
いわゆる8ナンバー車などの特装車の特集です。8ナンバーではない架装・特装車両もこちらで紹介させていただきます。タイトルは言いたかっただけです。今回は救急車特集です。記事の都合上、画像は過去掲載分を多く含んでおります。※一部画像は詫富介さんが撮影し、ご提供していただいたものです。当記事及びブログ内全ページにある画像の無断使用は一切お断りします。

救急車は傷病者を収容し、医療機関などへ搬送する為の車両です。その歴史は古く、1931年(昭和6年)に日本赤十字社大阪支部に
救急第一号車が配備されました。現在、最も運用されている救急車はトヨタカスタマイジング&ディベロップメント(以下 トヨタカスタマイズ)が生産しているトヨタ3代目ハイメディックです。

国産自動車メーカーが製造する高規格救急車としてはトヨタ自動車が1992年(平成4年)5月に販売された「ハイメディック」が最初となります。1991年(平成3年)8月に施行された救急救命士法により、救急の車内で救命救急処置を行えるようになり、車内での処置を容易に行えるように車内高の高い構造となっています。

初代ハイメディックは1997年(平成9年)5月にフルモデルチェンジを行うまで生産された高規格救急車で、トヨタ100系ハイエースのスーパーロングをベースにしていますが、車体を拡幅されています。

初代ハイメディックにはハイエース用のRZ型エンジンではなく、初代セルシオ用のV型8気筒4ℓDOHCエンジンの1UZ-FE型を搭載しています。初代ハイメディックが生産される前はメルセデス・ベンツ・トランスポーター(310D)をベースにした救急車や架装メーカーがトラックをベースに製作した高規格救急車が運用されていました。

その後日産自動車が国産自動車メーカーでは2番目となる高規格救急車、「パラメディック」が1993年(平成5年)に生産開始されました。初代パラメディックは日産2代目(H41型)アトラスをベースにした高規格救急車で、トミーから販売されているミニカーの「トミカ」でも「日産ドクター救急車」として初代パラメディックがモデル化されました。

初代パラメディックはベース車のアトラスが1995年(平成7年)5月に、自社生産車の販売を終了し、いすゞ自動車から5代目エルフをOEM車として供給され、3代目(H42型)アトラスをベースにした車両に変更されました。

ベース車は変更されましたが架装は基本的に同じとなっており、赤色灯もマイナーチェンジ前と同じ流線型の回転灯となっています。

患者搬入用のバックドアは跳ね上げ式となっています。マイナーチェンジ前の車両にはトミカと同じ観音式の扉も存在していました。余談ですが、踊る大捜査線の映画第2作で登場した劇用車の救急車はその観音扉の車両でした。
吉田町牧之原市広域施設組合消防本部(撮影当時)で退役前に撮影した動画です。こちらもマイナーチェンジ後の車両となっています。マイナーチェンジ前の車両は現時点で2台確認しています。

また、トラックベースのパラメディックとは別に、日産E24型キャラバンをベースにした高規格救急車「パラメディックⅡ」も1994年(平成6年)に登場しています。1997年まで販売されていたようで、いすゞ自動車からもOEM車として「(初代)スーパーメディックⅡ」が販売されていたようですが、販売台数は少なかったようで当方は実際に見たことがありません。

1993年5月にはいすゞ自動車からも高規格救急車「スーパーメディック」が生産されました。いすゞ5代目エルフをベースにした車両で、初代パラメディックと同じく小型トラックをベースにした車両です。

パラメディックもスーパーメディックもベース車は同型ですが、架装は全く異なるものとなっています。画像の車両は標準シャーシ車ですが、高床シャーシの車両も存在しており、航空自衛隊の救急車などとして活躍しました。

そして1997年5月にトヨタハイメディックが2代目へとモデルチェンジ。ベースがハイエースから初代グランビアに変更となりました。赤色灯は車体埋め込み型流線型回転灯を標準装備しており、末期にはオールLED赤色灯の車両も存在しました。

この2代目ハイメディックはオプションでマフラー(排気管)の位置を車体後部から車体側面に変更することが可能となっている。これは後述の2代目パラメディックには設定がなかったことから、消防本部によっては仕様書でサイド出しマフラーが指定されていることもあり、ハイメディックでないと納入できない場合もあった。

2代目ハイメディックには4WS(4輪操舵)機能が備わっており、隘路などを走る際に貢献した。残念ながら3代目ハイメディックには非装備となってしまった。

1997年(平成9年)7月には三菱自動車工業から6代目キャンターをベースにした高規格救急車「ディアメディック」が生産開始されました。架装は三菱テクノサービスが担当。

テールランプは3代目デリカから流用したものとなっています。三菱自動車工業が販売していた高規格救急車とは別に、1994年に救助車などの架装を手がける帝国繊維から「オプティマ」が。また5代目以降のキャンターをベースにした高規格救急車が札幌ボデー工業から「トライハート」として生産されました。トライハート以外は全て生産終了しています。

ディアメディックの後部赤色灯は同時期発売の他社高規格救急車が独立型の流線型赤色灯であるのに対し、一体型の流線型回転灯となっているもの特徴です。

そして翌年の1998年(平成10年)5月に日産パラメディックがフルモデルチェンジして2代目となった。トラックのアトラスベースからミニバンの初代(E50型)エルグランドがベースのものとなった。エルグランドベースとはいっても市販車のエルグランドとは全く異なる車両で、車体後部はE24型キャラバン/ホーミーのボディを拡幅したものが流用されています。

こちらも赤色灯は車体埋め込み型流線型の回転灯が標準装備でしたが、途中からLED内蔵と回転灯のハイブリッドタイプのものや、画像のようにオールLED式の赤色灯のものも存在しました。2代目パラメディックは2017年末まで生産されていました。

2代目パラメディックはいすゞ自動車からもOEM販売されており、2代目スーパーメディックⅡとして販売されました。ベースのエルグランドもいすゞ自動車ではフィリーという名称でOEM販売されています。

パラメディックとの違いはサイドの「PARAMEDIC」表記が「SUPERMEDICⅡ」表記であることや、ホイールのセンターキャップが「NISSAN」ではなく、「ISUZU」表記になっている程度。名称はスーパーメディックですが、架装はパラメディック同様にオーテックジャパンが担当。

2006年(平成18年)4月からは現在進行形で販売中のトヨタ3代目ハイメディックにフルモデルチェンジしました。3代目でまた、200系ハイエースのスーパーロングベースに戻りました。国内向けのスーパーロングは片側スライドのみの設定ですが、輸出向けのハイエースをベースにしています。架装はトヨタテクノクラフト(2018年まで)。

主警光灯はハイメディックも後述のトヨタ救急車も共に標準でオールLED式となりました。消防本部によっては警光灯パネル内にLED式の補助赤色灯を追加している車両もあります。

3代目ハイメディックの車内。防振台やストレッチャー、自動式体外除細動器などの資機材を搭載しております。2代目ハイメディックまでは磨りガラスを採用していましたが、3代目ハイメディックからは濃いスモークフィルムとなっています。

こちらの車両のサイレンアンプは大阪サイレン製MARK-10です。消防本部によってはパトライト製のSAP-500Rを装備している車両もありました。また、現在は両社のサイレンアンプが廃番になっており、大阪サイレンではMark-D1 OPS-D151、パトライトではSAP-520RBを使用しています。現在はこの2社の他にトヨタカスタマイズ製のサイレンアンプのe deckというサイレンアンプも使用されています。一部車両は運転席側にも「ウー」と書かれた後付けスイッチを用意している場合がありますが、これは機関員(運転手)が1人で緊急走行時に、交差点進入する際等に鳴らせるように用意されています。

トヨタ救急車とハイメディックの赤色灯が同一のものになってしまったので、外観からの違いが容易にわからなくなってしまいましたが、ハイメディックにはこのような小型の黒いオーバーフェンダーを装備しています。

2019年(令和元年)には3代目ハイメディック向け赤色灯に「ActiBEACON(アクティビーコン)」がオプションで搭載可能となりました。アクティビーコンは通常走行時のノーマルモードの他に、ハイパーモードとソフトモードという3つの光り方があり、連動して光らせる事が可能です。
実際に緊急走行時に光っている状態です。ウインカーレバー(及びモーターサイレン)に連動してハイパーモードに切り替わります。右左折時に後部警光灯も流れるように光ります。

2017年末に受注終了した2代目パラメディックですが、2018年11月にフルモデルチェンジし、3代目パラメディックとして生産開始しました。2代目パラメディックはオーテックジャパンが架装していましたが、3代目パラメディックはオートワークス京都が架装しています。

5代目(E26型)キャラバンのスーパーロングをベースにした車両で、主警告灯はこちらもオールLED式のものとなりました。2代目パラメディックでは右側資機材庫が窓位置のパネル部でしたが、3代目では右側のスライドドアを開けた場所に変わっています。

3代目パラメディックの車内。3代目ハイメディック同様に資機材を搭載しております。運転席上位置にも資機材入れ(オーバーヘッドボックス)になっているようです。ちなみにベース車のE26型キャラバンは2011年(平成23年)に登場した際に車名が「NV350キャラバン」となったが、2021年(令和3年)にマイナーチェンジした際に単に「キャラバン」に変更となりました。

3代目パラメディック生産前の2015年(平成27年)11月にオートワークス京都湘南事業所が所在する平塚市を管轄する平塚市消防本部に日産E26前期型キャラバンをベースにした高規格準拠救急車が配備された。一部消防本部や病院などでハイルーフ車ベースの2B型救急車は導入されていたが、こちらの車両はさらに高いスーパーハイルーフを装備し、救命資機材を搭載した高規格救急車に準拠したE26型救急車としては初の導入で平塚消防署本署と同本部海岸出張所の2箇所に配備された。

こちらの架装もオートワークス京都が手がけており、現在生産されているパラメディックのプロトタイプ的存在となった。その後3代目パラメディックが2017年(平成29年)10月に開催された東京モーターショーにて一般公開されました。

3代目パラメディックと異なり、車体後部の警光灯が非装備となっており、側面の補助赤色灯(大阪サイレン製LF-31)のみとなっています。

高規格救急車登場前の1963年(昭和38年)頃の救急車はこのようなライトバン型のものでした。こちらの車両はセントラル自動車が生産していた「トヨタメトロポリタン型救急車(FS45V型)」です。この車両は元々、静岡県の富士宮市消防本部にて昭和43年2月に救急1号車として配備され、昭和50年3月に西出張所に配備されたトヨタ製の2B型救急車と入れ替わる形で廃車になったようです。

フロントマスクは2代目(40系)クラウンなので「クラウン救急車」と言われていますが、シャーシは全く別物となっています。エンジンもクラウン用のM型エンジンではなく、初代(20系)ランドクルーザー用のF型水冷直列6気筒エンジンを搭載しています。

1963年4月に消防法が改正されて救急業務が法制化されたばかりの車両なので、当時はまだ車内で高度な救命処置を行うことができませんでした。なので車内高はとても低いです。ちなみにこちらの車両は劇用車会社の東京フリート株式会社の所有車両です。

茨城県筑西市のザ・ヒロサワ・シティにオープン予定の消防自動車博物館にも1台展示されています。国内に現存するFS45Vはこの2台が確認されています。

1970年(昭和45年)頃から初代ハイエースをベースにした「RH18V型救急車」に移行しました。その後画像の2代目ハイエースをベースにしたトヨタ救急車、「RH45VB型」が生産されました。

1983年(昭和58年)にベース車のトヨタハイエースが3代目(50系)にフルモデルチェンジしたことを受け、トヨタ救急車もモデルチェンジしました。

画像の車両は払い下げの自家用車の為、赤色警光灯ではなく黄色回転灯を装備しています。先代トヨタ救急車に比べてハイルーフ車がベースとなっており、車内高が高くなっています。

こちらは同じ50系ハイエースがベースですが、1985年(昭和60年)5月のマイナーチェンジを受け、ヘッドライトが丸型2灯式から角形2灯式に変更されました。

車内には手洗い器が設置されており、救急隊員の感染防止にも役立ちました。

メトロポリタン型救急車の頃は担架を使用して傷病者を搬送していましたが、この頃にはストレッチャーが使用されていました。

この辺りから主警告灯が単円筒形赤色灯から散光式警光灯(バーランプ)の赤色灯を使用するようになりました。画像のものは佐々木電機製作所(現:パトライト)製のエアロダイナミック(HZシリーズ)です。

そして1989年(平成元年)に4代目(100系)ハイエースにフルモデルチェンジ。グリルの表記が市販のハイエースと異なり「TOYOTA」表記となっています。

1997年5月には2代目ハイメディック同様にグランビアをベースにしたトヨタ救急車へとフルモデルチェンジした。ベースは同じではあるが、2B型のトヨタ救急車では赤色灯が埋め込み式ではなく、主警告灯とスピーカーが基台の上に設置されています。画像のものは単円筒形警光灯だが、散光式警光灯の車両も存在します。架装もセントラル自動車からトヨタテクノクラフトに変更されました。

そして2006年4月に3代目ハイメディックと同時に5代目ハイエースをベースにした車両にフルモデルチェンジ。先述の通り、赤色灯はハイメディック同様のものでオーバーフェンダーを装備していません。

とある日、富士スピードウェイにて行われたイベントにて3世代のトヨタ製救急車が展示されました。いずれも東京フリート株式会社が所有する劇用車で、画像は詫富介氏が撮影したものです。

1台はFS45VとRH18V型救急車の間に生産されていた「トヨタメトロポリタン型救急車(FS55V型)」。フロントマスクは3代目(50系)クラウンですが、こちらもクラウンとは別物となっています。

ルーフ上の赤色点滅式警光灯がFS45Vの2灯式から4灯式に変更された他、窓のデザインも少し凝った作りのものとなっています。ちなみにトミカで販売された「トヨタ救急車」はこちらのFS55Vがモデルとなっており、派生モデルであるトミカリミテッドヴィンテージでは先代のFS45Vがモデル化されています。

メトロポリタン救急車の横に展示された初代ハイメディック。十数年前のドラマや再現VTRに出てくる救急車といえば初代ハイメディックでしたが、最近ではほぼお目にかかることはありませんね。

車体後部には4WDステッカーが。こちらの車両は赤色灯も可動するようで、実際に点灯させて展示されていたようです。

初代ハイメに鎮座する1UZ-FE型エンジン。先述の通り初代セルシオ用のエンジンです。

その隣には3代目ハイメディックが。最近消防機関で見ることは減ってしまった前期型のハイメディックです。こちらも赤色灯を点灯し展示されていたようです。
これら3台は動画でも紹介しています。

トヨタ救急車を紹介してきましたが、日産も高規格救急車以外を生産していないわけではありません、初代(E20型)キャラバンと2代目キャラバン(E23型)は受注生産扱いでした。画像の3代目(E24型)キャラバン及びホーミーからは救急車専用カタログが用意された他、画像の車両のように「3000 SUPER AMBULANCE」には日産セドリックと同じVG30E型6気筒ガソリンエンジンを搭載しています。キャラバン救急車はE23型以前は未撮影です。

2001年(平成13年)4月にフルモデルチェンジした4代目(E25型)キャラバン。トヨタ救急車などに比べると導入台数は少なく感じます。

そして2012年(平成24年)6月にフルモデルチェンジした5代目(E26型)キャラバンも救急車になっております。ハイルーフ車の他にも画像の車両のような3代目パラメディックと同様の「超ハイルーフ」も設定があるようです。

病院に搬送する為の救急車の他に、東京消防庁消防救助機動部隊に配備されている特殊救急車「スーパーアンビュランス」のような車両も存在します。こちらの車両は第二方面消防救助機動部隊に配備されていた車両で、三菱ふそう初代スーパーグレートがベースです。

多数傷病者が発生した現場に出動し、車体を左右に拡幅して車内で傷病者の治療が行える車両になります。拡幅した左右の部屋の前後と車体後部から車内にアクセスが可能で、車体後部からストレッチャーを搬入可能です。

拡幅部はアウトリガーで支えられています。こちらの車両はスーパーアンビュランスとしては2台目に配備された車両で、現在は更新されています。架装は京成自動車工業株式会社です。

室内はこのようになっております。拡幅しても床面はフラットな状態なのでストレッチャーの移動も容易です。

室内にはこのような折りたたみ式のベッドが8床あります。また、拡幅していない状態でも傷病者の搬送が可能だそうです(実際の運用風景は不明です)。

運転席。サイレンアンプは大阪サイレン製MARK-10でした。1台目の車両は三菱ふそうザグレート、3台目はいすゞ初代ギガをベースにした車両で、どちらもトミカでモデル化されました。こちらの車両の更新後となる4台目の車両はいすゞ2代目ギガをベースにした車両となりました。

2005年1月(平成17年)には消防車艤装メーカーのモリタから、消防車(ポンプ車)と救急車の両方の機能を持った「消救車」が開発されました(コンセプトモデルのFFA-001は2002年7月開発)。画像は松戸市消防局に配備された第1号車。初期はストレッチャー搬入口が側面でしたが、後に後部搬入型も開発されました。
消救車のサイレンはウー音とピーポー音の両方可能だそうです。動画は救急事案に出場し、ピーポー音で緊急走行する様子です。
今回は以上です。今回紹介した救急車の他に、トヨタハイエースがベースのbellingの新基準救急車「C-CABIN」やマイクロバスをベースにした3B型救急車も存在します。それらもいずれ撮影・紹介できればと思います。
【参考文献】
日本の消防車2017 84p〜89p(平成28年8月10日イカロス出版発行)
トヨタ救急車WEB ギャラリー
日産ヘリテージコレクションオンライン
令和4年度版富士宮市消防年報
2023年1月 パラメディック及びキャラバン救急車の記載を修正。
2023年8月 一部追記。
メニューはこちらから