
私のブログのメインコンテンツの一つだった新車試乗記ですが、私が仕事を変わったりなどいろいろなことがあって昨年8月の
ポルシェパナメーラの試乗記以来お休みしています。試乗記をやめるつもりはないんですが、実際に車に乗ってスペックなどを調査して感想をまとめ、さらに出来上がった文章を推敲して…というと相当な時間がかかってしまい、最近は仕事のストレスや子供の面倒を見ないといけないということもあり、そこまでのエネルギーがないな~という状態でした。
たまたま何かのきっかけで新車に乗ることがあれば、それについては書いてみようかな…という感じで、この一年間注目の車がたくさん登場したにもかかわらずスルー状態でした
が
なぜか今回だけはスルーできない、私的には妙に気になる車が出たので乗ってみざるを得ませんでした。
というわけで、前置きが長くなりましたが、先日日産から登場した
NV350キャラバン
に乗ってみました。
キャラバンは1973年の初代登場以来の長い歴史を持つワンボックスで、先々代E24系まではコーチと称するワゴンと商用バンを並立させ、エルグランドが登場して以降の先代E25系からはほぼ商用モデルに特化したラインナップとなっています。
新型キャラバンは他の日産商用車と同様のサブネームが付き「NV350キャラバン」の呼称となりました。
試乗車のグレードは、4ナンバーバンの中でも個人ユーザーの使用を想定したグレードであるプレミアムGX・2輪駆動・2ℓガソリンエンジン、ボディカラーはタイガーアイブラウン(濃い目のこげ茶メタリック)です。
ライバルであるハイエースもそうなのですが、NV350も車体サイズ・駆動方式・エンジン・乗車定員(積載量)・ドア数などで仕様が細かく区分されています。
グレードの区分 :バンは豪華仕様の「プレミアムGX」と基本仕様の「DX」(DXにカラードバンパー、メッキグリルなどを装備した「EXパック」の設定あり)、ワゴンは「GX」と「DX」
車体の長さ :ロング(4695㎜)、スーパーロング(5080㎜)
ルーフ高さ :標準(1990㎜)、ハイルーフ(2285㎜)
床高さ :平床(ホイールハウス逃げなしのフラットフロア)、低床
乗車定員 :バン(3/6/9人乗り、2/3/5人乗り)、ワゴン(10人乗り)
エンジン :ガソリン(2L・2.5L)、ディーゼル(2.5Lターボ)
駆動方式 :後輪駆動、4輪駆動
トランスミッション:5速MT、5速AT
ドア :5ドア(左右スライドドア)、4ドア(左側のみスライドドア)
※設定されていない組み合わせもあり
仕事柄、200系ハイエースガソリンスーパーロングワイド(2TR-FE型 2.7ℓ)、100系ハイエースディーゼル(3L型 2.8ℓ ・ 5L型 3ℓ・1KZ-TE型 3ℓターボ )、E24系キャラバンディーゼル(QD32型 3.2ℓ)に乗ることがあるのですが、特にガチライバルの200系ハイエースとを重点的に比較したいと思います
○だった点
・快適性の高いドライブフィール
試乗車は1・4ナンバー仕様の中でも特に乗用車色の強い2.0ℓガソリンの「プレミアムGX」でしたが、ドライブフィールは極めて乗用車的です。積載物はなく空荷の状態でしたが、ギャップでポンポン跳ねるようなこともなく、逆に足が柔らかすぎて腰砕けになるような感じもありません。
また、室内の静粛性はハイエースよりも高く感じます。ハイエースは運転中、運転席右側のドライバー耳元あたりで車外の音がドアの隙間から透過してきているような印象があったり、エンジン音が室内にこもる感じでしたが、NV350は快適です。
オートマチックトランスミッションはハイエースの4速に対してNV350は5速とスペック的に大きなアドバンテージがあります。実際に運転しても、特にアクセルを踏み込んだ時のレスポンスが優れています。試乗車は車重1810㎏で完全に空荷の状態でしたが、5速ATがきめ細かく変速し、少なくとも街乗りにおいて力不足を感じる状況は全くありませんでした。高速走行や重量物を積んで走る機会が多いのでなければ、2ℓ車で十分と思いました。
ハイエースは燃費対策もあってか、巡航時の回転数が低く抑えられており、素早い加速を得るためにはアクセルを思った以上に踏み込まなければなりません。トヨタの車のATらしくキックダウン時の変速ショックがごく少ないのはいいのですが、
「ぶも~~~~ぉぉぉん」
という大げさなエンジン音をたてる割には加速が悪くイラッとさせられます。
・座り心地の良いシート
運転席シートはハイエースよりも座面・背もたれとも厚みのある快適なシートです。
座面については、ハイエースは厚みがない反面妙にクッションが固いので反力が強過ぎ、1時間程度乗っているとお尻が痛くなってくる上、座面前端が低いので運転しているとだんだんお尻が前にずれてダラッとした運転姿勢になってしまいます。さらにツルッとして滑りやすいシート表皮が拍車をかけます。
NV350のシートは座面前端が適度に高く、表皮がザックリした生地で滑りにくいので、適切な運転姿勢をサポートしてくれます。
また背もたれについては、ハイエースで適切なポジションに合わせようとすると、背もたれ上部1/3ほどが妙に遠くて背中から離れ、それが嫌でもっと背もたれを立てると今度は腰が圧迫されるという、どう調整しても適切に決まらないポジションですが、NV350は適切な運転姿勢がすんなり決まりました。
(試乗が短時間だったため、疲れやすさについては確認できなかったのが残念ですが・・・)
後席については、この車の場合そう重要ではないかもしれませんが、少なくともプレミアムGXに関してはシートサイズも十分で、商用車であることを感じさせない座り心地です。シートのアレンジや収納性ばかりを考えて、シート本来の機能を犠牲にしている最近のミニバンや軽自動車などよりよほど優秀です。
・運転席足元の広さ
試乗車のプレミアムGXにはハイエースには設定のないプッシュエンジンスターターが標準装備されていて、高級感・乗用車感があるのですが、これを装備しているお蔭で特に右膝の足元スペースが広く、乗降性が向上しています。ハイエースは運転席足元パネル形状のせいで足元空間に余裕がなく、身長175㎝の私が適切な運転姿勢を取ると、膝がパネルギリギリ、姿勢によっては当たってしまうのですが、NV350はよく考えられています。
・質感の高い内装
商用車で内装の質感云々いうのもおかしいのですが、それでも試乗車のプレミアムGXに関しては、ミニバンもかくやという質感の高さです。ダッシュボード・シートともデザインに高級感はないのですが、ハイエースの内装の質感や作り・素材が今一つなので、NV350が特に良く感じられます。
一昔前は、ワゴン的で高級感があり質感の高い100系ハイエースからE24系キャラバンに乗り換えると、あまりにも商用車丸出しの貧相な内装に、「あ、これじゃハイエースにやられるわ・・・・」と痛感させられたものですが、時代は変わりますねぇ・・・
もう少し頑張ってほしい点
・やっぱハイエースに似過ぎ・・・
昨年の東京モーターショーに参考出品されていた時から言われていましたが、実車を見てもやはり、ズバリ!「現行ハイエースそっくりだなぁ・・・」と思ってしまいます。ボディサイドのキャラクターラインやウインドゥグラフィックなどで多少の違いを出そうとはしているのですが、シルエットが酷似しているので違いを感じません。
歴代キャラバンとハイエースは永遠のライバルともいえる関係ですが、ワゴン的でスマートな外観のハイエースに対して、ちょっと無骨だけど質実剛健で男っぽいキャラバンと、日産らしさ・キャラバンらしさがあったように思いますが、NV350は「ライバルとは違うものを作ろう」という努力をメーカーが放棄しているように感じます。
車体外寸の制約や室内(特に荷室)寸法の確保、衝突安全性の向上など、様々な条件をクリアすることを考えると自然と同じようなデザインをせざるを得ないのでしょうが、日産のデザイン力ならもう少し違ったものが出せたのではないかと思うと残念です。
・運転席からの周辺視界の悪さ
運転席からの直接目視による視界が悪いことが気になります。特に気になるのが直前で、ウインドゥ下端が高いうえフロントアンダーミラーにミラー本体のステーが映り込んで見えにくいため、狭い所での取り回しにやや気を遣います。
このアンダーミラーを含めた左側ミラーについてですが、ハイエースがスーパーGLなど外観のカッコよさ優先のグレード以外は、昔ながらの金属ステーに左側ミラーと丸い凸面鏡が付いた実用的なミラーで見やすいのに対し、NV350は実用グレードのDXであってもスタイリッシュなミラーです。見やすさや破損時の交換の容易性を考えると、実用グレードであればハイエースのようなミラーの方がいいと思うのですが・・・
また先代までに比べるとNV350は外観のカッコよさ優先になったせいか、ピラーの傾斜が強まって太くなったり、各ウインドゥ下端が高くなっているのか、側方・後方視界もあまり良くありません。(これは100系→200系ハイエースに乗り換えても感じることなのですが・・・)
衝突安全性を考慮するとやむを得なかったのかもしれないのですが、全方向見切りの良かった先々代E24系キャラバンと乗り比べると、数段大きな車に乗っているように感じます。
・オートエアコンの設定がない
ハイエーススーパーGLには装備される前席オートエアコンがNV350には全グレード設定されていません。マイナーチェンジ時の追加設定を期待したいところです。
・ワイドボディが欲しい
今年冬頃発売予定のようですが、現時点ではまだハイエースにあるような標準車プラス190㎜拡幅したワイドボディ車の設定はありません。ハイエースのワゴン10人乗りは広い車幅を生かして通路を確保した余裕のあるレイアウトであるのに対し、NV350の10人乗りは車幅が5ナンバー枠のまま、後席をオフセットして配置してなんとか人が通れるようにしたという苦しいレイアウトなので、ワイドボディならば楽でしょう・・・
ハイエースの広幅・ショート・ミッドルーフのワゴンGLはなかなかかっこいいですし・・・
・8年差があることのアドバンテージはない
実に11年ぶりのフルモデルチェンジとなったNV350ですが、確かに先代E25系に比べると大きく進化した印象を受けるのですが(プラットフォームはキャリーオーバーだそうですが)、2004年登場の200系ハイエースに対して8年のアドバンテージがあるかと聞かれると正直「??」という感じです。装備・使い勝手などハイエースをよく研究しているなと感じますが、ネガティブな点はすぐにハイエースが改善してくるでしょうし、そうなったら先代E25系同様競争力を失ったまま店晒しにされかねないなと危惧してしまいます。
総評
昔のキャラバン(と名前が違うだけの兄弟車・ホーミー)はハイエースの双璧ともいうべき良きライバルでした。販売台数でもキャラバン/ホーミーはハイエースとほぼ互角でしたが、先代E25系にモデルチェンジした頃からのキャラバンの凋落は激しく、ここ5年ほどはキャラバン2割弱:ハイエース8割強という惨憺たる有様だったようです。
E25系惨敗の要因は、前方衝突安全対策でノーズ部を延長したことにより荷室空間を狭めてしまったことなどキャラバン自体の問題、90年代終わりから2000年代初頭にかけての日産の経営難による販売力の弱体化、ハイエースが200系にモデルチェンジして魅力が高まったことなどが考えられますが、NV350は発表の時点で日産自動車の志賀COOが少なくとも4割のシェアを確保すると明言して、徹底的なテコ入れ姿勢を明確にしたようです。
特に200系に切り替わってからのハイエースは、乗用車的なスタイリッシュな外観やスクエアなボディによる広い荷室空間、従来型にはなかったワイドボディなど幅広いラインナップ・・・と、キャラバンの追随を許さない、非常に魅力的な車になった一方で、先代である100系に比べるとコストダウンされ100系ほどの耐久性はないとされて言われています。
余談になりますが、私の職場にある100系ハイエースは走行距離の少ないもので30万キロ、多いものだと平成7年式で72万キロという個体があります。(もういい加減捨てろやって思いますがwwwww) たまに電装品が壊れたりといった細かい部分の不調はあるのですが、エンジン・トランスミッション・車体はどの個体も絶好調で、100系の極めて高い耐久性を思い知らされます。
ハイエースが200系になってこの高い耐久性を捨ててコストダウンに走ったといわれるのは、トヨタ自体が常に乾いた雑巾を絞るようなコストダウンを念頭に置いているということもありますが、強力なライバルが不在で「この程度の作りでも大丈夫だろう、ハイエースはブランドだし」とタカをくくっている部分もあったのでしょう。
が、こういうことをやっていて特に新興国・発展途上国でハイエースの耐久性に疑問符が付くと、近年急速に進歩した韓国車や中国のコピー車に取って代わられ、最終的にはユーザーに見放されてしまう恐れがあります。ハイエースが特に過酷な環境のアフリカや中南米、中近東を始めとする世界中で支持されてきたのは、別にスタイルがカッコいいからではなく極めて高い耐久性があったからだと思うのですが、それを自ら捨ててしまうのは自殺行為としか思えません。キャラバンの品質がハイエースに対してどの程度のものか、現時点では全くわかりませんが、日本車全体の競争力向上のためにも、国内メーカーの強力なライバルがトヨタの慢心に対する抑止力として存在することは非常に重要です。
現時点においてはハイエースのネガティブな点をよく研究しているNV350はなかなか魅力的ですが、ハイエースが圧倒的に不利になったともいえないように思います。本文中にはハイエースに不利な記述が多かったのですが、正直どちらを買っても損はないでしょう。
その他気が付いた点としては、ガソリン車とディーゼル車の価格差が同じグレードでおよそ60万円もあります。(ちなみにハイエースもほぼ同じ価格差)
60万円の価格差を走って取り返そうとすると・・・
JC08モード燃費:ガソリン車(QR20DE)・・・9.7㎞/L、ディーゼル車(YD25DDTi)・・・12.2㎞/L、実用燃費はこの9掛けと考える。
燃料単価(gogo.gs調べ、6/18時点岡山県内平均):ガソリン・・・137円、軽油・・・117円
・・・と計算すると、約12万キロ走れば元が取れます。
2ℓガソリンでも実用上問題ないとはいえ、高負荷時のディーゼルのトルクフルな走りは魅力です。反面騒音・振動や交換スパンの短いエンジンオイルなどディーゼルゆえのデメリットもあります。どのような使用用途なのかを考慮の上選択されてはいかがでしょうか。
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