
'24/9/23 早朝の霧雨のときに再実験し、リアウィンドウ周りの流れの写真を分かりやすくしました。
TT乗りの皆様の多くは気づいておられると思います…
最新の8S型の滑らかなルーフラインを以ってしても、リアウィンドウの雨滴が100 km/h走行でも流れないことに…
つまり何が言いたいのかと言うと、諸問題あってスポイラー追加などがあった8N型から空力設計も進化したものの、ルーフ後端の流れの速度低下や剥離自体はまだまだ健在ということです。
偉大な先人、Sid H様や⭐︎Aki⭐︎様が流れの剥離やその影響ついて分かりやすく説明されているので、まずはそちらをご参照頂ければ…
https://minkara.carview.co.jp/smart/userid/3152212/car/2793845/10088395/parts.aspx
https://minkara.carview.co.jp/smart/userid/932676/car/2674927/10026056/parts.aspx
「いやいや、流れの剥離ってなんぞやもっとkwsk」という方に、ちょっと詳しくメカを説明します。
まず、空気は粘り気(分子の衝突による運動量低下に起因)のせいで、ボディ最表面ではボディに付着するようにして流れが止まります。
一方、ボディから垂直方向にある程度離れた場所では、今度は抵抗の少ない綺麗な流れ(層流)が広がりますが、実はこの層流、ボディ表面から垂直な方向にはエネルギーの移動(分子同士の衝突が)起こりにくい流れです。
この二つの要素のおかげで、ボディ表面に近づくほど流速が下がる、層流境界層という速度分布のある流れの領域が現れます。

引用元資料: https://lemons.k.u-tokyo.ac.jp/SATO/lecture/FMC/11.pdf
この層流境界層というのが、巷で言われる剥離やらカルマン渦やら負圧による走行抵抗やリフトやらの諸悪の根源です。
クーペやセダンの自動車ボディは、ルーフ頂点から後方にかけて低くなる形状がほとんどですが、そのエリアでは拡大流れ領域と言う、簡単に言うと流れの持つ圧力が上昇する領域になります。これにより、上流の低圧側に逆流しようとする力がはたらき、境界層内の速度分布にマイナス(ボディ前方方向)の速度が現れ、層流が境界層ごと剥がれてしまいます。境界層が剥離する様子の例はこちらの動画で確認できます。
https://youtu.be/LfpdyiKmw8U?si=9uZ8ytUh1YlVGjQj

◯で囲った点が剥離点です。2枚目以降、流速が上がるにつれ、剥離点がボディ前方に移動していく様子もよくわかります。
また、主流と剥離して逆流した流れ(伴流)との境目や、伴流内の渦の様子も確認できますね。
(これを見ると、8N型のTTのリアスポ無しは中々剥がれやすそうな形状だなと改めて思います。)
したがって、一番の理想はボディ付近の流れを層流にしたまま、層流境界層をさまざまな手段で剥離せずに後端まで流し切るように制御することですが、自動車のサイズや形状では中々難しいです。
そこで、流れの剥離抑制のためのボルテックスジェネレータの登場です。
コイツにより発生した微小渦でボディ表面近傍の流れを敢えて早めに層流から乱流に変化させて、垂直方向のエネルギー交換を促進します。すると、境界層自体は厚くなって、元々層流だった部分の一部は乱流になり速度低下してしまいますが、境界層のボディ表面側の運動量が向上するので、剥離自体は抑制されるといったメカニズムです。
一般的に、流れがボディ表面を過ぎ去るときの摩擦抵抗の大きさは層流<乱流<剥離流の順で大きくなりますが、自動車くらいの流れの範疇では摩擦抵抗よりも剥離した後のボディ前後の圧力抵抗が大きいので、早めに乱流にしちゃった方がトータルでは遥かに低抵抗になります。
よく参考にされる三菱の技報のURLも上げときます。
http://www.web-ab9.com/16J_03.pdf
さて、話は我がてて君に戻ります。
8Jや8S型はルーフラインやボディ後端での処理が向上したため、走行抵抗やリフトとして影響する剥離領域は幾分後方に移動しているであろうことは想像できますね。

(新型ほどルーフラインがテールまで直線的になり、テールの角度が上向いています。)
厳密な剥離点は数値解析やら風洞実験やらで把握する必要があり、実車で確認するのには中々骨が折れます(数値解析は別途やってみる算段で動いています)ので、とりあえずは過去の情報を参考にしつつ、ボルテックスジェネレータの設置位置や個数を決めたいと思います。
これに関しては、Masaki Fujiwara氏の記事が大変参考になりました。https://polo9ngti.blogspot.com/2022/05/tt.html?m=1
8J型の風洞試験の可視化画像や動画から見るに、リアウィンドウ上では極端に広い範囲では剥がれておらず、リアウィンドウのごく後端くらいで剥がれていることがわかります。
https://youtu.be/nYmB3C-r-_s
また、RSスポイラはボディとの隙間部分で流速を回復させ、後端へ綺麗に流し切っている様子も確認できます。
このことからも、RSスポイラは単独でのダウンフォース以上に整流による剥離とリフトの低減効果を主な目的とするパーツであることが伺えます。
従って、ここに向けて速く綺麗な流れを作るイメージで取り付けるのが良さげだと判断しました。
本当はリアウィンドウ上の剥離点よりちょっと上流に取り付けるのがよいのですが、解析未実施なのとウィンドウに取り付けるのは…と言うことで、ルーフのアンテナの直後くらいの位置に少々広めですが20 cm間隔で6個ほど、高さは10 mmほどで様子見してみましょう。
また、ボディ側面もRSスポイラに向けて流れを作る意味では重要ですので、ドアミラーとウィンドウ前方の三角地帯、リアクォーターウィンドウ後方に取り付けます。ドアミラーはエーモンAodeaの専用のものを使用しました。三角地帯の分は高さ10 mmにし、後方の分は回り込みが大きく剥離しやすそうなので強めの渦を作る意味で高さ15 mmくらいにしてみます。
さらにさらに、ディフューザーのテールパイプより外側の裏面が平らになっている領域も、タイヤ起因の乱れた流れからボディ下面の流れを分離する意味で、10 mmのものを両側に3つずつ取り付けてしまいます。
以上、計26個を設置しました。
ここからは効果の確認のフェーズです。
まずは一番分かりやすいリアウィンドウ上の雨滴の流れがどうなったかです。
リアウィンドウには特別調合したフッ素コート剤を塗布しており、フロントウィンドウでは50 km/h以上であればほぼ全ての雨滴が吹き飛びます。これを基準に流速を定性的に推定してみます。
霧雨状の雨滴がついた状態で、首都高横浜北線新横浜方面のトンネルを60 km/hで走行しました。
写真1,2枚目の通り、センターとサイドの雨滴はよく流れ、その間の領域の流れはあまり改善されませんでした。領域により、流速が50 km/hより速いか遅いかが明確に分かれたと言えます。
ルーフのジェネレータ群はセンターのアンテナとの相乗効果のあるところだけ流れていたと言うことになるので、やはり三菱自動車のレポートの通りに10 cm間隔、翼形状に近い方が好ましいことが考えられます。一方、ルーフのセンター後端部(◯+斜線)には霧雨状の雨滴が若干残っていることから、この辺りは流れが減速していたことも伺えます。
3,4枚目ではサイドの状況を詳細にみてみます。両サイド付近は霧雨状の雨滴の残り方から推察するに、両端のジェネレータを起点にウィンドウセンター側に凸の弧をような流れ方をしていたことが伺えます。また、明らかにセンター領域よりも残った雨滴が少なく、ウィンドウ後端まで綺麗に無くなっています。これは、サイドウィンドウからの速い流れが剥離せずに綺麗にウィングまで届いたことで、ルーフのサイド寄りの流れが引き込まれて50km/h以上まで加速し、しかも剥離が抑制されたことが考えられます。
続いて燃費についてです。
新東名上り、長泉沼津〜新御殿場間の若干の上りを120 km/h走行での平均燃費にて評価しました。
結果、13km/l→14.5km/lとなり、わずかですが明確に燃費が向上したことがわかりました。
最後に官能として操作性ですが、100 km/hオーバーで轍を乗り越えるレーンチェンジで明らかな違いを感じました。
リアの振られ感が減ったというか、しっとりとした安定感が向上したのを感じました。
以下結論です。
今回はルーフ後端、サイドウィンドウ前後方、リアディフューザー両端に、それぞれ言及した通りの個数のボルテックスジェネレータを装着しました。
種々の検討結果から、ルーフ後端は剥離抑制に個数が不足していましたが、ルーフセンターのアンテナやサイドの効果を加えて、ある程度の剥離抑制を実現できたと言えます。
また、リアディフューザー部含む総合的な効果で燃費と安定性の向上も実現できました。
今後ですが、ルーフ後端の数をこれ以上増やすのは自分的なデザインの流儀に反するので、別のデバイスを検討します。
ウィング形状で高さを稼ぐか、マクストンのルーフエッジスポイラを試すかですかね…

ちなみに、マクストンのルーフエッジは個人的にかなり期待しており、実は発注済みだったりします。笑
また別途、理論についてはお話しようと思いますが、真横から見た時の形状や、突起部の後方への長さの分布、ボディ幅方向への厚みの変化が、縦渦の発生にほど良さそうな組み合わせであると感じます。
また、今回は効果の個別確認ができなかったリアディフューザー周りもタフトなどの手法で確認しようと思います。
以上、大変長くなりましたが、航空宇宙工学出身の車好きがTTのリア周りの流れとボルテックスジェネレータについて考えてみたでした!
皆様の検討に少しばかりの助力となれば幸いです!!
また、何かわからない部分などあれば、お気軽にコメント頂けると喜びます!