は最も日常的に楽しめるスポーツカーなのかも知れないと思う。
そのコンパクトさとオープン・ボディーとしては驚異的な剛性からくる
「人馬一体」感は私の所有する「F430」を上回り、
コンパクトさが売りのはずだった「911」をも、さらに上回るくらいだ。
それこそ「ミズスマシの様に」日本の狭く混んだ道を駆け回ることが出来る。
「S2000は日本男児」
ただ、コックピットの眺めは
「フェラーリF430」や「ポルシェ997」のインパネを日々見慣れた身からすると、
このクルマの、いかにもそっけない黒一色の樹脂製で
全てデジタル表示のインパネはオモチャのようでもあり、興ざめするのも確かだ。
ポルシェのインパネも素っ気無い方だが、
フェラーリのいかにも贅沢な全面皮革で覆われた魅力的なインパネや内装と
比べるべきでないのは承知の上だが・・・。
しかしながら、
季節を問わず、1日中オープンでロングツーリングすることを考えれば、
雨風と共に、春先は黄砂、梅雨時の湿気、夏の強い日差し・・・と
容赦ない過酷な環境を受ける室内において、
濡れ雑巾で無造作にゴシゴシ掃除できる樹脂製で凹凸の少ないシンプルなデザインは
気兼ね無くガンガン使えるメリットもあるので「功罪相半ば」か。
次に「ボディー・デザイン」だが、これはスポーツカーにおいて特に重要だ。
疾走している時やたたずまいの「カッコよさ」、
遠出先の駐車場で何度も振り返って見てしまう「愛しさ」、ガレージ内での「存在感」・・・
果たして、このクルマはどうであろう。
ここでもインパネデザインと同様、
やはり良くも悪くも日本的「質実剛健」なのである。
こればかりは「好き嫌い」なのだが、
この機能一点張りの「わびさび」デザインも、
熱く走った後では試乗前の印象より格段にカッコよく、
一種の「機能美」の様に見えるようになったことは事実である。
外観をイタズラに飾らず、ひたすら内面を磨く事に美学を持つ、
この国古来の「武士道」や「日本男児」像が、このS2000に重なる。
すなわち機械物は全てこのクルマ専用設計で、
特にエンジン、トランスミッションの組み上げはレーシングエンジンのそれと同様。
本場ヨーロッパのスポーツカーをも、ある面で凌駕する本格的スポーツカーが
この価格で手に入る我々日本人は幸せだと思うが、
若者のスポーツカー離れやミニバン一辺倒の時代、
オートマティック・トランスミッションの設定の無い400万~500万円の
この孤高の硬派スポーツカーは現在売れていない。
しかしながら「ホンダ・スピリット」を最も端的に表現したクルマとして、
ホンダの意地とプライドで生産が続けられているのだ。
このクルマを極力オープンのままで
日本縦断ロングツーリングを断行したら面白いだろうと思う。
硬いと言われ続けた乗り心地も最新版は改善され、嫌な突き上げも無く、
ロードノイズも遮断され、望外の好い乗り心地を提供してくれている。
オープンにすると、肩口まですっぽりとクルマに守られている感覚で、
真冬でも強力なヒーターを効かせておくと頭寒足熱、
まるで強固なバスタブに浸かっているようで、
安心感と共に青天井のクルージングを満喫できる。
四季折々の日本の自然を肌で感じるツーリングは私の一番したい事である。
高級輸入スポーツカーほど季節や天候に気を使うことなく無造作に乗れ、
道路や駐車場所の事情にも広く対応し得る。
フルオプション込み、乗り出し500万円のこのスポーツカーはその価格において、
5倍払ったフェラーリF430に比べ、乗って感じる面白さは「5分の1」では決して無く、
特に日本の交通状況下(超高速域での運転など皆無)において
ストイックに運転する事を考えた場合、
メンテナンスの容易さやランニングコストでは明らかにこちらに軍配が上がるのだ。
クルマ選びやその後の所有の満足感においては、
人により様々な複雑な要因が絡むのであるが、
日本人としてのナショナリズムの上でも
ホンダ製のピュアスポーツには正当な評価をするべきだと思った一日だった。
初出「2007年1月27日のmixi日記」
原文まま