2022年04月01日
日銀が1日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、大企業製造業の景況感が7期ぶりに悪化した。資源高と円安で原材料の調達費が上がり、企業収益が落ち込む。製造業は円安なのにかつてほど稼げない。資源高に円安が拍車をかけ、海外に国富が流出する状態に陥っている。新型コロナウイルス禍からの景気回復シナリオは描きにくい。
今回はウクライナ侵攻後に実施した初の短観。3月に対ドルで10円弱下落した円安も反映した。景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた業況判断指数(DI)は、大企業製造業がプラス14と前回調査から3ポイント低下。自動車や紙・パルプが落ち込みが目立った。
2022年度計画の経常利益は全規模全産業で21年度比0.9%減となる見通しだ。製造業が全ての規模で減少する。
過去の円安局面では製造業が日本経済をけん引した。1ドル=125円86銭をつけた15年6月から1カ月後、日銀が発表した6月短観は大企業製造業、大企業非製造業とも景況感が改善した。
円安なのに景況感が悪化したのは、日本経済の構造転換を映す。経済産業省によると、製造業の海外生産比率は東日本大震災が起きた11年度の18%から19年度に23%になった。
大和証券が主要上場200社を対象に利益の為替感応度を集計したところ、22年度はドルに対し1円円安が進むと0.43%経常利益が押し上げられる。リーマン・ショック後の09年6月の変動率は0.98%で、円安効果は半減した。
マツダは為替リスクを下げる対策を講じ、10年以降、海外工場での生産比率を増やしてきた。円が対ドルで125円をつけた16年3月期には、円安が128億円の営業増益要因となった。現在は1円円安になると年間で3億円の減益要因になる。
資源高やエネルギー高で、円安は製造業にとっても逆風になりつつある。2月の輸入物価の上昇率はドル建てなど契約通貨ベースでは前年同月比25.7%だったが、円換算すると34.0%と一段と高い伸び率になる。
ブリヂストンは22年12月期の為替レートを1ドル=112円と想定していた。ドルなどが足元の水準で推移すると前期比で440億円の営業増益要因になる。原材料高で1450億円の減益を見込み、為替の効果を打ち消す。
同社は国内での市販用乗用車タイヤの出荷価格を1日から平均7%上げた。吉松加雄最高財務責任者(CFO)は「原材料は天然ゴム、原油ともに未曽有の価格高騰が継続する」と話す。
ヤマハ発動機はバイクの排気ガスの浄化に使うロジウムやプラチナなどの原材料が高騰しており、22年12月期の営業利益を631億円押し下げると予想する。足元の為替水準が続けば、270億円押し上げられる。為替効果が原材料価格の高騰分を下回る。
パナソニックホールディングスも原材料高で、傘下の事業会社全体で22年3月期に1000億円以上の減益要因となったもようだ。電池などで価格転嫁を進めているが、梅田博和副社長は「原材料高が加速すると、いたちごっこのようになる」と懸念する。
化学会社は原油からつくるナフサの高騰が業績に響く。クラレは国産ナフサ価格が1キロリットルあたり1000円上昇すると原料費が年8億円増えると見込む。
円安の影響が大きいのは輸入企業だ。ニトリホールディングスは家具や雑貨など商品の9割を中国など海外で生産してドル建てで決済している。対ドルで1円円安に振れると年間約20億円の減益要因になる。
大企業非製造業の業況判断DIは、プラス9と前回から1ポイント悪化した。まん延防止等重点措置は解除されても宿泊・飲食の景況感は悪化した。原材料の高騰で物価が上がるなか、企業の賃上げが追いつかない。個人消費の回復の遅れが非製造業の景況感に影を落とす。
3カ月後の見通しを示す先行き判断DIは、大企業製造業が5ポイント悪化、大企業非製造業が2ポイント悪化を見込む。弱い足取りながらもコロナ禍で回復してきた日本経済に資源高と円安が重くのしかかっている。
Posted at 2022/04/01 20:13:17 | |
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