
マムシさんと併行してこちらも順調に進んでいます。
先週から再開したわがバイク(スズキGSX-R1100 91年式)のエンジンの組み立てです。
先週はピストン+シリンダー取り付け、シリンダーヘッド&カムシャフト取り付け、まで進みました。
今日は、バルブクリアランス調整のシム取り付け+バルタイ調整です。
シムは昨日ショップに引き取りに行きました
2.95mm厚のシム×3
3.00mm厚のシム×1 です(シムは0.05mm刻みでラインナップされています)
これらを交換して、シックネスゲージで測定。
規定の0.15mm~0.20mmの範囲に収まっていることを確認。よしよし。
それでは本日のメインイベント、バルタイ調整に入ります。
バルタイ調整には最低、全周分度器とダイアルゲージ&基台、が必要です。
①まずは全周分度器(円盤みたいなものです)をクランク軸に取り付ける
②ダイアルゲージ基台をすえつける
基台はマグネットで付くのですが、このエンジンはアルミなので
エンジンのボルト穴を使って、鉄プレートを固定、それに基台を貼り付けました
③ダイアルゲージを取り付けて、プラグ穴に測定子を差込み、ピストントップに当たるようにする
これで最初の準備が完了。
あとはクランク軸を回し、ピストンが上死点(TDC:Top Dead Center)をダイアルゲージで測定します。
上死点の位置でクランク軸を止め、全周分度器を完全に固定し、別に用意した針金をエンジンのどこかに取り付けて、反対の先を分度器の0度を指すように曲げます。
あとはクランク軸を回して、針金の先がどの角度を示すか、を見ていけばOKです。
④今度はダイアルゲージを吸気のバルブのトップを測るように取り付けます
⑤クランク軸を回し、ダイアルゲージの動きを見ます。
⑤の状態が写真の状態です。
一番下の図の説明をします。
バルタイ、といえばこの図!というぐらいメジャーな図なんです。
4サイクルエンジンは、吸入⇒圧縮⇒(爆発)⇒膨張⇒排気の4つのサイクル(爆発は除く)をぐるぐる回っていきます。だから4サイクルなんですが。
この間にクランクは2回転します。ということでこの図も2回転する形で表現しています。
円の一番上が上死点(TDC)で0度、一番下が下死点(BDC:Bottom Dead Center)で180度となります。これを2回回ります
大雑把に言うと
0度~180度:吸入行程
180度~360度:圧縮行程
360度~540度:膨張行程
540度~720度:排気行程
…となります。
まずはここまでが基本。
さて、ここからカムの話に入ります。
まずはインテーク(吸気側)のカム。
カムがバルブを押すことで吸気側のバルブが開きます。
普通に考えたら、吸気=ピストンが下がりながら空気を取り込む、のだから0度~180度の間だけバルブを開ければよいじゃん…と考えますが、ちょっと違います(もちろんこれでもエンジンは動きますが)。
吸気が多い=それだけ多くの混合気をシリンダーに入れられるので、爆発時のエネルギーが大きくなり、パワーがより増します。
よって、バルブが開いているタイミングをもっと広めに取ります。
0度よりもっと前、ピストンが上昇している途中から吸気バルブを開き始めます。
このときの角度をBTDC(Before Top Dead Center:上死点前)で表現します。
この図はヨシムラのST1カムのタイミング図を書いてみたのですが、BTDC18度…と言う表現になります。
なぜピストンが上がっている途中なのに吸気バルブを開けても混合気が入ってくるのか?
これはその前の行程、排気が影響します。
シリンダーの中から排気ガスが排気バルブを通って押し出されるときに、その勢いでシリンダー内に負圧が出来て、この状態でも吸気が行われるのです。
逆に下死点を越えてもまだ吸気バルブは開けていてもOKなのです。
このときのバルブタイミング角度はABDC(After Bottom Dead Center:下死点後)で表現し、この図ではABDC48度となります。
なぜ、これでも吸気が入ってくるのか?これは慣性の法則です。
混合気といっても質量のある物体です。
これが吸気バルブを通ってシリンダーに流れ込んできているので、混合気に勢いが付いており、ピストンが下死点をこえてせり上がってきていても混合気は流れ込んでこられるのです。
ということで、実際のバルブタイミングは180度以上のバルブ開き期間があります。
この図の場合、合計で18+180+48=246度になります。
よくハイカムなどの表現でIN 255 と言う表現がありますが、これは”吸気(IN側)のバルブ開き期間が255度になるカム”と言う意味なのです。
ちなみにこのヨシムラST1カムの246度という値は、ハイカムの中ではおとなしい部類に入ります。
過激なものになると270度以上!なんてものもあります。
かなりエンジンをぶん回していないと上手く吸気が流れ込みません…
カムは246度と固定されていても、カムシャフトとクランクシャフトの回転位相を調整することが出来ます。これがバルタイ調整です。
この図のタイミング角度はあくまで”推奨値”であり、これを変化させてもOKなのですよ。
合計して246度になればいいので、たとえばBTDC10度+ABDC56度でもOK。ただし、こんなことをすると低回転で吸気の噴き戻しがあり(混合気の吸入に勢いが無いのでピストンの上昇で吹き戻される)ます。ただし、高回転ではより多くの混合気を取り込むことが出来るわけです。
はい、分かりましたね。
V35に搭載されているVQ**DEエンジンには吸気側に可変バルタイ機構がついています
正確にはCVTC(Continuously Variable valve Timing Control:連続可変バルブタイミングコントロール)と言います。これはその名のとおり、カムの位相を”連続的”に”可変”していくシステムです。
ホンダのVTECは低回転/高回転で別々のカムを使って”ガチャン”と入れ替えるのに対し、日産のこれは同じカムを回転位相をエンジン回転数などに合わせ、じわじわずらして行くわけです。
前者がバルブリフト(バルブの開く高さ)まで変えられるのに対し、CVTCはカムプロファイルそのものは変わらないのでバルブリフトはそのままです。でもこちらのほうがスムースに可変できます。
VQ**HRエンジンでは排気側にもこの機構を取り付けました。
…ちなみに量産車における可変バルブタイミングコントロールの採用は日産が世界初だったんですよ。
その時は2段式でしたが、V35ではこれが連続可変となったわけです。
脱線しますが、V36のVQエンジンについているVVELはVariable Valve Event & Lift:バルブ作動角・リフト量連続可変システムといいまして、CVTCで出来なかったバルブリフト量を連続可変できるようになったシステムです。可変バルブシステムのグループに入りますがまったく違う機構&効果のモノなんです。
CVTCもそうですがVVELはもっと凄いんですよ。動きを見ると”なるほどね~”と感心します。
話がそれました。
クランク軸とカムシャフトの回転位相をチューニングするのがバルタイ調整というわけで、これをするためにはカムシャフトについているスプロケットを回転方向にずらすことでタイミングを変化させるわけです。
全周分度器で現在のクランク軸角度を見ながら、バルブが開き始める/開き終わる(基本的には、バルブが1mmリフトしたときを開き始め/開き終わりとしています。これをダイアルゲージで読み取るわけですね)タイミングをみて、スプロケットの回転ずらしをちょこちょこやって合わせていくのです。
書くのでも大変ですが、やるのはもっと大変。クランク角1度なんてホンのちょっとです。
バーニアタイプのスプロケットをジワッと回してカムシャフトへの固定ネジを締めて測定、ダメだったらまたネジを緩めて調整…の繰り返しです。
これを吸気/排気両方のカムでやるわけです。
シングルカムでは一つのカムシャフトで吸気/排気のカムが付いているのでこんな調整は出来ませんが、ツインカムの醍醐味はここにあるということなんです。
もうすこし講義を。
見て分かるように爆発(プラグ点火)は実は上死点より手前で開始されます。
なぜか?
混合気の爆発、と言う表現をするので、爆薬がドカーンと爆発しているのを想像しますが、実はガソリン混合気の爆発は正式には”燃焼”というのがただしく、その伝播速度はそれほど高くないのです。
それに対し、ピストンの上下は1分間に7000回なんてとんでもない速度まで出るので、上死点でプラグ点火していては遅すぎるのです。
燃焼伝播の速度を加味して、少し早めに点火するといいのです。
これも早すぎてはノッキング(燃焼⇒膨張が早すぎてピストンを押し戻す現象)となるので良くありません。ECUなどではこれを決め細やかに点火時期を可変させてベストな位置に持って行っているのです。
昔は物理的な方法(説明すると長くなるので割愛)でやっていたので、それほどきめ細やかではありませんでした。
排気のバルブタイミングの話は、ほぼ吸気と同じです。
これも180度以上のバルブ開き期間となっています。
ここでまた重要なはなしがあります。
図で分かるように、排気と吸気バルブは同時に開いている期間があります。
これをオーバーラップと言うのですが、これを広く取ると高回転でのハイパワーにつながります。
ハイパワーというのは前述したとおり、どれだけ新鮮な混合気をたくさん突っ込めるか、に尽きます。
そのためにはシリンダーに残った排ガスを出来るだけ押し出し、さらに吸気をなるべく早めに開始することが重要です。しかし、これは吸気/排気の勢いに比例します。
オーバーラップが広いと、高回転時(排気の勢いが大きいとき)に効果がでますが、逆に低回転では吸気は早く開きすぎて吹き戻される/排気はピストンが下がるまで開き続けるので吸い戻される、となってよくないわけです。
ここらあたりのチューニングが難しいところなんです。
えらそうなことを書いていますが、私にはそんなチューニング技術/ノウハウはありませんので、ここは素直にヨシムラ推奨値で進めました(笑)
で、やっとエンジン完成です!
あす、うまく行けばバイクに積み込みです!!
いつもながらの長講義にお付き合いいただきありがとうございます。ははは。