車高を下げた時のスタビの角度を適正に戻すために取り付ける『ショートスタビリンク』
というパーツがあります。
8用も何社かから出ていますね。
謳い文句では「スタビの角度を適正化して、動きを良くする」って聞きますが、
ホントにそうなのか考察してみました。
ちなみにスタビはスタビライザーの略で、とても簡単に描くとこんな形をした金属の棒
またはパイプですね。
【図1】
車体にはスタビブラケットとスタビリンクで取り付けられます。
【図2】

黒丸がスタビブラケットで車体に固定、青と緑がスタビリンクで、
緑丸●がサスとスタビリンクの接合部、
青丸●がスタビとスタビリンクの接合部です。
画像左が車体前方、画像手前が車体左と見てください。
車種によってスタビの向きやスタビリンクの位置が違いますが、この向きの車種として
左サスを中心に話を進めます。
車体がロールすると左右のサスの伸縮量に差が出てスタビが捻られるので、
元に戻ろうとしてロールを抑えます。
スタビブラケットは車体にしっかり固定されているというのが前提なので、
スタビ長辺のL-R中心線(桃線)の位置は車体に対して常に不変です。
サスがストロークすると、
緑丸●が上下に直線的に動きます。
それに合わせて
青丸●も動きますが、こちらはスタビ長辺を中心として円弧を描きます。
スタビが水平の状態を中心として上下動すれば、
緑丸●が10cmストロークすれば、
青丸●も10cmストロークします。
スタビに対する力点はあくまで
青丸●で、
緑丸●がスタビ長辺(支点)の近くにあろうが
遠くにあろうが結局は
青丸●に対してどれだけの入力があるかで捻れ量が決まります。
(
青丸●接合部を完全固定して、L-PL-SLの角度が不変なら別なんですが)
車高を下げると、スタビブラケットの位置も下がります。
サスアームの角度も変わるけど、スタビリンクの位置はそんなに変わらないので、
こんな感じになります。
【図3】

いわゆる「スタビがバンザイした状態」ですね。
これは良くないとされていて、水平に戻すために短いスタビリンクが売られている
わけです。
ちなみにもっともっと車高を下げていくと…
こうなっちゃいますね。
【図4】

ここまでいくとホントにバンザイです。
まあ8じゃこんなに下がりませんが。
この状態になってしまうと、
緑丸●が上下に動いても、
青丸●は水平に近い円弧の
動きを少しするだけで、上下にはほとんど動かず、スタビも捻られません。
緑丸●がもっと上方に移動して、L-PL-SLが一直線になったら、物理的にストロークの
限界です。
それ以上のストロークはスタビリンクかスタビブラケットか何かが壊れます。
まあそんな角度になる前に、バネかダンパーのストローク限界がきますが。
では、そこそこ車高を下げた時にありがちな【図3】の状態ではどうでしょうか。
再掲【図3】
サスと
緑丸●が上下動すると、
青丸●も上下動しますが、円弧の動きのやや上寄りに
なるので、横移動も発生します。
でも、だからといってスタビの動きが悪くなる明らかな理由は見あたりません。
スタビはスタビブラケットの中で自由に回転できるし、動きを悪くするのはスタビの
「捻れ」しかないからです。
強いて言えば、スタビリンクが縦から斜めに角度を変えつつ動くので、
接合部のボールジョイントが回転する時に抵抗がある可能性がありますが、
手でも回せる程度の抵抗なので、そんなに影響があるとも思えません。
では、このバンザイ状態でのスタビの実効レートはどうなんでしょうか。
具体的な数字を設定して計算してみましょう。
スタビ短辺のL-PL間を20cm、スタビリンクの長さSL-PL間を10cm、
スタビが水平(L-PLが水平)の時にスタビリンクは垂直で、
今は10cm分のバンザイ状態でL-SLが水平になっているとします。
これを真横から見た簡単な図にするとこうなります。
【図5】
L-PL0-SL0 … 本来のスタビとスタビリンクの位置
L-PL1-SL1 … SL1が10cm上方に移動し、10cm分のバンザイをしている状態
SLnは垂直にまっすぐ動きます。
PLnはLを中心とした半径20cmの円弧を描きます。
L-PL1-SL2は直線とは限りません。(というか直線じゃありません)
【PL0→PL1の移動量】
スタビリンクの長さそのものなので
10cm。
【角PL1-L-PL0】
三角形PL1-L-PL0が20cmの辺を2つ持つ二等辺三角形なので、PL0-PL1の中点を
Cとすると、三角形PL1-L-CとPL0-L-Cはそれぞれ直角三角形で合同。
つまり角PL1-L-C=角PL0-L-C。
角PL1-L-Cをθとすると
sinθ=5/20=0.25
θ=14.5度
角PL1-L-PL0=14.5×2=
29度
ここでサスが10cmのストロークをして、更にSL1が上方に10cm移動すると、
L-PL2-SL2になります。
この時、スタビは何度捻れて、PL1→PL2は何cm移動したんでしょうか。
再掲【図5】
【角PL2-L-PL1】
角PL2-L-PL0 - 角PL1-L-PL0 で求められる。
角PL2-L-PL0は、三角形PL2-L-SL2と三角形PL0-L-SL2が三辺相等で合同、
角PL2-L-SL2=角PL0-L-SL2となり、
角PL0-L-SL2をθとすると
tanθ=10/20=0.5
θ=26.8度
角PL2-L-PL0=角PL2-L-SL2 + 角PL0-L-SL2=角PL0-L-SL2×2=26.8×2
=53.6度
角PL2-L-PL1=角PL2-L-PL0 - 角PL1-L-PL0=53.6 - 29=
24.6度
【PL1→PL2の移動量】
三角形PL2-L-PL1が20cmの辺を2つ持つ二等辺三角形なので、
三角形PL1-L-PL0と同様に計算すると
(sin(24.6/2))×2=0.426=x/20
x≒
8.5cm
ということで、左サスがSL0→SL1の10cm移動した際にはスタビが29度捻れて
PL0→PL1は10cm移動したが、
SL1→SL2の10cm移動した際には24.6度捻れてPL1→PL2は8.5cm移動した。
捻れ角度も移動量もほぼ85%に減少している=スタビの実効レートも85%相当に
落ちている。
【結論】
車高ダウンにより、スタビがいわゆるバンザイになったのをショートスタビリンクで
角度適正化することで、スタビやサスの動きが良くなるという根拠は見いだせないが、
スタビの実効レートの落ち込みを回避し本来のレートで使用することはできる。
どこか間違ってたら指摘してください。