前回に引き続きJNCAPの予防安全評価のお話です。
どんなシチュエーションを想定した試験が行われているのか、その条件と、車種ごとの詳細結果などで突然出てくる略語(CCRsシナリオなど)の意味を解説してまいります。
まず、2019年度の予防安全評価ではおおきく
・衝突被害軽減制動制御装置性能試験
・車線逸脱抑制装置性能試験
・後方視界情報提供装置性能試験
・ペダル踏み間違い時加速抑制装置性能試験
の4種類の試験と
・高機能前照灯装備確認
の1種類の確認となっています。
■衝突被害軽減制動制御装置■
まずは衝突被害軽減制動制御装置ですが、これはいわゆる自動ブレーキ性能の試験にあたります。
この試験では衝突被害軽減ブレーキ(AEBS: Autonomous Emergency Braking System)と、前方衝突警報(FCWS: Forward Collision Warning System)の2種類の機能を確認します。
AEBSはいわゆる自動ブレーキがどの程度効くかという試験で、自動ブレーキ機能がキャンセルされない程度に軽くアクセルを踏んだ状態でぶつからせます。
FCWSは、警報が出てからブレーキを踏んでも間に合うかという試験で、警報から1秒後にアクセルを放してその後0.2秒でブレーキを決まった強さで踏み込むといった人間の認知、踏みかえの遅れを取り入れた内容となっています。ただし、警報が出てブレーキを踏むより先に自動ブレーキがかかった場合は自動ブレーキの結果が使用されます。
なお、試験では正確な操作が必要なので人ではなく専用のロボットが運転します。
それではこの状況設定を順番に見ていきましょう。
なお、動画は満点を取ったアルファードの試験映像がわかりやすかったので参考に貼り付けました。
■対車両
渋滞などの最後尾へ追突してしまわないかを見る試験ですね。
停止している車への追突と、ゆっくりと動いている車への追突の2種類の試験で、ターゲットのど真ん中を狙って走ります。
試験時の車の速度は+1km/h以内、横方向のずれ±20cm以内の条件を外れると無効となります。
・停止車両 (CCRs: Car-to-Car Rear stationary)
想定ターゲット:停車中の車
自車速度:10km/h~60km/h(AEBSのみ50km/hまで※)
※現在のダミーが50km/hの衝突までしか耐えられないので。
FCWSでは衝突まで1.2秒を切ったら失敗扱いで回避行動をとります。
・
定速走行車両 (CCRm: Car-to-Car Rear moving)
想定ターゲット:20kmで走行中の車
自車速度:35km/h~60km/h
EuroNCAP(ヨーロッパ)では他に車を半身ずらした状態での試験や、
ブレーキを踏んだ車への衝突
(CCRb:Car-to-Car Rear braking)といった状況の試験が実施中ですが、日本では採用されていません。
なお、EuroNCAPでは2020年度試験から、対向車が直進してくる時に交差点で曲がろうとする日本でいうところの右直事故を想定した試験(CCFtap:Car-to-Car Front turn-across-path)も実施する方向のようです。今後日本でも2023年度実施予定の交差点の試験で採用されるかもしれませんね。
■対歩行者
横断歩行者に気が付かず撥ねてしまう状況を想定した試験です。
昼間と、夜間は街灯の有無の計3種類の状況で実施され、ダミー君はノーブレーキだと車の真ん中(ラップ率50%)で撥ねられるタイミングでスタートします。
試験時の車の速度は±0.5km/h以内、横方向のずれ±5cm以内の条件を外れると無効となります。
対歩行者・昼間
・
横断歩行者(CPN: Car-to-Pedestrian Nearside)
想定ターゲット:横断歩行者(180cmの大人、速度5km/h)
自車速度:10km/h~60km/h
・横断歩行者 駐車車両あり(CPNO: Car-to-Pedestrian Nearside Obstructed)
想定ターゲット:路駐車両※後ろからの横断歩行者(180cmの大人、速度5km/h)
自車速度:25km/h~45km/h
※ワンボックスタイプの小型車又は普通車(黒)と、ミニバンタイプ軽乗用車(白)が縦に並んだ1m後ろから出てきます。
Nearsideということで、道の左側から歩行者が歩いてくる試験です。
日本における昼間の事故では左側からの横断者によるものが多いという調査から、歩行者が出てくる方向が選ばれているようです。
車の中心から4m横に離れた位置からテクテクと5km/hの速度でやってきますよ。計算してみると、2.88秒で衝突のようですね。
5km/hは歩行者が飛び出してくる時によくある初速だそうです。
遮蔽ありは路駐車両が2台並んだ後ろから飛び出してきます。
上の基準試験に加えて、40km/hの条件でのみ少し設定を変えた部分評価試験も併せて行われます。この40km/hは代表車速といい、昼間横断事故の速度別の社会損失額が一番大きい速度なんだそうです。
・ラップ率25%(CPNのみ)
ダミー君がスタートするタイミングが直前になる厳しい側試験
ノーブレーキでの衝突予定位置を真ん中から、車幅の1/4左へ移動
・ラップ率75%(CPNのみ)
ダミー君がスタートしてから衝突までに余裕が出る優しい側試験
ノーブレーキでの衝突予定位置を真ん中から、車幅の1/4右へ移動
・歩行速度 8km/h(CPNのみ)
横断者の速度が速くなる厳しい側試験
・子供ダミー(CPN/CPNOともに)
ダミーを115.4cmの子供ダミーへ変更
対歩行者(夜間街灯あり)夜間の街灯がある条件です。
街灯があるので、ロービームでの試験となります。
・横断歩行者(CPF: Car-to-Pedestrian Farside)
想定ターゲット:横断歩行者(180cmの大人、速度5km/h)
自車速度:30km/h~60km/h
・横断歩行者 対向車あり(CPNO: Car-to-Pedestrian Farside Obstructed)
想定ターゲット:対向車※後ろからの横断歩行者(180cmの大人、速度5km/h)
自車速度:30km/h~60km/h
※対向車は走行させず停車状態
※ロービーム点灯のミニバンタイプ軽乗用車(白)を衝突1.08秒前の位置に設置
→対向車通過の1.08秒後に横断歩行者が出現
Farsideということで、対向車線側から歩行者が歩いてくる試験です。
そう、昼間と違い対向車線側からなんですね。夜間は対向車線側からの事故が多いからなんだそうです。
ちょうど車の真ん中にぶつかるよう6m先からテクテクと5km/hの速度でやってきますよ。
上の基準試験に加えて、CPFシナリオ(対向車なし)のみ代表車速の45km/hで下記の部分評価試験も併せて行われます。
・ラップ率25%
・ラップ率75%
・歩行速度 8km/h
対歩行者(夜間街灯なし)
夜間の街灯がある条件です。
こちらではオートハイビーム搭載車であればオートハイビーム、なければロービームでの試験となります。
・横断歩行者(CPF: Car-to-Pedestrian Farside)
想定ターゲット:横断歩行者(180cmの大人、速度5km/h)
自車速度:30km/h~60km/h
・横断歩行者 対向車あり(CPNO: Car-to-Pedestrian Farside Obstructed)
想定ターゲット:対向車※後ろからの横断歩行者(180cmの大人、速度5km/h)
自車速度:40km/h~50km/h
※ロービーム点灯のミニバンタイプ軽乗用車(白)を後述の位置に設置
街灯なし試験では、オートハイビーム搭載車が有利になるような試験となっています。
対向車は停止して試験しているものの、本来のすれ違いならもっと前に来ているはずということで、その分前に出した位置に設置されます。
実際、この位置の違いでオートハイビームの切り替え時間に0.6秒の遅れが出たんだとか。
こちらも上の基準試験に加えて、CPFシナリオ(対向車なし)のみ代表車速の45km/hで下記の部分評価試験も併せて行われます。
・ラップ率25%
・ラップ率75%
・歩行速度 8km/h
といったところで、かなり長くなった上にいろんな機能を使った画面構成に力尽きてしまったので残りの試験内容については次回。
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Posted at
2020/06/07 19:06:22