新型プリウス乗ってみました!
グレードはG、ボディカラーはレッドマイカメタリックです。話題の205万円のLグレードではなかったのが残念ですが…
(写真は展示車のG“ツーリングセレクション”(アイスバーグシルバーマイカメタリック)です。)
○だった点
・プリウスであること
プリウスが世界初の量産ハイブリッドカーとして登場してから12年経ちましたが、環境問題・エネルギー問題がクローズアップされるにつれ、この12年間でプリウスの存在感は非常に大きくなりました。今やプリウスはエコカー、もっと言えば日本車を代表する車であり、高いブランド性を確立させたなと思います。
ハイブリッドカーの先駆車としての安心感・子どもからお年寄りまで誰にでも認識されるブランド性はプリウスの魅力でしょう。
・スピード感のあるトヨタの経営
新型発売前には、エンジン排気量がアップして車格が上がるため、価格が上昇するのではないかと言われていましたが、実際には205万円からと、先代を下回る低価格で発売されました。2月に発売されたホンダインサイトの影響で急遽価格を引き下げたと思われますが、あれほどの巨大組織でありながら市場の変化に即座に対応するトヨタの経営のスピード感は素晴らしいですね。
・ハイブリッドカーとしての洗練
初代プリウスといえばか細い省燃費タイヤとヤワな足回り、不十分なエンジン(プラスモーター)パワーという車でした。さらにCVTやインバーターの唸り音や、もっさりした動力性能、回生ブレーキが停止寸前にカックンブレーキになるなど、いかにも過渡期の車だなと感じました。
新型に試乗した後、たまたま初代10系プリウスの初期型を運転する機会があったのですが、新型と比べるとずいぶん原始的なフィーリングだなと思いました
新型はモーターの出力レベルをドライバーが任意で切り替えることができ、レクサスGSハイブリッド的なパワー重視のパワーモードがある一方、エンジンを始動させずにEVモードで走行できる距離も長くなっています。パワーモードにすればなかなか鋭い加速ですし、CVTの音やカックンブレーキもほとんど気にならないレベルです。
もう少し頑張って欲しい点
・バーチャルでわざとらしい運転感覚
ハイブリッドカーだからあえてバーチャルな運転感覚にしているのかもしれませんが、この車ほど自動車を運転しているという感覚が希薄な車も珍しいです。
車を発進させるのにエンジンが掛からない、車速とエンジン回転が一致しない、スイッチのようなシフトレバー、路面フィールのほとんど伝わらない電動パワステ…
トヨタもこの車の運転感覚の希薄さは自覚しているようで、パワーモードでパワフルな走りができるようにしたりはしていますが、それすらも何かゲーム的なおもちゃっぽさが拭えません。
ハイブリッドカーとはこんなものなのかもしれませんが…
・シートの出来が悪い
試乗時、30分ぐらい運転しただけでお尻が少し痛くなりました。シートの出来が悪いのはトヨタの車の多くに共通していますが、高速料金が1000円になって遠出する機会が増える昨今、もう少しシートの作りには力を入れてほしいものです。
・露骨なインサイトつぶし
プリウスのハード自体の問題ではないのですが、新型プリウスで一番気になるのがこの点です。
当初はエンジンの排気量が上がって車格が上がるので、価格もそれ相応に上がるだろうと言われていましたが、結局最廉価グレードのLで205万円と先代のSスタンダードパッケージの226.8万円よりも安い価格です。
もちろん一消費者の立場からすれば価格が安いことは嬉しいのですが、本来高くなるはずだった価格が急遽こんなに安くなった裏に、一体どれだけの下請け・孫請け企業の努力があったのでしょうか。とりあえず売価を安く設定しておいて、サプライヤーには「この値段で売ることにしたから、部品の納価は○円でよろしく!」と押し付けているんじゃないのかと勘繰ってしまいます。
ここ数年のトヨタはハイブリッド車を安く売って普及させると言うよりも、レクサス各車やエスティマ、アルファード、ハリアーのハイブリッドに代表されるように、高付加価値仕様として展開させたかったようです。
ところが先ごろ登場したホンダインサイトが189万円からという、ハイブリッド車としては衝撃的な低価格で登場したことに影響されたのか、一気に低価格戦略に舵を切ったようです。
インサイトを始めとするホンダのハイブリッドシステム(IMA)は、トヨタのハイブリッドシステム(THS)よりもはるかにシンプルな仕組みで低コストであることは当然だと思うのですが、それに対してトヨタはなりふり構わぬ対抗策を打ち出してきた印象です。
トヨタのようなコスト管理の厳しい会社の製品が、他車と部品の共用化率を上げているからといって先代よりも大幅に価格が下がるというのはにわかには信じられません。
・大きくなったボディサイズ
ここ最近登場する車はほぼ例外なく旧モデルよりもボディサイズを拡大させていますが、新型プリウスも全長でプラス15mm、全幅でプラス20mm拡大しています。先代に比べて実用上の不便さが増しているとは感じないのですが、先代でも特に不都合は感じなかっただけに、無意味なサイズ拡大には疑問を感じます。
プリウスは代々燃費対策のため空気抵抗を減らすのを目標とし、新型もCd値が0.25と優秀な数値ですが、ボディサイズが拡大しているということは前面投影面積が増えるということで、その点でボディサイズが小さいインサイトのほうが合理性があるように思います。本当に燃費や空力を考えるならボディサイズを大きくするのはおかしいと思うのですが…
・大して広くない室内
上記のボディサイズ拡大とも関係してくるのですが、サイズが大きくなっているにもかかわらず、室内空間は先代とあまり変わりません。
トヨタはプリウスの室内空間がインサイトよりも広いのがご自慢のようですが、
ボディサイズが大きけりゃ室内が広いのは当たり前じゃんwwwww
後席膝前の空間にはかなり余裕がありますが、頭上は私(身長175cm)が座って頭の上に指2本程度、側頭部も同じぐらいです。そりゃ確かにインサイトよりは広いですが、自慢するほどのものではありません。むしろインサイトよりもプリウスのほうが65mmも全高が高くて空気抵抗が大きいのにこの程度か、というレベルです。
・フロントの見切りが悪い
最近の車は全体的に対歩行者の衝突安全性を向上させるためボンネットが高くなる傾向がありますが、プリウスも例外ではなく、先代よりも前方の見切りが悪化しているように思います。視界が良いことは安全性の第一歩だと思うのですが…
・カタログ数値と実燃費の乖離
新型プリウスはカタログ燃費38km/Lと非常に素晴らしい数値ですが、これが本当に達成できるのか疑問です。一般的にカタログ数値と実燃費は乖離する傾向がありますが、プリウスは特に乖離が大きく、燃費サイト「
e燃費」を見ると先代プリウスのカタログ数値に対する実燃費の達成率は60%と他車よりも悪いです。極めて限られた条件でしか出せない燃費をカタログに堂々と載せるのは詐欺に近いです。
(ちなみに私のスイフト1.3XGはカタログ数値18.8km/Lに対して2万キロ走った総平均は17km/L、達成率は90%です。)
ついでの話ですが、自動車雑誌などモータージャーナリズムはよくプリウスやインサイトを使って省燃費走行大会をやって、高速道路をトロトロ走ったり、大型トラックを風除けに使って車間距離を詰めて走って○○km/Lだった、カタログ数値を上回ったなどと喜んでいますが、
阿呆か!
と言いたいです。
そんなお遊びをやる前に、もっとこういう点を追及すべきだと思うんですがねえ…
総評
空前の自動車不況の中登場した新型プリウスは、まるで日本自動車業界の救世主のような持ち上げられ方です。前人気も高く、既に受注は11万台、今注文しても納車は秋ごろにもどうかという人気ぶりです。
実際に新型プリウスに乗ってみると、さすがにハイブリッドカーとして長い歴史を持つ車らしく、エコカーのイメージリーダーとなっており、常に最先端でありながらハイブリッドカーのデメリットを極力つぶしていると感じます。
ただ、今年になってホンダからインサイトが189万円からという低価格で登場したことにより、ハイブリッドカーを高付加価値車として売りたかったトヨタの戦略は大きな転換を迫られたようです。
プリウスの開発責任者いわく、新型の開発が始まった4年前の時点で既に価格は決まっていたということですが、排気量が増えて車格が上がっていたり、またここ数年のトヨタのハイブリッド車へのマーケティングを見ていると、最初から205万円で売ることが決まっていたとは到底思えません。やはりインサイトの価格の情報を得たトヨタが大慌てで売価の設定を変えたというところが真相でしょう。
しかし、正直言って私はトヨタのこういう所が大嫌いなのです。価格が安ければいい、安ければ売れる、販売台数が多ければいいということではないのです。付加価値の高い商品なら自信を持って高く売ればいいのです。安売り競争の先にはペンペン草も生えない不毛の大地が広がっているだけです。トヨタのような自動車業界の、ひいては日本の産業界のリーダー的企業は商品を適正な価格で販売し適正な利益を上げ、取引先や従業員、ひいては社会全体に利益を還元していく義務があります。
それから、プリウスの運転そのものはバーチャルで全く面白みがありません。自動車を運転するというよりプレステでグランツーリスモでもやっているような印象で、まるでこの車が自動車であることを自ら否定しているかのようです。
先日私はモデルチェンジして日本市場に投入されたフォルクスワーゲンゴルフⅥに乗ってみました。確かに巷間言われるようにコストダウンの形跡を感じないわけではなかったのですが、依然として質が高いドライビングの世界を持つ車で、街中をゆっくり走っていても飛ばしても運転が楽しめる車でした。
フォルクスワーゲンはブランドスローガンとして「Das Auto(=The Car:これが真の車)」を掲げています。同じ大衆車メーカーでありながら、まさに真の車であることを実感でき、自動車の楽しさを感じることのできるフォルクスワーゲンに対して、プリウスをはじめとするトヨタの車は家電的というか携帯電話的というかiPod的というか、自動車ではない何かを連想せざるを得ず、自動車ならではの楽しみを感じることはありません。
トヨタをはじめとする国内自動車メーカーは、販売不振や若者の車離れに苦しんでいますが、自動車を運転することが楽しくない車に魅力があるわけがありません。今の不振はこのような車を作り続けてきたメーカーの当然の帰結であると思います。自動車であることを否定した自動車に未来があるとは思えないのですが…
トヨタがこのことに早く気付き、本当に尊敬される車を世に送り出すことを願ってやみません。
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