あのタイヤの装着車は、
ロータス・エリーゼでした。
アルミを専用の強力接着剤で結合(強度は溶接以上)した、軽量かつ高精度なアルミバスタブフレームのリアミッドシップ・リアドライブ(以下MR)に小排気量のエンジンを搭載した、超軽量ライトウェイトスポーツカーです。
その中でも、この初期型モデルは軽量なローバー製エンジン(中期以降はトヨタ製にスチッチ)を搭載し、エアコンすらもついていない、超スパルタンなモデル。
もう発売から10年以上経過しているにもかかわらず、中古相場の価格も高く、根強い人気を誇ります。
車体の底面はすべてアルミ製のアンダーカバーで覆われています。

(ここがカバー越しに上げられるジャッキアップポイントなんですが、ここの左右で上げると、フロントが浮いて車がシーソー状態になります)
この車は特殊なアルミボディなため、ジャッキアップポイントが限定的で、なおかつリアヘビーな重量配分から、4輪すべてをリフトアップするためには、リア側のジャッキアップポイントは、車体後部の大きなアンダーカバーを外して、その奥にある指定されたジャッキアップポイントにリフトをかける必要があります。
アンダカバーを外すネジが多くて、なかなか大変です。
また、この日の営業は一人で行っていたため、当然作業も一人せ、この高性能ドライブオンリフトの機能を活用しての脱着を行いました。
(お車は2~3時間ほどお預かりさせて頂きました)
ようやくリフトアップです。ここからタイヤ&ホイールを脱着して、タイヤ交換をしてゆきます。
タイヤを外すと、足回りの構造がよく見えるようになります。
この車はフロンとリア共に、とてもオーソドックスな、ダブルウィッシュボーン式サスペンションです。
フロント足回り
タイロッドが、アッパーアームとほぼ同じ高さに取り付けられています。
ダストブーツに隠れたポールジョイント部の位置を探ると、ロッドの支点の位置もほぼアッパーアームと同じ。
これであれば、ほぼバンプステアが発生しない、非常にニュートラルなステア特性を持っている車であることが伺えます。
リア足回り
フロントとは違い、トーを管理するロッドがロアアームと同じ高さに取り付けられています。
ロッドの長さや位置、またこの車がMRである事を考えれば、バンプ時にはタイヤはトーインの方向に動くことになりそうです。
もしかしたら、こちらもかなりニュートラルなのやもしれませんが、トーアウトに動くことだけはしないはずです。
(というか、リアがロールステアでトーアウトになる市販車なんて、まず存在しませんが・・・ ちなみにブッシュの歪みによって生じるコンプライアンスステアだと横力がかかるとリアがトーアウトになる車は存在します。某店長が乗ってる71クレスタとか)
というのも、MRという車は、言ってしまえば非常に危険な車なので、そのサスペンションは基本的にアンダー特性(安定性=スタビリティが高い)を持たせるのがセオリーだからです。
(トー変化と車両の操縦安定性の関係は、またいつかの機会に書いてみようと思います)
基本的な素性としては、MRは高い旋回性能を持つのですが、旋回性能が高いというのは、そのまま安定性が低いという事にもなります。
(僕はやってないので体感は分りませんが)ドリフトをやっている人や、やっていた経験のある人などはよくご存知かと思いますが、MRでドリフトを行うのはとても難しいというお話があります。
それは何故かというと、ドリフトというのは意図的にオーバーステア状態を作りながら、スピンする手前の状態を維持しつづけるテクニックなわけですが、重量物がリア側よりの中心にあるMRは、車体がオーバーステアに陥ったとき、そのままスピンモードに移行する速度が恐ろしく早いのです。
フロントヘビーなフロントエンジン車なら余裕で間にあうカウンターステアも、MRでは全然間に合わないのです。
(みんカラお友達な某氏が、昔MR2でドリフトやってた事があるらしんですが、曰く、滑らせる前からカウンターあてて準備してたとか(笑 )
つまりは、後輪が滑ったと思ったら、あっというまにその場でクルッと回りはじめて、そのままガードレールにどっかーんといっちゃってことです。ガードレールがなけりゃ、そのまま崖下にまっさかさまです。
そのため、プロが乗るレーシングカーならともかく、不特定多数が乗る市販車でMRな車は、絶対にオーバーステアにならないように作られるのです。
ちなみに、MRの対極となるのが、我々が普段から乗っているFF(フロントエンジン・フロントドライブ)です。
前にエンジンを載せ、前輪を駆動させるFFは、素性としては旋回性がだるい車なのですが、操安性は抜群なため、僕達のような素人ドライバーでもわりと安心してぶっ飛ばせたりするわけです。
この動画は、数年前に僕が友達と出ていたヴィッツラリーの映像なんですが、途中の左コーナーでリアが滑り出しています。
ですが、非力な初期型ヴィッツに足回りとボディをちょっとだけ改造した車であるため、素人ドライバーであっても身体がリアの滑り出しを感じてからカウンター当てるのが十分間に合い、スピンすることなく走りきることが出来ています。
もしこれがミッドシップの車だったら、壁かガードレールかどちらかと、熱い抱擁をかわしていたことでしょう。(笑)
さて、ここまでのお話をご理解頂けましたなら、何故に前後のタイヤサイズがこうも違うのか、お解かりいただける事と思います。
前輪に対して、後輪のサイズが大幅に大きくなっているのは、スタビリティ性を高く保つためです。
MRは、常に後輪のグリップ力が前輪のそれを上回っていないと(一般人ドライバーには)危険であるため、前後異径サイズにして後輪を太く大きくしているのです。
FFやFRなら、前後のタイヤサイズは同サイズが基本なのに、MRだけは前後異径が基本なのは、こういった理由があるからなのでした。
タイヤは無事交換できました。
お買い上げありがとうございました。m(_ _)m
今になって考えてみれば、今回の作業であれば別に4輪同時に上げる必要がなく、それならばもっと簡単なジャッキアップ方法があった事に後から気がついたりしたのですが、まぁそれは次の機会にしてみることにします。
今までに、エリーゼSC、エキシージ、エリーゼ111ときたので、次のロータスは何になるのでしょうか。