さて、前回に引き続きJNCAPの予防安全評価のお話です。
今回はなぜダミーに衝突した結果でも満点なのかについて、
試験結果の計算方法のカラクリを解説したいと思います。
いわゆる自動ブレーキ性能を示す、被害軽減ブレーキの試験はおおきく
対車両と、対歩行者の
昼、
夜(街灯あり)、
夜(街灯なし)の4種類となっています。
その中でも速度など様々な条件を変えて試験を行いますが、試験条件ごとに決まった配点がされています。
そして、各試験ごとに
ぶつからなかったら満点、
ぶつかった場合も減速できた割合(速度低減率)に応じて部分点がもらえるわけですね。
例えば、
タントのCPNOシナリオ(物陰からの歩行者飛び出し)試験結果を抜き出して説明すると、
![alt](https://cdn.snsimg.carview.co.jp/minkara/userstorage/000/054/237/664/b05cb1776d.jpg?ct=78007802853a)
25km/hの条件では、
25.2km/hから自動ブレーキが作動して
15.8km/hで衝突
すなわち衝突まで 25.2-15.8 で9.4km/h減速できたことになるので、速度低減率は 9.4÷25.2 で「0.37」(ぶつかるまでに37%は減速できた)となるわけです。
こうして、この25km/hの条件では本来の37%の部分点がもらえます。
なお初期速度は車速条件の25km/hを目指しますが、ピッタリには合わせきれないので実際に計測した速度を使用します。
同様に30km/hの条件では30.3km/hから1.9km/h減速できたので、速度軽減率は「0.06」(ぶつかるまでになんとか6%は減速できた)となり、本来のわずか6%の部分点がもらえるわけです。
ここで感の鋭い方は空白となっている試験回数と、一番右端にある速度軽減中央値という謎項目に気が付かれたと思います。
実は試験によっては一発勝負の場合と最大で3回繰り返し行う場合があるんです。
そして、繰り返しの場合は基本的に中央値を取ることと試験方法が指示されています。
この中央値とは何かというと、順番に並べた時の真ん中の順位の数値を選ぶことを指します。例えば、50,7,6,5,2の5個の数値がある場合、平均値では14ですが、中央値では順位の真ん中に当たる3位の数値「6」となるわけです。
平均値と比べて中央値は何が良いかというと、大きく外れた数値があっても平均値に比べて影響を受けにくいということが挙げられます。
上のグラフの例でいうと、2,5,6,7と一桁台の数値に固まっているのに50という大きく外れた数値が1個あるせいで、平均値で見ようとすると押し上げられた14という中途半端な値になってしまいますよね。それに比べて中央値ではより実態に近い6という数値を選ぶことができます。
この中央値を3回繰り返し試験に適用すると、3回中2回衝突回避できれば2位の結果は衝突回避なので、3位の衝突はたまたま大きく外したとみなして減点なしということになるわけですね。
逆に1回だけ衝突回避できても2位の衝突した結果を採用するので、この場合は減点されます。
満点のはずの4車種も実は止まり切れず、ヘタすると結構な高速度で衝突していることもあるといった理由が見えてきました。つまり、3回繰り返し試験の場合は1回だけであればたとえブレーキが作動しなくても減点されないのです。
これが本当にたまたまであれば良いのですが繰り返し回数が少なすぎて実際は判断しにくいと思います。どの程度の条件では確実に止まれるかといった観点からは他の条件の結果を見て総合的に判断した方が良いでしょう。
次回はどのようなことを想定した試験が実際に行われているのか、その条件を読み解いていきたいと思います。
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Posted at
2020/06/04 00:57:07