ティグアンのドライビング・エクスペリエンス・コントロール（デジタル化の「行き過ぎ」と「回帰」）

○デジタル化の潮流と使いやすさのジレンマ

近年、フォルクスワーゲンをはじめとする自動車メーカーは、コックピットの急速なデジタル化を進め、多くの操作をタッチパネルに集約してきました。しかし、これはユーザーから「使いにくい」という声が多数寄せられる結果となりました。その反省からか、最近では物理キーへの回帰が見られます。
例えば、フォルクスワーゲン・ゴルフも、7から8へモデルチェンジした際にタッチ操作が大幅に増え、私も試乗した時、その使いにくさを感じました。しかし、現行の8.5では物理キーがかなり復活しています。運転中に頻繁に操作する機能において、物理スイッチの利便性は疑いようがありません。
もちろん、現代の多機能をすべて物理キーで賄うのは難しいでしょう。その多機能さは昔の車とは比べようも無いぐらい便利な１面があります。しかし、エアコン、オーディオ、アダプティブクルーズコントロール（ACC）、照明、ワイパーなど、日常的に使う頻度の高い機能については、物理スイッチを残すべきです。これは、かつてコンパクトデジタルカメラが液晶ディスプレイのメニュー操作に偏り、操作性が損なわれた事とよく似ています。物理スイッチを多く残していたリコーのようなカメラが使いやすかったように、車においても同様のことが言えます。

○ティグアンのモードキーと最適化への期待

ティグアンの旧シフトレバー周辺には、オーディオの音量調整やドライブモードの選択を直感的に行える大きなダイヤルスイッチが配置されています。ドライビング・エクスペリエンス・コントロールと大層な名前が付いています。




ティグアンのドライブモード（コンフォート、スポーツ、エコなど）は、それぞれが快適で、走行シーンに合わせて頻繁に切り替えたくなるものです。この物理ダイヤルで素早く変更できるのは非常に便利で、その恩恵は大きいのです。一方で、音量調整はステアリングスイッチでも可能なため、この一等地にあるスイッチには、地図のズームなど、もっと別の、より使用頻度の高い機能を割り当てられたら、さらに利便性が高まったはずです。アンビエントライトの切り替えなど、使用頻度の低い機能よりも、ユーザーが自由に割り当てを選べるカスタマイズ性があれば、より満足度の高いコックピットになったことでしょう。

○輸入車と国産車の比較、そして未来への展望

デジタル化の導入が早かった輸入車は、物理スイッチの削減傾向が顕著でした。一方、国産車は比較的物理スイッチを残している印象です。しかし、ヨーロッパの自動車メーカーも、これまでの反省を踏まえ、物理キーへの回帰がさらに進むと予想されます。
スマートフォンとは異なり、運転中にディスプレイを見てタッチ操作を行うことは、安全上の問題を引き起こしかねません。ティグアンの15インチ大型ディスプレイパネルは、パネルスイッチのサイズを大きくしたり、メニュー階層を深くしないよう工夫されていますが、ブラインド操作が困難であることは否めません。
もちろん、物理スイッチが多すぎても操作が煩雑になるため、重要なのはそのバランスです。個人的には、照明、ワイパー、ACC、シフトチェンジ、シート調整、空調、ナビゲーション、オーディオ関連の機能は、物理スイッチで操作できることが理想的だと考えます。

ティグアンの場合、現状で物理スイッチが残っているのは以下の通りです。

* 照明：〇
* ワイパー：△（方向指示と同じレバーに内包されたため、慣れないと操作が煩雑に感じるかも）


* 方向指示：○
* シート：△（シートヒーターやシートクーラーなどがタッチパネル操作です）
* シフト：△（物理シフトですが、右コラムシフトでひねる操作は慣れが必要。せめて左コラムにしてほしかった）

* 空調：✕（オートで触らなくて殆ど済むとはいえ、いざ微調整などしたい時、この画面からはし難い）

* ナビゲーション：✕（アンドロイドオートでジェミニが使えるようになるらしいので、音声制御は使えるかも）
* オーディオ：△（簡単な操作は物理スイッチで可能ですが、細かい選曲などはディスプレイからの操作になります）

* ACC：〇（これは絶対残してほしい）

デジタル化と物理キーの適切なバランスを見つけることが、今後の自動車の使いやすさを左右する重要な課題となるでしょう。またAIを利用した音声案内と音声制御が主流になる可能性も高いですね。個人的には音声より手先のブラインドタッチが１番しっくりきます。

各メーカーがユーザーの声に耳を傾け、より直感的で安全な操作性を追求していくことに期待したいですね。