シビックタイプRに乗ってみました。
現行FD2型シビックタイプRには2007年の登場以降、是非乗ってみたいと思っていたのですが、近隣のディーラーに試乗車がなく、個人所有の車に乗せていただく機会もありませんでした。
しかし先日、さる個人所有の車を思いっきり走らせていただける機会がありました。試乗車は2008年モデルなので最新モデルではありませんが、走行距離は15000キロほどと程度は良好です。また、基本的にフルノーマルですが、リヤスポイラーが外されています。
(ちなみにマイナーチェンジされた最新モデルはテールランプがLEDになっているだけで、中身に違いはないようです。)
試乗コースは市街地や高速、山道等です。
○だった点
・正しく操作すれば正しくかつハイレベルに応えてくれる、タイプRならではのドライビングの世界
ホンダのタイプRシリーズはこのFD2型で6作目となりますが、タイプRシリーズの根底を貫くスポーツ性は連綿と受け継がれ、さらにレベルアップしています。
シリーズ初期のDC2型インテグラタイプRやEK9型シビックタイプRはちょっとヤンチャなモデルという意味合いもあり、走らせて楽しい反面、ボディ剛性の低さによって脚がきちんと動かず高速コーナーで唐突にリヤが流れようとして冷や汗をかかされたり、ノーマルではブレーキの効きが不十分だったりと洗練度が低い部分もありました。
FD2型は後輪の接地感が高くてリヤの動きに安定感があって限界が掴みやすく、高速コーナーでも不安なく攻める事が出来ます。これはこの車が目指した方向性(中高速コーナー=サーキットでの速さを狙う)と合致しています。
反面、2速で行こうか1速に落とそうか迷うほどのタイトコーナーだと、車体が大柄であることもあり、やや曲がりにくさは感じるのですが、それでもアクセルオフやブレーキングで姿勢を作って積極的に曲げてやることも可能です。
この車はボディ剛性が高いと称されますが、DC2型やEK9型の頃から飛躍的に高まったコーナーでの安定性を体感すると、きちんと脚を動かすために高剛性化したことが理解できます。
・官能的なVTECサウンドとパワー
VTECエンジンといえば、カムが高回転側に切り替わった時の気持ちのいいサウンドと強烈な加速が魅力ですが、FD型シビックRにももちろんこの魅力が受け継がれています。
5800回転で高回転側カムに切り替わると、8400回転のレッドゾーンまで一気に吹け上がります。リミッターがなければまださらにそこから上まで回るのでしょう。
高回転域を保って飛ばしていると、エンジンからの「もっと回せ!!もっと踏め!!」という声が聞こえてきます。
余談ですが、昔ロードスターに乗っていた頃、サーキットや峠でよく友人のインテグラタイプRを運転させてもらっていたのですが、この気持ち良さに何度「このエンジンがロードスターに載ってたらなあ…」と何度思わされたかわかりません。
スポーツカーにとってエンジンは極めて重要な要素ですが、シビックタイプRは100点満点の最高に魅力的なエンジンです!
・賢いABS
試乗時の路面コンディションは小雨でうっすらと濡れる程度だったのですが、このような状況でもABSの介入度合が少なく、運転の邪魔をしません。相当強い踏力でもロックせず制動力を最後までコントロールできます。
・適切なマンマシンインターフェイス
実用セダンベースながら、マンマシンインターフェイスは優れています。シフトレバーやペダル類の配置が適切で操作に違和感がありません。レカロシート時代にはなかった座席の上下調整が備わるようになり、より適切なポジションがとれるになりましたし、ステアリングのチルト・テレスコも可動範囲が大きいです。
細かい話ですが、サイドブレーキが独特なレバーの短いタイプで、レバーを上に引き上げるというより手前に引っ張るようになるというジムカーナD車両のような操作ができ、サイドターンがやりやすそうです。
・エンジンのフレキシビリティ
2L自然吸気でありながら、最高出力225PS/8,000rpmというハイチューンエンジンですが、街中での取り扱いに神経質なところは全くありません。またVTECエンジンの恩恵として、高回転域では気持ちよくパワーが出ている一方、低回転域では低速側カムによってトルクがあり、街中でも非常に扱い易く運転が楽です。ギアチェンジがめんどくさくて6速でタラタラ走ってていても、そこから滑らかに加速できますし、停車中アイドリングがバラつくということもありません。
もう少し頑張ってほしい点
・激悪の乗り心地
この車の欠点として有名なのは、激悪の乗り心地ですが、実際に乗ってみるとやはり噂通りの乗り心地です(笑)
下手な社外品の車高調よりも固い脚で、速度域を問わず路面の継ぎ目等では大きなショックがあります。低速域だけかなと思ったんですが、180km/h程度でもしなやかさよりもやはり硬さがあり、路面のうねりでは直進を維持するのが難しいですし、コーナー中にギャップがあると横っ飛びしてヒヤッとします。
4ドアセダンなのですから、家族を乗せて走ることもあるはずなのに、こう固いと家族から苦情が出るどころではなさそうです。スポーツモデルだから脚がガチガチでもいいんだというのは昔の考え方ですね。
ボディ剛性が高くてサスペンションに仕事をさせることができるのですから、もっと柔らかくてもいいのではないでしょうか。
・飛ばしたらグッタリ疲れる
運転中は車との対話に集中できるのですが、上記の激悪な乗り心地に加え、ローギアードなギアリングや大きめの排気音による騒音・振動の大きさと、ドライバーが常に真剣に運転することを求めてくる性格も相まって、車を降りるとグッタリです。
いい加減に運転することを許してくれず、疲れているときや体調が悪いときはちょっと辛そうです。
・リクライニングの調整がレバー式
タイプRシリーズといえば代々レカロのリクライニングバケットシートが標準装備されてきましたが、FD2型にはホンダが開発したリクライニングバケットシートが装着されています。このシートは形状はレカロのように肩から太ももにかけての体全体のサポート性が非常に高く、純正シートとしては最高レベルなのですが、残念なのがリクライニングの調節が普通のシートと同様のレバー式であることです。微調整がしにくく、さらにサイドサポートが高いためレバーに手が届きにくいです。
・シートポジションが高い
で、そのシートですが、シートリフターが備わっているのは良いのですが、最も低い位置に合わせてもまだ高いです。
サーキット等を走行をするのであればフルバケットシート+ローポジションシートレールに交換するのが必須ですね。
・巡航時にはちょっとローギアード過ぎる
100km/h巡航時のエンジン回転数は3000rpmとややローギアードです。これだけローギアードなので6速に入れっぱなしでもそこそこ加速して、けっこう楽チンに走れるのですが、今日日の車なので燃費対策のために、6速だけでももう少しハイギアードでいいのではないでしょうか。
・フツーな外観スタイル
ベースがシビック4ドアセダンなのですが、一級品の性能と比較していかにも普通のスタイルで、あまり魅力的とは言えません。登場してから年月が経っていることや、試乗車は特徴的な大型リヤスポイラーが取り外されていることもあってか全く注目されず、周囲から特別な車だとは認識されていないようです。
・小回りがきかない
最小回転半径はなんと5.9mとCセグメントの車とは思えない大きさです。駐車場やUターンなどがめんどくさいです。
総評
単純に車の出来自体は、ホンダスポーツモデルの一つの到達点とも言うべき素晴らしい仕上がりです。むやみに大排気量や過給器に頼らず、少排気量の自然吸気エンジンを超高回転域まできれいに引っ張って、リッター100PS以上の高出力を叩き出し、また二輪駆動でありながら高剛性ボディによる高トラクションで、電子制御デバイスを多用せず速さを手に入れています。
人間の感覚に逆らわない素直で気持ち良い速さは、まさにホンダスポーツカーの神髄です。 試乗時は市街地、高速、山道などを走ってみましたが、特に高速コーナーが連続する山道ではほんとに気持ち良く、なおかつ速く走れました。走っているといつの間にか運転にのめり込んで、次のコーナーをどう切り落としていくかということに集中し、いつの間にか車と一体になったドライバーズハイのような状態になることができます。
この速さと気持ち良さの両立はメーカー自身が狙っているところであり、メーカー・開発者の「こんな車が造りたい!こんな風に走らせてほしい!」という明確な意図が伝わってきます。
日本国内の自動車市場においてスポーツモデルは冬の時代真っ只中です。同じホンダのNSXは2005年、S2000は2009年、インテグラタイプRは2006年に生産中止となり、とうとう最後の牙城であったシビックタイプRも2010年8月での生産中止がメーカーから発表されました。限定発売された欧州産ハッチバックのシビックタイプRユーロが2010台の限定数すら完売しない状況では致し方ないのかもしれません。
また他メーカーも似たような状況です。若者の車離れ、ガソリン価格の高騰、環境意識の高まりなどスポーツモデル不振の原因はいろいろ言われますが、ガソリンエンジンを用いるスポーツモデルの存在そのものが岐路に差し掛かっていることは間違いないでしょう。
よく考えるとスポーツモデルがガソリンエンジンでなければならないという理由はどこにもないのかもしれません。ポルシェが発表したハイブリッドレース車の「911GT3Rハイブリッド」はドイツ国内のレースですでに上位入賞を果たしたり、5月のニュルブルクリンク24時間レースではリタイヤしたとはいえ、レース終了2時間前までトップを走行していたそうです。
また先日試乗した三菱の電気自動車iMiEVは、モーターの出力が限られているとはいえ加速力、特に中間加速の鋭さには目を見はるものがあります。バッテリーの蓄電能力に限りがある現状では極端に大出力のモーターは搭載できないのでしょうが、バッテリーの性能が改善されると電気自動車の動力性能は大幅に向上するでしょう。
ハイブリッドや電気自動車の動力性能が今後ますます向上すると、環境性能に劣るガソリン車のメリットは全くなくなってしまうかもしれません。いかに8400rpmの高回転まで、官能的なサウンドともに回り続けるVTECとはいえ、環境性能だけでなく速さも電気自動車に太刀打ちできなくなるのかと思うと、何か悲しい気がします。
まるで、熟練の職人が長年磨いてきた技を、新入社員が操作する最新の機械の能力が凌駕するようなものですね…
近年のスポーツモデルの不振についてですが、高度に専門化し過ぎてしまった、悪い言い方をするとオタク化してしまった反動という面もあるのでしょう。シビックタイプRは確かに高性能ですが、価格的に昔のシビックのように若い人が気軽に乗れるというものではありません。
高性能な車であっても、その性能を常にフルに発揮しているわけではないでしょう。女性と一緒にお出かけしたりお洒落なお店へ…ということもあるでしょうが、例えばBMW M3やポルシェ911だと高性能車でありながらそういうシチュエーションも似合うのに対し、シビックタイプRはどうもそういう状況に似合うとは思えません。
(これはGT-Rやランサーエボリューション、インプレッサWRXにも言えますが…)
いろんなシチュエーションに対応することができない、サーキットオタク・峠オタクになってしまっている懐の浅さという、日本車のスポーツモデルに共通する弱点がシビックタイプRにも明確に現れているのは残念です。
コスト削減のための苦肉の策か、タイプRが決してスポーツ性が高いとも魅力的とも言えないシビック4ドアセダンをベースにせざるを得なかったのも、結局はこの車の命を縮めてしまうことに繋がったのかなと思います。
絶対的な性能はホンダのスポーツモデルらしく、セダンであっても全く抜かりはないのですが、そもそも本来コンパクトだった「シビック」の、コンパクトであるべき「タイプR」がこんなに大きい必要があるのかと思います。
またFD型シビックセダンはもともとボディサイズがドデッとデカいわりに室内空間がそれほど広くはなく、何のためにこんなにデカいんだろうと思ってしまいます。
余談ですが、一昔前のホンダの車には「MM思想(Man Maximum Mecha Minimum:居住空間を大きく、機械を小さく)」という言葉があり、ワンダーシビックやシティなどそれを体現した車があったのですが…
もしかすると日本国内で生産するタイプRシリーズはもうこれで最後で、時々イギリスからタイプRユーロを輸入してお茶を濁す程度なのかもしれません。これからホンダから登場するスポーツモデルのメインは、ハイブリッドや電気自動車、燃料電池車ベースとなっていくのでしょう。内燃機関の極みとも言うべきVTECエンジンがだんだんと役割を終えるようで、ひとつの時代の終焉を感じます。
ともあれ、日本の車好きに夢を与えてくれたタイプR、さようなら、そして今までありがとう!
↓↓フォトギャラリーもどうぞ↓↓
シビックタイプR乗ってみました 外観編
シビックタイプR乗ってみました 内装編その1
シビックタイプR乗ってみました 内装編その2
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