
三菱
パジェロに新しく追加、というか復活したディーゼルに乗ってきました。試乗車はEXCEED(ロング・ディーゼル・5AT)、ボディカラーはクールシルバーメタリック/ディープブルーマイカ3ウェイツートンです。
(
フォトギャラリーに少しだけ写真がありますのでご覧下さい。)
○だった点
・排出ガス規制に現実的な対応をしている
先日発売された日産エクストレイルディーゼルが、最も厳しい最新の排出ガス規制「平成22年排出ガス規制(ポスト新長期規制)」をクリアしているのに対し、パジェロはその一つ前の規制「平成17年排出ガス規制(新長期規制)」をクリアしています。
エクストレイルはポスト新長期規制をクリアするための触媒を装着することで、オートマチックとの組み合わせができなくなりましたが、パジェロは5速オートマチックとの組み合わせになります。
エクストレイルが最高水準の規制をクリアしたことは確かに大事なことなのですが、MTだけに限定してしまうことでユーザー層を狭め、せっかくの技術も幅広く普及しなくなってしまうのではないかと感じます。パジェロはポスト新長期規制クリアにこだわらず現実的な対応をしていると感じます。新長期規制も現時点では十分に高水準な規制ですから、このままで数年間販売して、ポスト新長期規制に適合させるよう開発を進めていけばよいのではないかと思います。
試乗中やや強めの加速を試してみたのですが、ルームミラーを見ている限り黒煙の発生は全く見られませんし、テールパイプ付近へのススの付着もありません。
・快適で乗用車的な走り
車重が2.3トン近い超重量級ですが、動力性能に全く不満はなく、走りは快適そのものです。昔のディーゼルクロカン四駆のような車体の重さ、ダルでインフォーメーションの不明確なステアリング、ドタつく足回りとは全く無縁で、極めて快適な乗用車的運転フィールです。
・取り回し性の良さ
全長4.9m(スペアタイヤカバー込)×全幅約1.9mという巨体ですが、背筋を伸ばして上体を立てて座席に座るという本格クロカン四駆らしい運転ポジションや、ボンネットが見やすい角ばったデザインが幸を奏して、市街地での取り回しは良好です。狭い道でのすれ違いもあまり苦になりません。最小回転半径は5.7mですが、これは全長が40㎝以上短いVWティグアンと同等です。
もう少し頑張ってほしい点
・音・振動が大きくやや古い印象がある
エクストレイルディーゼルにも騒音はあるのですが、相当低レベルに押さえこんでいますし、振動はほとんど気になりません。
パジェロに積まれた4M41型ディーゼルエンジンは全くの新開発ではなく、先代パジェロに積まれていたものを改良していますが、音や振動はガソリン車から比べるとかなり大きく、設計の古さを感じます。アクセルを踏み込むとゴロゴロした音が相当聞こえてきますし、ステアリングやペダルには常に微振動が伝わってきます。
もちろん昔のパジェロなどから比べると相当頑張っているのですが、現代のレベルからするとちょっと厳しいですね。
・燃費や動力性能に驚きがない
試乗中の燃費については市街地のゴーストップ主体のコースで8㎞/Lと、約2.3tの車重を考慮すればまずまずだったのですが、昔に比べガソリン車の燃費性能が向上していることや、原油価格高騰で軽油の値段も上がってしまったため、あまりディーゼル車の魅力がありません。
・年間15,000km走行
・ガソリン価格(レギュラー)155円、軽油140円
・カタログ数値(10・15モード)の7掛けの実燃費
・・・と仮定して3.2LディーゼルのEXCEED(6.9km/L)と3.0LガソリンのEXCEED(6.0 km/L)を比較してみると、年間の燃料費の差額は約83,000円。車両価格の差は約37万円なので、約5年で元が取れなるということになりますが、その間ディーゼルの騒音振動と付き合い続けることを考えると?・・・という感じです。
また、動力性能に不満はないのですが、ガソリン車をも凌駕するような圧倒的な動力性能を持つエクストレイルディーゼルに比べるとインパクトが弱いです。
スペックを比較すると・・・
・パジェロ :3.2Lディーゼルターボ 170PS・トルク37.8kgf・m
・エクストレイル: 2Lディーゼルターボ 173PS・トルク36.7kgf・m
・・・と、排気量がはるかに大きいにもかかわらず、エクストレイルと出力・トルクがほぼ同等です。
・新世代ディーゼルとしての魅力が今一歩?
エクストレイルディーゼルは乱暴に言ってしまうと「ポスト新長期規制をクリアできるクリーンディーゼルだから、オートマがないけどとりあえず売っちゃえ!」っていう感じで国内発売された車だと思います。確かに爆発的に売れることはないでしょうが、高い環境性能とすさまじい動力性能を両立しているところに、何か底知れない魅力というか可能性を感じます。
それに対してパジェロは、「旧型ディーゼルオーナーから買い替える車が欲しいっていう要望が出てるから、とりあえず出すか・・・」という、なにか後向きな印象があります。
未来につながっているエクストレイルに対して、過去の延長にあるパジェロ・・・という感じでしょうか。
・DPFの取り扱いに注意が必要
エクストレイルディーゼルの試乗記にも全く同じことを書いたのですが、近距離や低速での走行が続くと黒煙を主成分とするPMを捕集するDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)がPMを捕集できず、一度スピードを出して走ってPM除去を行う必要があるそうです。
あまりこの車で近所へのお買い物のみ使用するということはないでしょうが、「近距離や低速での走行が続く」ということは日本での走行パターンのかなりの部分に当てはまります。この状況で問題が生じるというのは、日常使用ではかなり厳しいものがあり、遠出専用車となってしまいそうですね。
総評
昔のパジェロやデリカのディーゼルといえば、とにかく猛烈な黒煙でしたが、新型は全くそのようなことはなく、時代が変わったんだなと感じさせられます。
ただ、長所にも書いたように最新のポスト新長期規制ではなく、一つ前の新長期規制に適合であり、この車が三菱ディーゼルの真打というわけではないのでしょう。新長期規制適合車は約2年ほど販売できるようなので、この間にポスト新長期規制適合車を開発するという段取りかもしれません。
それゆえか、エクストレイルディーゼルほどのインパクトはなく、とりあえず旧型ディーゼルの代替用として発売されたという印象は否めませんが、現実的な対応をしたなという気がします。
ただ、上記したように新世代ディーゼルとしての魅力は正直エクストレイルには及ばないところですし、根本的にパジェロのような本格的大型SUVがディーゼルだからといって環境にいいと言えるのか疑問なところです。
パジェロに限ったことではありませんが、少なくとも現在の日本国内で、一般の人間が立ち入り可能で、かつこの種の本格クロカン四駆でないと走行できない道というのは、ほとんど存在しないのではないでしょうか。恐らく電力会社や一部の官公庁でないとこの種の車の性能をフルに発揮することはないでしょう。
そういった点でも、エクストレイルのようなライトクロカンがこれからの時流に合っているのかなと思います。